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六章 ~21話 忍術の修行

用語説明w

輪力:霊力と氣力の合力で特技(スキル)の源の力


マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている。

コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う


ヘルマンの感情は、俺にドミオール院を肯定させた


ドミオール院のために、ウィリンとタルヤがいてくれる

マリアさんと共に、身寄りのない子供たちの居場所となってくれる


その必要性を、俺は否定できない

なぜなら、俺も居場所によって変われた人間だから



「…また来るよ」


「ええ、待ってるわ」

「ラーズさん、コウさん、ヤマトさん、ありがとうございました」


タルヤと目を父の映像で真っ赤にしたウィリンに見送られ、俺達はドミオール院を後にする


「また来てねー!」


「子供達も喜びます。また、ぜひいらしてください」

マリアさんも、子供たちが手を振ってくれた


…ドミオール院の生活は酷い

物資の不足、子供の数に対しての大人の不足


結局、タルヤはドミオール院で住み込みで働くことになった

俺には、タルヤの意思を尊重して見守るしかできない


「俺も関わっちまったからさ、いろいろ考えて見るよ」

ヤマトは、定期的な見回りと物資の支援を約束してくれた


更に、パニン父さんがドミオール院の取材をしてくれることにもなっている


皆で、少しずつやれることをやって行くしかない




ヤマトと別れ、俺達はマキ組の廃校に戻って来た


校舎内に作られたリビングには、マキ組長とコウ、ルイがいた


「帰ってきましたか。では、始めましょう」

マキ組長が立ち上がる


「え、何をですか?」


「修行ですよ。ルイとコウはまだまだ修行中の身ですし、ラーズもそろそろ忍者として忍術を考えなければいけません」


「忍術?」


「私達はフウマの里に所属する忍びです。一人前の忍びとなるためには、独自の戦法、技術を身につける必要があります。それが、それぞれの忍びの持つ忍術です」


「はぁ…」


「ラーズはマキ組の一員となりました。そして、中忍としての立場を与えました。ですので、簡単に下忍の三人が扱う忍術を教えておきましょう」


「はい」


そうか、ついに忍術について教えてもらえるのか

何度か戦場に立ったことで、少しは信用してもらえたということか?



まず、ルイの忍法は隠れ身の術

土、草、迷彩の布、時には火を放って姿を隠す

スナイパーに必須の術だ


「ルイの姿と気配の消し方は、確かに凄いよな…」



次にヤエ

ヤエは、媚薬や幻覚剤、覚せい剤、自白剤などを使った性行為だ

ターゲットに近づき、ハニートラップを仕掛ける


そして、ベッドに入れば各種薬剤を使って相手を催眠状態にする

骨抜きにするだけでなく、夢うつつの状態で情報を吐き出させ、朝になったらその記憶が消えている

まさに、諜報活動のプロだ


「ヤエ…、怖い…」


「たまに相手してあげようかって言ってくるんだよ、あいつ…」

コウが震えながら言う


「快楽を覚え込まされたら、もう奴隷になるしかないもんな…」

ルイも首を振っている


うん、女って怖い


ちなみに、女性ターゲット専門の男性忍者もいるらしい

快楽に溺れるのは男も女も同じってことだ

忍者が怖いわ!


この二人は、更に遁術としての輪力を使う特技(スキル)も持っている



「そして、これからコウの忍術を見に行きましょう。修行を兼ねて」


「え? わ、分かりました」


こうして、俺とコウはマキ組長と修行に向かった




やって来たのは人里離れた、領境が近い山の中だった

俺達は崖の上から沼を見下ろす


「ここで忍術を見るん…」


「はい、どうぞ」



ドンッ


「え?」



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっっ!?」



下は小さな沼になっている崖の上

そこから、突然突き落とされる


壁を蹴って、木の枝を掴んで、同時に流星錘アームでターザンの真似事

宇宙技術が使われた贅沢な近接武器、何度も命を救ってくれてありがとう



バッシャァァァァン!


「うおぉぉぉっ!?」



着水したのとほぼ同時に、同じく落とされたコウの叫び声


そして、目の前に水の滴った馬が飛び出して来た

よく見ると、下半身が魚のようになっている


あれは水魔の一種、ケルピーだ



周囲の沼の水が波打つ


「まずい、水属性魔法だ!」


「任せろ!」


俺が錘を投げつけようとした時、コウがケルピーに突っ込んでナイフのようなものを突き出した


だが、相手は馬の体を持つモンスターだ


「コウ、ナイフごときじゃ倒しきれない、危険だ!」


俺の言葉を無視して、コウがナイフをケルピーに突き刺す

だが、ケルピーが後ろから大波を発生させた


やはり、ナイフなんかじゃ仕留め切れない

水属性魔法のカウンターが来る


俺はコウのフォローに入るために、飛行能力を発動、その時…



パキキ…キ………


「…っ!?」



突然、周囲の水ごと凍りつくケルピー


な、何が起こったんだ!?


「あれがコウの必殺忍術、高圧封入武器です」

いつの間にか、崖を降りてきていたマキ組長が言う



ワスプナイフというナイフがある


柄の部分にガスボンベが仕込んであり、刃先の穴から高圧の炭酸ガスを噴出、圧力が解放されて急激に温度が下がり、刺した部位を瞬間凍結して粉砕する

ダイバーがサメに襲われた際の撃退用であり、刺した相手を内部から破壊する



「コウは、更に冷属性魔法を封入することで効果を高めています」


ワスプナイフは、刃先が体内に埋まらなければガスが逃げてしまって効果が下がる

だが、冷属性魔法の封入で刃先周辺を凍結させ、ガスが漏れにくいようにして、更に冷気の威力も向上させているのだ


まさに、近接戦闘の必殺技だ

内蔵を凍結粉砕されたら、変位体やナノマシンシステムでも生き残れないだろう


「俺は元々、工学系の仕事をしていたんだ」

コウが、ワスプナイフの小型ボンベを交換しながら言う


「凄いな、まさか仕込みナイフにそんな威力が出せるなんて」


「前に、スタンガンを仕込んだナイフを作ったんだけど、高電圧にするにはバッテリーが大容量になってしまって思ったほど小型化が出来なかったんだ」


「はぁ…」


凄いな

忍術は輪力をつかった遁術ってイメージが強かったけど、普通に道具の工夫でこんな術を作り出せるのか


ルイの隠れ身の術も同じだ

フィールドに会った素材を使って、ひたすら身を隠す

その方法は、全てが知恵と事前準備だ


まさに、チートの無い一般兵や忍びが戦場を生き残るための技術だ



「…では、ラーズ。今日は、忍術の基本を教えます」

そんな俺の様子を見て、マキ組長が言う


マキ組長は、俺とコウを連れて森の奥に入って行った


「…あの木を見てください」


この森は、木がまっすぐ立っている

しかし、根本が「J」のように曲がって立っていた


「こういう森は、地盤が緩く土砂崩れが起きやすいという特徴があります。更に、先ほどの沼が濁ったり、地割れなどができていれば土石流の兆候でもあります」


「…!」


「こういう環境変化の利用。言うなれば、これが究極の忍術ですね」


「なるほど…」


事前に土砂崩れや土石流を予見して敵を巻き込めば、これ程強い術はない

大魔法や砲撃を必要とせず、敵部隊を殲滅できるだろう


「雪山での雪崩の誘発、あらかじめ川の水をせき止めておいて氾濫させるなどの環境操作を利用をした攻撃は、実現は難しいですが決まれば効果は絶大です」


「確かに…」


「そして、敵の部隊に対して、環境を変化させることのメリットもあります」


「環境変化のメリットですか?」


「はい。戦いの本質はサバイバル、つまり生き残ることです。敵を倒しても、自分が死んでしまっては意味がありません。そんなサバイバルが目的の戦闘において、環境の変化とはそれだけリスクが高まったことを意味しますからね」


「…」


確かにそうだ

雪山で戦闘中に雪崩が起きたが、運良く生き残った


だが、この環境は雪崩が起きる可能性があることが立証されている

しかも、この雪山の中でどこに敵が潜んでいるのかが分からなくなっている

このストレスは想像に難くないだろう


勝てない相手や、不利な地形、想定外の状況での戦闘は避けるべき状況だ

俺だったら撤退を選択するかもしれない


英雄を目指して突入したり、怒りにまかせて攻撃したりと、功を焦れば早死にするだけ

常に自分と部隊の生存を考え、相手と戦うこと、倒す事は二の次、これが戦場の鉄則だ



「ラーズも、そろそろ独自の技術。言うなれば、だまし討ちが出来て、相手の意表を突ける技術を作りなさい。それが、あなただけの忍術です」


「はい…、分かりました」



マキ組長がジョゼに連絡している時、コウがこっそりと言って来た


「今日は崖から突き落とされただけで済んでよかったよなー」


「あれ、充分死ねる状況じゃなかったか?」


「…前、雪山で訓練した時は本気で雪崩を起こされたんだよ」


「雪崩ってそんなに簡単に起こせるのか? 水魔法とか?」


「いや、単純に爆弾仕掛けて衝撃で誘発した。あの人の訓練は半端ないから気を突けとよ」


「お、おぉ…」


マキ組長は、完全にデモトス先生タイプだ

同じ達人でも、ヘルマンのような穏やかな、そして教えるのがうまい人もいるし、いろいろなタイプがいるもんだな



「…至急戻ります。ナウカの部隊が領境に現れているそうです」


「え!? り、了解!」

コウが慌てて車に乗り込む


「…ナウカの鬼憑きも確認されています。気を引き締めないと死にますよ?」


「な…!?」


「それと、ウルラからは漆黒の戦姫が出陣していると。話題のお姫様のお手並み拝見ですね」


フィーナも来ているのか

戦場で会うのは初めてだ


俺達は、急いで拠点に戻る


なお、コウはマキ組長に今度雪山での再訓練をすると言い渡されていた

マキ組長の地獄耳とコウの口の軽さは、もはや鉄板のようだ


鬼憑き 閑話8 クサナギ家

漆黒の戦姫 六章 ~18話 加担組織の排除2

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼憑きとな…‼︎またヤバそうなやつやなぁ!フィーナが相手するのかな?
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