五章 ~9話 異世界5
用語説明w
ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ヒルデ:異世界イグドラシルのスカウト部隊ヴァルキュリアの一人。ラーズを宙の恵みに持ち込んだ。使役対象は幻獣フェンリル
ヨズヘイムの西にあるムスペイル火山
この場所に最近ドレイクが住み着き、討伐クエストが出されていた
クエストシステムは、ペアとあまり変わらないようだ
ドレイク
Bランクのドラゴン
四肢があり、翼を持たない陸生タイプ
分類的には西洋型の顎竜種だ
牙をメインで使う骨格で、ワニのような動きが多いが、ブレスを吐き出すため危険だ
ドラゴンのクエスト…
これがお姫様の救出任務だったら完璧だったな
アーノルドがクエストを受けてくれた
そして、パーティメンバーとしてフレイヤも同行してくれることになった
この話をしたら、ヒルデにめっちゃ睨まれた
「…お前、使者として静かに任務を全うする気はないんだな?」
「いや、俺じゃない! ただ、職人さんたちが俺の武器を強化するって言ってくれて、断れなくて…」
「…まぁ、騎士が二人も付けば大丈夫だろう。使者の接待として認めてやるが、セフィリアの貸にしておくからな」
「セフィ姉には迷惑かけられないんで、俺への貸しってことにしてください…」
魔法のじゅうたんでひとっ飛びして、火山に着いた
ペアでは、空を飛ぶ魔法の箒やじゅうたん、ドローンなどは航空法で規制されており、交通ルールがある
ヨズヘイムは箒やじゅうたんが多く、町の上空での交通ルールは厳しいようだが、郊外に出るとかなりルールが緩くなる
「オラオラ―――!」
運転をすると性格が変わるタイプのフレイヤが、全速力でじゅうたんを飛ばしたおかげで、かなり早く着いた
「さー、行きましょー」
じゅうたんを降りた途端、ほんわかしたフレイヤに戻る
もはや二重人格じゃねーか!
フレイヤは、補助魔法と回復魔法を使うヒーラー
前衛の戦士タイプのアーノルド、斥候型の俺、バランスのいいパーティになった
ただ、二人ともBランクのため、実力は俺のはるか上を行く
「出現場所はいつも同じだ、すぐに見つけられる」
アーノルドが言う通り、すぐにドレイクは見つかった
四つ足、ワニのような口に鋭い牙、全長十メートルほどのドラゴンだ
「データ、ドローンで空中から観測してくれ」
「了解だよ!」
「はい、アーノルドさん、ラーズさん。補助魔法かけますよー」
フレイヤが、硬化魔法、防御魔法、耐熱魔法、耐輪力魔法の(中)を使ってくれる
「補助魔法の(中)…! 凄いね、ありがとう」
「ペアの使者さんにけがはさせませんよー。しても治しますしー」
フレイヤが笑顔で言う
(中)は、Bランクの騎士たちが使う補助魔法で、(小)とは性能が段違いだ
耐輪力魔法は、特技の源の力である輪力に耐性を持つための魔法
輪力を吐き出すブレスを軽減することができる
だが、輪力で筋力を強化したりする特技は、輪力をぶつけられるわけではないので軽減できない
「私はどんどん攻撃をしかけていく。ラーズも、出来る範囲で攻撃に参加してくれ」
アーノルドが闘氣を発動
「分かった」
「目的は、その大剣のドラゴンキラーを完成させること。無理するなよ」
「オッケー」
Bランクからすれば、闘氣がないCランクの俺が攻撃を受けるのは怖いんだろうな
フィーナにも心配されてた
だが、今回は俺も全力だ
ホバーブーツに飛行能力、覚醒したナノマシンシステム2.0…
やってやるぜ
「アーノルドさんー」
「何だ、フレイヤ?」
フレイヤがアーノルドを呼び止める
「ヒルデ様が、ラーズさんの戦闘を見ておけってー。私達は補助に回りましょー?」
「正気か!? ドレイクはBランクのドラゴン、下手するとBランク戦闘員も殺られるモンスターだぞ!」
「様子を見てダメなら私達が出ましょー。本気ではなかったとはいえ、ヒルデ様投げた実力は本物ですよー」
「ううむ…」
そんな話をしている俺達に、ドレイクが気がついた
「ゴガァァァァァァァッ!!」
ドレイクが四つ足で向かってくる
「思ったより動きが早いな!? 先に出るぞ!」
ボッ!
俺はホバーブーツのエアジェットで飛び出す
ドレイクが大口を開ける
ボオォォォォォッ!
火炎放射
広範囲を焼き付くすドラゴンの火属性ブレスだ
背中の触手に溜めた精力を解放
飛行能力を発動
エアジェットのジャンプも使って炎を飛び越える
「うおぉぉぉぉっ!」
同時にナノマシンシステム2.0を発動
急加速による慣性から体を支える
空中でもう一度飛行能力の推進力を発揮、急降下する
飛行能力が空中で推進力を生み出す
ホバーブーツだけの状態と、行動の自由度が違う
1991の振り下ろし
ロケットブースターのジェットで叩きつける
ボッ ズガァッ!
「グギャァァァァ!」
ドレイクの顔面を1991が抉る
着地、エアジェットで離脱
続いて、後ろ足に1991の叩きつける
「ガアァァァァッ!」
怒り狂って、俺を追いかけるドレイク
だが、お前とは動きの早さが違う
ドレイクが俺の方を向く頃には、俺は更に先へ行っている
人間がハエを捉えきれないのと同じ
手足や首は早く動いても、体を高速で動かすことは難しい
そしてドレイクにとってのハエである俺は、1991という火力を持っているのだ
例えるなら、動き回るハエが釘を振り回してくるような感じだろうか?
ボオォッ
ボオォォォォォッ
ボオォォォッ
「くっ!?」
連続で吐き出される火炎放射
大地に着弾した炎がしばらく残り、動ける範囲が狭くなる
ドレイクは、火属性ブレスに口で分泌される特殊な油のようなものを混ぜているようだ
それが一定時間燃え続けることで、ナパームのように炎が持続する
特徴的な油の臭いがすれば、ブレスの準備ということだ
武の呼吸、ドレイクの動き、挙動を察知
俺は、携帯用小型杖を振る
軟化の魔法弾を撃ちながら、隙を伺う
炎を越える
躱す
飛び越える
ドレイクは固定砲台に近い
直進の移動は早いが、小回りは効かない
つまり、俺は天敵だ
引き寄せの魔石を装填、魔法弾を撃つ
ビョオォォォォォン!
俺の体が一気に引き寄せられ、ドレイクの前足の前に移動、小型杖を手放して1991を構える
喰らえ、フル機構突き
ゴゥッ ズッガァァァァァッッッ!!
「グギャァァァァ!」
1991が左前足を貫通、胴体に突き刺さる
「グガアァァァァッ!」
「うおっ!?」
暴れ回るドレイク
1991が抜けず、離脱が遅れる
ドガァッ!
「ぐはっ…!」
薙ぎ払われた右前足が直撃
左腕、肩、肋骨を叩き折られ、身体を軋ませながら吹き飛ばされる
更に、俺を狙って火炎放射
炎に包まれるが、飛行能力によって燃焼地点から飛び出す
「ぐあぁぁぁっ!」
大地を転がって火を消す
くそっ、ねばつく油が付着して火が消えねえ!
皮膚を焼く痛み、苦痛
そして、死の恐怖
俺が回復薬を取り出して被ろうとすると、
バシャッ!
後ろから水をかけられた
振り向くと、フレイヤが水属性魔法で消火をしてくれたことが分かった
「ありがとう、フレイヤ! 絶対倒すから任せてくれ!」
通じる
俺の1991と、高機動戦闘が通じている
ドレイクの、Bランクドラゴンのブレスは俺を焼き、爪は簡単に俺を貫く
骨折をヴァヴェルの接骨機能が接ぎ、ナノマシン群がせっせと治療している
一見、ピンチに見えるだろう
しかし!
俺には、ドレイクの肉を削り、骨を砕く手段がある!
倒す
絶対に倒す
恐怖を、痛みを、倒せるという興奮が塗り潰す
トリガーが入っているのを自覚する
気を付けろ、感情を抑えろ、勢いに流されるな
「あっ、ラーズ! 一緒に戦おうって意味よ!」
フレイヤが俺に言葉をかけるが、よく聞き取れない
そして聞く気もない
「私が後ろ脚を狙う! ラーズの治療を頼む!」
アーノルドが、闘氣を発動してドレイクの後足を斬りつける
くそっ、余計なことを…
だが、アーノルドの強力な斬撃でドレイクの気が逸れる
ボッ!
エアジェットで接近、ドレイクに突き刺さった1991を掴む
サードハンドを発動、精力の腕で1991の先端を掴み、ナノマシンシステム2.0の強化筋力で引き抜く…!
「ぬ、抜けねぇ…!」
ドレイクがアーノルドを攻撃しながら、俺にも意識を向ける
くそっ!
俺は小型杖を振り、魔法弾を近くの大岩に魔法弾を当てる
もう一度引き寄せの魔石だ
ビョォォォォォォン!
引き寄せの力を追加して1991を引き抜く
触手の精力も発動、飛行能力も追加だ!
ブシュッ…!
「グオォォォッ!」
血を吹き出しながら、やっと1991が抜けた
ドレイクが痛みで吠える
「凍れ!」
アーノルドが隙を突き、冷属性の乗った斬撃の特技で後足を切り裂く
チャンス!
ドレイクがアーノルドを睨みつけた瞬間、エアジェットで直線に加速!
ジャンプしながら飛行能力発動!
速度を1991に乗せろ!
これで決める! 絶対に決める!
吹き飛べ! フル機構斬りぃぃぃ!!
ゴゥッ ズッガァァァァァッッ!!
ドレイクの首に1991を叩きつける
その首を半ばまで切断、骨を叩き砕いた感触があった