五章 ~13話 壁画の正体
用語説明w
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える
「じゃ、フレイヤ。出発の時にな」
「はいー」
フレイヤが宿泊施設に行ってしまうと、セフィ姉も立ち上がった
「ラーズ、私は仕事があるからこれで。明日の出発の時にまた会いましょう」
「うん、分かった」
セフィ姉は大仲介プロジェクトの中心人物だ
前半の異世界編が終わったばっかりで、今は死ぬほど忙しいのだろう
省庁の方に向かうと言うのでここで別れて、俺は待ち合わせ場所に向かった
待ち合わせの相手とは、フィーナとミィだ
俺は大仲介プロジェクトが途中のため、機密保持のためにこの宮殿から出ることが出来ない
そこで、フィーナとミィが会いに来てくれることになっている
…次に俺がペアに戻るのは二年後だ
絶対に会っておきたい
俺は指定された部屋に案内された
「凄いな…」
「ラーズ、こんなところに泊まるのかよ!」
俺が泊まるのは、本来は国賓が泊まる豪華な部屋だった
外に出られない俺の、一泊だけのご褒美らしい
「ミィさんとフィーナさんは、まだ来てないみたいだな」
「待ってる間に、装具の練習でもしてるか」
スサノヲが豪華なベッドでコロコロし、テーブルの上のウェルカムフルーツをむさぼり始めるのを尻目に、俺はニーベルングの腕輪に精力を込める
溜まった俺の霊力と氣力が、精力に干渉する
腕輪に精力が入りづらく、この抵抗が霊力と氣力だ
チャクラ封印練で削がれた霊力と氣力のセンサーをゆっくりと探し出す
「…」
じっくり続けていると、人が近づいて来る気配を感じた
コンコン
ガチャッ…
ノックと共にドアが開けられて、二人の女性が入って来る
「あ、ラーズ、スサノヲ。ここであってたのね」
「お帰りなさい…」
ミィとエマだった
「あ、来てくれたんだ」
「ラーズには今日会っておかないと、次に会えるのは二年後だもの。そりゃ来るわよ」
俺は明日、宇宙に旅立つ
ウラシマ効果ではないが、冷凍保存で寝ている間に二年の月日が経っている
不思議な気分だ
俺達は、今日のうちに必要な話をしておく
「俺がイグドラシルに行っている間に何か変わったことはあったのか?」
「面白いことなら分かったわよ」
ミィがドヤ顔をする
「何?」
「真実の目の遺跡の調査結果」
「え、知りたい。何が分かったの?」
「これよ」
ファブル地区、マイケルさんが持つ里山の中の遺跡
真実の目と呼ばれる四千年前の謎の集団の遺跡だ
神らしきものの教団が狙っており、激戦の衝撃で崩落した
これから再発掘を行う予定だ
遺跡には、真実の目のエンブレムと壁画が描かれていた
「あの遺跡の壁画なんだけど…」
ミィがプリントアウトした画像を取り出す
これは、ミィがあの遺跡で撮影した壁画の画像だが、光量が足りずに真っ暗な画像になってしまった
再発掘がまだ始まっていないため、壁画の全容はまだ分からない
しかし…
「掘り出す前に壁画の内容が分かっただと…!?」
なんと、この画像を鮮明化したとこで、壁画の内容を読み取ることができたのだ
…どうやら、この壁画は地図であるらしい
どこかの地点を示しているのだ
「その地図が示す地点は、どうやら現在のクレハナのようなの。まだ、おそらく、と言う段階だけど、発掘を任せる予定のバビロン教授は間違いないと言っているわ」
「クレハナ…」
「クレハナは内戦が続いているし、簡単に行くわけにもいかない。だから、残念だけどしばらく様子見ね」
ミィがため息をつく
「そっか…。いつか発掘まで持っていけるのか?」
「ラーズが宇宙に行っている間に再発掘も終わる予定だし、クレハナの詳細な地点を特定しておくわ。そして、資金集めと発掘隊の編成、クレハナの官僚とのパイプ作り、現地調査の許可を取って…。やること多いなー!」
ミィが両手を挙げる
「そんなに出来るのか?」
「エマとスサノヲに手伝ってもらうつもりよ」
「エマとスサノヲに?」
二人に発掘の許可を得る手伝いなんて出来るのか?
どっちも技術屋だし、そんなイメージ無いけど
「二人は鍛冶関係のギルドと医療関係の学会に人脈がある。それに、いろいろと商品を作ったり手に入れられる。資金に関しては、二人に頼る部分も多いし心強いわ」
「任せてくれよ」 「頑張る…」
スサノヲエマが頷く
「そうなんだ…。それじゃあ、もしかして俺が戻ってきたらクレハナに発掘に行ける可能性も?」
「自分は何もやれないくせに、簡単に言わないでよ」
ミィが口をとがらせる
「うぐっ…、それは申し訳ない。って、しょうがないだろ!?」
「まぁ、それは別にいいんだけど。それよりも、提案があるのよ」
「何?」
ミィ、エマ、スサノヲが俺を見る
いや、何なんですか?
「ラーズ、戻ってきたらあたしたちと会社を興さないか?」
スサノヲが最初に口を開く
「会社?」
いきなりすぎない?
「私達三人には、それぞれ目的がある。スサノヲの鍛冶に使える素材の収集、エマの薬学の研究と素材収集。私は資金集め。そして、ラーズは神らしきものの教団の情報集めと発掘作業」
ミィが続ける
「うん、それは分かるけど」
「だから、手段と利益を共有するための会社を立ち上げればいいって…」
エマも言う
「やるとしたら何の会社?」
「薬草や鉱石などの資源の調査会社って所かな。情報を売ったり出来るし、そのままスサノヲとエマの求めるものが手に入る。そのためには、優秀なレンジャーがいるわ」
ミィが説明する
「俺はセフィ姉の私兵だから、そんなに時間は取れないかも知れないぞ?」
「この会社もセフィ姉には許可を取る。必要なら騎士団の依頼も受けるし、クサナギ霊障警備や、他のセフィ姉の私兵とも協力できるかもしれない。私達全員の報酬は、それぞれの目的達成の手段よ」
「…」
現状、俺の一番の目的は発掘だ
目の前に、教団が狙った何かがあるからだ
教団の壊滅は当然狙っていくが、すぐには無理だ
出来ることを一つ一つやっていく
そのために、ミィの提案は魅力的かもしれない
何より、全員が気心が知れた仲間だ
…1991小隊のやりがいと楽しさを、また味わえるかもしれない
「まぁ、まだ構想段階だし、ラーズが帰ってこないと無理だから。宇宙にいってる二年の間に考えておいてよ」
「いや、俺にとっては一週間しかないんだけど!?」
どうやら、この会社の話は俺があの施設にいた頃から考えていたことらしい
利益を追求する商社でもあり、目的を同じくする結社でもある、定義が曖昧なチームだ
「…私は、ラーズは闘いや復讐よりも、好きなことを探した方がいいと思ってる」
「…簡単に言うなよ」
ミィ達との会社
それぞれの目的のための共同体
俺は、ミィ、スサノヲ、エマの、それぞれの好きという情熱を尊敬している
お互いに力を認め合った仲間に、正直なところ魅力も感じる
大学の頃に知った「真実の目」を純粋に追いかけたいと言う気持ちもある
解明されていない考古学の謎の糸口が、今俺の目の前にあるのだから
だが、復讐は俺が生き残ったことを許してくれる唯一の理由だ
俺だけが生き残ってしまった
そして、あの施設で何度も手を汚した
…俺は死にたくなかった
復讐を理由に全てを正当化してきた
この理由と目的が無ければ、俺は生き残った罪悪感と無力感で潰れる…、という確信がある
そして、あの大崩壊の地獄絵図
1991小隊が壊滅したあの日の光景
俺には復讐をする理由がある
あの教団を叩き潰す権利がある
そして、権利であると同時に、俺は復讐をやり遂げなければいけないという義務でもある
…俺に、1991小隊のような充実感を持つ資格なんてあるはずもない
そんな俺の様子に、ミィがため息をつく
「この会社や発掘に関しては、フィーナには内緒にしておいて。クレハナの情勢はかなりよくないし、気を使わせたくないから」
「そっか…、分かった」
確かに、クレハナの問題はフィーナにとって大きい
簡単に俺たちが言えることではないし、踏み込むことも出来ない
間もなくフィーナが来るらしい
それまでは雑談を楽しむ
「ミィ、ヤマトは?」
「相変わらずクレハナよ。内戦も続いているから」
「結局、まだ会えてないんだよな…」
「会えるのって、早くても二年後ね」
「エマ、ロンは大丈夫なの?」
「ロン君、試合まで集中したいって会ってくれなくて…」
「それは寂しいね」
「ええ…、でも大切な試合だから…」
「俺が帰って来るまでにチャンピオンになっとけって言っておいてよ」
「スサノヲ、クシナダは?」
「今日、御馳走作って待ってるって」
「主夫かよ」
「異世界帰りの嫁を待ってるんだ、いい奴だろ」
「嫁って、お前…」
「どうせ、いずれ結婚するつもりだしいいだろ」
「えぇっ!?」
そんな話をしていると…
ガチャッ
「ラーズ!」
フィーナと、その後ろにピンクの姿があった
発掘調査 四章 ~45話 発掘の延期 参照