六章 ~13話 爆弾と狙撃
用語説明w
自己生成爆弾:宇宙技術を使った四種類の爆弾の超小規模生産工場。材料とエネルギーを確保できれば、使用後に勝手に新しい爆弾を生成してくれる。
ウンディーネ…粘着性のあるゲル状爆弾
サラマンダー…液体燃料型焼夷弾
ジン…蜂のような羽根で跳ぶ小型ミサイル
ノーム…転がることである程度の追尾性を持つ球形手榴弾
ルイ:マキ組の下忍、赤髪の獣人男性。スナイパー技能に長けている
「起床ーーーー!」
早朝、人工的な大声で叩き起こされる
ボイス風アラームのようだ
「な、何だよ!?」
「…緊急招集だ。おそらく傭兵をかき集めてるんだろ」
慣れているのか、ルイがさらっと答えた
「…ここから近い、ツイクの地域で大規模な戦闘が起こっています。マキ組への出撃要請が来ました」
マキ組長が着替えながら言う
普通に下着が見えているのだが、誰も気にしていない
そういうもんなの?
忍者の常識?
クレハナの常識?
俺達は携帯食料を齧りながら準備、すぐに車に乗って戦場へと向かった
今日は、俺とルイが組み、マキ組長とコウ、ジョゼが組むらしい
ヤエは後方で医療班として従事するとのこと
六人しかいないマキ組が総動員か
クレハナの戦闘の多さと切羽詰まった状況が伝わって来るかのようだな
俺達が配置についた場所は山林だった
クレハナは森と低山が多く、ウルラとナウカ・コクル連合との領境も森となっている場所が多い
戦場は、ほぼ森の中で行われると思った方がよさそうだ
現場本部に声をかけて進行ルートを確認
俺達は領境を越えてナウカ領に入り込み、敵部隊の背後又は横っ腹を突く作戦となった
「…ここから戦場を抜けてろって言うのかよ!?」
「マキ組に与えられる任務は、いつもこういう無茶ばかりさ。だが、忍びの任務は斥候がメインだ、俺達にしかできない」
ルイが言う
確かに、背後を取って敵を混乱させられれば効果的だが、かなりの高難易度ミッションだぞ?
だが、文句を言っても仕方がない
俺達はすぐに出発した
「データ、アバターで周囲の警戒を。リィ、俺から離れずに霊体化しろ」
「ご主人、分かったよ!」「ヒャンッ!」
データとリィに索敵の補助をさせ、俺達は徒歩で山越えを行う
こういう時、探知魔法やタルヤのやっていたサイキックでの索敵が欲しくなる
ドラゴンタイプの俺には、五感に頼るしか索敵の方法が無い
「ラーズ。マキ組長が認めた中忍の実力、期待してるぜ!」
かなり早いペースで進んでいるのだが、ルイは普通についてくる
さすが忍者だけある
先の方から人の気配
リィとデータも気が付いたようだ
「どうした?」
速度を緩めた俺に、ルイが聞いてくる
「…おそらく敵兵だ、少ないからここでやるぞ」
「え? …了解」
ルイが、肩にかけていたマークスマンライフルを下ろす
マークスマンライフルとは、アサルトライフルの中でも飛距離に特化した銃だ
スナイパーライフルほど飛距離も精度も出ないが、セミオートマチック式であり連射も可能
スナイプも可能な歩兵と言ったところだろうか
進んで行くと、気配を完全に捉える
「人数は四、囮に襲わせている間に仕留めてくれ」
「お、囮?」
俺は黒竜の牙を使って竜牙兵を呼び出す
目の前に、幽界から骨の体を構成する
ルイが驚いているが、説明は後だ
「竜牙兵、頼んだ」
大回りで敵兵の後ろに回り込む
その音で敵兵が戦闘態勢を取る
…その方向は、俺達から見て真後ろ方向だ
ドガガガガッ!
ダダダダッ!
「…っ!」
「ぁっ…!」
「ぎゃっ…!!」
俺の陸戦銃とルイのマークスマンライフルが火を噴き、四人を背中から撃ち抜いた
ドンッ!
「…」
ルイが、無言でまだ息の有った敵兵を撃ち抜く
そして、俺を見て先を促した
更に進む
しばらくすると山の尾根に出た
データのドローンを飛ばして、上空から戦場を確認
同様に、複数のドローンや飛行型ゴーレムなどが監視のために空を飛んでいる
その監視に引っかからないようにしなければならない
・・・・・・
「はぁ…はぁ…」
約ニ十キロメートルの山道を越えて、目標ポイントに着いた
ルイが回復薬をがぶ飲みしてスタミナを回復している
「…ルイ、大丈夫か?」
「ああ、何とかな…。ラーズはさすがだな」
「俺は変異体だからな。それに、持久力は元からあった方だ」
俺達は、これから敵の部隊の背後から奇襲をかける
まず、ルイがスナイパーとして高台から狙う
そして、その高台までの道のりを俺が守る
事前に、トラップを仕掛けまくり呼び込む形を取って時間を稼ぐ
その間に、本体が大打撃を与えてくれるはずだ
「これが俺の忍術だ」
そう言って、ルイが迷彩色の布を被って腹ばいになる
「スナイパーが姿を隠す時によくやる奴だろ?」
「姿を隠すのは忍術の基本だ。誰でも出来ると言われようが、身を隠す隠れ身の術が俺の忍術さ。 それに、俺はこの薬を使っている」
ルイがカプセルの錠剤を取り出した
「何の薬だ?」
「スナイパー用の特性薬だ。覚せい剤に近い効能で、短時間だが集中力を上げられる。服用頻度を守れば副作用も少ない」
「…大丈夫なのか?」
「ウルラが勝てば、飲むのを止めるよ」
そう言って、ルイは笑った
よし、準備完了
俺は本部に作戦開始を伝える
データのドローンでの観測では、敵はざっと見だが一個小隊規模、三十人前後のようだ
厄介なのは、MEB一体、戦車一台か
まずはお決まり、ロケットランチャーだ
ボシューーーーーーッ
ドッガァァァァァン!
戦車が大破
撃った瞬間には、ホバーブーツで思いっきり移動して森の中に身を隠す
この奇襲で大火力の戦車を破壊できなかった場合、俺達の生存率は死ぬほど下がることになる
ある意味、一番大事な攻撃だ
ドガガガガガッ!
ガガガガガッ!
弾幕がこっちに向く
いいぞ、こっちに来い
宇宙産、自己生成爆弾を使ってのトラップ地帯だ
ここで一人ずつ削って行く
俺は、ヴァヴェルの魔属性効果、認識阻害効果で身を隠す
ドッガァァァァン!
「うおっ!?」
「気を付けろ、トラップだ!」
ゴッガァァァァン!
ッガァァァァン!
いくつかの爆発が巻き起こる
俺が使った自己生成爆弾、今回はウンディーネだ
カプセルに入った粘液のような爆弾で、粘着性と粘性を持っている
そのため、木と木の間に伸ばして貼り付ければ、触れた瞬間に爆発するお手軽トラップが作れるのだ
ドガガガガッ!
敵兵の姿を確認、三人を仕留めて移動
「くそっ、やられたぞ!」
「何人だ!?」
「姿を捉えられない!」
ダァーーーーン!
更に、ルイの狙撃音が響いている
「ご主人! 敵のドローンに見つかったよ!」
データの報告
くそっ、姿を捉えられたか
俺は自己生成爆弾を取り出す
次に使うのはノームだ
「敵兵四人が接近! 一人は魔導士だよ!」
データが自分のドローンで敵を捉えた
「了解だ」
俺はタイミングを見計らってノームを転がす
ノームはハンドグレネードなのだが、ボールのような球形をしているのが特徴だ
その理由は転がること
データがドローンカメラでロックオンし、その対象に向って転がって行く
地面限定のホーミング機能だ
「……な、なん…」
ドッガァァァァァン!
ドッゴォォォン!
向って来た敵兵が爆発に巻き込まれる
その後ろで、攻撃魔法の詠唱に入っていた魔導士をヘッドショット
よし、クリアだ
俺は、更に先に進む
戦線がかなり下がって来ている
俺達の陽動が効いているようで、ウルラが押し返しているようだ
「…ちっ、来たか」
木を倒しながら、MEBが向かってくる
ドンドンドンッ!
「うおぉぉっ!?」
MEBの肩に装着された、四つのロケットランチャーが発射
俺に向って飛んで来る
くそっ、俺の位置に当たりを付けていたか
ボッ!
エアジェットで木々の間を抜ける
だが、俺にロックオンしたロケット弾が方向を変えて来やがった
甘い!
行け、ジン!
フィーーン!
フィーーーーン!
フィーーーーーーン!
三発の、蜂のような誘導弾タイプの爆弾がロケット弾に突っ込んで行く
ゴッガァァァァン!
三つとも誘爆
ジンの誘導性能は大したもんだ!
助かったぜ!!
次はMEBだ
でっかいバトルライフルを構えたMEBが迫っている
ノームを転がしながらエアジェット、同時に飛行能力発動
高速立体機動開始だ
バララララララッ!
大口径のMEB用バトルライフルが火を噴く
木々の間を動き回って姿を捉えさせない
ゴガァッ!
一発のノームがMEBの足に着弾、体勢を崩す
流星錘アームで錘を木の幹に射出、無理やりブレーキをかけながら引き寄せの魔法弾をMEBに打ち込む
そして、サードハンドでウンディーネを保持する
ビョッォォォンッ!
引き寄せの力で急接近、飛行能力を真下方向へ
地面に会えて突っ込み、受け身の回転
ビチャッ!
同時に、ウンディーネの粘着爆弾をMEBの股間に貼り付ける
その勢いのまま、MEBの股を潜って真後ろへ抜ける
ドッガァァァァン!
ウンディーネの爆発がMEBの股関節を破壊、バランスを崩して倒れ込む
俺は陸戦銃で後ろからコックピットを撃ち抜いた
その瞬間…
「ラーズ、危ない!」
インカムでルイが叫んだ
ブオォォォッ!
少し離れた場所で、少し黄色かかった煙が立ち上がる
ダーーーーンッ!
ルイの狙撃であろう音が響く
「ラーズ、逃げろ!」
ルイが叫ぶ
…黄色い煙がこちらに迫っていた




