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五章 ~22話 宇宙7

用語説明w

龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中


ワン派のテロは未遂に終わった

首謀者、実行犯達は確保され、とりあえずの危険は去った


「ラーズさん! お怪我はありませんか?」

ユリウスが心配そうに俺に駆け寄る


「怪我はありません、大丈夫ですよ。この流星錘アーム、かなり気に入りました」


「それは良かった。ラーズさんのお陰でテロを止めることが出来ました、ありがとうございます」

ユリウスが頭を下げる


その後ろから、外交官のヘリンとフレイヤがやって来た


「ラーズ、ストラデ=イバリのテロの未然防止に貢献なんて…!。私も鼻が高いわ」

ヘリンが笑顔で言う


ストラデ=イバリに残るヘリンとしては、龍神皇国の人間がストラデ=イバリのために戦ったとなれば印象は良くなる

今後の生活がしやすくなるかもしれない


「ラーズさん、ヨズヘイムに続いてストラデ=イバリでも戦闘に明け暮れたんですかー? 戦闘狂?」

そしてフレイヤが呆れたように言う


「いや、言い方酷くない? どっちも巻き込まれただけじゃねーか」


「まぁまぁ。ラーズさんがすぐに戦闘に出てくれたおかげで早期鎮圧が出来ました。本当に助かったんですよ」

ユリウスが笑いながら言う



ストラデ=イバリが大仲介プロジェクトに参加した理由

異世界イグドラシルにあるヨズヘイムが、宇宙技術を得て戦力の増強を図ったように理由がある


それが、ワープゲート建造プロジェクトの存在だ


俺が一年をかけてストラデ=イバリに来たことで分かるように、宇宙拠点の最大のデメリットはペアという生存圏から距離が離れすぎていること

電波通信でも四十分の時差があるほどだ


お互いの交易にも多大なコストを必要とし、資源のやり取りも厳しい

お互いに欲する物があるにも関わらず、距離という最大の壁が立ちはだかっている


そのブレイクスルーとなり得る技術が、ヨズヘイムが誇る魔導法学技術だ

科学の力ではブラックホール級の力を必要とする空間を捻じ曲げるという現象を、魔導法学の空間属性は簡単に実現して見せる


具体的には、次元を超える転移魔法陣の応用であり、長距離の地点を繋げる、つまり宇宙空間に隔てられたペアと宇宙拠点とを繋げるワープゲートの建造

それこそが、ストラデ=イバリの最終目的なのである


実現すれば、人の交流、物資のやり取りが可能となり、ペアとストラデ=イバリの双方に大きなメリットが得られる



「…だからこそ、ストラデ=イバリがペアに利用される、使い潰されるという懸念をワン派は持っているのです」


「なるほど、一理ありますね」


交易には、デメリットが常に内包する

契約の不履行、犯罪者、禁制品の流入、技術の流出などだ


「それでも、鎖国して外の世界をシャットアウトすることは間違いだと、私達オール派の見解は一致しています。ワン派の意見を分水嶺として、ストラデ=イバリの利益を守りながらの交易をワープゲートで実現したいのです」


「もちろん、龍神皇国もストラデ=イバリの利益を守ることをお約束します。セフィリア様を始め、準備は万全ですわ」

外交官のヘリンが言う


ペア側のワープゲートは、龍神皇国が出資して作り上げるとのこと

今後は、龍神皇国側からストラデ=イバリの位置を計算、その座標に対して空間を繋げることで、短時間だがワープゲートを繋げるようになるらしい




…その後は、テロの後始末であっという間に時間が過ぎた


俺は、残った二日間でMEB操縦の…、というか、単純に柔道とレスリングの技術をパイロットたちに教えた

セフィ姉に柔道やレスリングの動画を送ってもらい、それを教材として残していく


「まずは受け身だ! 頭打ったら死ぬぞ! それと、反復練習、打ち込みのやり方も教える!」


受け身は投げ技の基本だ

教える時間が無かったが、身につけないと大けがするため、この機会にしっかり叩き込む


ストラデ=イバリの打撃技術に組み技をミックス

今後、MEB格闘の戦略が大きく変わるかもしれない


「ラーズさん、ありがとうございました!」

「お、俺達…、俺達でも…、勝てた…」

「私、やっと……」


ダヌイ、アンドり、メリスが泣きながらお礼を言って来た

泣くほどの感動、それは努力量の裏付けだ


「よく頑張ったな」


俺は、三人を誉める

この三人は、褒められるだけの努力をしてきた


「だが、お前達の今回の勝利は、相手が知らない技術を使ったからだ。次は、お互いに投げの技術を持った状態での勝負となる」


「はい…」

三人が不安そうな顔をする


「不安そうな顔をするな。今回の勝利で得た、お前達の一番の報酬は自信だ。投げや組み、打撃、全てを網羅することはできない。順番に、優先順位を決めて磨いていけ」


「分かりました」


「そして、いつかペアにも来てくれ。お前達が知らない技術、知識、そしてお前達しか知らない技術があることが分かる。待ってるよ」


「絶対に行きます!」

「俺達を変えてくれたラーズさんのことは忘れません!」

「ラーズさん、私たちのこと忘れないで!」



ちなみに、太陽系の寿命は後数十億年だと言われている

太陽の核融合の元である水素を使い切って赤色巨星となり、膨張して第三惑星であるペアや、第四惑星の軌道までもを飲み込まれてしまうという


しかし、太陽から距離の遠い、ストラデ=イバリのある第五惑星などは、この時にも巻き込まれずに生き残る

ストラデ=イバリがその時も存在していれば、人類は全ての反応を終えて白色矮星と化した太陽を眺めつつ、生き延びられる可能性があるのだ


ストラデ=イバリを建造した先人たちは、そのために第五惑星の衛星というこの場所を選んだのか…?

いやいや、さすがにな



「今回は時間が無かったのですが、次は巨大ガス惑星である第五惑星の遊覧をぜひ味わって下さい」

ユリウスが言う


「第五惑星の遊覧ですか?」


「はい。ストラデ=イバリが誇る宇宙戦艦で第五惑星の大気に接近、重水素やヘリウムなどの燃料を採取しているのです。巨大な惑星を間近で見られる大迫力の光景は人生観が変わりますよ。ペアでも絶対に見られない景色ですからね」


「それは、ぜひ見たいですね。ワープゲートが出来たら絶対に来ます」


「ええ、楽しみにしていてください」


「ペアにも、ユリウスさんが驚くものはたくさんあると思いますよ」


明日には、ユリウスがヘリンの代わりにペアへの宇宙船に乗る

一週間、早かったな…



そして、いよいよ後一時間後に出発の時間となった

また、冷凍保存(コールドスリープ)でペアに戻ることになる


「フレイヤの仕事は終わったのか?」


「ええ、ばっちりですよー。あらかじめ、ストラデ=イバリとペアの位置関係のデータはもらっていましたから、空間属性魔法陣に入力して調整するだけでした。ただ、通信に四十分かかるため、出口と入口の魔法陣の同時起動が難しいですね。ヨズヘイムではあり得ないことでしたー」


「いや、ペアでもそうそうある状況じゃないよ。ストラデ=イバリの立地が特殊過ぎるんだって」


七億キロメートル離れてるって、どんな状況だよ


「このワープゲートによって、この立地がデメリットじゃなくなるかもしれません。楽しみですね」

ユリウスが言う



コンコン


「…失礼する」


ノックの後、俺達の待合室にサイボーグの男性が入って来た


「ヴァイツ…!」


「ラーズ、出発前に礼を言いたくてな。テロの後始末のお陰でギリギリになってしまった」


「いえ、こちらこそ。被害者が出なくてよかったですね」


「お前のお陰だ。ペアの戦士の実力は私の想像を超えていた、これはセフィリア殿と会うのも楽しみだ」


「え?」


「…まだ先の話だがな。ペアとのワープゲートが開いたら、お互いに人材を派遣することになる。セフィリア殿の所には私が派遣されることになっているのだ。よろしく言っておいてくれ」


「そ、そうなんですね。分かりました、言っておきます」


「ペアの美しい自然というものを見るのが楽しみだ。私達、ストラデ=イバリの人間にとっては、データでしか見たことが無いものだからな」

ヴァイツが目を細める


あの武術の達人のような動きをして見せたヴァイツと、同一人物に見えない発言だ


あの動き、躊躇のない戦略…

もし、レーザーやプラズマ兵器が無かったしても…

もしやり合ったら、俺はあの動きに対応できたのだろうか?



「ラーズ、時間があれば一度手合わせをしてみたかったのだがな」


「…っ!?」


その言葉に、俺は動揺する

ヴァイツに、俺の心の中を見透かされたような気がした


「また会おう。その時は試し合いを」

ヴァイツが手を差し出す


「…俺ではまだ勝てません。その時までに腕を上げておきますよ」


ヴァイツは、セフィ姉やヒルデに近い感じがする

達人の匂いだ



そして、いよいよ出発の時間となった

俺、フレイヤ、そしてユリウスがカプセルに横になる


冷凍保存(コールドスリープ)、開始します。気持ちを落ち着かせてください。…よい旅を」

白衣の技術者たちが、俺達に声をかける


俺達三人は、冷凍保存された後で、それぞれ宇宙戦艦をオーバーラップする

と、言うか勝手にされるらしい


宇宙戦艦を操作するどころか見る事すらできないとは

ま、セキュリティを考えれば当たり前か

それ以前に俺達運び屋に操作する権限があるはずもない



「それじゃ、向こうでー」

「ペアの龍神皇国、楽しみです」

「ダヌイ、アンドり、メリスによろしく伝えてください」


それぞれ、手を挙げてから蓋が閉まった


そして、すぐに意識が遠くなっていった…




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