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一章~15話 選別五回目

用語説明w

変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある


選別場


土が敷かれた空間で、俺達被検体に敵をあてがって殺し合いをさせる場所



また俺の生き死にを選別される時間だ


くっ…、また頭痛がしてきやがった

体調は相変わらずよくなったり悪くなったり…


これも強制進化による変異の影響か

どちらかというと、殺し合いのプレッシャーの影響の方が大きい気もする



選別場に入ると、いつものようにドアを閉められた


脱出不可能となり、これで殺し合いが終わるまでは外に出られない



…俺の前には、人の形をした石像が立っている


今日はこいつと戦えってことか



「あーあー、聞こえてるな? D03、今日の相手はそいつだ。中古とはいえ、油断しない方がいいぞ」


スピーカーから、どこかで見ているであろう研究者の声が聞こえる



ギギギ…



石像が動き出す

…あの石像はゴーレムだ



ゴーレム


魔力で疑似的な魂を構成し、石像などにインストールする

すると、これを中心として霊子回路や魔力回路が構成されて動きだす


疑似的な魂を使った個体は、人形と呼ばれるカテゴリーに分類され、人形使いという技能があれば制御や性能の引き上げが可能だ

AIや電子回路で構成されるロボットなどは電子情報での制御となるので、ハッカーやクラッカーの分野となる



ゴーレムが拳を握って殴りかかって来る


「うわっ!?」


予想よりもスピードが速い

武器は持っていないが、石の拳ということは石で殴られることと同じだ



ゴーレムは単調に拳を繰り出し続ける


避けられるが、ゴーレムには疲労が無いのが厄介だ

打ち疲れがない


落ち着け


生物を殺す、しかも意味も分からない殺し合いよりも罪悪感は少ない



「…ん?」


ふと、気が付く



いつも、殺し合いの時に起こるアレがない


「…あまり、怖くない」


そう、この選別場では、いつも恐怖に支配される


俺の中で起き上がり、叫び続ける()()()()()()()()()

あいつが巻き散らす恐怖に心が締め付けられ、体がそれに引きずられる


思考が真っ白になり、その後、恐怖に塗りつぶされる

結果、体が強張って何もできなくなってしまうのだ


それは、食堂でシンヤに殴られるときも同じだ



だが、このゴーレム相手にはそれが無い


()()()()()()が起き上がってはいるが、いつものように叫んではいない

いつもの、握り潰されるかのような恐怖がないのだ


正確には、石でぶん殴られ続けているので、殺されるという恐怖はある


だが、それは普通の生物としての恐怖だ

軍での経験がある俺は冷静に動けているし、いつものような過剰な恐怖に襲われてはいない


…そういえば、犬と戦った時も()()()()は暴れなかった



「はぁ…はぁ…」


だが、ひたすら攻撃し続けるゴーレムに対し、こっちの息が上がって来た

休まずに拳を振るい続ける、これは厄介だ

このままじゃ、俺は動けなくなって殺される


そろそろ、パターンは分かった

こっちから攻撃だ



パシッ



ゴーレムの左のパンチをはたく

その、左腕の引きに合わせて…



ゴガッ!


「…っ!?」



いってぇぇぇぇぇっ!?


俺の右拳がゴーレムの石の顔に当たった

だが、とがった鼻が俺の拳に刺さる


鼻は砕けたが、ゴーレムの動きに特に変化はない

ダメージは無さそうだ



くそっ、打撃はダメだ

体が石だけあって固すぎる


ゴーレムが、右のパンチを放ってくる


単調なパンチには慣れた

しかも、このゴーレムはパンチしかしてこない



パンチに合わせて右の前腕を掴む

俺は体を右に回しながら、ゴーレムの腕を引く

同時に、ゴーレムの前腕を捻じり上げる



ギギギ…



脇固めだ

手首を捻じることで、ゴーレムの肩関節を極める


だが、当然痛みを感じないゴーレムは動きを止めない



ビキッ…… ボゴッ!



そして、肩関節が極められている状態だったため、石の関節が耐えられずにヒビが入って砕けた


通常はここで終わりだ

生物の場合は痛みで動けなくなるか、最低でも何かしらの反応がある


だが、ゴーレムの場合は違った

痛みが無い、それは生物とは違うリアクションがあるということだ


肩関節が壊れた瞬間、体が拘束から外れる

ゴーレムが体を反転させて、左腕でアッパー気味に拳を振り上げた



ゴスッ


「かっはっ…!!」



石の拳が俺の右わき腹に突き刺さる

肋骨が砕けた音がする


呼吸が止まる

空気が吸い込めない


俺は、左足で突き出すようにゴーレムを押し出して距離を取る


やられた…!


横隔膜が痙攣して息ができない


「はっ…はぁぁー…!」


無理やり、肺に残っている空気を吐き出す

吸い込めなくても吐き出すことはできる


そして、空気を吐き切ると、少しだけ新しい空気が入って来る

反射で肺が少しだけ空気を吸い込んでくれるのだ


苦しいとき、無理に空気を吸わずに吐き切る

これ、ボディを喰らった時の裏技だ


ゴーレムから距離を取りながら、無理やり呼吸を続ける

空気が入るようになれば、無呼吸と比べて格段に回復が早くなる



ゴーレムが、残った左腕でのパンチ


躱す


躱す



「はっ…はぁ…」


スタミナが削られる

余力がない


もう少し回復したら、勝負を決めないとまずい



躱す


捌く


はたく


粘る、粘れ、諦めるな、集中しろ!



だめだ、淡々と攻撃され続けると、こっちの心のスタミナが削られていく


相手が疲れてくれば、こっちは希望が持てる

だが逆に、こっちが疲れてきても相手が元気だと、心が折れてきてしまう


疲労とは、それだけ()()()()()()



「…はぁ…はぁ…、よし、行ける」


ある程度呼吸は戻った



もうぎりぎりだ、これで決める!



ゴーレムの左のパンチ


タイミングもモーションも覚えた!


頭を振って躱すと、頭でゴーレムの左腕を押す

そして、右フックを()()()()()()()()に叩き込む



ゴガッ!



狙い通り、可動部である関節は強度が低かった

ゴーレムの左肘が砕ける


よし!

これで、ゴーレムの攻撃方法は潰した


あとはゆっくり壊すだけ…



ドスッ!


「…がっ!?」



腹に熱い衝撃

見ると、ゴーレムの砕けた左ひじが刺さっていた


砕けた際に、少し尖った形になっていたようだ

そして、相も変わらずゴーレムは砕けた腕で淡々と攻撃を続けて来る


刺さった肘を引き抜かれ、一気に出血

ドバドバと鮮血が吹き出して地面を染める


まずい、思ったよりも傷が深い…!



ゴーレムは、引き抜いたとがった肘をまた刺してくる

だが、砕けた腕は短く、ちゃんと見ていればそう簡単に刺さるはずもない


それよりも出血だ


早く止めないと


回復薬を…


俺が後ろの扉を見るが、当然のように開く気配はない

相手を殺さないとここを出られない



「うっ…」


腹から体温がこぼれ落ちていくようだ



くそっ…、このままじゃ失血死だ


ふざけるな


こんなところで…!



ゴッ!


俺は、ゴーレムに殴りかかる



追い詰められているのが分かる

焦りがある



早く


早く壊れろ


死んでくれ



固い、だがそんなこと言ってられない

俺の拳の皮が破れ、血が滴っている


それでもかまわず殴り続ける



ゴッ!


ゴガッ!


ガッ!



死んでたまるか!


死にたくない!



…引っ張られる


殺意に、そして戦いに


高揚感を感じながら、目の前のゴーレムを壊すことだけに集中していく



拳を振るいながら、いつしか穴が空いた腹や皮膚が破れた拳の痛みを忘れていく


周囲が白い光に包まれていく…


何も分からなくなる…


俺に脳裏にただ一つ残ったもの

それは、()()()()()()、という意思だけだった



ゴガァッ!


「…っ!?」



凄い音がして、はっと我に返る

目の前には、頭が砕けたゴーレム


俺は、マウントポジションになって殴り続けていたらしい

そして、気がついたら俺は手刀を作ってゴーレムの頭に突き入れていた

その衝撃でゴーレムの頭が吹き飛んだらいい


な、何が起こった…!?


素手でゴーレムの石の頭を吹き飛ばしただと!

どんな力で殴ったんだ…?


どうやって…?



そして、もう一つ

選別場に入る時に襲われていた頭痛が、治まっている


…今までもそうだった

この殺し合いをすると、なぜか頭痛が治まる


いったい…






別室


選別場のモニターを見ながら白衣の研究者が話している


「腹部の出血が止まってるな。だが、さすがに重症だ、すぐに治療させろ」


「…主任、精力(じんりょく)の発動を感知しました。サイキックです」


「ゴーレムの頭を吹き飛ばした、あの手刀か?」


「はい、おそらくそうですね。テレキネシスのエネルギーを集中させて指先で開放したようです」


「…こいつは、もう少し選別の難易度を上げてみるか」




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― 新着の感想 ―
[一言] 暴走状態になったラーズのせいでどんどん難易度が高くなってくww 今回はサイコキネシスも使うとか暴走状態のラーズは本能的なので使い方が分かるのかな?それと今回傷が回復するまで意識があるんだね
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