閑話16 セフィリアの後悔
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
ボリュガ・バウド騎士学園:ギアにあるラーズとフィーナの母校で、魔法、特技スキル、闘氣オーラを学び、Bランク以上の騎士となることを目的とする学校。十~十八歳までの九年制
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
セフィリアはため息をつく
ラーズの言葉に、つい本気で怒ってしまった
ラーズの口から出た言葉
「俺は龍神皇国を出て行くべきだと思う」
この意味は、つまりセフィリアの手の内から出て行くということ
セフィリアから離れて行くということ
そんなこと、絶対に許さない
ラーズが私から離れて行くなんて、そんなことを許せるわけがない
そんなことを言い出したラーズに、大きなショックを受けた
…セフィリアは孤独だった
龍神皇国の序列二位の貴族、ドルグネル家に産まれ、家督を継ぐために英才教育を受けた
そして、帝王学、武術、闘氣、魔法、特技、その全てにおいて、努力と才能で免許皆伝を勝ち取った
セフィリアにとって、それは当たり前のことだと思っていた
努力すれば必ず成長し、壁は打ち破れる
それがセフィリアの常識だったからだ
だが、成長するにつれて、その常識は世間の非常識であったことを知る
騎士学園でも、
「セフィリアはレベルが違うな」
「俺にはそこまで無理だよ」
「才能が羨ましいわ」
騎士大学でも、
「憧れています! いえいえ、遠くから応援させてください!」
「さすが、貴族ですね。やっぱり才能の差を痛感します」
「そこまで頑張れるなんて、さすがはセフィリア様」
口々に、セフィリアは褒めたたえられる
しかし、一緒に頑張ろうと誘っても、誰もやろうとはしない
格が違う、才能が違う、貴族だから
自分との違いやできない言い訳を並べるだけで、一緒に努力しようとはしてくれない
少数の者が手を挙げても、セフィリアの努力についてきてくれる者はいなかった
…セフィリアはずっと孤独を感じていた
しかし、騎士学園の頃に唯一の例外がいた
それが、ラーズだ
贔屓目に見ても、才能が乏しい少年
普段であれば、セフィリアの目につくような子ではなかった
だが、彼はセフィリアを慕った
そして、セフィリアを諦めなかった
他の誰もが、セフィリアは自分とは違うと距離を取って行くのに、ラーズだけは少しでも近づこうとし続けた
ラーズにとっては、セフィリアを追いかけるなど分不相応だったのかもしれない
ラーズの憧れは、そこまで強かったのだ
ラーズは努力に反して実力は伴わなかった
しかし、諦めずに続けることで生まれたものがある
それが、セフィリアの中の期待と信頼だ
孤独だったセフィリアの心の中に、この時だけは他人への期待と信頼が生まれたのだ
セフィ姉と一緒に騎士団に入る
騎士になって一緒に戦うんだ
ラーズはそう言って、ずっと頑張り続けていた
そんなラーズを見て、セフィリアは変わった
自分も諦めずに同志を探すことにしたのだ
しかし、セフィリアは孤独を偶然の出会いによって埋めることを諦た
努力と才能を併せ持つ者を探し出して、育てることにしたのだ
例えば、クレジットクイーンのミィ
例えば、サイバービーナスのオリハ
例えば、虎王ヤマト
例えば、黒髪の大魔導士フィーナ
彼らは、セフィリアが見出した才能と意欲溢れる同志だ
セフィリアには、人を見出す目も備わっていたのだ
今では、全員が騎士団で才能を開花し、それぞれの分野で活躍をしている
だが、そんなセフィリアが見出だした者の中で、唯一の例外があった
それも、最初に見出したはずのラーズだった
セフィリアは、騎士学園を卒業したラーズをゆっくりと育成していくつもりだった
才能や基本スペックでは劣るかもしれない
それでも、重属剣という必殺技は充分にオンリーワンとなれる技能だ
それに、ラーズの自分を慕ってくれれている意欲は、孤独を感じ続けていたセフィリアにとっては嬉しいものだったからだ
しかし、ラーズはセフィリアの想定外に行動に出た
騎士学園を卒業すると、独断でチャクラ封印練を慣行し、騎士の資格を失ってしまったのだ
これを知った時、セフィリアはと大きな喪失感を感じた
ラーズまでもが、私といることを諦めてしまったと思ったのだ
…ラーズにチャクラ封印練を教えた者
竜騎士の里出身の竜騎士、風龍に駆るソル
セフィリアはソルを責めた
しかし、ラーズは一般大学を卒業後に一般兵となった
その理由は、騎士とは違う強さを探すため
ラーズは、セフィリアと働くことを諦めてはいなかったのだ
そして、ラーズはセフィリアの予想のはるか上を行った
騎士の力を捨てたにも関わらず、大崩壊の首謀者を特定、セフィリアの大きな手柄を作った
そして、自身が貴重な変異体となった
更に、武の呼吸の習得
ラーズは、セフィリアの予想もしない方法で大きく成長し、Bランクとは違う強さを手に入れて見せた
…この力を得るまでには、大きな苦難があっただろう
それでも、ラーズは諦めなかった
抗い続けて、ついにその才能の壁を打ち破ったのだ
そして、また、セフィリアの所に戻って来てくれた…
そう思った
それなのに…
「ラーズは、私のもの…」
セフィリアは呟く
珍しく、その顔には苛立ちが浮かんでいる
どうしようもない孤独
その中で、自分を本当の意味で慕ってくれる存在
諦めないで、ずっと自分を追い続けてくれる存在
いつか私の隣で一緒に歩いてくれる、対螺旋となれる存在
それがラーズだった
セフィリアは、孤独を仕方がないものと諦めていた
でも、ラーズを見て思った
私と一緒に歩いてくれる人はどこかに必ずいる
ラーズが最初の一人だ、と
そして、ミィやオリハに続き、天叢雲カンナ、死の乙女ヒルデ、鉄腕のヴァイツ…、大仲介プロジェクトによって、強力な同志を得ることが出来た
更に、大崩壊の大罪人や、シグノイア・ハカル戦争の生き残りの魔導士など、その候補も増えてきている
大仲介プロジェクトの成功に続き、現在セフィリアの着手している大きな密命
それは、「龍神皇帝国」の復活
・龍神皇国
・シグノイア
・ハカル
・クレハナ
・バティア
・クシュナ
・黒色
…の七つに分かれた、龍神皇国の前身の巨大帝国の復活だ
大崩壊とラーズの活躍によって、龍神皇国にシグノイアとハカルが組み入れられた
それまでは夢物語だった龍神皇帝国の復活が…、分裂してからの百年間、全く進展していなかった貴族たちの悲願が突然現実味を帯びたのだ
そして、現在はクレハナの内戦の集結に挑む
これはフィーナが要だ
これで、クレハナの内戦問題を解決して龍神皇国が介入権を得られれば、セフィリアの立場は盤石となる
本腰を入れてアイオーン・プロジェクトも開始できるだろう
「ラーズ…」
セフィリアは考え込む
ラーズを自分の手から離すわけにはいかない
一度手放したら、もう二度と戻って来ないだろうことが容易に想像できる
孤独を諦めていた
でも、ラーズを見て思った
私は一人じゃない
ラーズになら、全てを話してもいい
ラーズがいなくなった時の孤独
自分が化け物にでもなったかのような錯覚、その恐怖
寂しい
あの感覚は嫌いだ
ラーズが離れて行くことは許さない
…ラーズの好意には気づいている
必要なら、自分の体でさえ提供してもいいと思う
ラーズがその選択をするならばそれでもいい
その時は、不本意だが使い潰すだけだ
離れて行くよりはいい
でも、本当はラーズの意思で一緒に歩いて行きたい
それが求める絆、そして対螺旋の資格と意味だから
出て行く理由が復讐であるなら、まずはその復讐を使って手綱を握る
協力関係にある、フウマの里に所属する忍者衆、マキ組に協力を求めた
マキ組の組長は凄まじい技の持ち主だ、きっとラーズを育ててくれるだろう
本当は、セフィリア自身でラーズを育てたかった
精神面での不安要素を取り除きたかった
…だが、こうなっては仕方がない
内戦という危険な環境に送り込むことにはなるが、育成のリスクと割り切る
貴重な呪印を渡したのは、ラーズへと賭けた信頼の証
ラーズは兵士として一流だ
クレハナの内戦は負けられない戦い
マキ組に入れて、育成と同時に内戦で貢献をしてもらう
荒療治だが、内戦という環境自体が復讐への暴走を止めるストッパーともなるだろう
フィーナとラーズ、そしてヤマト
セフィリアが目をかけている三人をクレハナに投入する
更に、マキ組との協力体制
五遁のジライヤとの密約
フィーナとの約束
クレハナで進めるべきミッションは多い
だが、クレハナの内戦の落としどころはもう決めている
この内戦の結果によって、セフィリア、ラーズ、フィーナの人生は大きく変わる
セフィリアは、全てをフィーナとラーズに託した
…後は、二人が帰って来るのを待つだけだ
参照事項
龍神皇帝国 閑話13 大仲介プロジェクト
セフィリアへの憧れ 三章~16話 ダンジョンアタック三回目2
竜騎士 二章~30話 チャクラ封印練