閑話15 フィーナの忍術修行
用語説明w
魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力じんりょく、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと
魔力:精力と霊力の合力で魔法の源の力
輪力:霊力と氣力の合力で特技の源の力
闘力:氣力と精力の合力で闘氣の源の力
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが
ラーズが宇宙に行って行ってしまってから、一年の月日が経った
ボボォォーーーーーーッッ!!
巨大な火炎がモンスターの群れを焼き尽くす
火属性範囲魔法(大)、それもかなりの熱を込められた魔法だ
「凄い…」
ミィがその光景を見て呟く
「ドローン画像で確認、スタンピートは停止しました。生き残ったモンスターが散っていきます」
オリハが索敵を行いながら報告する
ある山間で起こったスタンピート
今回は虫系のモンスターが暴走を起こしていた
スタンピート
何らかの理由でモンスターの集団が暴走状態になること
多数のモンスターが勢いよく押し寄せるため、町が壊滅することもあるほどの危険を孕む
今回は、王の蟲と呼ばれるモンスターが他のモンスターを引き連れて暴走状態となった
王の蟲は、固い甲殻に光る眼を複数持つ芋虫のようなモンスターだ
今回は体長は二メートルほどだったが、成長した個体は十メートルを越す
成長した個体が集団で襲ってくる様は、あの有名なシーンのようで…、いろんな意味でまずい
「お疲れさん、フィーナ。魔法の威力がめちゃめちゃ上がってるじゃない!」
ミィが声をかける
「さすが、仙人としての人体強化を成し遂げただけありますね」
オリハは、スタンピートの調査と処理の部隊を要請しながら言う
「うん、無事に止められてよかった。とんでもない突進力だったね…!」
フィーナは微笑む
この三人の騎士で止められなかった場合、後ろに控えるのは防衛のための一般兵の部隊だ
戦車とMEBでがっちり固める陣を敷いているが、受け止めた場合は死傷者が出ることは間違いなく、下手するとその後ろの民家や道路にまで抜かれてしまう可能性もあった
今回は比較的小規模なスタンピートだったこと、前衛部隊の波状攻撃で数を減らせたこと、そしてフィーナの範囲魔法(大)のおかげで何とか勢いを止めることが出来たのだ
後ろでは、三人の騎士の活躍に大歓声が起こっている
フィーナは仙人としての修行を終えた
丸一年、騎士としての仕事を休んで集中して取り組んだ成果だ
これは、ラーズの変異体に負けない身体性能を手に入れたということだ
ちなみに、仙人は一生をかけてもなれない者はなれない
一年で仙人となったフィーナは、やはり天才だったと言わざるを得ない
「新しい杖はどうなの?」
ミィが言う
「うん、高いだけあっていい感じ。スサノヲに頼んでおいてよかったよ」
フィーナは、羽衣という氣力を通す宝貝という武器を使っている
時に硬化させて近接武器や防具として使え、更に羽衣の先端に魔玉が付いており、魔法強化の杖としての機能を併せ持っている
そして、更に今回は杖を持っている
ミスリル銀と幻獣カーバンクルの宝玉が使われたマジックロッドで、高い魔法強化能力を持つ
マジックロッドで魔法を構成し、羽衣の魔玉で強化するブースト魔法という使い方だ
魔法構成と魔法強化という二つの処理を行うことで、発動時間は長くなるが魔法の威力を大幅に強化できる
魔法を二つ使うよりも発動時間と使用魔力を抑えられるのだが、繊細な魔法処理を必要とするため習得は難しい
「仙人としての魔力の強化、そして二つの武器によるブースト魔法。フィーナは大魔導士として壁を一つ破りましたね」
オリハが言う
「…これだけじゃ、まだ足りないわ。セフィ姉とヒルデは、もっともっと強かったから」
「あの人たちは別格じゃない? 同じに考えちゃダメでしょ」
ミィがスーラをプニプニしながら言う
スーラは海の力を持ったオーシャンスライムというスライムだ
小さい見た目の割にとんでもない量の水分を内包し、海の生物を模した体系を取ることができる
「フィーナは、クレハナのことを考えているのでは?」
オリハが、コスモに指示していた演算を結果を受け取りながら言う
コスモとは、龍神皇国が運用している量子コンピューターだ
この量子コンピューター内で使用されているAIは、演算処理を繰り返すうちに特異性を生じ、現在では自我のようなものを獲得している
便宜上、この自我の固有名詞としてコスモという名前が与えられた
コスモはオリハとの相性が良く、時に無個性の量子コンピューターよりも正確な予測を成し遂げることもある
よって、オリハとコスモは常にリンクされている状態であり、オリハは騎士団経由で来る演算依頼をコスモと共に処理し続けている
ある意味、コスモはオリハの使役対象と言っていいのかもしれない
そんな、とんでもない使役対象を持つ二人を見て、フィーナはため息をつく
力が欲しい
クレハナの内戦を終わらせられる力が
少なくとも、少しでも被害を抑えたい
…フィーナは、仙人としての修行を終えるとすぐに次の修行に入った
その修業とは、忍術の修行
正確には遁術の修行だ
フィーナは、クレハナに行っては修行をするようになったのだ
「フィーナ姫、意外だったぞ。クレハナと忍術を嫌っていると聞いていたからな」
五遁のジライヤが言う
フィーナは、ウルラ領の領主であるドースの意向もあり、ウルラ一の忍術使いであるジライヤに師事したのだ
「嫌いなわけじゃないわ。他にやりたいことがあっただけ」
「ふむ、わしはどちらでも構わんがな。ウルラのために力を使ってくれると言うならば協力は惜しまん」
「…お願いします」
遁術とは、刺青のように術式を肉体と霊体に書き込むことで発動する特技だ
輪力を使って発動する点は、通常の特技と変わらないが
しかし、術式が輪力の回路となっているため、複雑な特技が短時間で発動するというメリットがある
その代わり、書き込んだ術式以外の遁術は当然発動しないため、自由度は低くなる
通常は、書き込んだ術式に対して一つの属性の遁術が発動する
術式の面積は遁術の内容により変わり、複数の術式を書き込むことも可能
例えば、右手に土属性の遁術、左手に水属性の遁術、なんて書き込み方ができる
だが、書き込む属性によってはお互いに干渉し合って出力が落ちる可能性もあるので注意を要する
この術式は刺青のようなもので、一度書き込んだら消すことは難しく、他の術式に書き直すことはさらに難しいため、書き込む術式は慎重に選ぶ必要がある
「フィーナ姫は騎士としてやって来たのだろう? 特技の心得もあるのだよな」
「ええ、一応は」
「それなら、チャクラ…輪力の練り方はわかっているだろうから、そこは省く。フィーナ姫に伝授するのは複合遁術だ。どれがいいか選べ」
複合遁術
複数の属性の遁術を組み合わせt発動する遁術
その組み合わせは数多の組み合わせから選び抜かれた一族秘伝の術式であり、通常の遁術とは威力、効果共に一線を画す
当然に術式の面積は広く、緻密な図形となるため、書き込むことに時間と労力がかかる
さらに、発動難易度も高く、習得するためには膨大な時間が必要となる
ジライヤが示した複合遁術は…
「花遁」、「空遁」、「雲遁」、「爆遁」の四つだった
「どれも秘伝の名にふさわしい、素晴らしい効果であることは保証する」
「…どんな効果なの?」
「本来は、効果も含めて秘伝なんじゃ。お主だからこそ伝えるのだからな」
ジライヤはため息をつきながらも説明をした
花遁
土属性と水属性、そして火属性と聖属性を複合させた遁術
植物を爆発的に成長させ、周囲の環境さえも変え得る力を持つ
戦闘にも町の制圧にも使える遁術だ
空遁
風属性、重力属性、力学属性、雷属性の複合
空を高速で飛ぶことに特化した遁術で、空だけでなく陸や海上も高速で移動できる
移動力は戦争の結果を左右するほどの力を持ち、特に戦闘力の高い者が移動力を得た時の効果は計り知れない
雲遁
風属性、水属性、冷属性、火属性、霊属性の複合
自身の体を雲と化すことで攻撃を避ける事が可能、一瞬だけ無敵となれる遁術
しかし、雲を巻き散らされると自我を失って霧散するというデメリットもあり使いどころが難しい
爆遁
風属性、火属性、土属性、雷属性の複合
その名の通り爆発を司る遁術
素手で戦車並みの爆発を巻き散らせ、燃料を併用すればナパームなども作り出せる、戦場を席巻できる能力だ
「うーん…、この中のどれかを選ぶのね」
フィーナは悩む
複合遁術の術式は体全体に及ぶので、習得できるのは一つだけだ
「わしは爆遁か花遁がいいと思うがな」
「爆遁は魔法でも同じことができるわ」
「爆遁と魔法でさらに巨大な爆発を巻き起こせるじゃろう」
なるほど、特技を使って火力を強化するのか…
それとも、他の能力にして汎用性をだす方がいいか…?
「…花遁は?」
「お主のような可憐な姫には花が良く似合う」
「はぁ?」
「それに、種子を持ち歩けば好きなだけ武器が作り出せるのじゃ。爆発にも負けない力だと思うぞ?」
ジライヤはニヤリと笑う
…ラーズが帰って来るまで、あと一年
クレハナの内戦は激化の一途をたどっている
フィーナはジライヤの元で忍術を学ぶ
仙人とブースト魔法に引き続き、複合遁術を身につけるために
ジライヤ 閑話12 内戦と密会