表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/394

六章 ~20話 まさかの来訪

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存されていた


マキ組長が慌ただしく出かけて行った


…今日は休みだな、ラッキー


「コウ、ドミオール院に行こうぜ」


「お、いいね。オッケー」


俺はコウを誘う

ウィリンから話が有るから来て欲しいと連絡を受けていたからだ



コウを待っている間、俺は部屋で座りながら一人悩んでいた


…俺の前には、倉デバイスと自己生成爆弾のボックスが置かれている


自己生成爆弾のボックスはポーチ型になっており、腰に付けて使う

四種類の爆弾を状況に合わせて使い、時間が経てば再生成される超小型工場となっている


とても使える爆弾で、今では小型杖、モ魔、陸戦銃と並んで俺の消費アイテムの四天王の一つだ


だが、消費アイテムが一気に四種類増えたことで扱いが煩雑になり、手が回らなくなってしまった


使いたいときに使えないのでは、咄嗟の危険に対処できない

数少ないチャンスをモノにもできなくなり、それは自分のリスクを格段に高める



「なぁ、データ。自己生成爆弾の起動って、データにもできるのか?」


「ご主人! 権限をくれれば射出と生成の制御はできるよ!」


「射出ってことは、誘導ミサイルタイプのジンなら…」


「発射も可能だよ!」


自己生成爆弾は、手を近づければボックスの穴から飛び出させることができる

そのタイミングをデータが管理できるということだ


飛び出して爆破すると危険だが、ジンは自動で敵に飛んでいくため、データがロックオンしてその方向に発射することができる


「よし、データ。自己生成爆弾の権限も渡すから、倉デバイスと一緒に管理してみてくれ」


「ご主人! 分かったよ! ご主人の合図で射出、ジンのみ発射も可能に設定するよ!」


「ああ、頼む。名付けて、倉デバイス術プラスだ」


倉デバイス術とは、データに倉デバイスを制御させるというそれだけの機能

しかし、俺のやりたいことや使うことが多い戦術を分析して把握し、先読みして倉デバイスから必要なアイテムをロードするという、個人用AIならではの高度な術だ


これからは、自己生成爆弾も俺の戦い方に応じて動かしてもらうことになる

俺一人では、手が回らないのが現実だし



「ラーズ、お待たせ。行こうぜ」


「ああ、分かった」


俺は、ようやく準備が終わったコウと一緒にドミオール院に向かった




車を停めて、ドミオール院のチャイムを鳴らす


「はーい」

中から、マリアさんの声が聞こえた


「マリアさん、こんにちは」

「また、遊びに来たよ!」


「まぁまぁ、よく来てくれました。子供達も、いつ来るのかと楽しみにしてましたよ」

俺とコウは、マリアさんに続いて中に入る


すると、中には大柄の獣人男性がいた


「あれ? ヤマトも来てたんだ」


「ああ…、ラーズが来るって言うからさ」


「俺に用があったならマキ組に来ればいいのに」


「いや、ここじゃなきゃダメだったんだ」


「え?」


俺がヤマトと話している間に、コウは…


「おらー、元気だったか!? 今日は、近くの町で絵本を貰ってきてやったぞ!」


「わー、やった!」

「コウ兄ちゃん、いらっしゃい!」

「コウ兄ちゃん、またおままごとしたいの」


コウは子供たちの相手をしに行った


「…あいつは忍者らしくないな」

そんなコウをヤマトが眺める


「戦うために、子供たちに癒されてるんじゃないか?」


「そう言うラーズはどうなんだよ」


「俺は大崩壊やクソみたいな施設を経験してるからな。今更、戦闘で病んだりはしないって」


「…」



奥から、マリアさんがお茶を入れて持って来てくれる


「そろそろ、ウィリンも来ますからね。ヤマトさん、ラーズさんには言ったの?」


「いや、まだだ」

ヤマトが首を振る


「何の話?」


「ラーズさん、お待たせしました」

俺がヤマトに尋ねたタイミングで、ウィリンが奥から出て来た


「やぁ、ウィリン。また遊びに来たよ。話が有るって、何?」


「ラーズさんに、お客さんが来てるんですよ」

ウィリンが、奥に向かって手招きをする


誰だ?

クレハナで知り合いって、フィーナとマキ組を除けば、今ここにほとんど揃ってるぞ?


俺はお茶を飲みながら出てくるのを待つと…



ブーーーーーッ!


出て来た、あまりに意外な人物を見てお茶を吹き出してしまった



「ラーズ…」


「…っ!? ゴホッッ…! なっ……!?」


「………大丈夫?」


「タ、タ、タ、タ、タ、タルヤ…!?」


そこに立っていたのは、紛れもない、龍神皇国にいるはずのタルヤ、その人だった




・・・・・・




「ヒャンヒャーン!」

「ガウガウ」

「お姫様は、お城を抜け出して…」


俺の使役対象である、リィ、フォウル、データ2が、それぞれ子供達と遊んでいる

戦場で数々の戦果を生み出して来た実力者たちは、子供達とも遊んであげられるのだ



「…それで、どういうことだ?」


「私、ラーズから電話を貰って…。ヘルマンに助けられて、今ここに生きていて…。だから、ヘルマンの息子であるウィリンと、ドミオール院のために何かできないかなって思って…」


「…」


「そうしたら、居ても立っても居られなくなって…。そして、セフィリアさんに相談したの。そうしたら、クレハナ行きの便に乗せてもらって、ヤマトさんにドミオール院に連れて来てもらって…」


「…何で黙ってたんだよ」

俺はヤマトを睨む


「タルヤさんのたっての願いだ。セフィリアさんにも、タルヤさんの希望の通りにしろって言われたんだ」


「…私が無理言って頼んだの! セフィリアさんやヤマトさんを責めないで」


「何で俺に黙ってなきゃいけなかったんだ?」


「驚かしたかったの。あと、反対されるかもしれないと思って…」


「いや、そりゃ、ここは内戦中で危険だし…」


「ラーズも、この危険な場所に行ったんでしょ? ウィリンもその場所にいる。そんな場所だからこそ、私にできることがあるかなって」

タルヤが言いながら俯く


…タルヤは、あの病院でのやつれた感じが無くなっていたい

何かをやりたい、そういう欲求が出てきたことはすごくいいことだ


だが、ここは内戦真っただ中のクレハナ

そして、ドミオール院は領境が近く、戦火に巻き込まれる可能性が高い


「タルヤさんは子供にも優しく、女手が増えて助かってますよ。…ここの子供にとって、抱きしめてくれる女性は本当にありがたい存在ですから」

マリアさんがフォローをするように言う


…しまった


このドミオール院に住む人たちの前でタルヤの行動を否定することは、その人たちを否定することになる



「…タルヤ、体調はもういいの?」

俺は話を変える


「ええ、クレハナに行くって自分で決めてから、気分が沈むことが少なくなったの。もちろん、薬は飲んでるけどね」


「そうか…」


確かに、タルヤの体調は良さそうだ

薬が定期的に手に入れば、精神的に少しは良くなるのかもしれない


「ラーズ。私がここに来たのは、ウィリンにヘルマンの気持ちを伝えたいと思ったからなの」


「気持ちを?」


そう言うと、タルヤはウィリンが持って来ていたジャマハダルを見る


「…私は、このジャマハダルに残った記憶を読み取ることができる」


「そうか、サイコメトリーか」


タルヤのサイキック能力の一つ、サイコメトリー

その物体に残った精力(じんりょく)を読み取ることができる力だ


「ウィリン君、いい?」


「う、うん、お願いします」

ウィリンが半信半疑で、少し緊張した顔で頷く


「サイコメトリーか、面白い特技だな」

ヤマトが言う


「タルヤは変異体のエスパータイプだからな」



タルヤが、ジャマハダルを持って意識を集中させる


「………」



沸き上がる映像が、ここにいる俺達にも流れ込んでくる



…ヘルマンの戦いの記憶



小さいウィリンを連れての放浪の旅



ドミオール院にたどり着いての束の間の安息



そのドミオール院を出るという葛藤




「父さん…」


ウィリンが呟く



全ての記憶は、すでに曖昧となっていた


だが、曖昧でも感情とは伝わるものだ



その後、人体実験に参加して変異体因子が覚醒


体調不良に苦しむ


胸にあるのは、ウィリンのこと、ドミオール院のこと


あの施設に行く前日、ウィリンを抱きしめるヘルマン



無事に育って欲しい


勉強して、ドミオール院を守れる男になって欲しい


クレハナを変えられる男になって欲しい



側にいられない寂しさ、申し訳なさ


こんな方法でしか金を作れない、自分の情けなさ



そして、こんな環境でも立派に育ってくれたウィリンへの感謝


育ててくれたドミオール院とマリアへの感謝


ウィリンと、ウィリンを育てたドミオール院という環境への愛


そこを離れるという哀愁



しかし、ヘルマンの気持ちに後悔は少しもなかった


ウィリンのために、正しいと思うことをしたから


ドミオール院のためになると信じたから



その為に、ヘルマンは自分自身を売ったのだから



「………」


記憶の断片が通りすぎたとき、口を開くものは誰もいなかった




サイコメトリー

三章~11話 ダンジョンアタック二回目2

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ