五章 ~8話 異世界4
用語説明w
ペア:太陽系第三惑星であり、惑星ウルと惑星ギアが作る二連星
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
ヨズヘイム:ペアと次元が重ねる異世界イグドラシルにある王国。転生技術や転移魔法陣などの魔導法学が発展している。三国戦争ラグナロクの真っ只中
ヒルデが仁王立ちしている
その前には、親方のムチョス、職人達、俺、スサノヲが正座をさせられている
「貴様ら、立場を分かってるのか!? ヨズヘイムと龍神皇国の国交プロジェクトの最中に一体何をやっている!!」
「…さっき、ヒルデに鎖骨を叩き折られた使者がここにいますが」
「次は物言わぬ死体に変えて…」
「スミマセンデシタ」
結論から言うと、俺のフル機構突きはアーノルドの闘氣で強化された盾を貫けなかった
ペアの矛はイグドラシルの盾に負けたということだ
闘氣、異世界に来てもやっぱり強ぇーわ
しかし、威力はしっかり乗ったようで、衝撃でアーノルドの体が吹っ飛んだ
そして運の悪いことに、後ろが職人区画と騎士団を繋ぐ廊下となっていて、騎士団の偉い人が歩いていて巻き込んだとか何とか…
ちなみに、アーノルドは騎士団の区画で直接偉い人に説教を受けている
本当にごめんね?
とりあえず、長めのヒルデのお叱りを受けて解放された
「スサノヲ、気に入ったぜ!」
「そうだろ! あたしの最高傑作なんだ」
スサノヲとムチョス達職人は昔からの友達かのように、もう作品について語っている
完全にお説教のことは右から左のようだ
俺、お前達に完全に巻き込まれたんだけど
あとアーノルドも
「このスピリッツ化、霊力と氣力はまだ通ってないんだろ?」
「そうなんだ。これから着手して行こうと思ってる」
「よし、ヨズヘイムの魔導法学技術を見せてやるぞ! 大剣と鎧と腕輪、まとめて完全にスピリッツ化してやる!」
「ヨズヘイムの技術をいいのかよ?」
「バカ野郎、こんなものはヨズヘイムでは当たり前の加工だ。ペアが遅れてるんだよ!」
「…勉強させてくれ!」
スサノヲは、怒りもせずに頭を下げる
くそっ、その職人魂がちょっとかっこいい
「もちろんだ! この作品には職人と使い手の魂が宿っている! この魂に応えなきゃ職人を辞めちまえ! 野郎共、やるぞ!」
「おぉーーっ!」
「でも、こいつらが帰るまであと五日間しかないぞ!?」
「死んでも間に合わせろ!」
「おい、この鎧の接骨機能について説明してくれ!」
氣力と霊力工学の代わりに電子工学技術を返す
カオスな工房だ…
「あ、アーノルド。帰って来たのか」
「ああ、酷い目に遭った…」
アーノルドが、少しフラフラしながら戻って来た
「悪かったよ。後ろを全然見ていなかった」
「俺も、まさかあそこまで吹き飛ぶとは思わなかったんだ」
「結構怒られたのか?」
「上司にクドクド、ヒルデ様にドガンと怒られた」
「ハハハ、凄い分かりやすい表現だな」
「フフッ、まぁ、済んだことさ」
俺とアーノルドが笑い合う
すると…
「あ、アーノルドが戻って来た」
「手伝え、1991のフル機構攻撃を使ってみてくれ!」
職人たちが、アーノルドを捕まえる
「な、何をするんですか!?」
「このフル機構攻撃が量産化できるか確かめるんだよ! お前をあそこまで吹き飛ばす攻撃だ、すげー機構だろ!」
また、丸太が置かれ、1991を持たされるアーノルド
…人に自分の武器を使われるって、あまりいい気分がしない
これは嫉妬か?
「…いい顔だな」
「へ?」
振り向くと、ムチョスがいた
「自分の武器に嫉妬する。思い入れを持った証拠だ」
「…1991もヴァヴェルも絆の腕輪も苦労して手に入れたからな。そして、何度も俺の命を救ってくれた恩人で戦友だ。思い入れはあるさ」
「そうかそうか」
ムチョスが満足そうに頷いた
アーノルドが、スサノヲから説明を受けて1991を振りかぶる
そして、フル機構斬り
ゴゥッ……ゴガッッ
「ぐわっ!?」
剣筋がずれ、丸太が明後日の方向に吹き飛ぶ
パイルバンカーの反動で、アーノルドの手が痺れたようだ
「ぐっ、難しい…!」
「おい、今度は丸太が廊下に突っ込むぞ」
「場所変えろ、次はぶん殴られるかもしれないからな!」
職人たちが、丸太の位置を変えてもう一度
アーノルドが突きの構えで1991を持つ
フル機構突きだ
ゴォッッガァァッ
「あぶっ!?」
丸太が吹き飛び、職人の側を通り過ぎる
力が集中せずに、丸太を動かす力として働いてしまっている
「アーノルド、無理か?」
「いや、もう少しやらせてください」
アーノルドは、薬莢を交換しながら何度かフル機構攻撃を繰り返す
しかし、やはり上手くいかない
「ラーズ、お前はどうやってフル機構攻撃を使っているんだ?」
スサノヲが振り返る
「いや、あんまり意識したことはないけど」
「騎士のアーノルドが成功させられないって、よっぽどだろ」
「うーん…、そうは言ってもなぁ…」
何か、コツとかってあるのか?
威力を集中できるように意識してってくらいしか…
「スサノヲ、俺が昔、ボリュガ・バウド騎士学園に通ってたって言ったっけ?」
「ああ、昔は闘氣を使えてたって奴だろ?」
「そうなんだ。あの騎士学園では学生のスタイルで職業ってのが決められるんだけど、俺は勇者って職業だったんだ」
「勇者?」
「うん。勇者ってのは、魔法と近接を使うスタイルで、重属剣ってい技を使う職業なんだ」
重属剣
剣に、闘氣、魔法、特技、霊力や氣力などを乗せて重ねる魔法剣の一種
燃費が悪すぎて数は撃てないが、超威力の必殺剣だ
余談だが、龍神皇国の前身である龍神皇帝国を興した初代皇帝は、この重属剣を操る勇者だったとか
悔しいが、俺のような劣等生から初代皇帝のような英雄まで、勇者もピンキリということらしい
「重属剣は、それぞれのエネルギーを重ねるのが難しくて凄い苦労したんだ。その重ねる感覚が、1991のフル機構攻撃にそのまま当てはまる気がする」
「…ラーズは、昔から重ねるということに素養があったということか」
スサノヲが考え込む
「よーし、アーノルド、もういいぞ!」
それを聞いて、ムチョスが声をかけた
アーノルドが肩で息をしている
結局、フル機構攻撃は一度も成功しなかった
「む、難しい…!」
アーノルドが悔しがる
「量産化はきついかもしれねーなぁ。ラーズと同じような、重属剣使いを探してみるか…」
「条件さえ揃えば闘氣を貫ける武器…、だが使いこなせないなら意味が…」
職人たちが悩んでいる
「お前達、とりあえずスピリッツ化を進めよう。五日間しかないんだからな!」
ムチョスが言うと、職人たちが工房に入って行った
・・・・・・
バタバタしながら作業が始まる
スピリッツ化というものをそこまで理解していないが、要は俺の装備品が強化されるらしい
楽しみだ
「ラーズ!」
「はい?」
ムチョスに呼ばれる
職人たちが、俺の装備品の計測と観察をしている
「この1991って大剣、ドラゴンキラーの特性が入ってるよな?」
「ああ、入ってるよ。ドラゴンブレイドっていうロングソードの霊的構造を移植してもらったんだ」
「このドラゴンキラー特性が未完成なんだ。完成させたいだろ?」
「え…、そりゃ、はい」
ドラゴンキラーが未完成!?
「…ラーズ。あたし、ヨズヘイムに来てよかったよ。まだまだ、知らないことが多すぎる」
スサノヲが感銘を受けている
「お互い様だ! この刀の工法と言い、素材の知識と言い、ペアの技術もスゲーぞ!」
「うおぉぉぉっ!」
「この五日間、眠らずに吸収するぞ!」
「お前の装備は、ペアとイグドラシルの合作だ! 楽しみにしとけよ!」
職人たちのテンションがどんどん上がって行く
怖いんだけど!
「ラーズ、アーノルド! ちょうど、ヨズヘイム近郊にドラゴンがいる! 狩って来いや!!」
「説明して!?」
俺は、職人たちのテンションに流されないように必死に叫んだ
ドラゴンキラー
ドラゴンという対象に大ダメージを与える特性
正確には、ドラゴンという存在の特徴にダメージを与える
神鉄という物質や、ドラゴン自身の爪や牙がドラゴンキラー特性を持つことで有名だ
俺は、騎士学園時代にドラゴンブレイドというロングソードを使っていた
セフィ姉がくれたもので、ドラゴンキラーの特性を持つ霊的構造を内包する魔剣や霊剣と呼ばれる剣の一種だった
このドラゴンブレイドを1991の素材としたため、ドラゴンキラーの特性が引き継がれたのだ
テンションの上がった職人共の話を要約すると、
・ドラゴンキラーの特性を持つ霊的構造は、神鉄などの物質と違って未完成である
・ドラゴンを霊体ごと叩き切って、命を刈り取ることでその特性が完成する
・ドラゴンは、Bランク以上の強い個体であることを要する
「Bランクのドラゴンだと…!?」
ドラゴンは強力なモンスターだ
同じBランクでも、ブレスを巻き散らすドラゴンと、殴ったり噛んだりするだけのモンスターでは危険度が違う
Bランクのドラゴンは強い
「時間がない! アーノルド、ラーズを連れて狩猟し、早く戻って来い! ヒルデ様には俺から言っておく」
ムチョスが、そう言って出て行った
俺とアーノルドは顔を見合わせ、それからドラゴン狩りの準備を始めたのだった
重属剣 閑話11 ボリュガ・バウド騎士学園の思い出 参照