閑話17 フィーナ「姫」
用語説明w
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た
神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍
フィーナ:ラーズと同い年になった恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
フィーナはクレハナに戻った
生まれ育った母国へと帰ってきたのだ
「ふぅ…」
多くの式典を行い、挨拶周りでウルラ領の方々に顔を出しに行って挨拶
それらがやっと一段落したところだ
クレハナの内情は思った以上に酷かった
正確に分かることはウルラ領のことだけだが、ナウカ、コクル領も同じかもっと酷いことにっているようだ
クレハナは、もう二十年以上内戦状態が続いている
王位継承権を巡って、ウルラ家、ナウカ家、コクル家が争っているからだ
現在は、ウルラ家とナウカ・コクル家の連合軍が睨み合っているという構図になっている
内戦が続いていて生産力が落ち、国民も疲弊しきっている
フィーナの仕事は、今回セフィリアと取り付けた龍神皇国からの援助を使ってウルラ領内を復興させることだ
まずは生産力の向上、そのためにインフラを整備し直して領民の生活力を向上させる
領境の防衛だけでなく、治安の維持にも手を回していくつもりだ
シグノイアとはハカルで起こった大崩壊の前まで、ウルラ家はこの内戦を有利に進めていた
その理由は、ドースが龍神皇国から兵力を輸入していたことで戦力を拡大していたからだ
その取引相手が、龍神皇国の貴族であったムタオロチ家だ
ムタオロチ家は龍神皇国の企業である炎と水城を主導しており、科学・魔法の両兵器を扱っていた
そこで、ドースはいくつかの条件を飲むことで取引を成立させたのだ
その条件の一つが、クレハナ国内での神らしきものの教団の活動の許可だった
ドースがなぜ、ナウカとコクルを出し抜いてムタオロチ家の企業から兵器の輸入が可能だったのか?
それは、ドースが主導する国営企業ブロッサムの存在があったからだ
ブロッサムは、貿易、原子力、魔石精製、農業などを扱う複合企業だ
多方面の企業を買収し、龍神皇国やシグノイア、ハカルとも取引を行って来た
シグノイアでも売られていたクレハナの特産であるお茶は、ブロッサムがシェアの九十パーセントを占ている
そういう訳で、ブロッサムを擁するウルラ家は資金力でナウカとコクルに一歩先んじていた
その為、ムタオロチ家との取引を成立させてからは戦力を一挙に拡大、このままいけばウルラ家が内戦を制すると目されていた
…しかし、そうはならなかった
ムタオロチ家と神らしきものの教団があの大崩壊を引き起こしたからだ
結論から言うと、ムタオロチ家と神らしきものの教団は、結託してシグノイアとハカルの乗っ取りを画策していた
そして、クレハナへ兵器を売りつけることで得た資金を使ってシグノイアとハカルの両国で破壊活動を行っていたのだ
しかし、計画は阻止され、ムタオロチ家は龍神皇国で取り潰し、首謀者で会ったシェイマス・ムタオロチは処刑された
神らしきものの教団は、惑星ウルの各国で一斉捜索の末ほとんどの施設は取り潰し、ほとんどは本拠地の有る惑星ギアに撤退した
…この結果、ドースは窮地に立たされた
国家レベルのテロ行為に、ドースとブロッサムが加担してしまったからだ
これを重く見たドースは、すぐに取引を中止し、クレハナ内の教団の活動も禁止した
そして、シグノイアとハカルに謝罪にも出向いた
しかし、クレハナでの批判は免れず、更にムタオロチ家との取引きが中止されて戦力の増強が不可能となった
そして、これが理由でナウカとコクルが手を結ぶ遠因にもなったのだ
現在、ウルラ家はナウカとコクルの連合軍に戦力では負けている状態だ
「やっぱり、ちゃんと資金や物資が回ってないな…。特に、領境にあるこのナオエ家の領地が酷い」
フィーナは、資料にチェックを入れて行く
龍神皇国、正確にはセフィリアが正式にウルラ領のバックについた
これは、龍神皇国がウルラ領を勝たせると決意したという意味だ
本当なら、戦況を見極めて勝ちそうな勢力に加担するのが一番確実だ
だが、セフィリアはフィーナの戻るウルラ家に賭けたのだ
ウルラ家としては願ってもないことだ
勝った後にある程度の発現力を持たれることを加味しても、十分すぎるほどの幸運
龍神皇国の支援を受けられるという、その利益は大きい
これでウルラ家が負ければ、龍神皇国はクレハナへの手立てを一切失うこととなる
そして、その責任は決断したセフィリアが被ることになるのだ
「セフィ姉のためにも負けられない…!」
フィーナは、腕まくりをして資料を精査していく
全面戦争までに、可能な限り国力を回復
戦力を増強して備えなければならない
そして、同時にセフィ姉から任された調査も行わなければいけない
セフィ姉自身も、どうやら独自にクレハナの忍者衆との連携を取っているようだ
クレハナの内情を得ながら、独自に何かを調べている
自分が生まれ育った国、クレハナ
現在は難民が発生し、各地の集落も破壊されて廃墟と化している場所も増えてきている
街には家の無い子供達が溢れ、マフィアが幅を利かせている
少しでも早く、この国の状況を改善したい
フィーナ自身、騎士として働いて来た
ある程度の政治や経済の知識も仕入れて来た
経済のプロであるミィ姉や情報のプロであるオリハに相談しながら、国の内政を改善していく
姫という役職は、民主主義に反する立場だ
民の意思を無視して国を動かすことができる
だが、有事の際は便利な部分もある
それは方針を一気に決められ、動き出しが早いということだ
早さとは国民の利益だ
しかし、その方針が間違っていた場合は損害も大きくなってしまうという危険性を孕んでいる
…自分の決断に責任を持つ
それが、フィーナの姫としての仕事だ
内戦で負けないために
クレハナで頑張って生きている領民を負けさせないために
ラーズまでがクレハナに来たのは予想外だった
そして、龍神皇国のパニン父さんまでもが来てしまった
心配だ
だが仕方がない
…そして、正直に言うと少しだけ嬉しかった
私を心配してきてくれたことが分かるから
血のつながりがないのに、私は本当にオーティル家の一員だった
それが実感できて、少しだけ泣いてしまった
冷静になると心配で仕方がないのだが、それでも初めての慣れない環境で、近くにラーズやお父さんがいてくれると思うとホッとする
頑張ろうって思える
龍神皇国の実家はいつも温かく感じる
クレハナのお父さんには悪いが、ここ、灰鳥城とはえらい違いだ
でも、だからと言ってクレハナの民を見捨てるわけにはいかない
「よし、やるかー!」
フィーナは、また内政状況の資料を見ながらチェックを始める
これからは姫として、フィーナはウルラ領の代表の一人となる
内戦を終わらせるため、そしてウルラを敗戦国にしないために
クレハナの情勢
閑話3 龍神皇国の実家
閑話5 クレハナの実家 参照