五章 ~12話 異世界からの帰還
用語説明w
ヨズヘイム:ペアと次元が重ねる異世界イグドラシルにある王国。転生技術や転移魔法陣などの魔導法学が発展している。三国戦争ラグナロクの真っ只中
ストラデ=イバリ:ペアのある太陽系の第五惑星にある第二衛星に作られた宇宙拠点。核融合や宇宙技術など独自の科学文明が発達している
セフィリア:龍神皇国騎士団の団長心得。B+の戦闘力を持つ。ラーズの遠い親戚で、五歳年上の憧れの竜人女性。使役対象は、生きたアイテムであるヴィマナ
魔法陣の光が収まる
「…」
ゆっくりと目を開けると、目の前には見慣れた姿があった
「セフィ姉…」
「お帰りなさい。ラーズ、スサノヲ」
セフィ姉だった
俺達に声をかけると、後ろにいるヨズヘイムの二人を見る
「ようこそ、ペアの龍神皇国へ。騎士団団長心得、セフィリアです」
「ヨズヘイム外交官、フレイと申します」
「ヨズヘイムの魔導技官、フレイヤですー」
セフィ姉は短く挨拶を交わすと、廊下を案内した
「どうぞ、こちらへ。皇帝陛下にお目通り頂きます」
フレイとフレイヤを連れて全員で、謁見に間へと移動
皇帝陛下との謁見
フレイとフレイヤが、それぞれ挨拶をする
その後、俺は龍神皇国外交官であるナジムから受け取った書状を皇帝陛下に渡した
「ヨズヘイムへの遠征ご苦労であった。大仲介プロジェクトの後半、宇宙遠征もよろしく頼む」
との労いの言葉を直接かけて頂いた
スゲーな、国のトップと話しちゃったよ
社交辞令と儀礼とはいえ
その後、スサノヲも皇帝陛下に言葉を頂き、式は進んでいく
式典でのセフィ姉格好よく、異世界から戻ってきたことを実感した
………
……
…
「じゃ、ラーズ。後でな」
謁見が終わると、スサノヲは龍神皇国の職人達のギルドに行き、ヨズヘイムで学んだ知識を説明しに行った
いろいろプレゼンするらしいが、あれだけ意欲的に学んできたのだから大丈夫だろう
「ラーズ、装備品を貸してくれ」
「何に使うんだよ?」
「ヨズヘイムとあたしの合作だからな。職人達に見せてくるのさ」
「あー、分かった」
俺は、装備品の1991、ヴァヴェル、絆の腕輪をスサノヲ渡した
フレイは、龍神皇国の外務省で話をするとか
「ラーズ、妹をよろしく頼む」
「え? ああ、もちろん。出来ることはするから任せてくれ」
「大仲介プロジェクト成功はラグナロクにおけるヨズヘイムの存亡かかっている。頼んだぞ」
そう言って、フレイは官僚の方に行った
宇宙戦艦の火力はラグナロクにおいて大きな力となる
あながち間違っていない
それに妹のフレイヤを心配する気持ちもあるのだろう
スサノヲとフレイを見送った後、俺はセフィ姉の部屋へと向かった
・・・・・
騎士団本部
副団長室
「ラーズ、お疲れ様。フレイヤさんも長旅お疲れ様でした」
セフィ姉が紅茶を入れてくれた
「ありがとうございますー。改めてよろしくお願いします、セフィリア様」
フレイヤが頭を下げる
外交官のフレイは、さっそくヨズヘイムの在外公館として用意された屋敷へと案内されていった
「こちらこそですわ。龍神皇国は、ヨズヘイムの魔導法学技術を尊敬しております。ストラデ=イバリへと旅立つまで、ゆっくりおくつろぎください」
「はいー、ありがとうございます」
おっとりとしたフレイヤも、さすがに初めての異世界で少し緊張しているようだ
「フレイヤがストラデ=イバリに行くの? って、フレイは龍神皇国に残るんだからそれしかないのか」
ストラデ=イバリにヨズヘイムの技術を持っていく
そして、ストラデ=イバリの技術を龍神皇国にもって帰り、ヨズヘイムへと届ける
これが大仲介プロジェクトだ
「はいー。私がストラデ=イバリへ行って空間属性魔法陣をセッティングします。そして、宇宙戦艦をオーバーラップして戻って来るんですー」
フレイヤが宇宙に旅立つなら、確かにフレイも心配だよな
「フレイヤさんは優秀な魔導法学技師だと、ヒルデからも聞いていますわ」
セフィ姉が微笑む
「ヒルデ様に、セフィリア様のお世話になるように指示をて受けておりますー。必ずや龍神皇国の力にもなるとお約束いたしますー」
俺やフレイヤがストラデ=イバリから帰ってくる頃には、ヨズヘイムから招いた別の魔導法学技師が龍神皇国に空間属性魔法陣を構築しているらしい
更に、ストラデ=イバリからは龍神皇国が使う宇宙戦艦をもって帰る
…大仲介プロジェクトは、龍神皇国もしっかりと力を得るというプロジェクトなのだ
セフィ姉は俺の顔を見る
「ヒルデは元気だった?」
「うん、いろいろ世話を焼いてくれた。そして、クレイモアで叩き伏せられたよ」
「ヒルデが? どうして?」
「向こうの騎士が組手とかしてくれたんだ。その時にさ」
俺は、騎士団での試合や職人達のこと、ドレイク狩りのことをを話した
…ヒルデは強かった
セフィ姉と剣でやり合えるレベルとは、まだまだ俺の実力の遥か先だったことを痛感した
「そう、ヒルデがね…。ドレイク狩りっていうのは?」
「それは、1991に移植した、セフィ姉からもらったドラゴンブレイドのドラゴンキラーを完成させるためだよ。それとスピリッツ化もだね」
ヨズヘイムの魔導法学技術を使ったスピリッツ化
俺の装備品は、スピリッツ化の準備が出来た状態
後は、使い手である俺が装備を使い続けて覚醒を待つだけだ
いつまでかかるのかは分かったもんじゃないので、気長に待つことにする
「スピリッツ化…」
セフィ姉が驚いた顔をする
「どうしたの?」
「ラーズ…、スピリッツ装備の完成形って、伝説の武器の仲間入りってことなのよ」
「…え?」
「武器はただの物質。金属やその他の材質が鎧や武器の形をしているだけ。生物のように、霊力、氣力、精力が通るなんて、通常ははあり得ない現象」
「そう言われれば…。そんな凄い装備を、ただ異世界に行っただけの俺が手に入れていいのかな?」
「ラーズさんの装備は、絆が出来て精力が留まり、擬似的な意思を持っていますー。この段階になるのが普通はとても難しいので、ヨズヘイムに行ったからといってすぐに手に入るようなものじゃないですよー」
フレイヤが言う
そ、そうか
そういうものなんだ
俺とフレイヤは、セフィ姉にヨズヘイムのことを話ながらお茶をする
相変わらず、セフィ姉が自ら入れた紅茶は美味しかった
「ラーズさん、ドレイク狩りでも凄かったんですよ。Bランクの騎士であるアーノルドもタジタジでしたよー」
「あれはフレイヤの補助魔法のおかげだよ」
「ヨズヘイムを満喫出来たみたいで良かったわ」
セフィ姉が微笑む
「アーノルドっていう騎士に剣術を教わったり、フレイヤに装具の生成を教わったり、充実してたよ」
「ラーズさん、アーノルドや職人達と一緒にヒルデさんに正座させられたんですよー」
怒られたら正座と言う、龍神皇国とヨズヘイムの意外な共通点
いや、言うなって!
そんな話をしていると、スサノヲが帰って来た
プレゼンが無事に終わったようだ
「スピリッツ化に使った霊子工学と氣子工学の技術だけで、スゲー反響だったよ。今後、お互いに職人が行き来すれば、属性防具や霊剣、魔剣、聖剣の質は変わるかもしれないな」
スサノヲが満足そうに言う
「スサノヲは、暫くレポート作成で忙しくなりそうね。文化学会にも報告しないといけないし」
セフィ姉がスサノヲにも紅茶を入れてあげる
「セフィリアさん、ありがとう。…あたしはいくつレポートを書かなきゃいけないんだ?」
「異世界についてのレポート、文化、生活感、職人達の技術、人間性…、いろいろね」
「…ラーズ、あたしは技術について書くから、他は頼んだ」
「俺はフレイヤと宇宙に行くんだって。しっかりやれよ」
「あー、そうだった! あれ、ラーズって次に戻って来るの…」
「ペアに残る私たちからすると二年後になるわね」
セフィ姉が言う
「そっかー…、お前の装備も、スピリッツ化するのが大分先になっちまうな」
「装備の話かよ。俺の心配しろっての」
「お前の装備は、あたしとラーズの子供みたいなものだからな。親として子供成長を心配するのは当然だろうが」
「言い方があれだけど、それは確かにそうか」
スサノヲの作品愛は相変わらずだ
俺は、スサノヲの作品に出会えてよかった
「さ、そろそろお開きよ。出発は明日なんだから、フレイヤさんはゆっくり休んで下さい」
「ありがとうございますー」
大仲介プロジェクトの秘密保持のため、俺とフレイヤはすぐに宇宙に旅立つ日程になっている
更に龍宮電からの一歩も出ることはできない
それほど、セキュリティと機密保持に重点を置かれているのだ
フレイヤは、異世界に来てすぐに宇宙に旅立つのか
カオスな忙しさだ
「ラーズ。フィーナに優しくしてあげてね」
「え? うん、もちろん」
「ラーズとフレイヤさんにとっては一週間の宇宙旅行だけど、ペアの私たちにとっては二年間が過ぎている。…私達人類にとって、二年間は決して短い時間じゃないわ」
「…うん、そうだね」
「ラーズ、大仲介プロジェクトをお願いしてごめんなさい。そしてありがとう」
「セフィ姉、いいんだよ。俺は、セフィ姉の大切な仕事を俺に頼んでくれたことが嬉しいんだ。他の誰にもやらせたくない。ストラデ=イバリも任せてよ」
「…ええ、信頼してるわ」
セフィ姉は、少し心配そうに、そして悩ましげに、それでも微笑んだ
大仲介プロジェクトの流れ
五章 ~4話 大仲介プロジェクト前夜 参照