六章 ~2話 竜族の呪印
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
龍神皇国騎士団本部
副団長室
フィーナはセフィリアの所に来ていた
「セフィ姉、どういうつもりなの!?」
「何のことかしら?」
「ラーズのことだよ! どうしてラーズをクレハナに行かせようとするの!? アイオーン・プロジェクトって何!?」
フィーナはセフィ姉に詰め寄る
フィーナは、セフィリアにずっとお願いしていた
クレハナにラーズを来させたくない
戦争に参加させたくない、と
「ラーズは、行くなと言っても勝手にクレハナに行くわ。だったら、最初から行かせた方がいいでしょう?」
「どうしてラーズがクレハナに行くのよ!?」
それを聞いて、セフィリアはため息をつく
「…本気で言ってるの? ラーズは、あなたがクレハナの戦場にいるのに黙って待っていると思う?」
「…!」
「それに、他にもラーズがクレハナに行くべき理由がある」
「それって何?」
「神らしき教団が発掘していた壁画、あれは地図だったの。そして、示された場所がクレハナだった」
「えっ…!?」
「さらに、ラーズが宙の恵みの宇宙ステーションでお世話になったヘルマンさんの息子さん。その居場所を探していたら…」
「まさか、クレハナに…!?」
セフィリアが頷く
「その、まさかよ」
それを聞いて、フィーナが黙ってしまう
もはや、ラーズがクレハナに行かない理由が無い
「…フィーナ、ラーズはクレハナの内戦が終わったら、私たちの前から姿を消すかもしれないわよ?」
「え? どうして、そんな…」
「ラーズは神らしきものの教団を潰したい。そして、大崩壊の調査をしたいって言ったの。そのために、この国を出るべきじゃないかって」
「…!」
「あなたも分かっているでしょう? 今のラーズは、心のどこかが壊れている。どこかで、自分が存在することに疑問を抱いている。だからこそ、自分に生きる資格があるのかを、危険に身を晒して試してしまっている」
「…うん……」
「だからこそ、ラーズを一人でどこかに行かせるわけにはいかないの」
ラーズの手綱を握る
そのために、アイオーン・プロジェクトの名前まで明かした
「でも、ラーズは…」
「いい機会だから、私はラーズを試すことにした。ラーズはクレハナに行かせる。そして、見極めるわ」
「見極めるって、何を?」
「…それはフィーナには関係ないわ。あなたは、ウルラ領の姫としてやるべきことをやりなさい。お互いに全面戦争で負けるわけにはいかないんだから」
「う、うん…」
全面戦争での敗戦
フィーナにとっては、自分のウルラ領とその領民に被害が出るということ
自分自身と実父ドースも処刑される可能がある
セフィリアにとっては、龍神皇国がクレハナへの介入権を失うということ、そして皇国での立場を失うということだ
皇国がウルラ家に肩入れする
それは、皇国が賭けに出たということと同義であり、ウルラ家の敗戦の責任は全てセフィリアが取るということだ
「この内戦は、ジライヤとあなたにかかっている。集中しなさい」
「…」
・・・・・・
俺がセフィ姉の部屋に入ると、ミィとフィーナが来ていた
「あれ、フィーナ? 仕事って言ってなかったか」
「う、うん…、早めに終わったから先に来てたの」
仕事があるって言って先に出たから忙しいと思ってたけど、すぐに終わったのか?
「ラーズ、今日はあなたに大仲介プロジェクトの報酬を渡すわ」
セフィ姉がまっすぐに俺を見る
「え、うん。分かった」
大仲介プロジェクトの報酬
異世界イグドラシルへ行く前にセフィ姉が言っていたこと
報酬はセフィ姉が持つ龍族の強化紋章…、の対となる紋章「竜族の呪印」だ
「セフィ姉。結局、竜の呪印って何なの?」
ミィが口を挟んだ
「竜とは二面性を持つ存在。一つは誇り。ドラゴンであること、自己の存在、縄張りを持つ事への誇りね」
「誇り…」
「そして、もう一つが闘争。竜の怒りは全てを焼き尽くし、敵を喰いちぎる。竜同士の闘争は、周囲を高熱が包み、誰も近づけないほどの闘争心のぶつかり合いとなる」
「闘争…。それって、紋章も?」
「そう。私の龍族の強化紋章はドラゴンの誇りを、そして竜族の呪印は闘争を司る」
「…!」
闘争を司る呪印って、めっちゃ危険な香りがしない?
俺の体を食い破ったりしないよね?
俺の不安を見て取ったのか、セフィ姉が微笑んだ
「ラーズ、安心しなさい。これは普通の呪印じゃないわ。デメリットを内包する代わりに、メリットが大きい物なの」
「デメリットと…メリット?」
「ええ、そうよ。メリットは身体能力の強化。使いこなせれば、短時間とはいえ闘氣やトランスと同等の強化を見込めるわ」
「えぇっ!?」
闘氣やトランスって!
そんな強化が出来たら、俺もBランクに…って、いや待てって
デメリットもなく、そんな超強化ができるわけないだろ
「その反面、デメリットは…、意識が闘争心に飲み込まれる。バーサーカーモードって言うのか、倒れるまで破壊し続けるっていう厄介な性質があるのよ」
「…やっぱりか!」
そりゃ、そういう厄介な性質があるに決まってるよね!
強化が凄すぎるもん!
分かってたよ!
…理性が飛ぶような紋章は、戦場では使えるわけがない
「ラーズ。この呪印は、あなたのトリガーと似ていると思わない?」
「え? いや、まぁ、確かに…」
トリガーも竜の呪印も、理性が飛ぶのは同じだ
戦場では使えない
だから、俺は殺意のスイッチが入った時にトリガーを自覚して抑えるようにしている
理性が飛ばないように、生き残ることに集中できるように
…命に危険が迫ると、気が付いたら全力のトリガーが入ってしまって暴走してる場合もあるけど
「トリガーを特性として使って来たあなたなら、この呪印を使いこなせる可能性があると思うの」
セフィ姉はそう言って、両手を合わせた後に静かに開く
すると、そこにはセフィ姉の額に浮かぶ紋章と似た紋章が浮き上がった
「私の紋章は最強を、この紋章は最凶を表す。…この力は、あなたの目的を達成するために必要なもの。アイオーン・プロジェクトへの参加に、私が提示する条件の一つよ」
「じょ、条件?」
「アイオーン・プロジェクトには、力を持つ者だけしか参加ができない。なぜなら、死ぬだけから」
「…っ!?」
「私もフィーナと同じ考えよ」
「フィーナと?」
「あなたが弱いならアイオーン・プロジェクトには使わない。いえ、使えない。…あなたに死んでほしくないから」
「…」
「私はあなたを試す。…この呪印を使いこなしなさい。そして、クレハナで生き残りなさい。ウルラ家が勝ったその時には、アイオーン・プロジェクトの詳細を教えてあげる。私に実力と存在価値を証明しなさい」
セフィ姉は、俺の目を真っ直ぐに見た
セフィ姉の期待と、そして、その期待に応えられるかという重圧を感じる
嬉しい
俺はセフィ姉にとって、試す価値がある
…そう言われたということだ
「…分かった。その呪印を持って、俺はクレハナに行く。フィーナのために、そして自分のために戦うよ」
「ラーズ…!」
フィーナが呟く
だが、俺にはもう迷いはない
力が欲しい、目的を果たすための力が
復讐、フィーナを守る、セフィ姉の力となる
全てにおいて、純粋な戦闘力が必要だ
セフィ姉は立ち上がって俺の前に立つ
「目を瞑りなさい」
「うん…」
セフィ姉が、静かに何かを呟く
気配で、セフィ姉が呪印を持った両手を頭上に上げたのが分かる
「……我…願う……竜の息吹を……ここに…」
セフィ姉の呟きが不意に途切れる
そして、額に柔らかな感触
えぇぇぇぇっっっ!?
ま、まさか唇!?
セフィ姉の!??
目を開けると、目の前にセフィ姉の顔があった
めっちゃ可愛いぞ!?
そして、フィーナが少しだけピキッてた
「…終わったわ。これで、竜の呪印はあなたのものよ」
「え…、あ、そうなの?」
特に何か変わった感じはしないな
「竜の呪印が馴染んでくれば、発動するようになるはず。それよりも、意図しないで発動した場合が危険よ、理性を失う場合がある。気を付けなさい」
「う、うん、わかった」
いや、でも、勝手に発現したら対策方法あるのか!?
「ラーズ、クレハナは激戦地となる。死なないでね」
「分かった。ちゃんとフィーナと一緒に帰って来るよ」
セフィ姉が頷く
「そうだわ、ラーズ」
「え?」
「ラーズに頼まれていた、タルヤさんの解凍が終わっているわよ」
「え!?」
「そして、ヘルマンさんの息子さんも見つかっているからね」
「は!?」
ついでのように、とんでもない情報が最後に飛び出して来た
竜族の呪印 五章 ~1話 セフィ姉の真意




