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六章 ~5話 クレハナへの出発

用語説明w

大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た


ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象

ヤマト:龍神皇国騎士団の騎士、特別な獣化である神獣化、氣力を体に満たすトランスを使う近接攻撃のスペシャリスト


リィ:霊属性である東洋型ドラゴンの式神。空中浮遊と霊体化、そして巻物の魔法を発動することが可能



「ヒャンッ ヒャーーーン!」


フィーナのマンションで、俺達は荷造りに追われている


そして、部屋の中を飛び回る東洋型の龍

ドラゴンに見えるが、実は霊体である式神だ

俺が契約した使役対象でもあり、そのため一時的に実体化することもできる


AIのデータと騎士学園時代のフォウルを除けば、俺の最初の使役対象となった

名前はリィと言う



「ガウ」「ヒャーン!」


フォウルとリィはドラゴンという共通点のためか仲がよく、今も再会を空中で喜んでいる


埃が立つからやめてほしいんだけど



昨日セフィ姉が、リィが封印された勾玉を持ってきてくれた

異世界イグドラシルの騎士ヒルデが解呪したものを受け取ってくれていたのだ


「竜牙兵の解呪も終わってるんだけど、念のため騎士団のネクロマンサーが検査しているわ。クレハナへ出発する時に持ってくるわね」


「分かった、ありがとう」



…俺達は明日、クレハナに旅立つ


フィーナは、クレハナのウルラ領の姫という立場だ


ナウカ軍がウルラ領に侵攻したことで、内戦が激化することが確定した

ナウカ家と連合を組んだコクル家もいずれ攻めて来るだろう


間もなく、全面戦争が始まる

フィーナはウルラ領の指導者として戦わなければならない



セフィ姉は俺に言った


「…ラーズ、最後にもう一度聞くわ。クレハナの戦争はかなりの死傷者が出る。フィーナと違ってあなたは一般兵、死傷する可能性はかなり高い。それでも、行くの?」


「行くよ」


自分でも驚くほど、簡単に口から飛び出す

とっくに答えは決まっていたからだろう


フィーナのため

ヘルマンの息子に会うため

セフィ姉の呪印を使いこなすため

そして、アイオーン・プロジェクトとやらの参加資格を得るため


目的はいくらでもある

決して、偽善のためではない


俺は、打算でクレハナに行くと決めた



「…分かった。それなら、私はもう何も言わない。無事に帰ってきなさい。現地でヤマトに案内するように行っておくわ」


「…うん」


ヤマトと会うにも久しぶりだな


「クレハナでは、龍神皇国騎士団と協力関係にある忍者衆のフウマに加入できるように話は通しておいたわ」

セフィ姉が言う


「フウマ?」


「ええ、ウルラの忍者衆の一つよ。傭兵のような形で、各地の戦闘に参加しているわ」


「…分かった」


忍者と一緒に内戦に参加か


俺に騎士のような身分はふさわしくない

傭兵…、雇われの身でちょうどいいのかもしれない


欲は出さない、俺はしょせん一般兵だ

傭兵として、フィーナのために少しでも貢献できればそれでいい



その後は、バタバタと準備に追われた



「もしもし、タルヤ?」


「ラーズ、どうしたの?」


「電話でごめん。明日、クレハナに旅立つことになったんだ」


「えっ!?」


「急にごめん。クレハナでヘルマンの息子…ウィリンに会って来るよ。会えたら、また電話する」


「…うん」


「だから、さ」


「だから?」


「ちゃんと俺からの連絡を待っていてよ」


「…」


「俺達は仲間だ。ヘルマンの息子にも、タルヤをちゃんと紹介したい。ヘルマンのおかげで生き残れたって伝えたいんだ」


「…うん、分かった。待ってる」


「約束だ」



フィーナはパニン父さんと話していた


「お父さん、本当にクレハナに来るの?」


「ああ、もちろんだ。お父さんは、フィーナとラーズの親だからな。二人が働く国の実情を世界に伝える必要がある」


「でも、危険なんだよ?」


「それは二人も一緒だ。それに、お父さんはジャーナリストだ。クレハナのために、お父さんにしかできないことが必ずあるはずなんだ」


「…」


「だからさ、辛くなったら連絡をくれ。フィーナと話せれば、お父さんも元気が出るからさ」


「うん…」




ようやく荷造りが終わる

もう深夜だ


明日も早いため、軽く食事を取って布団に入る

クレハナに行く前の最後の夜だ



「フィーナ、もう寝た…?」


「…まだだよ……」


フィーナが寝返りを打ってこっちを向く

そして、俺の目を見つめてくる


「どうした?」


「ラーズは戦争を経験してるんだよね?」


「…ああ、あるよ」


俺が経験した戦争は、第二次シグノイア・ハカル戦争

大崩壊前に勃発した戦争だ


「…私は戦争の経験がない。騎士として対人戦も経験はしてはいるけど…、想像がつかない」


「戦場は、通常の戦闘とは違った。連続する戦闘の中で、戦いに対する恐怖が無くなって行く感じが嫌だった」


「戦いに対する恐怖?」


「ああ、だんだんと自分の死以外の価値観が薄れて行くんだ。自分が死にたくないから仕方ない、撃って、進んで行くのは仕方がないって思えて来る。嫌でしょうがなかった戦闘に、疑問を持たなくなるんだ」


「…」


「俺はハカル兵と戦った。そして、その後にハカルの人間と接した。その時に、俺が撃ち殺したハカル兵は人間だったことに気がつくんだ。…俺達と同じように、家族や友人がいることにも」


「ラーズ…」


「でも、後悔はしていない。シグノイアもハカルも、負けるわけにはいかなかったから。俺が戦ったことで、シグノイアの国民が少しは救われたはずだから」


「うん…」


フィーナが抱き付いてくる

俺も抱きしめる


俺とフィーナは恋人だった

そして、同居をしていた


幸せだった

この生活のおかげで、俺はあの施設の呪縛から自由になれた


そして、新たな目標を持つことができた



「ラーズ…」

「フォーナ…」



この生活が終わってしまう


フィーナは、クレハナの王族に、姫に戻る

国と軍隊を動かす立場となる


もう、フィーナと簡単には会えなくなるだろう

それが寂しい



「ぐすっ…」

フィーナが静かにすすり泣く


王家の重圧か、戦争のプレッシャーか

おそらくどっちもだろう


「…ラーズに死んでほしくない」


「いや、俺の心配かよ!?」


泣くなんてかわいい所あるじゃんとか思ったけど、考えてることは全然違った



一般兵は()()()()


弾丸が当たればアウト

魔法に巻き込まれればアウト

闘氣(オーラ)が無い人体は簡単に壊れる


だが、戦争を構成するほとんどの人間は一般兵だ


Bランクとはいえ、孤立すれば一般兵の集団に囲まれて殺される

対物ライフル、ランチャー、範囲魔法と、重ねれば闘氣(オーラ)を削れる兵器は多い


近接武器だけで戦っていた冒険者の時代とは違うのだ



「クレハナでは、あまり会えなくなるんだろ? 絶対に無理するなよ?」


「ラーズは私の心配なんてしてないで、怪我しないように…」


「俺は軍隊出身だぞ? それに、俺が頑張って生き残るのはフィーナのためなのに、フィーナがまいっちゃったら意味が無いんだからな」


「うん…」


「フィーナ…、好きだから」


「………私も…」



フィーナの体温を感じる


明日、俺達はクレハナへと旅立つ




・・・・・・




そして、翌朝



龍神皇国

中央区空港


俺達がクレハナへ行くための飛行機は、ここから出発する



「マジか…」


「フィーナは、もうクレハナの国賓だからね」

見送りに来たミィが言う



まさかの、騎士団の特別プライベートジェットでクレハナに行くことになった


そうか、フィーナは王家に戻った

一般人の乗る飛行機に乗るわけがない


本当に、フィーナ姫になっちまったんだな…



「ラーズ、フィーナ、気を付けて。あなた達の帰りを待っているわ」

セフィ姉が言う


「行ってきます…」

「うん」

俺とフィーナが答える


心の中は不安で一杯だ

でも、セフィ姉を不安にさせたくない


クレハナの内戦については、セフィ姉が龍神皇国の代表となっている

ウルラ領とフィーナの後ろ盾もセフィ姉だ


つまり、敗戦した場合の責任はセフィ姉となり、セフィ姉は龍神皇国での立場を失う

セフィ姉の権力は剥奪され、アイオーン・プロジェクトとやらも頓挫、それどころか騎士団長心得としての身分も失うことになる


俺には、なぜ龍神皇国がクレハナの内戦にここまで肩入れするのかは分からない

だが、フィーナとセフィ姉が関わっているというだけで、この戦争に参加する理由は充分だ




ついに、飛行機の出発時間だ


「それじゃあ、セフィ姉、ミィ姉。行ってくるよ」

フィーナが言う


「私も、クレハナには顔を出すわ。…気を付けて」

ミィが言う


「フィーナ、バックアップは任せて。できることを選んでやりないさい」

セフィ姉が頷く


「…うん」



「それじゃ、行ってきます」

俺もフィーナについて行く


「ラーズ、真実の眼の調査の件で、私も時期を見てクレハナに行くから」


「騎士のミィ本人が来るのか? 代理の人じゃなくて?」


「当たり前でしょ。真実の眼については他の人に任せられないし、戦争に参加するわけじゃないから騎士でも問題ないわよ」


「ふーん、分かった。待ってるよ」



今度はセフィ姉が言う

「…本当は、私はラーズがクレハナに行くことは反対だったの」


「え?」


「それは一般兵だから、単純に戦死の危険性が高いからという理由よ。…アイオーンのために、その実力を私に示して見せなさい」


「実力…」


「死なないでって意味よ」


「う、うん。最後にさ、アイオーン・プロジェクトがどんなものなのか教えてくれない?」


「ラーズ、甘えないで。あなたと私は対等な関係でいるべきよ。条件はギブアンドテイク、対価に対しての報酬として教えるわ」


「対価?」


「ウルラの勝利とあなたの生還よ。ちゃんと皇国に戻って来ることができたら、全部教えてあげる。自分で勝ち取りなさい」


「わ、分かった。絶対に戻って来るから」



俺は、セフィ姉に証明しなければいけない


俺の実力を、死なないという事実を

そして、アイオーン・プロジェクトへ使う価値があるということを


セフィ姉からもらった呪印…、これを譲ってくれたセフィ姉の信頼に賭けて


リィ 四章 ~15話 教団のその後


次は閑話です

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