六章 ~22話 鬼憑きとの遭遇
用語説明w
ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能
マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている。
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
フォウル:肩乗りサイズの雷竜。不可逆の竜呪を受けており、巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける
リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能
ナウカの軍と交戦中の戦場へと向かう
俺達は領境に近い森にいたため、戦場は近い
拠点に残っていたヤエとルイ、ジョゼが俺達の装備やアイテムを持って落ち合う
「マキ組長!」
ヤエが手を挙げる
中古のぼろいミニバンに俺達の装備を突っ込んできてくれた
俺とコウは、すぐにそれぞれの装備を身につける
「ナウカの魔人は召喚士タイプのようです。悪魔と思われる戦闘個体をどんどん召喚しています」
ヤエが、俺達にも聞こえるように戦場の状況を報告する
ナウカの鬼憑きの術を使う戦闘員は、その恐ろしさから魔人と呼ばれているのだ
「敵の数が増えるのは厄介ですね。味方の戦力は?」
「戦車とMEB、それと範囲魔法(大)を使う魔導士を擁していました」
「いました…とは?」
ヤエの説明に、マキ組長が聞き返す
「魔人の召喚したグレーターデーモンによって主力部隊の戦車、MEBは全滅、そして魔術師は戦死。しかし、敵部隊にもかなりの被害を出したことで、現在は睨み合っている状態です」
「主力を失っている分、こちらが不利ということですね」
「はい。私たちの任務は、グレーターデーモンの足止めです」
「なっ…!?」
コウが驚きの声を上げる
「俺達で、主力部隊を殲滅したグレーターデーモンを相手にしろだって?」
ルイも声を荒げる
俺達は忍びであり、斥候が本職だ
攻撃魔法や、戦車やMEBのような大火力を持っていない
対抗手段が無いため、見つかって補足された段階で俺達の死は確定するのだ
「…フィーナ姫が現在向かっています。到着までの間、敵召喚士が召喚する下位の悪魔族の殲滅に本隊が当たるそうです」
「俺達に、時間稼ぎのために死ねって言うのかよ!」
コウが吐き捨てる
だが、マキ組長が静かに口を開いた
「現状、グレーターデーモンとやらの相手は私とラーズにしか不可能でしょう」
「え?」
「私とラーズで相手をします。コウとヤエは敵召喚士の補足と戦況の把握を。ルイは身を隠してグレーターデーモンへの狙撃、一発撃ったら必ず場所を移動すること」
「…り、了解」「はい」「分かりました」
三人が頷く
え? 俺とマキ組長で相手するの?
戦車をぶっ壊す怪物相手に?
「ジョゼは外部稼働ユニットを展開、グレーターデーモンの観測、データ収集を」
「分かりました」
そう言って、ジョゼが車から外部稼働ユニットを三機取り出した
凄いな、三機も所有しているのか
「ラーズ、俺の外部稼働ユニットは観測に特化している。位置や挙動を俺が集約し、リアルタイムで送信する。…俺は、マキ組長が同格に扱う人間を始めて見た。自信を持っていいが、死ぬなよ」
「あ、ああ…」
俺は曖昧に頷く
まさか、上位悪魔をCランク二人で相手にするとは…
間違いなくBランクモンスター、そして、知能があり、戦略を持ってブレスなどの特技や魔法を行使してくる強敵だ
俺達はすぐに配置につく
既にナウカ軍が動き始め、俺達の相手であるグレーターデーモンが空に浮かんでウルラ軍を見下ろしていた
「…Bランク戦闘員が来るまでか、きついですね」
俺はグレーターデーモンを観察しながら言う
「泣き言を言っても仕方ありません。それに、漆黒の戦姫はBランクでも上位の実力との噂です。私たちが足止めすることでナウカの魔人を仕留められるなら、ナウカにとって大きなダメージとなります」
「フィーナがBランク上位…、凄いな」
また、差を付けられてしまったな
戦闘力でも、立場としても
だが、俺が戦うことで少しでもフィーナのためになるならやりがいはある
ドミオール院のためにもなる
そして、セフィ姉との約束のためでもある
気合いを入れろ
絶対に生き残る
俺とマキ組長なら、間違いなく可能…のはずだ
ギュイィィィン…
ナノマシンシステム2.0を発動
ナノマシン群の活性化を感じる
おそらく、もう少しで2.1が発動するところまで来ている気がする
本隊が交戦を開始、ルイが狙撃でグレーターデーモンをおびき寄せ、俺とマキ組長で待ち伏せる
「ラーズ」
近づいてくるグレーターデーモンを見上げながら、マキ組長が不意に俺を呼ぶ
「はい?」
「今日は、ピンチになったらトリガーを全開放しなさい」
「…全開放は、さすがに危険かと思います」
抑えめに意識していても集中しすぎてしまい、いつの間にか俺の思考を奪っている
引くことを考えない、生存を第一優先しない、敵の撃破を最優先とするバーサーカーモード
…それが、トリガーの本質だ
「一度、限界は知っておくべきです。そして、あなたのトリガーは、命の危険を認識しないと全開放はされないでしょう」
「それは…確かに…」
「ラーズの大剣ほどの威力はありませんが、私にもBランクを倒す手段があります。あなたが暴走したとしても、私が仕留めますから安心してください」
そう言って、マキ組長は一メートルほどのゴツゴツとした筒を倉デバイスから取り出した
…よく見ると、あれは銃のようだ
大口径のライフル?
だが、口径が大きすぎて、まるで大砲だ
あれがマキ組長の忍術ということか
「…っ!?」
ブオォォォォォッ!!
上空からグレーターデーモンが接近
凍える吹雪を口から吐き出す
肌は暗い灰色、足は馬のような形で蹄がありに二足歩行、細い尻尾があり、頭はジャガーのようなネコ科の顔、二本の山羊のようの巨大な角が特徴的だ
「ラーズ、作戦はありません。それぞれが隙を見つけて大打撃を与える。出し惜しみは無しです」
そう言うと、マキ組長の太ももに何かの文様が浮かび上がる
…あれは遁術の術式だ
ブオォォッ!
マキ組長の体から突風が噴出、弾かれたように高速で飛び出した
ガキィッ!
連結鎌を振りながら、遠心力をかけて片方の鎌を叩きつける
その勢いのまま回転して、回し蹴りをグレーターデーモンの頭部へ
「グオォォォッ!!」
さすが、グレーターデーモン
ダメージは感じられず、攻撃を受けたことで憤怒の雄叫びを上げる
俺はすかさず、魔石装填型小型杖で拘束の魔法弾を当てる
グレーターデーモンが、俺をうっとおしそうに睨みつけて腕を叩きつけてくる
バカか! 俺相手に隙だらけの叩きつけだと?
人間を舐めるな!
体当たりのように入り込んで、腕の速さに合わせて体を回転
腕を巻き込みながら、グレーターデーモンの体を跳ね上げる
「おらぁっ!!」
ドガァッ!
背負い投げだ! ざまぁみろ!
舐めんなこのヤローが!
マキ組長の接近を察知して、俺は場所を開ける
同時に、小型杖でもう一度拘束の魔法弾を撃つ
「ご主人! 悪魔族は魔法耐性が高いから、効果が出にくいよ!」
データが、次の魔石を倉デバイスから出してくれる
起き上がったグレーターデーモンの直近で、マキ組長が変な形の筒を地面に立たせる
よく見ると、折り畳み式の長いストックが付いており、それで地面を支えにしたのだ
…ッゴォォォォン!!
「グオォォォッ!!」
凄まじい轟音が響き、グレーターデーモンの胸を弾丸が貫通した
あの悪魔を貫通させるだと!?
ど、どんな威力なんだ!
反動が大きすぎて人力では支えられないため、地面にストックを突いて至近距離から撃つ方式だ
おそらくは風属性の特技である遁術で高速移動しながら接近して叩き込む、近接戦闘用の火力忍術、それがあの変形貫通砲なのだろう
マキ組長が追撃、そして俺が小型杖で拘束の魔法弾をもう一度撃ちこむ
しかし、突然グレーターデーモンが範囲魔法(大)を発動した
おそらく、ダメージを受けながら魔法を構築していたようだ
くそっ、兆候が分からなかったぞ!
マキ組長がとっさに俺の前に来て、小型杖で水の塊を撃ち出した
シャキキーーーーーン!
「ぐっ!?」 「あぁっ…!」
冷属性範囲魔法(大)に巻き込まれる俺とマキ組長
マキ組長が小型杖で射ち出したのは、水の塊を投げつける水属性水球の魔法弾だ
水を凍らすことで低温のエネルギーを少しでも消費させてくれたのだ
よくみると、マキ組長の左手には護符があった
護符とは補助魔法を封印した霊札であり、使い切りではあるが補助魔法を使うことができる
習得した術者以外で、重要な補助魔法を使うことができる唯一の手段だ
耐魔法防御、防御魔法、硬化魔法、そして、各種属性の防御魔法など、補助魔法には生存を左右するものが多く、使い切りの割にかなり高価だ
マキ組長は、耐魔法防御を使って俺を庇ってくれた
だが、グレーターデーモンの範囲魔法はそれでもかなりのダメージを受けたはずだ
俺は回復薬をマキ組長にぶっかけながら、絆の腕輪で指令を出す
フォウル、リィ、全力攻撃を叩きつけろ!
グレーターデーモンが、勝利を確信して俺達に近づいて来た瞬間
上空に待機していたフォウルとリィが同時に口を開ける
バリバリバリーーーーーーーーーッ!
バシューーーーーーーーーーーーッ!
「ギャアァァァァァァッ!!」
二本の閃光
雷属性と霊属性のブレスが上空からグレーターデーモンに直撃
「竜牙兵、拘束しろ! データ2、魔法弾を!」
俺は1991を取り出して、ホバーブーツで飛び込む
流星錘アームをグレーターデーモンに引っかけ、飛行能力の推進力を使いながら方向転換
高速立体機動の遠心力をナノマシンシステム2.0で抑え込みながら、グレーターデーモンの背中側へ
同時に、サイキック・ボムを形成したフル機構斬りを叩きつける
ゴォッ ズッガァァァァァァン!!
「ゴバァッッッ!!」
グレーターデーモンの右肘から背骨までを切断
右前腕が飛び、腹の中ほどにまで刃がめり込む
だが、グレーターデーモンはまだ生きていた
治癒力で傷口を埋め、血を吐きながら、俺を見据える
…さぁ、殺し合いだ
魔人 二章~34話 ヘルマン




