六章 ~11話 初の戦場
用語説明w
自己生成爆弾:宇宙技術を使った四種類の爆弾の超小規模生産工場。材料とエネルギーを確保できれば、使用後に勝手に新しい爆弾を生成してくれる。ウンディーネ…粘着性のあるゲル状爆弾、サラマンダー…液体型焼夷弾、ジン…蜂のような羽根で跳ぶ小型ミサイル、ノーム…転がることである程度の追尾性を持つ球形手榴弾
コウ:マキ組の下忍、青髪の魚人男性。補助魔法である防御魔法、そして銃を使う
車でマキ組の拠点である廃校に戻る途中
「中忍って何ですか?」
俺はマキ組長に尋ねる
「中忍とは…」
マキ組長が説明を始める
忍者組織には階級制度が導入されている
各里のトップを首領といい、フウマの里の首領はフウマ首領と呼ばれる
そして、その下が上忍と呼ばれる階級となる
上忍とは、自分の組を持つことを許される実力を持った忍びだ
マキ組長がその上忍であり、自分の組であるマキ組を持っている
そして、その組を構成するのが中忍と下忍だ
下忍とは単純な組の構成員を指し、中忍とはその下忍を指揮する立場の者を示す
戦場での命令権や技術の指導など、中間管理職的な立場ということだ
「いや、来たばっかの俺が中忍とかないでしょ!」
「ラーズさんは私と同類です。その実力は下忍の域をはるかに超えています」
涼しい顔でマキ組長が言う
「同類って何ですか?」
「武の呼吸、つまり、殺気や挙動から相手の攻撃の気配を感じ取る能力を持っています。…パーティを必要としないタイプですね」
「え…」
「敵の攻撃が当たらないなら、攻撃を躱せるならパーティなんて要らない。…ラーズさんは、単体攻撃のみのBランクモンスターくらいなら勝てるんじゃないですか?」
「…」
確かに、この武の呼吸を理解してから、俺の実力は跳ね上がった
それは、Bランクモンスターをジャイアントキリングして見せたほどだ
そして、それは変異体の身体能力が凄いからではない
スタミナの恩恵はあれど、筋力でBランクモンスターは倒せない
一番の理由は、モンスターの動きを高確率で見極められるからだ
「攻撃に被弾するから、人はパーティを組む。攻撃、回復や防御をバランスよく組んで総合力を上げる必要がある」
「はい…」
パーティとは、個人の弱さを補うという意味合い大きい
「私たちにとっては、同じBランクでもモンスターより戦闘員の方が厄介です。…闘氣というバリアがあると、ダメージを与える手段が限られますから」
「まぁ、そうですね」
「逆に言えば、火力さえあれば普通のBランク程度なら勝てる。あなたの大剣や、私のように」
「マキ組長も、闘氣にダメージを与える方法を持っているんですね?」
「…それほどの技量を持っていて、更に軍での経験がある。その力で、戦場であの子達が死なないように見てあげて欲しいのです」
「はぁ…」
あれ、はぐらかされた?
・・・・・・
廃校に戻ると、コウとルイが校庭で待っていた
「二人とも、どうしました?」
「今、ジョゼが交渉しているんですが、出撃の要請です」
出撃の要請とは、その名の通り戦場への依頼
傭兵として戦場に出ろと言うことだ
「分かりました。…コウ、ルイ、本日をもってラーズを中忍に任命しました。指揮下に入って下さい」
「えぇっ、ラーズを!?」
「了解しました!」
コウとルイが驚いている
そりゃそうだよな
結局、今回の出撃要請を受けることになった
マキ組長とコウ、ルイ、そして俺の四人で参戦する
二つの班で別れて、俺はコウと組むことになった
「ラーズ、よろしくな。いきなり中忍って凄いじゃないか。…って、なんだよその傷!?」
「ちょっと、木のモンスターと殴り合ったんだ」
俺はコウに運転を任せ、怪我にカプセルワームを貼ってく
そして、補充して来た回復薬とナノマシン群の素材溶液をがぶ飲み
傷を塞いでおかないと、さすがに戦場は怖い
初のクレハナの戦場か、少し緊張するな
「今回は小規模な戦場みたいだ。ただ、戦場が広範囲なため、傭兵を集めてるんだって」
コウが言う
「そっか、それぞれの部隊が戦闘を始める感じか」
「俺達は忍びだから斥候が主な任務になる。極力戦闘は避けて、本体に情報を送る感じかな」
「ああ、分かった。敵を撃破した場合は何かメリットがあるのか?」
「もちろん、活躍すればそれだけ報酬は出るよ」
指定された場所に行くと、軍用のテントが張られていた
コウが中に入って話を聞いてきてくれる
しばらくすると、コウが出て来た
「北西方向に小さな廃村があるらしい。そこに駐留している部隊と合流しろだってさ」
「オッケー、行こう」
約五キロの山道を歩くことになった
モンスター退治に引き続いてはきついが、内戦が起こっているのだから仕方がない
コウはさすがに忍者だけあって、軽い足取りで山道を進んでいく
「コウ、俺の使役対象達だから覚えておいてくれ」
フォウルとリィ、データ2と竜牙兵をもう一度見せておく
「スゲーな、ラーズ。使役対象が四体もいるってさ」
「幸運なことに、気が付いたら増えてたんだよ」
味方の誤射を防ぐために、顔は見せておかないとな
「普通は外部稼働ユニット買うとかしか使役対象軟化手に入らないのに…」
コウが感心している
俺達は、山道を黙々と歩いて行く
…実は、俺は今回の戦闘で期待していることが二つある
一つは、コウの忍術を見ること
忍術がどんな技なのか、ずっと気になってたんだよな
秘密にする意味は分かるが、やっぱり興味がある
そして、もう一つが俺の宇宙兵器の実戦デビューだ
四種類の自己生成爆弾、これの使い勝手を試してみたかったのだ
戦場でデビューというのも危険だが、突然クレハナ行きが決まって試す時間が無かったのだ
間もなく、目的地の廃村だ
遠くから銃声と爆発音が聞こえ、そして煙が上がっている
「ラーズ、まずい! もう戦闘が始まってるぞ!」
「コウ、指揮官と連絡が取れるか? 指示を仰いでくれ」
「わ、分かった」
俺はその間に、データにドローンを飛ばさせて情報収集
リィに霊体化させて集落付近の森林内の検索を行わせる
フォウルは撃たれたら危ないので、俺達の近くを警戒だ
「ラーズ、東側の高台から進行して敵部隊の横っ腹を突けって! 俺達に火力を求めるのかよ!?」
「ウルラの部隊が押されてる。敵の戦車とパワードアーマー、魔法使いの火力が高いんだ」
俺は情報収集の結果を伝えながら、早足で山を登る
廃村の東側まで回り込み、高台の上から戦闘を見下ろす場所に出る
「はぁはぁ…。くそっ、厚い…!」
コウがヘルメットを外す
「おい、コウ。戦場でヘルメットを外すとか自殺行為だぞ」
「ここまで早足で来たから…、はぁはぁ…暑すぎ…。木の後ろだから大丈夫…、少し休ませ…はぁ…」
「コウ、隣の木の幹を見てみろ」
「へ?」
幹に穴が空いており、それをコウが覗き込む
「…この穴って何?」
「後ろの木も見てみろって」
そして後ろの木にも穴
「なんでこんなに穴だらけ?」
「弾痕だろ、幹を貫通してるんだ。ヘルメットを付けないと撃ち抜かれるってことだ」
「うおぉぉぉっ、マジか! 防御魔法(小)!」
コウが慌ててヘルメットを被って防御魔法を使う
この弾痕は、おそらく機関銃だ
俺達歩兵のアサルトライフルよりも威力がある大口径弾だろう
俺の陸戦銃もそうだが、アサルトライフルの弾丸は機関銃よりも一回り口径が小さい
その理由は、単純に弾丸の一発一発が軽いためだ
多数の弾を持ち歩く歩兵にとって、少しでも小さく軽いということは大きなメリットとなる
射程距離は短くなるが、歩兵同士の撃ち合いでそこまで遠距離にはならないため、そこまでデメリットとはならない
高威力の大口径弾は、機関銃やスナイパーライフルで使われることが多い
コウが、俺に防御魔法をかけてくれる
銃弾が飛び交う戦場では、コウの防御魔法は切り札となる
あるかないかで、死の確率が大幅に減る信頼のおける魔法だ
「とりあえず戦車を潰そう。その後、間違いなく俺達は敵に狙われるから、森の中に逃げ込むしかない。指揮官にそう言っておいてくれ」
「わ、分かった!」
コウが無線で話している間に、俺は倉デバイスからロケットランチャーを取り出す
狙いを戦車に付ける
「やるぞ!」
ボシューーーーッ
ドッガァァァァァン!
真横からの爆撃で戦車は大破する
だが…
ドガガガガッ
ドガガガガガガガッ
バリバリーーー!
弾幕と雷属性の投射魔法が一斉にこっちに向く
チュインッ!
「うおっ!?」
しかも、山の方にスナイパーまでいやがる
「ラーズ、ヤバい! 歩兵がこっちに向ってきてる!」
「予想通り! ジン、お披露目だ!」
フィーーーーン!
フィーーーーーーン!
俺は、自己生成爆弾のジンを発射
蜂のような羽根を持つ爆弾が斜面を登って来る歩兵に突っ込んで行く
ボォンッ!
ボォンッ!
「うおぉぉぉっ!? 誘導爆弾スゲーぞ!」
威力は控えめだが、自分で勝手に突っ込んで行く簡易ミサイルみたいな感じだ
「ラ、ラーズ、それ何だよ!?」
退却しながら、コウが言う
「俺の秘密道具だ! だが、くそっ、結構な人数がこっちに来てる!」
パワードアーマーは来ていないが、数人の歩兵がこっちに向ってきている
ドガガガガッ
弾幕を張りながら後退
敵も土属性土壁の魔法で弾避けを作りながら侵攻してくる
「おい、小型ミサイルだ!」
敵兵が肩に担いだ携行型小型ミサイルを担いでいる
しかも二人だ
障害物でやり過ごさないと、ホバーブーツがある俺はともかくコウは巻き込まれる
「任せろ!」
だが、コウが前に出て右手を伸ばす
「おい、隠れるぞ!」
「俺の遁術なら大丈夫だ! …火遁熱源デコイの術!」
コウの手から、三つの野球ボールほどの大きさの火の玉がゆっくりと発射される
その火の玉に向って、小型ミサイルが吸い寄せられるように…
ドッガァァァァァン! ×2!
爆発させた
す、すげぇっ!
輪力で熱源のデコイ、フレアを作り出したのか!
赤外線センサーを使ったミサイルなら誘爆させられる、すごい便利な特技だ!
自己生成爆弾 五章 ~24話 宇宙産兵器




