五章 ~17話 宇宙2
用語説明w
ペア:太陽系第三惑星であり、惑星ウルと惑星ギアが作る二連星
ストラデ=イバリ:ペアのある太陽系の第五惑星にある第二衛星に作られた宇宙拠点。核融合や宇宙技術など独自の科学文明が発達している
流星錘:三メートルほどの紐の先に、細長い重りである錘が付いた武器。錘にはフックが付いており、引っかけることもできる
厳重なセキュリティで固められた廊下の先の部屋
中には通信機器とモニターがあった
「この部屋は大仲介プロジェクト専用の部屋です。実質、セフィリア様との専用通信となっていますね」
ユリウスがモニターの前に座る
「この部屋でセフィ姉と話してたんですね」
ユリウスがセンサーに目を近付ける
どうやら、虹彩認証のようだ
「話すとは違いますね。ここ、ストラデ=イバリとペアとでは、光の速度でも四十分ほどかかります。時間差がありすぎて、まともに会話が出来ないのです」
「そ、そんなにかかるんですか…!」
つまり、俺がセフィ姉に電波を通して話しかけると、四十分後にやっと届くという訳だ
「ですので、文面でのやり取りとなります。全員が無事に着いたとお伝えしておきます」
ユリウスはメッセージを送ると、今度は俺達を指令室のような広い部屋に連れてきた
「ここがストラデ=イバリの政治の中枢です」
ユリウスが案内した先には、一人の初老の男性がいた
「こちらが、ストラデ=イバリの最高指導者、グスタフ総統です」
「龍神皇国外交官ヘリンです」
ユリウスの紹介で、ヘリンが挨拶をする
そんな俺達を一瞥して、グスタフ総統が頷いた
「大仲介プロジェクトは、今後のストラデ=イバリを大きく変えることになる。よろしく頼む」
「はい、お任せください」
ヘリンが頭を下げる
…龍神皇国やヨズヘイムに比べると、あっさりと挨拶が終わった
質実剛健、これが俺が受けたストラデ=イバリの印象だ
しかし、大仲介プロジェクトへの熱意はヨズヘイムと変わらない
ストラデ=イバリにとって空間属性魔法陣は、まさに生活を変えるものとなる
・・・・・・
「私は職場を見てくるわね」
謁見が終わると、ヘリンはストラデ=イバリにある在外公館に行ってしまった
「私は魔法陣の設置と起動実験ですー」
そして、フレイヤはすぐに技官としての仕事を開始
ペアから持ってきた巨大魔法陣の描画と設置、そして起動実験を開始するらしい
ヨズヘイムの時と同じだ
俺だけが残されてしまった
護衛って、ついてしまえばあんまり仕事がないもんな…
「ラーズさんは、私達のラボを案内しますよ」
「ラボですか?」
「セフィリア様の許可を得られました。ラーズさんのナノマシンシステムを見せてください!」
「おぉぅ…、急にぐいぐい来るな」
技術屋の振れ幅は、異世界も宇宙も関係ないらしい
「そして、ちゃんとお礼もします! 私がラーズさんの武器を作りますよ!」
「…ストラデ=イバリの武器?」
「私がラーズさん専用の武器を作ります。こう見えても、ペアに派遣されるほどの技術者です。私のオーダーメイド武器は、はっきり言って貴重です」
「…商談成立ですね。セフィ姉の許可があるなら断る理由はありません」
ストラデ=イバリのオーダーメイド武器だと?
つまり宇宙兵器ってことか!?
欲しいに決まってるじゃねーかぁぁぁぁぁ!
俺達は、ラボとやらに向かった
ストラデ=イバリは、第五惑星の第二衛星に作られた宇宙拠点
なぜ、この第二衛星が選ばれたのか
それは、この第二衛星には豊富な水が存在したからだ
分厚い氷と、その下には液体の水でできた海が存在する
ストラデ=イバリはその海の底に作られているのだ
水は生命の維持に不可欠、そして電気分解を行うことで酸素を取り出すこともできる
「はぁー、ここは第二衛星の海の底なんですか…」
「ここ第二衛星の地上は気温がマイナス百度を下回り、また第五惑星が作る強力な放射線に曝されているため拠点を作るには向いていません。宇宙船の発着施設があるだけですね」
「なるほど」
当たり前だが、ここは太陽から遠く離れた第五惑星圏内
太陽の光も弱く、大気も薄いんだな
「では、ここに寝て下さい。ナノマシンシステムを見させて頂きます」
ユリウスが示したカプセルのような物に、俺は横になる
キュイィィィ…
カプセルの周囲を何かの機械が動き回っている
MRIみたいな感じ検査をしているのだろうか
「ほぉー…」
「ふひひひっ…」
「フン…フン…」
いや、鼻息!
ナノマシンシステム見て興奮すんなよ!
「………ラーズさん、ナノマシンシステムには成長段階があるんですよね?」
「え、えぇ…、2.0と2.1がありますね」
「まだ未発現なんですか?」
「現在は2.0が発現してます。ただ、昔は2.1も発現してましたよ」
「昔?」
「俺は変異体因子が発現した影響で体を再構成してるんです。その影響でナノマシンシステムがリセットされてしまって」
「そういうことですか…」
「ストラデ=イバリではナノマシン技術を使ってるんですか?」
「いえ、閉鎖空間のためグレイ・グーのリスクが高過ぎて禁止されてるんですよ」
ユリウスが残念そうに言う
グレイ・グー
ナノマシンの自己増殖性が暴走、人類の制御を離れて環境に重大な影響を与えるという現象
ストラデ=イバリは第二衛星の海底の底にある密閉空間だ
確かに、グレイ・グーが起こったら、すぐに壊滅する可能性があるな
「その代わり、有機高分子ロボット工学が発達しています。宇宙技術に次ぐ、ストラデ=イバリの特色技術の一つですね」
「有機高分子ロボット?」
有機高分子ロボット工学
簡単に言うと、炭素をメインに使った自己増殖するロボットのことだ
基本設計を終えると、次々と自己増殖しながら作業を始める
これを応用することで、海底の土木工事、ポリマーを生産して壁を作り海底の居住空間の拡張、水のろ過、電気分解…、等の作業を自動で行うことが可能となる
人類の生活環境を他の天体に作り出す
これは、テラフォーミング並みの資源と膨大な労力が必要になる
工場で機械を作っていてはとてもじゃないけど間に合わない
自動でで素材やエネルギーを探し、自己複製も行う
あたかも、生物のような挙動をするロボット
この技術を使うことで、ストラデ=イバリは徐々に規模を広げているのだ
「終わりました」
そんな説明をしながらも、ユリウスは検査を終えたようだった
「すごいですね、初めて見る技術を一瞬で理解してしまうなんて」
「いえ、セフィリア様からラーズさんのナノマシンシステムのマニュアルデータを送ってもらっていたんですよ」
「え?」
「ラーズさんがペアを出発して一年、セフィリア様からいろいろとお話を聞きましたよ」
「あー…」
俺のナノマシンシステムは、ペアの企業が開発して市販もされている人体強化システムだ
確かにマニュアルくらいはすぐに手に入るか
「ラーズさん、大変興味深い技術をありがとうございました。最後に、ナノマシンシステム2.0を見せてもらえませんか?」
「ええ、分かりました」
ギュイィィィーー…
俺はナノマシンシステムによる身体強化、2.0を発動する
「おおぉぉっ!? これは肌の高質化…」
「アーマーを着れば、装甲と癒着して防御力が上がります」
「筋肉にナノマシン群が入り込んでいる!?」
「それで筋力の出力を補強します。骨や靭帯も同様に補強して頑強さも上がります」
「素晴らしい…! 贅沢を言えば2.1という段階も見たかった…」
「ユリウスさんはペアに来るんですもんね? 2.1が発現したら見せますよ」
「ありがとうございます!」
ユリウスは満足そうだった
スサノヲとも話が合いそうだが、純粋な技術屋と武器職人じゃちょっと系統が違うのかな
次は、ユリウスの案内でちょっとした研究室のような部屋にやって来た
「お疲れ様でした。次は、約束した通りにラーズさんの武器を設計しましょう」
「ありがとうございます。ストラデ=イバリ産の武器だなんて、期待しちゃいますね」
「任せて下さい、どんな武器がいいですか?」
武器か…
ストラデ=イバリといえば宇宙技術だしな
「レーザーガンとかレールガンとか、個人で使える高火力兵器とかもいいんですか?」
「私は構いませんが、あまりお勧めはできませんね」
「どうしてですか?」
科学が作り出した兵器と言えば、もちろん銃だろう
そして、宇宙技術を使えば超高火力兵器となるだろう
だが、兵器にはメンテナンスと補充が不可欠だ
構造が複雑な兵器を、メンテ設備のないペアで使い続けることは難しい
更にペアでは大量殺戮兵器に該当してしまい、使用が条約で禁止もされているのだ
「…と、言うわけですね」
「理解はできました…」
マジかー、悔しいな
「有機高分子ロボット工学を使ったものならメンテナンスは要りませんよ?」
「どんなものが作れるんですか?」
「うーん…。私のお勧めは、自己生成する爆弾ですかね? それぞれ違う機能の物を一セットにできますよ」
「なんですか、それ。めっちゃ欲しいです」
「分かりました。ちょっと時間がかかりますが、ここを出発するまでには用意します」
「楽しみにしてます」
勝手に補充されるハンドグレネードみたいなもんか?
完全にチートじゃねーか!
さすが宇宙だよ!
スゲーよ!
「他には、例えばラーズさんがいつも使ってる武器とか…」
「銃以外だと、大剣、小型杖、モ魔、ホバーブーツ、ナイフ、流星錘…」
「流星錘?」
ユリウスが喰い付いたのは、紐に重しを付けただけの原始的な武器だった




