閑話14 フィーナの仙人修行
用語説明w
クレハナ:クレハナ:龍神皇国の北に位置する小国。フィーナの故郷で、後継者争いの内戦が激化している
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
ラーズが異世界に行ってしまった
フィーナはフォウルを連れて、ある山奥にやって来た
理由は修行のため
正確には、仙人としての人体強化を完成するためだ
人体の強化術
人体を何らかの方法で強化する方法で、いわゆる強化人間を作り出す
薬物によるドーピング、何らかの存在を憑依、細胞移植、心霊手術、体の一部を機械と置き換えるサイバネ手術など…
肉体、又は霊体を強化することで、人体の限界を超えた能力を得る術だ
そして、その人体強化術の最高峰と言われるのが、変異体と仙人だ
変異体がバイオテクノロジーによって肉体の物理的な能力の向上を突き詰めたのに対して、仙人は霊体の神格化を目的としている
「………」
フィーナは湖畔にある小屋に籠り、静かに座禅をしている
フィーナが行っている修行は「仙道」と呼ばれる
仙人となるために行う修行のことで、この仙道を行う者たちのことを道士と呼ぶ
金髪の龍神王セフィリアは、この仙道によって「氣」の本質を悟り、霊体と肉体、陰と陽の合一を完成させることで人としての限界を超え、仙人の域へと達している
仙人とは、己の存在を超常的な存在である神や悪魔と同格まで高めた者であり、環境や惑星から力を得ることのでき、凄まじいポテンシャルを持っている
この仙道の完成は難しく、一生を費やしても完成に至らない者も多数いる
だが、逆を言えば、この仙道とは完成させることが可能な技術でもある
神格化という意味不明な現象が、生命工学と同様に実現可能な技術となる、それは奇跡と言えるのではないだろうか?
では、なぜ人がその様な高位の力を得るような術が完成したのか
それは、四千年前にペアの成立した頃に遡る
ペアの成立、それはウルとギアの邂逅
そして、魔導法学と科学の出会いでもあった
仙道とは、内丹と外丹という考え方から成り立っている
内丹とは、人体に内在する根源的生命力である「氣」を凝集・活性化することで身体と精神を変容させ、性命を内側から鍛練する方法だ
そして、外丹とは、薬草や鉱物、その他の物質から仙薬を作り出す特殊な薬学であり、これを体内に取り込むことで人体をアップデートする方法だ
外丹は錬丹術とも呼ばれ、「氣」との親和性を目的としていることから、錬金術とは一線を画す
そして、この外丹はギアの科学の力で飛躍的に進化した
化学物質、そのた自然素材からの高濃度抽出など、科学の力によって仙薬の効能が格段に上がり、仙人になれる確率が上がったのだ
「うげぇ…苦いよぉ……」
フィーナは、一休みして仙薬を飲む
死ぬほど苦いこの薬は、飲むだけで仙人に近づける夢のような薬だ
「はぁ…、もう疲れた…」
湖からそよぐ風が気持ちいい
座禅と内丹の効果か、森の気配を鮮明に感じる
鹿が歩いている
鳥が飛んでいる
蛙の泣き声
虫の羽音
フォウルも空を散歩しているようだ
「はぁ…、よし、もうひと頑張り!」
フィーナは一度体を伸ばすと、また座禅を組む
大仲介プロジェクト
ラーズが次に宇宙に行ってしまったら、二年間会えなくなる
ラーズがいない間に、自分自身をアップデートする
クレハナと向き合う前に、力を付ける必要があるからだ
氣力とは、魂と肉体を結びつける力
魔導法学における、三大基本作用力の一つだ
この「氣」の動きと法則のことを道と呼ぶ
そして、仙道の最大の目的は、この道の理解と制御だ
物事には裏と表があり、身体においては肉体と霊体の関係だ
身体においてこの氣を練り、純度を高めながら霊力と混ぜ合わせてチャクラを構成していく
チャクラとは輪力のことであり、これを体内で保持することで、肉体と霊体が活性化していく
肉体と霊体は同時に活性化していくが、大きな違いがある
それがエネルギーの総量だ
肉体には限界がある
その限界とは、筋力の構造と骨格の強度だ
筋肉をどれだけ鍛えても、総量を上げて密度を上げても、百トンの重さを持ち上げることは不可能だ
仮にできたとしても、カルシウムを主成分とする骨格がその出力に耐えられない
つまり、サイバネ手術などで体を作り変えるか、闘氣などの別の力で強化する必要があるのだ
だが、霊体には限界はない
霊力を集め、霊質を増やしていけば、理論上は神や悪魔と同レベルまで強くなることができる
そして、当然ながら霊体を強化する直接的な方法は無く、地道な訓練以外は、憑依や契約などの外部的な力を得るほかない
そのブレイクスルーとして仙道がある
肉体の「氣」を練って密度を上げることで、その相反する存在である霊体、そして霊力を高める方法
身体の陰と陽、つまり肉体と霊体の完全調和、すなわち、肉体を限界まで強化し、更に霊体の神格化を成し遂げた存在が仙人なのである
肉体はあくまで人間の限界までしか強化できないため変異体には劣るが、霊体は神格化の域まで達しており、膨大なチャクラ(輪力)、霊力、そして仙氣と呼ばれる特殊な氣を使う、人類の到達点の一つなのである
「………」
フィーナの集中力は切れていた
さっきから、氣が練れていない
集中できていない
行方不明だったラーズの居場所の情報を、実父であるドースからもらうために、クレハナに戻ると決めた
実際に、ラーズの居場所を見つけることができた
ラーズのいた施設は地獄よような場所だった
人体実験、殺戮、拷問を繰り返えされていた
ドースは謝った
そんな場所だったとは知らなかった
もっと早く、騎士団にラーズ君を救出してもらうべきだったと
交換条件としてフィーナに帰って来てほしかったが、そんなことはとても言えない
フィーナが帰りたくなった時でいい、そう言ってくれた
だが、フィーナは分かっていた
クレハナに目を向けなくてはいけない
私はもう子供じゃない
大崩壊の後、壊れてしまったシグノイアとハカルを見た
近所に住んでいた、サクラちゃんという女の子
今は龍神皇国に住んでいるが、あの大崩壊で両親を失っている
そんな子供達、難民になった人たち、それがクレハナにもたくさんいる
自分に何ができるか分からない
それでも、私はクレハナの姫であり、王家の一員だ
出来ることをしなければならない
「ふぅ…」
龍神皇国のお父さんとお母さんに、クレハナに戻ると言った時
「二人が結婚してくれれば、また親子に戻れるんだけどねー…」
「ま、戸籍から外れてもフィーナは娘だ」
そんなことを言われて、フィーナは妄想が止まらなくなってしまった
ラーズと付き合ったと伝えた
そうしたら喜んでくれて、両親の公認となった
「ラーズ…、会いたいよ…」
フィーナは、集中を諦めて仰向けになる
ラーズのことを思う
やっと再会した
ラーズと一緒に住む、夢のような生活
人が快楽を感じる時、脳内物質のドーパミンが放出される
だが、更に「幸せ」を感じるにはどうすればいいだろうか?
幸せと快楽は似て非なる物、別の感覚だ
…答は簡単、恋愛脳にすること
脳みそをピンク色に染めて、恋人のことをひたすら思う状態にすればいい
お互いに付き合う
自分の好意と相手の好意が双方向であると自覚した瞬間、快楽に幸福感がプラスされる
ピンク色の恋愛脳の力は、時に凄い力を発揮する
心が全力で求める欲求であり、快楽だけの感覚を時に完全に凌駕する
これを求めることは本能であり、性別も種族も関係ない
「はぁ…」
フィーナは、頭を振って修行に戻る
…仙人には禁欲が求められる
一切の欲を捨てて世界と一体になり、氣力と霊力を練り、個を、世界を、陰と陽の調和を感じる
煩悩は調和と対局をなす
仙道にとっては忌むべきものだ
こんなんじゃダメだ
いつまでたっても仙人にはなれない
…フィーナは目を瞑って修行を続けるのだった
参照事項
強化人間 一章~18話 選別六回目
ドースの謝罪 四章 ~6話 立場