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五章 ~3話 ロンとのスパー

用語説明w

ロン:ラーズのトウデン大学の同期で、共に格闘技をやって来た仲。現在は消防官兼総合格闘技のプロ、エマと付き合っている

エマ:元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち回復魔法も使える


「すげーな。異世界と宇宙へ行くって、男の子の夢を二つも同時に叶えるのかよ」


「俺はセフィ姉に選んでもらっただけだけどな。棚からぼた餅が落ちてきたようなもんだよ」


通称、棚ぼた


「国の代表か、スゲーよ」


「チャンピオンだって、宇宙や異世界に負けない男の子の夢だぞ?」



ロンは俺の大学の同期

一緒に格闘技に打ち込んだ仲だ


一緒にストリートファイト大会にも参加していたことがある



「大仕事前に悪いな。本気で頼むぞ」


「タイトルマッチの挑戦権を勝ち取るのだって、十分大仕事だろ」



ロンは消防官として働く傍ら、総合格闘技団体マジ(マンジ)でプロとして活動している

そして、タイトルマッチ挑戦をかけた試合が来月に決定している


お互いにオープンフィンガーグローブを装着

MMAで肘、膝、頭突きありルール


今日はロンの頼みでガチスパー

ミィに、騎士団のファブル地区南支局にある訓練場を貸切にしてもらったのだ



「…何でこの時期に殴り合い?」


「ロン君が、大学の頃の怖いもの知らずだった時の感覚を取り戻したいんだって」


ミィとフィーナが横のベンチで見ている


エマは回復薬や氷嚢、ワセリンを用意して、ストップウォッチを確認している


「エマの彼氏ってプロなんでしょ? ラーズが格闘技やってのとは聞いてたけど、プロの相手なんか出来るわけ?」

ミィが尋ねる


「大学の頃から、格闘技にはプライド持ってたみたいだよ。バイトで怪我して喧嘩で怪我してって、たいへんだったんだから」

フィーナが懐かしそうに言う


「騎士学園の頃のラーズに、喧嘩なんてイメージなかったけどなー」


「大学に入って格闘技初めてからだね。ロン君と友達になってから、健全なストリートファイトを始めたとか言ってた」


「…全然意味わかんない。路上の喧嘩に健全とかあるの?」


「なんか、倒れての攻撃はすぐに止めに入って、必要ならラウンド制を導入するとか」


「ゲームみたいね。ゲームセンターとかありそう」


「昔のロン君の話、私も聞きたい…」

応急措置の準備を終えたエマが話に入ってきた



そんな女子三人を他所に、俺とロンはアップを終えた


集中力は高まっている

体も動く、コンディションはいい


俺は、大学卒業後に格闘技から少し離れた

ここで言う格闘技とは、禁止事項を設定した戦いと定義する


()()()()()()()()


銃や魔法を使う軍人は、MMAルールで総合格闘技のプロにボッコボコにされる

総合格闘家は、ムエタイルールでムエタイチャンピオンにフルボッコ

ムエタイ選手は、ボクシングルールではやはり不利になる


もちろん例外はあるだろうが、これは当たり前のことだ


日々研鑽されて完成度が高められる技術

繰り返されるトレーニングによるスタミナ、フィジカル

練り続けられる戦術


武術が()()()()()()()()()()()()生き残るために研鑽されたように

格闘技も、ルール上で勝つために研鑽されている


俺は、ストリートファイトでは絶対にロンに勝てる自信がある

少なくとも、負けることはない


だが、今回はロンが磨いてきたルールで、ロンはそのルールの頂点、タイトルマッチに挑戦するほどの実力だ

不利なのは間違いない


今回のスパーの目的は、勝つことではない

ロンを燃えさせること

大学時代の、一番燃えていたあの頃の感覚を取り戻させることだ


…驚かせてやるぜ



「そろそろ時間…、準備はいい…?」

エマが立ち上がる


開始は午前十時丁度からと決めていた

俺は変異体のため、力が常人よりも強い


よって、エマが一時的に変異体因子を不活性にする薬を使ってくれた

変異体は人間をベースにして強化しているので、変異体因子を抑えれば身体能力は常人と同レベルまで下がるのだ


「ああ、オッケーだ。ラーズ、全力だからな」

ロンが真剣な顔で言う


「…分かってるって」


ここからは、ふざけや甘えはない

アスリートとしての力のぶつけ合い


…本気でいく



「あと十秒…」


エマの言葉で、俺達は拳を合わせる

そして、それぞれ離れた


「始め…!」


エマが、珍しく大きめの声で宣言した




ロンと俺は中央辺りで間合いを取って対峙


お互いに腰を落として足のスタンスを広めに取っている



「しっ!」


ジャブの差し合い


ストレートとロー



ロンのミドル…


「なっ!?」



膝を捻ってのブラジリアンキック

急激にハイ軌道に変化、ガードが遅れてグローブの上から頭を揺らされる


すかさず両肩を掴むようにロンに抱き付く


同時に大腰の要領で首投げ



ダン!


「ぐっ…」



上を取ってタイクダウン

あぶねー、いきなりKOされる所だった!


くそっ、変則技は初見が驚異だ

一発で当ててくる辺り、さすがはプロだな



パンチを振り下ろしながら、いいポジションを狙う


今は寝ているロンの横を取った

サイドポジション、俺が有利な体勢だ


だが、ロンが下のに潜り込んで俺の足を掴む


やべっ、足関節狙い



「うおぉぉっ!」


体を半回転、遠心力で隙間を開けて、ロンのボディに正拳突き



「ぐはっ…」


ロンが俺から滑り落ちる



もう一度思いっきりパンチの振り下ろし、躱したロンに手首を掴まれる



ゴッ!


「ぐっ…!」



そこから肘を振る

ロンの額から出血


だが、ロンは止まらない

俺の両腕を掴んだ状態から、腕十字、三角絞めを狙う



ゴッ!

ガッ!



ロンの下からの踵蹴り、俺のパウンドがお互いの顔を捉える

同時にロンが海老の動きで俺から離れて立ち上がった



くそっ、ロンの奴めちゃくちゃグラップリングが強くなってやがる

大学時代は俺の寝技は得意だったのに


寝技にはまぐれが無いと言われる

センスの差はあれど、練習量がそのまま実力に直結するからだ



そして、プロとしての上手さもある

俺は上を取ったことで、仕留めるために攻撃に出た


だが、仕留めきれずにスタミナを消費

対して、ロンにはまだ余裕がある


これは元のスタミナの量じゃない

疲れない戦い方をしてるからだ


これが、短期決戦を常とする武術との違い

格闘技の怖さだ



…だが、俺には武の呼吸がある

チャンスに全力を叩き込んでやる



背筋を伸ばし、姿勢を意識する

力みを消して自然体へ


疲労が溜まったため、余計な力が抜ける

いい感じだ


ロンの呼吸を盗む


観の目

全体を見て挙動を感じる



「…っ!!」

「…!!」



ロンのジャブ、右フック


右フックの内側を取って左手で肩を取る



左膝!


「がっ…!」



ロンの動きが止まる


左足を下ろしながらロンを左に崩す



「おらぁっ!」


右回転の一本背負い!



ドガァッ!


体を浴びせながら、ロンを床に叩きつける


反転して上を取って…



バッ!


「なっ…!?」



ロンが飛び付くように三角絞め…をフェイントにしたパンチ


食らった瞬間に、電光石火の腕十字を極められた




・・・・・・




エマの制止で、お互いに寝たまま息を整える

疲労で体がだるい


「くそっ………!」


悔しさが込み上げて来る

関節技が来るのは分かっていたのに…、防げなかった!


「ラーズ、サンキュー。おかげで、自信が付いて自信が無くなった」

ロンが言う


「どう言うことだよ?」


「昔はラーズの方が得意だった寝技に自信が付いた。だが、俺の方が得意だったスタンドでの組みに自信が無くなった」


「…確かに寝技はあまりやってなかった。代わりに、柔道やレスリングは軍時代からよく使ってたからな」


打撃は互角だった

極めはロン、投げは俺


「しかし、タイトルマッチを控えた俺と互角ってスゲーなお前」


「…でも負けたじゃん」


悔しい


悔しい



格闘技という、ルールで制限された上でのロンの安定感は、今の俺では崩せなかった



「ラーズ、ゴドー先輩を覚えているか?」


「え、空手部の? もちろん」


ゴドー先輩とは、トウデン大学の二年先輩だ

留年して、一年先輩になったけど


俺とロンも空手部に所属していて、面倒を見てくれた人だ

同時にストリートファイトに引き込んだ人でもある


「今はギアの地元に戻ってるんだけどさ、空手は続けてるって。去年、大崩壊復興のボランティアで来てくれたんだ」


「へー、懐かしい。俺も会いたかったな」


「心配してたぞ。後で、無事に見つかったって連絡しておくよ」


俺は、まだ連絡を取り合わない方がいい

貴重な変異体だし


「よろしく。ケイト先輩とは? まだ付き合ってんの?」


「それが、卒業してから別れたんだって」


「えぇっ!?」


ケイト先輩は、柔道部の先輩だ

エロくて可愛くて、そして柔道も一生懸命

俺はケイト先輩に誉められたくて、柔道も一生懸命練習した


俺の年上好きの要因は、セフィ姉とケイト先輩の存在が九割九分だ



「別れるくらいだったら、最後にアタックしとけば良かったって思ってさ」


「俺もだよ。………で、でもゴドー先輩もいい人だし、仲も良かったのに何で?」


フィーナとエマが反応した気がしたので瞬間的に話を変える

一瞬の状況判断が生死を分けるのは、戦場と同じだ


「生活感の違いとか言ってた。お互いが嫌いなわけじゃないから、たまに連絡するって言ってたけどな」


「そっか…」


「二人とも、今それぞれ付き合ってる人がいるらしい。社会人になっても、空手も柔道も続けてるってさ」


「へー、社会人になっても続けてるっていいよな」


「ラーズが戻ってきたら会おうぜ」


「いいね、同窓会やろうよ。ロンのチャンピオンの祝勝会も兼ねて」


「ああ、…勝たないとな。ラーズも、大仕事頑張れよ」


大学時代を懐かしみながら、俺とロンは乾杯した



生死をかけた戦いではない

トリガーのような殺意とは違う


積み上げてきた努力と技術、そしてプライドと自信のぶつかり合い、その緊張感と楽しさ


格闘技は、やはり楽しい

…だが、負けた悔しさは忘れねーからな?



ロンの試合:四章 ~29話 ロンとの再会 参照

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