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六章 ~10話 マキ組

用語説明w

倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる

モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる


データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している

フォウル:肩乗りサイズの雷竜。不可逆の竜呪を受けており、巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける

リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能


本格的に、クレハナでの生活が始まった


俺は、フウマの里のマキ組という忍者組織に所属する

つまり、俺はこれから忍者の一員として活動していくというわけだ


ちなみに、忍者とは職業名

忍者の職業に就いた者のことを忍びと呼称することが多いとのこと



「ラーズ、改めてよろしくね」

ヤエが声をかけてくる


ヤエは人懐っこい、かわいい系の女性だ

潜入工作や情報収集、接近工作を得意とするスパイタイプらしい

そして、回復魔法を使えるマキ組の医療担当でもある


「うん、よろしく」


「昨日はあまり紹介できなかったから、改めてうちのもう一人のメンバーを紹介するね」


ヤエが一人の男性を連れて来た

黒髪のもっさりとしたエルフで、確か名前をジョゼと言っていた


「ジョゼだ…。情報担当と事務をやってる」


そういえば、ヤマトが事務が一人いるって言っていたがジョゼのことだったのか

マキ組唯一の非戦闘員ということだな


純粋な戦闘員が、マキ組長、スナイパーのルイ、戦闘員のコウ

そしてスパイタイプのヤエ、情報のジョゼ

この五人がマキ組だ



「あ、ラーズ。そろそろ訓練の時間だぞ!」

青髪のコウが俺を呼びに来た


「ああ、分かったよ」


マキ組は、それぞれの戦闘に特化した戦闘員が多い

だが、忍者という職種は斥候としての任務と、遊撃としての任務が求められる


戦場が混乱した場合などに、情報を把握しつつ戦闘への参加も必要となるのだ

上手く戦車や魔術師の後ろを取れた場合などに、ロケットランチャーや範囲魔法をぶち込めれば有利になる


しかし、孤立した斥候や遊撃は、その後に敵の集中砲火を受ける危険な状況だ

仲間の侵攻と援助を得られるまで、生き延びるだけの力が必要となる


その為、スナイパーのルイは別としても、俺とコウのような遊撃タイプの戦闘員は、生き残るための訓練を課せられるのだ

ちなみに、マキ組長も遊撃タイプだが、あの人は一人で戦線を破壊できるほどの実力があるらしい


闘氣(オーラ)も使わないで、その化け物っぷり

デモトス先生やヘルマンを思い出すな


俺はヤエとジョゼに手を挙げて校庭へと向かった



「なぁ、ラーズって忍者の経験はあるのか?」

コウが尋ねてくる


「いや、無いよ。俺は軍人としての経験だけだ」


「なんか、有名な忍者の弟子だったってマキ組長が言ってたぞ?」


「教わったことはあるんだけど、あくまで生き延びる手段を教わっただけ。忍術とかは習ってないよ」


「そうなのかー。…うちに来る新人って、すぐ死んじゃったり、逃亡しちゃうからさ。ラーズは長続きするといいけどな」


「…なんで死んじゃうんだ? 戦場に出るからか?」


「マキ組は危険な戦場が多いんだよ。その分、報酬がいいから武装は充実してるけどな」


「何で危険な戦場が多いの?」


「マキ組長の判断だよ。危険だけど、報酬が多く、なおかつ勝ったらウルラ領が有利になるような戦場を選んでるんだ」


「はぁ…」


「マキ組長は凄い人だよ。強いし、判断力もあるし。…冷徹だけど」


「ふーん………っ!?」



たった今、気が付いた

校舎の入口を出たところにマキ組長が立っていた


…全く気配を感じなかった!


俺は変異体、しかも感覚が鋭いドラゴンタイプだ

その俺に気配を感じさせないとか、何なのこの人!


「…私は必要な判断をしているだけです。冷徹とは人聞きが悪い」

マキ組長の静かな声


「ひぇっ!? く、く、組長!?」


「コウさん、今日はシミュレーションを百回ですね」


「そ、そんな!? 死んじゃいますよ!」


「私の目的は、ウルラ領の勝利とマキ組の生還です。そのためには冷徹にもなります」


「うぅ…」


あ、この人ちょっと怒ってるんだ

以外に繊細なのか?


「ラーズさんは別メニューです。私と出かけましょう」


「分かりました」


外で待っていたルイに肩を叩かれ、うなだれたコウが訓練に向かう

そして、俺とマキ組長は軽自動車に乗って廃校を後にした




・・・・・・




着いた場所は、どこかの草原だった

すぐ近くには集落が見える


「これから何をするんですか?」


「ラーズさんの戦闘能力のテストです。モンスターハントをしてもらいます」


「モンスターですか」


「戦場での部隊戦闘とモンスター討伐では、戦い方が全く異なりますからね」


またテストか…

まぁ、マキ組が戦力を求めていることは分かった


俺に戦場を任せられるのか、その実力を見極める必要があるのだろう



今回は、直近の集落からの依頼で針葉樹林の森に入る

討伐対象のモンスターの名前はスカデガムトゥクだ



スカデガムトゥク


Cランクモンスターで、樹木が形作った魔女のような風貌をしている

金切り声に似た声を出し、樹木の体による肉弾戦、そして攻撃魔法を使う

魔力を持つ生物を樹木が取り込んでモンスター化したという説がある



「私は後ろから見させてもらいます」


「はぁ…」


一人でCランクモンスターを討伐か

防衛軍だとあり得ない難度のミッションだ



俺は慎重に進んでいく


「ガウ」「ヒャン!」「ご主人! スカデガムトゥクの注意事項として…」


…やかましいな


データがスカデガムトゥクの情報収集

並行して、フォウルとリィによる監視、俺自身の五感による警戒


すんなりモンスターを発見した



「…霊体構造確認、体温異常、スカデガムトゥクに間違いないよ!」

データの観測結果、一本の木に擬態していることが分かった


「フォウルは離れて待機、リィはしばらくモンスターを観察。後から俺と攻撃に参加しろ」

それぞれに指示を出しながら、俺は陸戦銃を構える



ドガガガッ!


「キィアァアァァァアアァーーーーー!」



凄まじい金切り声が響く


樹木がぶるぶると動き出し、枝の一本が俺の方に伸びてくる



ビュンッ!



ギリギリで避けて、同時にモ魔で火属性魔法を読み込む

更に、陸戦銃でグレネードを撃ちこむ



ボヒュッ ドッガァァァン!


「キャアァァイィィィァアアァーーーー!」



木の幹が砕け、また金切り声

何本もの枝が俺に向って伸びながら突き出される



避ける


避ける



「…っ!?」


バチバチバチーーーー!



突如、魔法陣が発現

雷属性範囲魔法(小)が発動する


ちっ、攻撃魔法を使って来たか


俺はカウンターでモ魔を操作

火属性範囲魔法(小)を発動



ボボボォォッ!


「キイィィィーーーー!」



また金切り声

そして、また枝の刺突と攻撃魔法を繰り出してくる


うん、枝は早いけど避けられる

攻撃魔法も発動を見逃さなければ大丈夫だ


よし、このまま押し切る


俺は倉デバイスからハンドグレネードを取り出す…



「…何!?」


突然、スカデガムトゥクを中心に範囲魔法(中)相当の魔法陣が発動する



「ご主人、重力属性魔法だよ!」

データが魔法陣の種類を解析


スカデガムトゥクは、自身を含めて範囲魔法を発動したらしい



ズズズンッッ!


「ぐっ…!」



身体が一気に重くなる

体感で二倍か?


五十キロの体重が百キロ、百キロは二百キロに

でも、筋力は変わらない


この野郎、自分は樹木で動かない分、俺にも動かないことを強制しやがった


動きを阻害された俺と、動かなくてもいいスカデガムトゥク

どっちが不利かは明らかだ



舐めるな…!


こんなもので俺を止められるか!


「データ! 1991を出してくれ!」


倉デバイスのロードを頼み、俺は陸戦銃を構えながら前進する


襲ってく枝の刺突


投射魔法と範囲魔法



重力が強い空間では、筋力を使った動きでは間に合わない


攻撃される寸前に、体重移動と膝の抜きを使った短距離移動


それを繰り返す



削られる体


抉られる装甲と肉


こんな傷で俺を殺せるか



ドガガガガッ!


ドッガァァァァン!


ボボボボォォォン!



アサルトライフル、ハンドグレネード、火属性範囲魔法(小)で幹を削り、枝の攻撃をキャンセルさせる


俺が生き抜いてきた場所は、こんなものじゃなかった

これくらいの状況を生き残れないわけがない


身体に意識を向けろ

最高効率で身体を操作しろ



「キィイィィァアァァアアァーーーーー!」


スカデガムトゥクが金切り声を上げる



気が付けば、この舐めたモンスターの目の前だ

俺は1991を倉デバイスから引き出す


…お前の負け、つまり俺の勝ちだ

だから、俺が生き残る



「…」


無言で1991を振りかぶり、フル機構斬り

ロケットブースターとパイルバンカーで叩き切る!



ゴォッ ズッガァァァァァァン!


「ギャァァアァアァァァアアァーーーーー!」



…ズズーン……


スカデガムトゥクの幹を両断

金切り声を上げながら倒れていった



「ご主人!」

「ヒャーーーン!」「ガウ!」


「…え?」


我に返るとデータが呼びかけており、絆の腕輪を通してリィとフォウルが思念を送って来ていた


大丈夫か?

攻撃に参加していいのか?

危ない!


と、ずっと言っていたらしい


…全然気が付かなかった



冷静に考えれば、重力魔法を使われたタイミングでリィやフォウルが範囲外から攻撃すればいいだけの話だった

特に、リィは霊体のため重力の影響は受けない

空中から範囲魔法を撃ちまくればよかったんだ


くそっ、危機を感じてトリガーが発動してしまっていた

超集中の反面、思考力が低下して仲間の声が聞こえなくなってしまった


意識せずに発動するトリガー、これは危険すぎる

これは、戦場では死に直結する


…俺は、トリガーに久々に恐怖を感じた



よく見ると、俺の体は傷だらけだった

今回は動きが阻害されたため、ギリギリを避け続けていた


大小さまざまな傷が蓄積されている

さすがに、ここまで傷が増えると重症に近い


俺はすぐに回復薬を被り、飲んで、同時にナノマシン群に意識を向けて治癒を促進させた



「ラーズさん、お疲れ様でした」


「マキ組長…」


マキ組長が言う

「決めました。あなたを中忍に認定します」


「は?」



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