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五章 ~11話 異世界7


異世界イグドラシルに来て六日間が経った

明日はもう帰る日だ


初日に騎士団での試し合い

そして、職人たちに唆されてのドラゴン狩り


最初こそ激動だったものの、その後は穏やかな生活をさせてもらった



「こ、黒竜…、なんて男前の竜なんだ…!」


ムチョスが泣いている

他の職人達もだ



ヴァヴェルに使われている逆鱗

これは竜が一枚しかもっていない貴重な鱗で、その竜の属性値を持っている


竜族は属性親和性を持っており、基本は一つの属性に特化している

人間は属性親和性を持っていないため、どんなに努力をしてもその属性を極めることはできない


しかし、竜は属性親和性を持っているがために、相克する反対属性を身につけることはできず、また弱点属性となる

人間は属性親和性を持っていないからこそ、反対属性も身につけることができるし、弱点属性も存在しない


ただし例外はあり、複数の属性を身につける高位の竜や、後天的に属性親和性を身につける人間も中にはいる


俺は、シグノイアで出会ったヴァヴェルという黒竜からこの逆鱗を貰った

黒竜は土属性の竜であったため、逆鱗は土属性の高い属性値を持っており、風属性を軽減することができる装備となったのだ


もちろん、ヴァヴェルとは黒竜の名前からとった

黒竜の孤高の生き様は、生物の枠を超えて俺に尊敬の念を抱かせた



「しかし、三日三晩ぶっ通しの作業はさすがに死ぬかと思ったな…」

ムチョスが満足気に言う



俺の装備品、ヴァヴェル、1991、絆の腕輪の改造は終わった

ヨズヘイムの氣力、霊力工学を導入し、本当のスピリッツ装備となる資格を得たのだ


スピリッツ装備とは、装備者との絆が生まれた装備品

絆によって装備者と一体化する覚醒した装備だ


俺の装備品は精力(じんりょく)が通ったことでスピリッツ装備となった

後は氣力と霊力が通れば、精力(じんりょく)、霊力、氣力を得て、疑似的に魂を纏う生命の殻となる


これが、真のスピリッツ装備だ



「そ、そんな…、黒竜を殺さなきゃいけなかったなんて!」

「酒なしには聞けねーよ! もう一杯だ!」

「その黒竜って、下手すりゃ老竜(エルダー)ランクだったんだろ? よく殺せたな」


好き勝手に言いながらも、職人たちは俺を囲んで酒を飲む



黒竜は重度の魔属性汚染で死にかけていた

そして、どうせ死ぬなら同族に殺されたいと願ったのだ


「俺の使役対象に、フォウルっていう小竜がいるんだ。そいつがサンダーブレスで弱った黒竜を撃ち抜いたんだ」


「小竜に老竜(エルダー)は殺せないだろ?」


「フォウルには不可逆の竜呪っていう呪いがかかっていて、それを黒竜が一時的に解除したんだよ。すると、フォウルが大きくなって強力なサンダーブレスを使えるようになったんだ」


「不可逆の竜呪って、竜言語魔法の一種だろ? 珍しいな」


「え、知ってるの!?」



不可逆の竜呪とは、ドラゴン同士の争いの後、負けたドラゴンに施される場合がある呪い

実力に応じた時間を封印される


本来は殺し合いである争いにおいて、相手のドラゴンに命を惜しまれるほどの戦いをしたドラゴンに使われるらしい

フォウルも、昔どっかでドラゴン同士の争いに負けて不可逆の竜呪をもらったってことだ



「ああ、イグドラシルではドラゴン同士の争いはしょっちゅうだからな。たまに、宝珠型の聖竜が解呪してるぞ」


宝珠型とは、ドラゴンの西洋型、東洋型、異形型に続く四つ目の型

宝珠を作り出すレアなドラゴンだ


「そ、その竜なら不可逆の竜呪が解呪できるのか?」


「ああ、出来ると思うぞ」

ムチョスが頷く



あれ、フォウルの覚醒が確定?

Bランクにダメージを与えるサンダーブレスが使い放題になる?

しかも、ライドすれば制空権を取れるぞ?

これ、俺がドラゴンライダーや竜騎士になれちゃうってこと?


「くそっ、フォウルを連れてくればよかった…!」


異世界は、そう簡単には行けない

国が管理する魔法陣を使う必要があるからだ


また、イグドラシルに来れるチャンスってあるのかな…



「ラーズ、1991はいい出来だぞ!」

スサノヲが工房から戻って来た


「ああ、ありがとう。スサノヲも少し休めよ、ずっと作業してるだろ」


「ここで作業できるのも今晩で最後だからな。ドラゴンキラーの特性もばっちりだ」


Bランクのドラゴン、ドレイクを倒したことで、1991の霊的構造であるドラゴンキラーの特性は完成したようだ

ドラゴンに対して、更にダメージアップ! …らしい



「魔導法学の真骨頂は個の強化だ。魂を持つ生命体の強化、装備品の強化、転生技術…、科学とは一味違うだろ?」

ムチョスが言う


「ああ、やっぱりヨズヘイムの技術は凄い。スピリッツ装備の準備をここまで効率的にできたのは、やはり魂に特化した技術体系のおかげだ」

スサノヲが力強く頷く



魔導法学は個の強化、科学は数の強化

…よく言われる言葉だ


科学が目指すものは、強力な爆弾や兵器、遺伝子工学においても強力な生体兵器の「量産」が目的となり、「数」を効率的に増やすことがメインだ


対して、魔導法学は個の強化

一人の魂を持った人間をどこまで強くできるか

装備品の強化、魔法や闘氣(オーラ)の強化、転生させて、時にはアンデッド化させてまで個を残して強化しようとする


科学と魔導法学は完全に等価であり、どちらが優れているというわけではない

そして、それぞれが強みを持っているのだ



「くそー、一週間しかいないのが惜しいぜ。スサノヲには、もっと教えたことがたくさんあったのによ!」


「ムチョス、あんたもいつかペアにも来てくれよ。あっちにも凄い技術がたくさんあるんだ! あたしも、いつかまたイグドラシルに来るからな」


ムチョスとスサノヲ、そして職人たちはめっちゃ仲良くなっていた

技術で語り、知識で話す


ドレイクを狩って帰って来た日から、毎日のように俺の装備品を完成させるために頑張っていた


「ラーズ、ヴァヴェルと1991、絆の腕輪は貴重なペアとイグドラシルの合作だからな。お前もイグドラシルに見せに来いよ」


「ああ、そうだね。スピリッツ装備として完成したら見せに来るよ」


まだ、俺の装備は真のスピリッツ装備になっていない

これから使い続けることで、いずれ覚醒するらしい

楽しみだ



「…やっているな」


入って来たのは、ヒルデとフレイヤ、アーノルドだった


「ヒルデ様! 俺は寂しいっすよ! こいつらがもう帰っちまうなんて!」

ムチョスが泣きつく


あんた、酔いすぎじゃない?


「遊びに来たわけではないないからな。それにラーズは、ヨズヘイムから戻ったらストラデ=イバリに行かなきゃいけないんだぞ?」


「宇宙ってやつですか? 空の向こうの世界なんて天国しかないと思ってたんですけどねー…」


ムチョスが首を捻っている

ちょっとかわいい



俺は、異世界混成パーティのメンバーに酒を注ぐ


「アーノルド、フレイヤ、世話になったね。ありがとう」


「ペアの戦闘術を学べたんだ。こっちがお礼を言うべきだ」

アーノルドが酒を飲み干す


「変異体やー、トリガーやー、ホバーブーツー、珍しいもんたくさん見れて満足ですー」

フレイヤが笑う


「フレイヤはまだまだたくさん見られるだろう」

アーノルドが言う


「どういうこと?」


「何って、私もラーズさんとペアに行くからですよー」


「えぇっ!?」


「フレイヤは空間属性魔法陣の技術者だからな」

アーノルドが補足する


「そ、そうだったんだ…」


「言ってませんでしたー? 向こうでもよろしくお願いしますねー」



俺達は、異世界最後の夜を飲み明かしたのだった




・・・・・・




最終日


帰還の式典、オーロラ女王に謁見

フレイヤと、もう一人の男性神族が頭を垂れてお言葉を賜っている


あの男性はフレイ、さっき顔合わせをしたばかりだ

なんとフレイヤの兄であり、ヨズヘイムの外交官として龍神皇国に赴任するらしい


「フレイだ。妹共々よろしく頼む」

「ラーズさん、スサノヲさん、改めてよろしくー」

フレイとフレイヤ、兄妹で異世界に行くのか…



「ヨズヘイムと龍神皇国の、更なる友好に期待します」


オーロラ女王のお言葉の後、なんやかんやで式典は終わった

俺達はフリドスキャルブ王宮の地下、転移魔法弾の部屋へ行く


地下にあった魔法陣は、来るときに使った物とは明らかに図形が違った

行きと帰りで魔法陣が違うというのも不思議な感じがする


次元を越えるというのは、同じ空間内の移動とは違うということか

…例えるなら、上から下には飛び降りれるけど、下から上にはよじ登る必要がある、って感じだろうか?



見送りに、ナジムとヒルデが来てくれていた


ナジムが手を挙げる

「ラーズ、スサノヲ、ありがとう。気を付けて帰ってくれ」


「ナジム、こちらこそ。ありがとうございました」


そして、ヒルデ

「ラーズ。私も近いうちにまたペアに行くことになる。セフィリアによろしく言っておいてくれ」


「分かったよ。ヒルデ、いろいろありがとう」


「借りはフレイとフレイヤの面倒を見ることで返せ。気にかけてやってくれ」


「ああ、わかったよ。アーノルドやムチョス達にもよろしく」


「ああ」

ヒルデが頷く



俺達は魔法陣の中に進む



フオォォォォ………


光り出す魔法陣



「終わりかぁ…」

スサノヲがため息をつく


「勉強になったよな」


「ああ、異文化とは積極的に交流するべきだ」


スサノヲが頷くと光が強くなり、俺達を包んだのだった



参照事項

スピリッツ装備

四章 ~35話 ドゥン2

魂と精力(じんりょく)、氣力、霊力

序章~2話 捜索



※捕捉

世界の重なりについて


世界の重なり図

霊質大、物質小←ーー②ー①ーー→霊小、物大


②イグドラシル ①ペア

各次元で物質と霊質の構成比率が異なっている

霊質が多ければ魔法が、物質が多ければ科学が進歩


霊質が多くなれば、魔法やイメージ、精神の力が強くなり、いずれは天界や魔界などに行きつく

そこは天使や悪魔などの超常的な存在が跋扈する世界



※霊質・物質軸は三次元座標に次ぐ四つめの座標

移動には氣力と霊力が必要となる


→右方向、霊小物大へ向かう力が氣力

氣力とは、物質である肉体と魂を引き付ける力


←左方向、霊大物小へ向かう力が霊力

霊力とは、霊質である霊体と魂を引き付ける力

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな所でフォウルの解呪の可能性が出てくるとは…!おっきくなったフォウルかぁ、乗ったとして…空気抵抗ヤバそう。まぁそういうのを無くす道具もありそうだけどね〜
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