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六章 ~9話 へルマンとの約束

用語説明w

ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト

タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存された



「これから、あなたはマキ組の組員として働いてもらいます」

マキ組長が言う


「はい」


「具体的には、マキ組の一員として戦場に出てウルラ領のために傭兵として戦う。そして、同時に忍術の修行を行い忍者としての技能を習得してもらいます」


「に、忍術を教えてもらえるのですか?」


「はい。あなたには武の呼吸が息づいています。習得には、そこまで時間はかからないでしょう」


「ただ、俺は霊力と氣力が極端に少ないため遁術は習得できませんよ?」


俺はチャクラ封印練のため、一般人よりも更に霊力と氣力が低くなっている


「遁術は確かに有効ですし、忍術と言えば遁術というイメージがあるかもしれません。ですが、忍術とは目的達成の手段にすぎず、その方法は遁術以外にいくらでもあります。心配しないでください」


「は、はい。よろしくお願いします」



俺が頭を下げると、マキ組長がじっと俺の目を見つめてくる


え? 何ですか?

惚れちゃったの?



「…あなたは殺しに慣れたの眼をしていますね。快楽殺人者では無いようですが」

マキ組長がボソッと言う


「あ、当たり前ですよ」


「戦場は魔物よりも恐ろしい。心を奪われて、ただの殺人者に成り下がらないように気を付けて下さい」


「…」


マキ組長に、よく分からない理由で諌められた




・・・・・・




今日からは、俺もマキ組が使っている廃校で寝泊まりさせてもらうことになった


銃弾や回復薬等の消耗品の補充ができ、ある程度の治療施設もある

そして、校庭を使って忍術や戦闘の訓練も行っている


マキ組長の武の呼吸


俺より数段上の達人の動き

デモトス先生やヘルマンと同じ境地


…この人と同じところに立つことができれば、俺にも達人の見ている景色が見えるのだろうか?




「凄かっただろ、マキは。俺は闘氣(オーラ)があるから何とかなるが、Cランク以下からしたら化け物だぞ」

ヤマトが言う


「ああ、凄かった。完敗だったよ」


「戦場では血風と呼ばれて恐れられている。遁術も忍術も武器術も、凄まじいの一言だな」


「…虎王ヤマトが言うんだから、本当に凄いんだろうな」



今日は、クレハナについたばかりということで、マキ組長に休みをもらった

どうしても行きたい場所があったからだ


ドミオール院という孤児院

そこに、ヘルマンの息子であるウィリンがいるということをセフィ姉が調べてくれたのだ


俺は、ヤマトの運転で向かう

いよいよ、ヘルマンとの約束を果たせる時が来た


「そういや、ヤマトさ」


「ん?」


「空港でドースさんに会ったんだ」


「フィーナの迎えで来てたのか?」


「そうだろうね。その時に、龍神皇国の騎士の評判が悪いって言ってたぞ?」


「あー…、それはブルトニア家のせいだな」



ヤマトの話では、ヤマトが所属する治安維持部隊が以前からクレハナに派遣されていた

そして、今回の内戦の激化に対応する形で騎士団の追加派遣が行われたらしい


その派遣は、龍神皇国の貴族であるブルトニア家が立候補した


しかし、ブルトニア家にとって、クレハナの戦争は他人事そのものだった

自分たちの損害を恐れてまともに戦わない

戦う時は、ウルラ軍に戦わせて自分たちは後方待機


今では、派遣された騎士はしょせんお飾り

龍神皇国から援助を受けるためと割り切って、全く当てにされていないとのことだ



「…何でそんな連中がクレハナに立候補したんだよ?」


「クレハナに派遣されて、内戦が上手く終われば大手柄になる。傷つかずに手柄だけかっさらうつもりなんだろ」


「皇国の騎士団の印象、悪くなりそう」


「もうなってるっての。だが、間もなく両軍が正面衝突する。その時はさすがに戦わないわけにいかないだろうがな」


…クレハナの命運を分ける、天下分け目の全面戦争は間もなくか



「見えたぞ、あの建物だ」


ウルラ領とナウカ領との領境の近く

古びた石造りの建物が見えて来た


「あれがドミオール院か…」


門の横に古びた看板が立っている


「ここにラーズが探している奴がいるのか?」


「セフィ姉が探してくれたから間違いないと思う」


ヘルマンは、ここに息子のウィリンを預けて(そら)の恵みの人体実験に参加したと言っていた


でも、ウィリンは大学生になっているらしい

まだここに残っているのだろうか?



「こんにちはー」


俺とヤマトは門を通る


「はーい」

中から女性の声が聞こえる


出て来たのは、初老のエルフの女性だった


「…どちら様でしょうか?」


「突然すみません。こちらに、ウィリン・カミネロという方がいると聞いたのですが」


「はい、いますけど…。失礼ですが?」


い、いるのかよ!

途端に緊張してくる


「俺はラーズ・オーティルと言います。ヘルマンという人に大変お世話になりまして、その…」


「ヘルマンですって…!?」

女性が目を見開く


「は、はい」


「ヘルマンは今どこに!?」


「…死にました。俺がいた同じ施設で」


「…っ!?」

女性が固まる


「その時ヘルマンに、ウィリン君にこれを渡して欲しいと頼まれたんです」

俺は、宇宙ステーションから回収されたヘルマンの荷物を取り出す


その中には、ヘルマンが使っていたジャマハダルがあった


…ヘルマンは達人だった

それは、俺自身が分かっている


だが、ヘルマンのジャマハダルは何の変哲もない普通の武器だ

悪く言えば、大した武器ではない


これが、ヘルマンほどの男に最期に残った武器か…


…ヘルマンは、金のためにその体までもを実験に差し出した

そういうことなのだろう



「……どうぞ、中へ」

女性に案内されて、俺達は中に入る


中はロビーになっており、小さい子供のおもちゃが置いてあった

丁寧に整頓されており、掃除もされている


「ウィリンを連れてきます。ヘルマンのことはショックでしょうから、しばらくお時間をください」


「はい」



しばらくすると、奥から女性が男性を連れて戻って来た


…ヘルマンの面影がある

アレがウィリンか


「…初めまして、ウィリンです」


「ラーズといいます」


「あなたが父の…」


「あなたのお父さんに助けられた者です。ウィリン君に会えたら、これを渡すようにと」

俺は、ウィリンにヘルマンの荷物を渡す


「…父さん……」


ウィリンは、ヘルマンの荷物を開ける

ジャマハダルの他は、ちょっとした着替えだけだ


思い出になるような物は何も入っていない

それでも、ウィリンは何かを思い返すようにゆっくりと中を確認した



「ラーズさん…、ありがとうございます。間違いなく、父が使っていた物です」


「そうですか、よかった」


「せっかく、持ってきてもらったのですが…」


「はい?」


「少し、一人になりたいのです。部屋に持って行ってもいいですか?」


「あ、もちろんですよ。出直しますので、また来ます」


「…すみません……」


「あ、ウィリン君」


「はい?」


「へルマンは、君を愛していたと伝えてくれって。…俺に最後に頼んだんだ」


「…」


ウィリンは、唇を一瞬震わせると、頭を下げて部屋に戻って行った



「すいませんね、ラーズさん。ウィリンは、父親であるヘルマンを慕っていました」


「そうですか…」


「もう八年にもなりますかね? 金の当てが出来たと言って、ウィリンとこのドミオール院にお金を残して出て行ってしまったんです」


「…」


「それから音沙汰が無く、何かあったのだろうとは思っていたのですが…」


「今日は突然お邪魔してしまい、驚かせてしまいました。出直して、また来させて頂こうと思います。その時に、ヘルマンのことを話せたらと思います」


「分かりました。ヘルマンは、ドミオール院と子供たちのためにずっと働いてくれていました。私からもお礼を言わせてください」


女性の名はマリアさん

ドミオール院を切り盛りしている院長さんだった



俺はマリアさんにお礼を言ってドミオール院を出た


「ヤマト、付き合ってくれてありがとう」


「ああ、それはいいけどよ。結局、何の話もしてないけどいいのか?」


「いろいろあったんだよ。今度話すから、また付き合ってくれよ」


「ああ、分かった」



ヤマトが帰るのを見送ると、俺はPITを取り出す


「………あ、タルヤ?」


「ラーズ! クレハナに着いたの?」


「ああ、ウィリン君にも会えたよ」


「そうなの!? 良かった!」


「ヘルマンが死んだって聞いて、やっぱりショックだったみたいだ。ヘルマンは、やっぱりドミオール院っていう孤児院で働いてたんだって」


「そう言ってたものね」


「今日はあまり話が聞けなかったけど、また行ってみようと思う。ウィリン君やドミオール院も内戦の影響を受けてそうだから、手伝えることもありそうだし。タルヤもさ、いつか一緒に行こう」


「…うん」


「だから、無理しないでゆっくり休んでね?」


「分かってる…」


「今度会った時に、タルヤのことも言っておくからさ」


ウィリン君をだしに使って悪いが、ドミオール院の話がタルヤの元気のきっかけになれば助かると思った



…後日、この電話がとんでもない結果になるなんて、この時は思ってもいなかった


へルマンとの約束 二章~34話 ヘルマン

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[一言] タルヤ来るんか…?来てしまうのか…?不安やなぁ組長の言ったただの殺人者というのが伏線的な意味を持たなければいいのだが…
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