六章 ~7話 ヤマトとの再会
用語説明w
変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
ボリュガ・バウド騎士学園:ギアにあるラーズとフィーナの母校で、魔法、特技スキル、闘氣オーラを学び、Bランク以上の騎士となることを目的とする学校。十~十八歳までの九年制
ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト
「…何やってるんだ?」
声をかけて来たのは大柄な騎士だった
「ヤマト、久しぶり…」
ヤマトは、治安維持部隊としてクレハナに派遣されている龍神皇国の騎士だ
俺の騎士学園の同級生でもあり、同じパーティを組んでいた
光学迷彩の男が去った後、ダメージでしばらく動けないでいるとヤマトがやって来たのだ
幻術によって、気が付いたら思考を停止させられていた
脳みそガードが無ければ、思考が停止したことにも気が付かなかっただろう
それだけじゃない、フォウルとリィの声
俺が幻術にかかったことを感じて、絆の腕輪を通して俺に警告してくれたのだ
絆の腕輪は、俺と使役対象の意思疎通のアクセサリーだ
そして、それだけではなく、使役対象の感覚を共有したり、逆に俺の感覚を感じ取ってくれたりする、使って初めて分かる便利さがある
「クレハナに来た早々に襲われるって、何やってるんだよ」
「最初から殺す気はなかったのかもしれない。やろうと思えば、幻術にかかった時点で殺されていただろうから」
「大岩が飛んできたって、土属性魔法か?」
「いや、魔法構成は感じなかった。多分、特技だと思うんだけど、発動モーションにも気が付かなかったんだよな…」
「とりあえず怪我は無さそうだな」
「何とかな…」
くそっ、いきなり襲ってきやがって
今度会ったらカウンターぶち込んでやる!
俺はヤマトについて、空港の地下に向かった
「へー、地下は店がやってるんだな」
「空港が稼働してるからな。だが、やっているのはこの二つの店だけだ」
内戦の影響か、やっているのはコンビニのような雑貨屋と食堂だけだった
ヤマトが食堂に入って行く
「…ヤマト、フウマって所に行くんじゃないのか?」
「おいおい、数年ぶりに会ったんだ。まずは飯くらい食おうぜ」
「あ、あぁ…」
そう言われて、俺は席に着く
この店は客が数人いた
空港で働いている者たちのようだ
「ん?」
なぜか、俺達の前にはビールのジョッキが運ばれてきた
「ほい」
「え、あ、乾杯」
グビグビ…
「ぷはー!」
「いやいや、待て待て。うまいけど」
俺は飲んでからヤマトを止める
「あ? 何だよ?」
「何で飲んでるんだよ。俺は戦争に来たんだぞ」
「いや、そうだけどよ。…下手すると、お前と飲めるのも最後かもしれないからさ」
「…不吉なこと言わないでくんない?」
グビグビ
「実際、ここの内戦はかなりの死傷者が出ているからな。一般兵であるラーズの危険性はかなり高い。肝に銘じろ」
「あ、あぁ…」
ヤマトが言うくらいじゃ、クレハナの戦争は本当に激しいんだろうな
「ヤマトと会うのって、何年ぶりだっけ? 大学の頃に一回会っただけだよな?」
「そうだなー、就職してからは一回も会ってなかったな。フィーナには会ってるけど」
「そりゃ、同じ騎士団に就職したんだから当たり前だろ」
騎士学園を卒業して、ヤマトとミィは騎士大学に進学した
その後、龍神皇国の騎士団にフィーナと三人で就職、俺だけがシグノイアの防衛軍に行ったのだ
「ラーズがフィーナと付き合うとは思わなかったぜ。兄妹になるって聞いた時も驚いたけどな」
「ヤマトこそミィと付き合ったんだろ? 順調そうでよかったじゃないか」
「俺はこの派遣が長いからな。…ミィとはずっと遠距離だよ」
「それは…、うん…、なんていうか…」
「気休めはいらねーよ。それに、そろそろこの内戦もケリがつきそうだからな」
「ああ、全面戦争ってやつか」
「そうだ。もう二十年以上続いていて、ついにってところだな。セフィリアさんを含めて、その影響は龍神皇国にも波及するぞ」
「…」
セフィ姉の主導で、龍神皇国はウルラ領を支援している
ウルラ家が負ければ、それは龍神皇国の敗戦も同じ
そして、その責任はセフィ姉が負う
ウルラ、ナウカ、コクルの全てが王位継承権を持っているため、どこが勝って政権を樹立しても、龍神皇国が文句を言う筋合いは無いからだ
「なぁ、お前は何でわざわざクレハナに来たんだ?」
「そりゃ、フィーナのためさ。それと、セフィ姉との約束のためだよ」
「約束?」
「ああ。ヤマト、アイオーン・プロジェクトって聞いたことないか?」
「あー…、前にミィがなんか言っていた気がするな」
「よく分からないんだけど、そのプロジェクトは神らしきものの教団を潰すものらしいんだ」
「大崩壊の復讐でもするつもりか?」
「…当たり前だ。それが終わらなきゃ、本当の意味で俺は前に進めない」
「…」
俺だけがのうのうと生きていられるわけがない
あの理不尽な死を、俺は絶対に認めない
グビグビ
「それで、そのプロジェクトとクレハナがなんか関係あるのか?」
ゴクゴク
「俺は所詮一般兵だろ? プロジェクトに参加するためには力を示さなきゃいけない。クレハナで生き残るのが、俺の参加資格なんだよ」
「それは…、セフィリアさんも思い切った条件出したな」
「フィーナのためにもなるから、俺は別にかまわないよ。…生き残れればだけど」
「そういや、ラーズは変異体になったんだよな」
「まあな」
「まさか、ラーズが強化人間の頂点になるとはな」
「セフィ姉も仙人になってるんだろ?」
「そうだな。だけどよ、仙人には何人か会ったことあるけど変異体は初めてだ」
「俺はドラゴンタイプだから、背中に触手が生えたんだ」
俺は、背中の触手をピンと張って見せる
「な、何だそれ…? 変異体は背中にそれが生えるのか?」
「変異体は三タイプあって、俺はこれが生えるタイプだったんだよ」
「はー…」
珍しそうに、俺のことをまじまじと見るヤマト
そんな、珍獣を見る目はやめてくれ
「あ、そうだ。ヤマトに頼みがあるんだよ」
「ん? 金なら貸さねーぞ?」
「金の無心で戦場に来るわけねーだろ。ドミオール院っていう孤児院に行きたいんだ、今度付き合ってくれよ」
「ドミオール院?」
「ああ。俺が世話になった人の息子がそこにいるんだってさ」
「ああ、分かった。住所は?」
「セフィ姉が調べてくれたんだ」
こうして、ヤマトと話していると騎士学園時代を思い出す
俺とヤマト、フィーナとミィの四人で組んでいたパーティ
ちなみに、つるんでいた相手は、実はミィが一番多かった
俺もミィも、どちらも戦闘特化ではなかったため、戦い方をいろいろと工夫する必要があった
そのため、試行錯誤を一緒にしたりしていた
具体的には、アイテムを使ってみたりだ
ミィが仕入れて来た怪しげなアイテムの実験台にされて、何度もひどい目に遭った
だが、そのおかげで学園内のダンジョンに潜るときに、使えるアイテムを選別できたのも事実だった
…そんな俺とミィを見て、ヤマトは俺がミィのことを好きだと勘違いしていたとか
ミィと付き合うというのも、俺は意識しなかったわけではない
だが、結局そういう風にはならなかったな
甘酸っぱい思い出だ
「ふぅ…、喰ったなー」
ヤマトが次々と料理を頼むから食べ過ぎた
ヤマトは、消化能力が強化されている俺よりもたくさん食っている気がする
こいつは、生まれながらのファイターだ
騎士学園時代、何度ヤマトの才能に嫉妬したか分からない
「よし、そろそろ、お前が所属するフウマ里に向かうか」
ヤマトがそう言って立ち上がった
俺は、ヤマトの車でクレハナを移動している
思いっきり飲酒運転だ
クレハナでは内戦が激化して以降、警察の活動が縮小してしまっているらしい
飲酒運転どころか、犯罪も増加傾向だ
街を歩くときは車に気を付けろ
油断すると突っ込まれるぞ…、と脅された
危なすぎるだろ!
だが、窓の外には普通の街並みが広がっている
「内戦の影響は特に感じられないな」
「ここら辺は領境からかなり離れているからな。もっと北上すれば、すぐに内戦でぶっ壊された街を見ることができる」
「ふーん。そういえば、ミィがよろしくって言ってたぞ」
「そうか」
しばらく車道を進むと、車は舗装されていない山道に入った
「すごい道路だな。フウマの里ってのは山の中にあるのか?」
「山の中ではあるけど、そこまで山奥じゃない。今のクレハナは道路工事なんてできる状況じゃないからな、大きい街以外は道路が壊れていって、だいたいこんな感じだ」
車はガタガタと山道を進んでいく
「着いたぞ」
「え? ここ?」
ヤマトが車を停める
そこは、山の中にある木造の古い学校だった
幻術 二章~22話 七回目の選別