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六章 ~19話 家族との食事

用語説明w

クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している。


フィーナ:ラーズと同い年になった恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職。現在はクレハナの姫として、内戦終結のために勤しんでいる


「ガゥ…」


フォウルが舌を出してだらしなく俺の肩にしがみつく

サンダーブレスの疲労で動けなくなってしまったのだ


これで、数日はフォウルに期待できない


「フォウル、リィ、お疲れ」

俺は、フォウルに干し肉を、リィに餌札を与える


「ヒャン!」


リィが餌札をおいしそうに咥える

リィの主食は霊力で、この札には式神の食事となる霊力を封じてある


普通、式神を使う術者は霊力を使った戦闘を好む者が多く、自らの霊力を式神に与える

だが、俺はチャクラ封印練のせいで、自分の霊力を与えることができないため餌札を使っているのだ



「ラーズ、無事だったか」


「ああ、ルイもな。お疲れ」


「ラーズの使役対象は凄いな。ラーズ一人で、MEBを含む一部隊を足止めしちまうんだから」


「ルイがいたからこその戦果だよ。ルイのようなスナイパーや魔導士のような遠距離攻撃は、俺と相性がいいのかもな」


生き残ったルイとハイタッチ

多少ギリギリだったが、何とか生き残れた


狙撃と強襲をセットにすることで、お互いの生存率を上げられる


フォウル、リィ、竜牙兵、そして今回は使わなかったデータ2

複数の使役対象がいい感じに回ることで、ルイの狙撃が活きた



そして、俺自身の成長を実感できたのも大きい

高速立体機動が、より自分のものとなっている

ナノマシンシステムが更に体に馴染み、身体強化の2.0の安定感が増したのが理由だ


しかし、課題が一つ出来た


高速立体機動中の高速戦闘で、アイテムや武器の持ち替えが間に合わない


力学属性引き寄せの魔石の多用、倉デバイスに追加して自己生成爆弾

モ魔や陸戦銃と、使うアイテムが増えすぎた


倉デバイスをデータに任せる倉デバイス術

武器やアイテムを体の側に保持するサードハンド


これだけでは、とてもじゃないが間に合わない

…何か方法を考える必要があるな




・・・・・・




マキ組長は、事後処理があると言って戦場に残った


調査を終えたジョゼが戻ってくる


「ラーズ、活躍したらしいな」


「ルイと組んで、何とか生き残ったよ」


「ラーズが一部隊を引き付けて殲滅したおかげで、今回は痛み分けに持ち込めた」

ジョゼがため息をつく


ウルラ軍の戦車部隊はほぼ壊滅

だが、ナウカ軍のMEB部隊も壊滅させた


マキ組は全員が無事だったが、ウルラ軍の生き残りは悲痛な顔で戦後処理を行っていた


…戦友を失うのは辛い

嫌と言うほど分かる



「狙撃に気を取られて歩兵に接近されたらしい。魔導士がいて、土属性範囲魔法の泥化魔法で戦車の足を止められたようだ」

ジョゼが破壊された戦車を見て言う


泥化魔法とは、地面を沼のように柔らかくする魔法だ

キャタピラーが沈み込み、地面摩擦が減少、動きが遅くなったところをMEBの狙撃の的にされたようだ


土属性魔法は、魔力によって個体を作り出す力

大岩を作り出す攻撃魔法や、壁を作り出す土壁の魔法が有名だ

基本的に、自然界にある個体に対しては作用し辛いという性質を持つ


だが、例外として、地面に振動を与える地震魔法や、柔らかくする泥化魔法など、個体に作用する魔法が存在する


泥化魔法は、個体の集合体に作用する魔法であり、岩石や金属の塊には作用しない

細かい粒子の集合体である土などを一時的に柔らかくするという魔法だ


科学と魔導法学、二つの技術を組み込んだ戦術

これが、現代の戦場だ



俺とコウ、ルイは、先に拠点へと戻って休みとなった

俺は拠点へ戻ると、シャワーを浴びてすぐに出かける


「ラーズ、どっか行くのか?」

コウが聞いてくる


「ああ、、町へ行ってくるよ」


「戦いが終わったばっかで元気だな。もし、あの孤児院へ行く時には俺も誘ってくれよ」


「オッケー、分かった」


コウは、やはり子供たちが好きみたいだ

男の子と遊ぶだけじゃなく、女の子のおままごとにも付き合ってあげていた


マキ組の車を借りて、町へ


「ご主人、この先のお店だよ!」


「分かった、サンキュー」

データのナビで、俺は駐車場に車を停める



ここはレストラン

中に入るとウェイターに声をかけられる


「パニン・オーティル様のお連れ様ですね。お待ちしておりました」


今日は、俺の実父でありフィーナの養父だったパニン父さんが、俺とフィーナを食事に誘ってくれたのだ


戦闘の後で家族に会う

殺し殺され、癒しを家族を求める

自己中心的な欲求、究極のエゴだ


だが、それでもいい

今更、正当化なんてしない


俺は死にたくない

そして、自分の目的のために戦場で生き残る

自分の命を晒しながら、敵の命を刈り取り続ける



「あ、ラーズ」


フィーナと父さんはもう来ていた


「フィーナ、父さん、遅れてごめん」


「ラーズ、今日も戦闘だったのか?」


「うん、何とか生き残ったよ」


俺は、今日の戦闘の結果と、マキ組長が言っていたナウカ側に参加する兵器産業企業の特定のことを説明する


「…そうか。それをセフィリアちゃんが止めると言うわけだな」

パニン父さんが頷く


「どれだけ効果があるのかは分からないけどね」


「龍神皇国という大国からの参戦停止要請はそれなりに力があるはずだよ。草の根の活動にはなるけど、実験のための参戦を一つ一つ潰していけば、ナウカの力を削ぐことには繋がると思う」

フィーナが言う


「ウルラの状況はどうなんだ?」


「うん、徐々に良くはなってると思う」


フィーナは、主に内政についての仕事をしている


龍神皇国からの支援物資を振り分け、都市の整備、各地の村や集落への支援物資の振り分け


領境周辺の戦地から離れた地区から、生産性の向上、疎開難民の受け入れ地区の確保を行ったことで、全面戦争への備えが進んでいる


「…全面戦争は近いのか?」


「ナウカ側に余裕が無いからな」

今度はパニン父さんが話し始める


パニン父さんは、ジャーナリストとしてクレハナに来た


元々、龍神皇国でジャーナリストをしていたのだが、フィーナがオーティル家を出てクレハナの王家に戻ることを決めた時、パニン父さんも一緒にクレハナに行くことを決めた


その理由は、クレハナの内戦を終わらせるため

フィーナの母国を救う一助となるためだ


ペンは剣よりも強し

父さんの座右の銘であり、報道機関の言論の力は、権力や軍隊よりも国と民衆に大きな影響を与えるという格言だ


俺が、自分の目的とフィーナのために銃を取ったように

父さんも、フィーナのためにペンを、正確にはキーボードとカメラを取ったのだ


「ナウカ領とコクル領を許可を取って回って来た。…彼らもウルラ軍によって被害を受け、民衆の生活は困窮して難民が溢れている」


「生活物資は回っていないの?」


「龍神皇国や周辺国が、人道的支援として食料や燃料、衣服などの生活物資を送っていると聞いていたのだが、軍部の横領行為が相次いでいるようだ」


「酷い…」

フィーナが顔をしかめる


「それだけ余裕が無いということだ。もう十年以上も内戦が続いているし、この数年の激しい戦闘のおかげで余裕がない。しかも、ウルラ領は龍神皇国の支援を受け、更にフィーナが戻って来たというニュースで盛り上がっている。…ナウカとコクルの連合は、これ以上国力の差ができる前に勝負に出るだろう。いや、出ざるを得ない」


「…」


…予想以上に、内戦の終わりは近いのかもしれない

だが、戦争による終結が、良いのか悪いのか


戦友を失ったことがある俺からすれば、戦争に勝って大切な人が死ぬ

これでいいとは、とてもじゃないが言えない


「…ラーズは大丈夫なの?」


「何が?」


「戦闘で無理してないかってこと」


「クレハナの戦闘は、無理しないで勝てるほど甘くない。味方も敵も、必死に戦ってるんだからな」


「…私、怖いの。ラーズに戦場に出て欲しくない、ラーズにだけは死んでほしくない。パニン父さんみたいに、戦い以外にも…」


「言葉で国を変えて内戦を止める、それはジャーナリストである父さんと、政治家であるフィーナの仕事だ。力なき正義は無力、戦う力も必要なはずだ。…戦いは兵士である俺がやればいい」


「ラーズ…」

「…」


フィーナと父さんが、心配そうに俺を見る


「そうだ、父さんとフィーナに知っておいて欲しい場所があるんだ」


「どこ?」


「ドミオール院っていう孤児院なんだけど、俺が世話になった人の息子が働いてる。領境で、あまり支援も行き渡っていないみたいで、もしよかったら力を貸して欲しいんだ」


「ふーむ…、孤児院か。よし、父さんが取材に行ってこよう。連絡先と住所を教えてくれ」

「私も今度、実査に行って物資を回せるかやってみる」


俺は、父さんとフィーナにドミオール院の場所を説明する



「そう言えば、父さん。ナウカやコクルでの取材はどうだったの?」


「フィーナの噂は、ナウカやコクルでも流れていたぞ。黒髪の姫、漆黒の城と大魔法を操るってな」


「へー、なんか凄いな」


「宇宙戦艦、宵闇の城を使った補給拠点の出現。補助魔法で部隊の強化、範囲魔法(大)を使った広範囲殲滅…、黒髪赤目の戦姫が戦場に現れたら、死を覚悟…モガガッ!?」


父さんが、敵領で聞いた噂を次々に披露


「ちょっ、やめてよパニン父さん!」

フィーナが慌てて父さんの口をふさぐ



フィーナの物騒な噂はともかくとして…


俺達は内戦のことを忘れて、一時、龍神皇国の実家を思い出す和やかな食事を楽しんだ


パニン父さん 六章 ~4話 家族の食事


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