六章 ~12話 クレハナでのフィーナ
用語説明w
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
フィーナ:ラーズと同い年になった恋人でクレハナの姫として復帰した。龍神皇国の魔法に特化した騎士であり、宇宙戦艦宵闇の城をオーバーラップした
その後、森で待ち構える形での狙撃
戦車を破壊したことでウルラ軍の巻き返し、そして障害物が多い森で待ち構える有利な陣形が幸いして敵部隊を撤退に追い込んだ
森の前には十人近くの歩兵の死体
廃村には、ウルラとコクル、両軍共にかなりの被害が出ていた
「…」
コウが、無言で何かを拾う
「それは?」
「女の子の人形だ。少し前まで、この村で生活していた人がいたんだ」
「内戦の影響か…」
「全軍の衝突が間もなく起こる。領境付近の村は、みんな疎開して廃村になってしまっているよ」
戦争が巻き散らすもの、それは兵隊の被害だけではない
何人もの住人が生活の場を失う、難民という立場に追いやられるのだ
作戦は終了し、俺達は帰還を命令された
「さすがに疲れたな…」
マキ組の廃校に戻って来る
「あ、マキ組長たちはもう戻ってきているな」
コウが指す方向に、マキ組長たちの車が停車していた
タイミングよく校舎からヤエが出て来る
「あれ、ヤエ。出かけるのか?」
「そうよ。情報収集の任務が入ったから行ってくるわ」
ばっちりメイク、ピンクの口紅、モリモリまつ毛
今日のヤエはビッチ…、いや、お水方向に寄ったメイクだ
「今日はやる気だな」
コウが、ヤエの後姿を見送る
「何を?」
「男を堕とすってことさ。骨抜きに成功すれば、いい情報がガンガン手に入るからな」
「…女って怖い」
普通に、魅力的に思えてしまった
女性の魅力には、抗えないパワーがある
・・・・・・
マキ組長が突然休みをくれた
「急にモンスターハンターから傭兵への二連戦となってしまいました。代わりに、今日は休みにしてください」
「休みですか…」
「精神的なリフレッシュは、戦場において重要な要素です。心を壊さないようにしっかりと休息を取るように」
ダメもとでフィーナに連絡を取ったら、お忍びで会ってくれることになった
え、お姫様が会ってくれるの?
俺は、ウルラ領で一番栄えているという、新・ジュクカキブの町へとやって来た
待ち合わせ場所の喫茶店で待っていると、ブランケットを頭から被って上半身に巻いている艶めく黒髪の女性が入って来る
顔が見えにくいが、真紅の目が目立っている
「ラーズ、お待たせ」
「…本当に来たんだな」
「自分から呼んだくせに」
「ダメもとだったんだよ。本当に会えると期待してなかった」
「今日は運が良かったんだけどね」
フィーナと俺はミルクティー注文する
うむ、甘くておいしい
「どうなの、忍者の里は? 危ないことはしてない?」
「普通に傭兵やモンスターハンターって感じだな。フウマの里のマキ組っていう小さい組に所属したよ」
「傭兵って…、戦争に参加してるってこと?」
フィーナが驚く
「まだ、一回しか参加してないから分からないけど、ウルラもナウカも傭兵は多かったみたいだぞ。忍者って斥候とか諜報専門だっていう印象を持っていたけど、普通に戦闘にも参加しているな」
「そう…」
フィーナが下を向く
「…姫様としての仕事はどうなんだよ?」
「うん…、国のよくないことばかり聞くから嫌になってきたよ…」
フィーナのため息
クレハナの現状は甘くない
内戦の影響で、戦場となっている範囲が領境からどんどん広がっている
領境に近い村は疎開を迫られ、難民が増えて生産力が落ちてしまう
更に、長引いている内戦、迫っている衝突に向けて物資をかき集めているため、領民への物資の枯渇が始まってきている
「現状、勝敗の見通しはどうなんだ?」
「…五分五分だと思う。戦力はナウカとコクルの連合に負けているんだけど、物資は龍神皇国から支援を受けているウルラが勝っているから」
「そうか…」
「戦闘ってどうだったの?」
「酷かったな。俺が参加した戦闘だけで、ニ、三十人は兵士が死んだ。急造って感じの部隊に攻撃魔法や兵器を持たせた感じで、補助魔法を使える者がお互いに少ない。火力での殺し合いで、自衛能力が育っていない感じだった」
「そう…」
「ただ、指揮官は優秀だったと思う。戦力を分散させて上手く包囲できたおかげで、敵を撤退に持ち込めたからな」
「…」
フィーナの表情が沈む
戦場は、相変わらず酷い所だった
俺がシグノイアの防衛軍だったころは、戦場と言えばモンスターを狩る場所だった
モンスターと戦う場所を戦場と呼んでいたのだ
だが、第二次シグノイア・ハカル戦争が始まって、軍隊対軍隊の、本当の戦場が出来上がった
対人戦闘、特にCランク以下の兵士による戦場は、簡単に人が死んでいく
撃たれれば死に、魔法に巻き込まれれば死ぬ
ここクレハナには、そんな当たり前の戦場が至る場所にあるのだ
俺とフィーナは、街に出る
「町の感じはシグノイアや皇国と変わらないよな」
「でも、物資が不足してきているから、これからどうなるか分からないよ?」
フィーナと買い食いをしながら町を歩く
よく見ると、映画館は閉鎖中、飲食店もメニューが削られていて、内戦の影響が垣間見える
それでも、町を歩く人たちには活気があった
「ウルラの人達は、早く内戦が終わってクレハナを元の穏やかな国にしたいっていう意志があるの」
「それはいいな」
国民の活気が国を作る
それは、どんな時も変わらない
「でも、そのためにウルラの力でナウカとコクルを潰すって言うのも、私は正しいとは思えない」
「フィーナ…」
「…それでも、ウルラの人達を敗戦国にしたくない」
フィーナは、ずっとクレハナを離れていた
クレハナを嫌っていると思っていた
だが、クレハナに戻ったことで、クレハナと接したことで分かったことがあるのだろう
以前とは違う目でクレハナを見ている気がする
「騎士学園の頃さ、俺もフィーナについてクレハナに行ったことがあったよな」
「あったね、懐かしい」
「クレハナに戻ったら、本当にフィーナがお姫様になってて焦った気がするよ」
「…信じてなかったの?」
「いや、クレハナの人達と話す時、言葉遣いまで変わるしさ。仕草とかも騎士学園でやってたダラッとした感じじゃなくなるしさ、なんか違うって…」
「私、そんなにダラッとしてなかったよ!?」
夏休みの長期休暇に、フィーナの実家にお邪魔してみたことがあった
外国に行ったのは、家族旅行や騎士学園を除けば初めてだった
そして、ドースさんの迫力や、周りのお手伝いさんにめっちゃ緊張したことを覚えている
…フィーナの息の詰まりそうな生活が少しだけ理解できた
「…っ!?」
突然の気配に、俺は臨戦体勢で振り返る
そこには、フードを目深にかぶった一人の男が近づいてきていた
こ、この距離まで接近を許しただと!?
マキ組長といい、この国はいったいどうなってるんだ!
「フィーナ姫」
「…ジライヤ!?」
「…無断で城を抜け出すのは感心せんぞ」
「…」
どうやら、フィーナを連れ戻しに来たようだ
いや、フィーナ!
お姫様が無断外出かよ!?
「わざわざ、あなたが迎えに来たの?」
「…安心しろ、城の者には黙っておいた。だが、そろそろ戻らないとばれてしまうのでな」
「…ふん!」
フィーナが、そっぽを向いて俺に言う
「ごめん、ラーズ。そろそろ戻ろなくちゃ」
「ああ、仕方ないさ。会えてよかったよ」
「うん…。ラーズ、無茶しちゃダメだよ? 怪我しないようにね?」
「分かってるって。フィーナも無理しないように」
「うん…」
そう言って、フィーナが帰って行く
寂しいな…、だが、仕方がないか
会えただけでも嬉しかった
帰り際に、ジライヤと呼ばれた男が近づいて来た
「…ラーズとやら、立場をわきまえろ」
「え?」
「今回はフィーナ姫に免じて見逃す。…次は、王族の誘拐罪としてお前を拘束するからな」
「…」
「…次は、岩をぶつけるだけじゃ済まさんぞ」
そう言って、ジライヤはフィーナの後を追って行く
…顔も見せずに偉そうなこと言いやがって
何なんだ、あいつは
ん?
いや、待てよ?
「…何だと?」
岩をぶつけるって、まさかあの空港で襲って来た光学迷彩野郎か!?
なんであいつがフィーナと!?
…あいつは強かった
幻術で完全に死に体にされたし、体術や特技もかなりのものだった
あいつには、まだ勝てないかもしれない
よし、とりあえず、マキ組長と修行しよう
そして、いつかぶっ飛ばす
俺は心に決めた
…後で聞いたが、奴の名は五遁のジライヤ
闘氣を使うBランクで、最強の忍者と呼ばれていた男だった
光学迷彩野郎 六章 ~6話 クレハナへ到着