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六章 ~15話 足りないもの

用語説明w

流星錘(りゅうせいすい)アーム:紐の先に、重りである錘が付いた武器。紐は前腕に装着した本体のポリマーモーターで巻き取り可能


マキ組長:フウマの里マキ組の上忍、ノーマンの女性。二丁鎌を使う忍びで、武の呼吸を身につけている。

コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う

ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている


廃校での生活にも少し慣れてきた気がする


校舎という建物は、部屋が多く拠点としては便利だ

生徒たちの机を使ってベッドを作ったりと、もとからある物を利用することで生活にも困らない



「クレハナでの生活はどうですか?」


朝食を終えると、マキ組長がやって来た


「戦闘の多さに驚きましたが…、なんとかやれています」


ただ、少し怪我が多すぎる

戦場での負傷は死に直結する、気を付けなければいけない


「それは良かった。今日は依頼が来ていませんから、ラーズには訓練に参加してもらおうと思います」


「訓練ですか?」


マキ組の戦闘員は、ただの傭兵ではない

忍者という技能を持った特別な戦闘員なのだ


校庭に来るように言われて向かうと、作業部屋となっている部屋でルイが裁縫をやっていた


「ルイ、何やってるんだ?」


「俺の忍術、葉隠れの術の準備さ。前回のマスタードガスの臭いが移っちゃって、全部洗ったんだ」


ルイはスナイパー

森というフィールドに隠れるために、迷彩色のシートを被る

丁寧に、葉っぱまで取り付けてあるのだ


忍術は、特技(スキル)である遁術と、それ以外の忍術に大別される

派手な遁術に目が行きがちだが、こういう技術としての忍術の有用性は、俺も戦場で思い知っている


敵の裏をかける

それは、それだけ自分の致死率を下げられるのだ



校庭に出ると、マキ組長とコウはもう出てきていた


「お待たせしました」


「では、始めましょう」


マキ組長が、さっそくひも付き二丁鎌を取り出す


「…ラーズ、気を付けろ。マキ組長の訓練は半端じゃない。下手すると死ぬからな」


「そんなに凄いの?」


「そのおかげで、俺やルイが戦場で生き残れているのも間違いないんだけどよ。冷徹すぎる…」


「コウさん、今日の訓練は増し増しにしておきましょう。今決めました」


「えぇっ!?」


「冷徹に、下忍の実力を上げるべきですからね」


「そ、そんな! ちょっとまって…」


「一切待ちません。始めましょう」


コウ、このくだり、前もやってただろ

少しは学習しろよ…



校庭に作られた、障害物に見立てた板や瓦礫の山

ここで戦闘員であるコウやルイがマキ組長と訓練を行っている


「今日はシミュレーションを百回です」


「はい…」


マキ組長が、うなだれたコウを一瞥して俺の所に来る


「ラーズは私と戦闘術です。武の呼吸を、全面戦争までに完成させましょう」


「完成ですか?」



武の呼吸とは、端的に言えば観察眼と身体操作だ

相手の挙動、つまり気配を察知して、自分に可能な身体操作で最高効率のものを選び、リスクを少なくして効果的な攻撃を行う


この呼吸を身につけると、身につけていない者と対峙した時に圧倒的なアドバンテージを得られる

被弾率が格段に減り、次の動作までもがある程度予測できるからだ


…確かに、マキ組長の動きは察知できない

マキ組長は気配の消し方が上手すぎるからだ


だが、それで武の呼吸がまだ完成していないとは言えないんじゃないのか?



「そうです。あなたは変異体であり、常人とは身体能力が違います」


「はぁ…、まぁ、それは確かに」


「それなのに、常人と同じ武の呼吸の使い方をしているということは、身体操作が上手く行ってないということです」


「身体操作が?」


「それを自覚させてあげましょう。…案ずるより産むが易しと言いますからね」

マキ組長が儚げに微笑む


この儚さは、マキ組長の戦い方にも通じる

曖昧な気配で攻撃が隠され、俺の武の呼吸では捉え切れない


デモトス先生やヘルマンの境地

また、このレベルの人に教えを受けれるとは…



マキ組長が二丁鎌を構えた

これ以上の言葉はいらない、そういうことだろう


マキ組長の鎌は、ゴムのように伸縮性のある一本の紐で二丁の鎌を繋げている

しかし、一本の鎌は柄の先に、もう一本は鎌首に紐が繋がっている変則的な連結鎌だ


そして、二本の鎌は両刃になっており、鎌の内側と外側に刃がついている



「…」


無言で歩み寄るマキ組長



俺はナイフを構え、流星錘アームから錘を垂らすことで牽制する



ブンッ!


マキ組長の鎌の投擲



躱しながらの錘の投擲…、無理っ!


既にマキ組長が間合いを詰めている

先手を取られた!


紐を引いて鎌を引き戻し、マキ組長が間合いに入った時には既に二丁鎌の構えになっていた



近接戦闘


ナイフからミドルキック


マキ組長が蹴りを跳んで避ける


だが、後ろは立てられた板

追い詰めた、チャンスだ



ドッ!


「なっ…、三角跳び!?」



板を蹴って、間合いを詰めた俺にカウンターでの斬りつけ

更に跳んで、障害物を蹴っての縦横無尽の連続斬り



ガキガキガキィィッ!


「ぐっ…」



鎌とは、刃が柄の方向とは異なる方向に向いている、ただそれだけの武器だ

どちらかと言うと農具の用途として使われる


だが、それだけ切りつけ方に変化が出る

突く、斬る、薙ぐ、近距離での連続攻撃はとてもじゃないけど躱せない


首を守りながらの踏み込み、体当たりに近い肘の打ち上げ


下がらせて、前蹴りで吹き飛ばす



「今のはなかなか良かったですね…」


マキ組長は、ダメージを一切感じさせずに微笑む



…ダメだ、こっちから攻めないと

ペースを取られたら負ける


腕を振って流星錘アームから錘を射出

紐を一メートルほどの長さで握って維持する


左のナイフで牽制、マキ組長との距離を保ちながら錘を叩きつけて行く



ゴガッ!


ドッ!



お互いの隙がかち合う


同時に間合いを詰める


近接戦闘、今度は仕留める!



飛び込み


敢えて攻撃はせずに、着地して近距離をキープ



ナイフの突き


躱されながら、後ろ回し蹴りが飛んで来る


沈み込みながら、俺も回転、ナイフの下段斬り



「なっ…!?」


その瞬間、目の前からマキ組長が消える



いや、マキ組長の気配が直近にある


トスッ…



後ろから何かが落ちる音


バカな、この距離で俺が後ろを取られただと!?



音に反応して、振り向きながら流星錘を振る…


「…っ!?」



後ろには、小石がおちているだけ

マキ組長の姿がいない



スッ…


ゆっくりと優雅な動作で、背後から忍びよる鎌

俺の首筋に、刃が添えられた



「…終わりですね」


「………っ!? ま、まいりました!」



鎌をどけられたので振り向くと、一方の鎌を板の上端に引っかけてマキ組長がぶら下がっていた

どうやら、一瞬のうちに飛び上がって俺の視界の外に出ていたようだ


そして、俺の視界がマキ組長を捉える前に、小石を投げて俺の意識を誘導

焦った俺は、マキ組長の気配を捉える前に思い込みで行動してしまった、と言う訳か



「ラーズ、あなたは強化兵です。あなたの身体能力なら、垂直跳びで二メートルは軽く行くはず。今回のように、一瞬で相手の視界から逸れることができる。…常人の常識を捨てないといけません」


「…はい。言っている意味が分かりました」


俺の身体能力で、わざわざ一般人が使う格闘技と同じ戦い方をする必要はない

もちろん、捨てるわけではないが、例えば、プロレス技や回転ジャンプ蹴りなどの魅せ技さえもが実用できるということだ


そして、それが身体能力を使いこなすということなのだろう


「忍びの戦い方は騙し合いです。気を逸らし、予想外の方法で攻撃する。武器、道具、技、何を使ってもいい。その身体能力を生かした、あなた自身の忍術を作り上げてください」


「は、はい…」



俺の訓練が終わり、その後はコウの訓練となった

コウが行っていたシミュレーションとは、模擬戦闘だった


敵の来る方向を察知して侵攻する訓練で、マキ組長が模擬弾を装填した銃を持ち、容赦なく撃ち続ける

遅れたり、体勢を高くしてしまったりするとガンガン模擬弾が当たる



「ぎゃあぁぁぁっ!」


「早くゴールしないと百回追加しますよ?」


「ま、ま、わあぁぁぁぁっ!!」


「はい、十~、九~、八…」


「マ、マキ組長、忍びが弾幕に突っ込むことがそもそも…!」


「はい、口答えしたから十回追加します」


「えぇっ!?」



マキ組の訓練は続いた…


俺も装具や身体操法の訓練しよ


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