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五章 ~20話 宇宙5

用語説明w

MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット


試合当日

緊張した面持ちで三人が並ぶ


「緊張するなという方が無理な話だろうけど…。結果は気にしなくていい、思いっきりやってこい」


「でも、ここまでやって勝てなかたら…」

メリスが不安そうに言う


「お前達に必要なことは、格好悪さを受け入れることだ」


「恰好悪さ…」


「勝ち負けを気にせずに喰らいつけ。格好悪くても最後まで粘れ。それが出来るだけの根性は付いたはずだ」


「…!!」


「お前達の努力は俺が分かっている、自信を持って行ってこい」


「はいっ…!!」


三人が、MEBのシミュレーターの準備に入った



「…調子はどうですか?」

ユリウスが、試合を見るためにやって来た


「やれることはやりましたよ」


「それは頼もしい。ラーズさんは教え方が上手いですね、三人の実力が見違えたことは私にも分かりますよ」


「私も落ちこぼれだったので、共感してしまった感がありますね」


今日の試合の相手は、ストラデ=イバリでも実力派の三人らしい


「相手チームの指導者はストラデ=イバリのトップ戦闘員の一人、鉄腕のヴァイツです」


「鉄腕…」


アイアンカップルを思い出す名だ

原子力の力でも使っているのだろうか?


「ストラデ=イバリの技術力の粋を集めた超高性能サイボーグで、小型宇宙戦艦直結のMEBをオーバーラップしています」


「宇宙戦艦のオーバーラップですか、それは凄いですね」


超兵器のミサイルを個人がいつでも撃てる状態にある、それが宇宙戦艦のオーバーラップだ

兵器だけでなく、宇宙戦艦の動力というエネルギーをも使うことができる

実質、エネルギー切れが無い


「ヴァイツは、サイボーグの体を活かした戦闘も得意です。あ、来ましたよ」


ユリウスが指す方向から、選手と思われる三人とサイボーグが一人やって来た

サイボーグの男が口を開く


「ユリウス、さっそく始めよう。彼がペアからの来訪者か?」


「その通りです、ヴァイツ。ペアの龍神皇国から来た護衛官、ラーズです」


「ヴァイツだ、よろしく頼む」


「よろしくお願いします」

俺はヴァイツと握手をする


サイボーグの体を活かした戦闘…、ちょっと見てみたいな


「お前達、ユリウスには悪いがさっさと終わらせろ。終わったらいつも通りの訓練をしておけ」


「はっ!」

ヴァイツが指示をすると、連れて来た三人がシミュレーターに入って行く


…ダヌイ達を全く相手にしていない感じだ


「同期の中でも、ダヌイ達は最弱、ヴァイツのチームは最強です。相手にされないのも仕方がありません」

ユリウスが寂しそうに言う


「…信じてやってください」

俺達は試合が始まるのを待つ


人間という個体に向き不向きはある

だが、それは現状の実力で決まるわけではない

頑張り方を知って、その上で一皮剥けてから判断するべきだ


…三人に叩き込んだ、シグノイアの戦闘技術に驚けばいい

俺には確信がある




そして、試合が始まった



一戦目、ダヌイ


相手のMEBが左右のフックを振り回す

ダヌイは冷静だ


左腕で右フックをガード


そのまま頭突き


右腕で相手の左腕を掴んだ



「そこだ!」


俺はモニターに叫ぶ



聞こえるはずもないのに、ダヌイは反応する


当然だ

この三日間、反復練習をしてきたのだから



上体を右に振る

即座に左に切り返して体重を浴びせて倒す



ゴシャァァッッ!


「うおぉぉぉぉぉっ!?」

「MEBで投げただと!?」

「あれ、ダヌイだろ!?」



浴びせ倒し


会場が沸く

大興奮だ


二機分の体重が掛かり相手のMEBは大破

一戦目は派手な勝利だった




二戦目、アンドリ


MEB格闘は、体格差がない


ハートと技術で勝負が決まる

生身の試合よりもフェアだ



ゴシャッ


ドガァッ


ギャリリリリ…!



激しいパンチの打ち合い

お互いのナックルガードが機体を凹ませて削っていく


「…!!」


そして、タックル!



アンドリのMEBが被弾しながらも相手の胴に組み付く


押し込まれた相手のオートバランサーが前に重心を移動



「うおぉぉぉっ!」


「なっ!?」



相手のMEBがアンドりのMEBに担がれ、そして地面へと…


ガッシャァァァァァァッッッ



裏投げ


肩に担ぐようにして背中側に引っこ抜いて投げる


身長の高いMEBの肩から落とされれば、スクラップは必至

これまたド派手な勝利だった



「お、おい…、何が起こったんだ?」

「落ちこぼれがヴァイツのチームに二勝だと!?」

「まさか手を抜いて…? いや、今日は落ちこぼれの動きが違う!」



三戦目、メリス


女と男を比較すると体力差がある

だが、MEBではその差はない

心と集中力の勝負だ



パンチを連打しながら前に出て来る相手MEB



ガッ ガッ ドガッ!



腕でガードしながら下がるメリス

そのまま押し切ろうとパンチを続ける相手


このまま勝てると思っただろう?


狙ってたんだよ!



ゴガッ!



左腕を外から回して叩きつける中段受け

相手のパンチを捌くと同時に腕にダメージを与える


そして、その腕を掴んで体の回転に巻き込む

メリスの体重を浴びせるように、相手MEBを巻き込む



ゴッシャァァァァッ!


大外巻き込み



大外刈りのように、足をかけることはMEBにはできない

下半身はほぼオートバランサーに依存していて、パイロットは歩幅や膝の曲げくらいしか制御できないからだ


だが、体重を浴びせれば投げることはできる


重いMEBが自分の上に落ちて来る

地面とのプレスで、MEBの腹部は大きく凹む


そして、メリルのMEB倒れた相手に拳を何度も叩きつけて決着がついた…



「ま、ま、ま、まさか…! あの子たちが全勝するだなんて…」

ユリウスが呆然とモニターを見つめる


ふっ、そんな大したことをしてはいない

柔道や相撲、レスリングの技をいくつか教えただけだ


ストラデ=イバリのMEB格闘技術は打撃に特化している

実際、その練度はペアでも上位の方だろう


だが、投げに対する警戒心が薄い…、どころか無いに等しい

弱点があるならしっかり付け込ませてもらう、それは兵法の基本だ


案の定、この結果だ



「ラーズさん! 俺達、やりましたーーー!」

興奮してシミュレーターから出て来る三人


「よくやった、ばっちりだったな!」

俺は、三人に手を挙げた


ユリウスも、やっと現実に戻って来て三人を出迎える

さ、ねぎらいの言葉をかけて祝勝会だ


そう思った時…



ドッガァァァァァァァァァァァン…………


「えっ!」 「きゃっ!?」 「うわっ!」



大きな爆発音が響いた




・・・・・・




俺はヴァイツの後ろを走ってついていく


「この先だ!」


ヴァイツが指す方向には、ストラデ=イバリのオール派の軍隊が集まっていた


レーザー

レールガン

プラズマランチャー


すげーな、SF武器のオンパレードだ



先ほどの大爆発

ダヌイ達の相手が暴走でもしたのかと思ったが、全然違った


どうやら大規模なテロが起こったらしい


テロの首謀者はワン派の過激派

ストラデ=イバリの大仲介プロジェクト破棄を訴えての行動だ


すでに、この先の区画を占拠された

隣の区画に手を出される前に鎮圧する必要がある



「ラーズと言ったな。ペアの使者に頼むのは心苦しいが、すまない。テロ鎮圧の手伝いをしてほしい」

ヴァイツが言う


「ヴァイツ! ラーズはここに戦いに来たわけではありません! 戦わすなんてそんなこと…!」


ユリウスが口を挟むが、ヴァイツは首を振る


「ワン派は本気だ。亜光速荷電粒子砲を持ち出して来た」


「な、何だって…!?」



亜光速荷電粒子砲


重金属粒子を亜光速にまで加速、ビームとして発射する大量破壊兵器だ

光速に近い速度まで粒子を加速するには膨大なエネルギーが必要となる


そして、そのエネルギーを速度に変えた粒子が発射されるとどうなるのか?


凄まじい速度でぶつかった粒子は、その対象と核融合反応を起こして大爆発する

発射されたら最後、ストラデイバリの区画が十個以上は消滅することになる



「ス、ストラデ=イバリが吹き飛ぶってことか!?」

俺は、思わず口を挟んでしまった


「そうだ。大仲介プロジェクトどころか、ストラデ=イバリの維持に問題が起こる可能性がある。お前はペアから選ばれた兵士なのだろう? 一人でも戦力が欲しい、力を貸してくれ」


大仲介プロジェクトの成否は、セフィ姉の今後の人生を左右する

絶対に成功させなければいけない


それなら、俺はできることをやろう


「…分かった。作戦を教えてくれ」


「感謝する、さすがセフィリア殿が寄こしただけのことはある」


そう言って、ヴァイツは俺を連れてテロ現場へと向かった



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― 新着の感想 ―
[一言] こ、これにはビックリだぜぇ… 亜光速荷電粒子砲なんてめちゃくそ物騒なもん持ってくるなんて…撃ったら結果的に自分たちにもいい事にはならんだろうに……
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