五章 ~25話 次のミッション
用語説明w
クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
大崩壊:神らしきものの教団や龍神皇国の貴族が引き起こした人為的な大災害。約百万人に上ぼる犠牲者が出た
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
フィーナ:ラーズと同い年になった恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
大仲介プロジェクトもようやく一段落
パーティーが終わり、俺はお役目ごめんだ
もっとも、セフィ姉やフレイヤ、ユリウス達プロジェクトの当事者はこれからが本番だ
大変だなー…(他人事)
そんな俺は、セフィ姉の部屋である龍神皇国騎士団の副騎士団長室にやってきている
部屋にはミィもいた
「ラーズ、結構飲んでたね」
ミィがウコンドリンクを渡してくる
「サンキュー…、キリエさんに飲まされたんだよ…」
変異体でも、肝機能の限界はあるらしい
頭痛い…
「ラーズ、本当にお疲れ様。大仲介プロジェクトは成功よ」
セフィ姉が微笑む
…俺が帰って来てからセフィ姉は激務だ
さすがに少し疲れているように見える
「結局、俺は何もしていないけどね」
「そんなことないわ。ヨズヘイムとの親交とフレイヤとの仲。ストラデ=イバリでのテロの阻止とユリウスやパイロット達との縁。これらは、龍神皇国にとって宝となるわ」
「な、なんか大袈裟だけど。とりあえず大役が果たせてよかったよ」
外交とはいえ、結局は人間関係だ
利害が絡むとはいえ、いい人間関係、いい印象があれば、お互いに交渉は進みやすい
潤滑油というやつなのだろう
「それで、ラーズの所属は正式に私の権限内に入ることが決まったわ。これからは、私が後ろ盾になるれる」
「ありがとう、よかった」
完成変異体という希少な存在、そして違法施設での出自による立場から、俺は龍神皇国の監視下にあった
だが、二年経って違法施設関連の調査もほぼ終了
そして、俺はセフィ姉の部下として大仲介プロジェクトを成功に導いた
これによって、正式にセフィ姉の管理下に入れることになったのだ
要は、セフィ姉が世話役となってくれれば、俺にもある程度の自由が保障されるということだ
…それなら、そろそろ動き出す時かもしれないな
「いろいろと、この二年間のことでラーズに伝えることがある。でも、先にラーズの希望を聞いておきたいの」
「希望?」
「ラーズの自由は、私がある程度は保障してあげられる。これからラーズが何をしていきたいのか、よ」
「…」
俺のやりたいこと、か…
「私は、ラーズに頼みたいことがある。大仲介プロジェクト以外にもね。すぐにやりたいことが無いのなら…」
「…あるよ。やりたいこと」
俺はセフィ姉の眼を見る
「…それは何?」
セフィ姉も俺の顔を見る
あの施設から脱出した
精神的に追い詰められていた
そして、セフィ姉の、フィーナの、ミィの優しさに救われた
たくさん助けられて、少しでもその恩に報いたくて、大仲介プロジェクトに参加した
だが、俺がやりたいことって何だ?
…そんなことは決まっている
俺の1991を見れば明らかだ
なぜ、1991が青く染まった?
なぜ、リロのMEBのディスクをピンクが使っている?
「神らしきものの教団を潰す…、それだけだよ」
情けないが、あの施設での記憶に潰されかけた
復讐を忘れかけた
だが、その復讐の力であの施設を生き残れた
俺は確かめなければいけない
何で生き残ったのか
どうして、俺が今も生きているのかを
「ラーズ、復讐をしてどうなるの? フィーナはどうするの?」
ミィが、少し怒ったように言う
「…分からない。でも、あの施設から戻って来て、それからずっと感じていたんだ」
「何を?」
「騎士団も、ミィとのクエストも、フィーナとの幸せな時間も。どこか現実感が無かった」
「…」
「ただ夢を見ていただけ。寂しくて、辛くて、とてもじゃないけど我慢できなくて、それで温かいぬくもりの中に身を寄せただけ。…でも、ここは俺の居場所じゃないのかもしれないって」
「そんなこと…」
「もちろん、セフィ姉もミィもフィーナも、俺を受け入れてくれたことは分かる。でも、どうしていいか分からないんだ。仲間を失って、あの血まみれの施設で殺し合って来た俺が、こんな幸せな生活をしていいはずがない。疎外感が消えないんだ…!」
「ラーズ…」
「ストラデ=イバリのテロを止めた時に、はっきりと大崩壊の光景を思い出したよ。俺がやるべきことは復讐、落とし前を付けさせること。…俺は大崩壊の調査を始めたい。そのためには甘えを捨てて、俺は龍神皇国を出て行くべきだと思う」
楽しかった
嬉しかった
幸せだった
でも、ここは用意された場所だ
俺は、自分で見つけた居場所の温かさを知っている
1991小隊という居場所を知ってしまった
騎士団は、俺の居場所じゃない
…ただ、フィーナをどうすればいい?
置いて行く気なのか?
それが出来るのか?
「…ここを出ていくって言うの? フィーナを置いて、私の元も離れるって言うの?」
セフィ姉が、ゆっくりと尋ねる
「………」
分からない
でも、俺はここにいるべきじゃない
…そう感じるんだ
「…ラーズ、あなたの気持ちは分かったわ」
セフィ姉が静かに口を開く
「セフィ姉、ごめん…。勝手な事ばかり言って」
「…それなら、ラーズの目的に沿った選択肢を提示してあげる」
「選択肢?」
「ええ、まずは教団について。私は、対教団の計画を立ち上げている。現在進行形でね」
「対教団…!?」
「名前は、アイオーン・プロジェクト。最終目的は教団の消滅。ラーズの目的と合致するわ」
「…」
教団の消滅?
だが、セフィ姉ほどの人が本気を出しているのなら、誇張ではないだろう
「そして、もう一つ。大崩壊に関わった者についてね」
「…関わった者?」
「大崩壊は、教団だけの力で引き起こされたものじゃない。元皇国貴族のムタオロチ家を筆頭に、何人も関わった者がいる。そして、重要人物がクレハナにいることが分かった」
「クレハナ…」
大崩壊には、クレハナの国営企業ブロッサムが関わっていたことが判明している
ブロッサムに関係者がいることは不思議ではない
「そして、これが私からの具体的なミッション。クレハナの内戦に参加して功績を上げなさい。それが、アイオーンへの参加条件よ」
「クレハナの内戦?」
セフィ姉が頷く
「ラーズがいなかったこの二年間で、一番大きな変化はクレハナ。…間もなく、ドースさんのウルラ家と、ナウカ家とコクル家の連合が全面戦争に突入することになる」
「え!?」
俺が騎士学園の頃からずっと続いていたクレハナの内戦
ついに、全面戦争となるのか
大崩壊と、シグノイアとハカルの戦争を経験したからこそわかる
戦争では一般市民が何人も死ぬ
全面戦争で解決だと考えているのは権力者だけだ
泣き叫ぶ子供の顔を一人でも見れば、戦争が正しいなどとは口が裂けても言えない
「そして、フィーナが正式にクレハナの王族に復帰した。ラーズはフィーナのためにも、クレハナのために戦って欲しいの」
「…は?」
「龍神皇国は、正式にウルラ家の支援につく。そのパイプ役がフィーナ。ラーズが持って帰って来た宇宙戦艦はフィーナに託すことになる」
「…っ!?」
フィーナがクレハナの王家に復帰だと?
何で黙ってたんだよ!?
「ウルラ家がクレハナを制して、ラーズの貢献が認められれば、その実力を証明したということ。あなたをアイオーン・プロジェクトに正式に加入させてあげてもいいわ」
「アイオーン・プロジェクト…」
「あなたの復讐、その為の力と手段をあげる。それがアイオーンよ」
うん、情報量が多すぎる
何だ、どうすればいいんだ?
とりあえずはクレハナか
フィーナに話を聞かないとな
ゾクリ…
「…っ!?」
突然の寒気
目の前のセフィ姉が静かに微笑んでいる
だが、怖い
重い、冷たい威圧感
「…ラーズ」
「え?」
「あなたまで、私の前からいなくなることは許さない」
「…え?」
「あなたは私のパートナーとなるの。あなたは私に必要な存在。そして、あなたも私が必要なはず」
「セ、セフィ姉?」
「…あなたは私のものよ」
ドルグネル家独自雇用者リスト
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
二つ名 トリッガードラゴン
戦闘ランク C+
適正職種 斥候
固有特性
・ナノマシン統合集積システム2.0
・高速立体機動戦闘 ←new!
・近接火力、フル機構攻撃
・サイキック:サードハンド、圧縮ボム
・完成変異体、ドラゴンタイプ
固有装備
・真・大剣1991
・ヴァヴェル(魔属性装備)
・絆の腕輪
備考
・ニーベルングの腕輪装備中
・使役対象二体(外部稼働ユニット、小竜)
・宇宙産兵器所持 ←new!
懸念事項
・トリガーが引かれることでの暴走
※
高速立体機動戦闘
ホバーブーツ+飛行能力+流星錘アームや引き寄せの魔石の駆使した高機動戦闘
固有装備のホバーブーツは同項目と統合
アイオーン 閑話8 クサナギ家 参照
五章終わりです!




