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六章 ~14話 ミィの依頼

用語説明w

ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能


ヤエ:マキ組の下忍、ノーマンの女性。潜入に特化した忍びで戦闘力は低い。回復魔法を使うため医療担当も兼務

ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象



少し黄色っぽい煙が俺の方向に流れてくる


ツーンと鼻につく刺激臭

…この煙はヤバいやつだ



現代の戦闘は、一昔前の戦闘とはかなり違う

科学技術も魔導法学技術も進歩はしているが、そういう意味での違いではない


では、何が違うのか

それは、それぞれの技術の使い所だ



「ぐあぁぁぁぁっ!?」


ホバーブーツで距離を取ろうとするが、敵兵の生き残りの弾幕がこっちに向く

そうこうしている内に、煙がこの一帯を覆ってしまった


叫び声が響く

俺も含めて、煙に巻かれた者全ての叫び声だ



肌が焼ける


目が染みて開けられない


鼻腔の粘膜が焼ける


まずい、吸い込んだら動けなくなるぞ!



「ご主人! 回復薬を被って! おそらく毒ガスだよ! 症状的にマスタードガスの可能性が高いよ!」


データが倉デバイスを操作して回復薬をロード、同時にアバターで俺の肌の状態を観察、同じ症状を検索してガスを特定する



「フォウル、ガスの上に出ろ! リィは霊体化して勾玉に戻れ!」

使役対象達を守りながら、回復薬を被って脱出


すでに敵兵たちの弾幕も止んでいた



現代の戦闘、それはすなわち、科学と魔導法学の融合だ

今回のように、人工的に合成されたマスタードガスを、風属性で操って任意の方向に流す


どうやら、俺とルイのゲリラ戦闘を重く見て範囲殲滅を選択したらしい

風魔法を使った魔導士をルイが狙撃したが、一度ガスが勢いを持ったらもう止められなかった


科学の産物である物質やエネルギーを、物理法則を操る魔導法学を使って制御する技術

これは、近年急速に発達した、まさに現代の戦闘だ


俺がいたシグノイアには、この魔法科学の最たる兵器である「風魔法誘導加速中性粒子ビーム砲」とい兵器があった

加速器と風魔法をつかったビーム砲であり、Aランクのドラゴンでさえ倒すことを可能とした火力を持つ


あの時、兵器とドラゴンの爆発に巻き込まれないように走り続けたのが懐かしいな

一歩間違えたら死んでいた



マスタードガスに巻き込まれた敵兵も撤退

ルイが救援要請をしてくれ、俺とルイの救護班が来てくれた


…来てくれたのは三人、全員が忍者のようだった


一人は回復魔法を使う男で、俺の症状を見て鎧を脱がし、何かの液体をかける

他の二人と協力して俺を運び出してくれた


俺は、マキ組の忍者しか見たことが無かった

マキ組長は別格としても、斥候としての能力としてはそうそう負けないという自負があった


だが、やはり本職の忍者は凄い


気配の消し方、短時間での情報の把握、敵兵の発見速度

抵抗を試みた敵兵の動きを止め、一瞬で拘束、捕虜とした


俺には、こいつらの術が分からなかった

なぜ、敵兵が動きを止めたのかが分からなかった


…こいつらと戦場で敵として会ったら、何があるか分からない

そう考えると、背中がぞくりとした


五遁のジライヤ…、奴は忍者の最高峰だとか言っていた

借りを返そう思っていたが、予想以上にでっかい壁なのかもしれない




・・・・・・




ウルラの軍事病院で治療を受け、その日のうちにマキ組の拠点に帰って来れた


マスタードガスは化学物質であり、疎水性で水では洗い流すことが難しい

その為、あの医療担当の忍者が油で洗浄してくれたのだ


放っておくと、体内に浸透してたんぱく質などと化合してしまう

変異体の代謝とナノマシン群の活躍により、体外への排出を促進、更に医療担当の処置も適切だったことで皮膚や気管支のただれも少なかった


しかし、ダメージは大きく、体内でナノマシン群が騒ぎまくって動きまくっているのが分かる


…毒ガスは初体験だった


知らないとは危険なことだ

煙が見えた時点で危険を感じ、動き出さなければ間に合わなかった



「今回の戦果はかなりのものであったと評価されました。数日はゆっくりして、しっかり体を治して下さい」

マキ組長にはそう言われた


だが、次の日には、マキ組長とルイ、コウが傭兵として出かけて行った

クレハナでは、戦争は常に起こっている


俺はナノマシン群の素材溶液をがぶ飲みする

毎回そうなのだが、ナノマシンシステムの基本機能である、治癒力の向上

…この機能に何度も俺は命を救われている


今回も危なかった、正直死ぬかと思った



「ラーズ、ちゃんと大人しくしていてね?」

「町に買い出しに行ってくる」


「ああ、分かってるよ」


ヤエとジョゼが車で出かけて行き、俺は一人で廃校に残った


身体が動かせないなら、やれることをやろう

俺はこう見えて、結構忙しいのだ


座禅を組む


そして、右腕に付けた腕輪に意識を向ける


これは二―ベルングの腕輪

そう、動けないなら感覚の訓練、装具の修行だ


腕輪に精力(じんりょく)をゆっくりと込めていく


精力(じんりょく)が何かに押し返されて、抵抗を受ける

この抵抗に意識を向けて行く


この抵抗が、俺の体から発散され、腕輪が溜め込んでいる霊力と氣力


この抵抗に意識を集中


気を付けて、注意深く感覚を探ると、なんとなく二種類の抵抗を受ける


一定じゃない、何か、違いがある


精神の力である精力(じんりょく)と、霊力、氣力は別の力


干渉の仕方も別のはずだ


これを続けて、霊力と氣力のアンテナを伸ばしていく…



しばらくすると、車の音が聞こえた

ヤエとジョゼが帰ってきたようだ


俺は訓練を止めて、玄関の方に向かう

買い物を頼んでしまったため、せめて出迎えようと…


「あ、ラーズ!」


「え、ミィ!?」


スライムを肩に乗せた、龍神皇国の女性騎士が立っていた




「マキ組長は、戦場に出ちゃってるんですよ」

戻ってきたヤエがミィにお茶を入れる


「そうなんですか。すみません、アポも無しに来ちゃって…」

ミィが頭を下げる


「いえいえ、いつもうちの組は融通を聞いてもらっていますから」


「では、この資料をマキ組長に渡しておいてもらっていいですか?」


「はい、お預かりしますね」


そう言って、ミィが龍神皇国騎士団の印が押された封筒をヤエに渡した


「それじゃ、ごゆっくり」

そう言って、ヤエは出て行く



俺とミィは、元校長室であろうソファーがある部屋に通されていた

応接室として使っているようだ


「びっくりしたよ。急にどうしたんだ?」


「フィーナとの打ち合わせで来たの。ついでに、ラーズにも会っておこうと思って」


「ヤマトとは会ったのか?」


「戦場に出てるって。こんな情勢じゃ仕方ないわね。ラーズと会えただけでも運が良かったわ」


…本当に、内戦が激化し続けている

戦闘が行われない日が無いくらいだ


「それで、ラーズに会いに来た理由は、真実の眼についてよ」



発掘の調査結果


皇国のファブル地区、マイケルさんの土地で発見された遺跡の再発掘が終わった

そして、改めて壁画が地図であり、何かを示していることが分かった


「壁画の示している、詳細な地点を特定しただと…!?」


「ええ、クレハナのウルラ領。東側の領境に近い場所らしいわ」


「領境が近いって、戦争真っただ中じゃないか」


「…一応、フィーナとドース様に発掘の許可をお願いして来たわ。そして、さっきヤエさんに渡した書類が、マキ組への協力依頼よ」


「マキ組の?」


「そう。発掘の許可が下りたら、マキ組にも手伝って欲しいの。そうすれば、事情を知っているラーズも発掘現場に行けるから」


「…分かった、マキ組長に俺からも頼んでみるよ」


「金に糸目は付けないわ」


「そんなに金が用意できたのか?」


「あるところにはあるのよ。神らしきものの教団に対しては、反感を持っている団体が多くある」


「まぁ、それはそうだよな」


神らしきものの教団は、世界を滅ぼしかけた神らしきものに世界を委ねるべきと考えている

つまり、世界は滅べばいいと言っているのだ


壮大な自殺願望に、テロに近い方法を用いるため、当然に敵は多い

もちろん、俺もその敵の一人だ


「特に宗教団体から敵視されていてね、バルドル教から支援をとりつけたのよ」


「バルドル教?」


バルドル教とは、異世界イグドラシルの交易と共に入って来た宗教だ

特定の神を奉る一神教で、そこはペアの宗教とあまり変わらない


「ええ、真実の眼の未発見の遺跡があるならば学術的にも価値がある。神らしきものの教団が何を狙っていたのかを暴ければ、バルドル教の支援によって成し遂げたと宣伝する約束よ」


「ほぉ…、なんか、斜め上の方向から金を集めたな」


「お金は信用を物質化したものよ。出所なんかどうでもいいわ」


「騎士のくせに反社会的なことを簡単に言うよな…」


「何言ってるの。正直、まだ全然資金が足りていないよの? ドースさんも発掘の許可を渋っているし、フィーナもまだ許可を出せる立場でもない。私の方からかなり資金や物資をばらまかないと、許可が下りそうもないんだから」


「そ、そうなのか…。やっぱり、領境って場所が悪いのかな?」


「そんなことより、自分の役割をちゃんと果たしてよね。現地の調査、頼んだわよ」


ミィは、帰りの飛行機の時間があるらしく慌てて帰って行った

忙しい奴だな



バルドル教 一章~29話 シンヤとの決着1


次は閑話です

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