五章 ~2話 大仲介プロジェクト発足式
用語説明w
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
ヨズヘイム:ペアと次元が重ねる異世界イグドラシルにある王国。転生技術や転移魔法陣などの魔導法学が発展している。三国戦争ラグナロクの真っ只中
ストラデ=イバリ:ペアのある太陽系の第五惑星にある第二衛星に作られた宇宙拠点。核融合や宇宙技術など独自の科学文明が発達している
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
ピンク:カイザードラゴンの血を引く龍神皇国の貴族で、騎士見習い。カイザードラゴンのブレスを纏った特技スキルの威力は凄まじい
龍神皇国中央区
龍宮殿
「ラーズは、私が呼ばれた後に名前が呼ばれるから、そうしたら一歩前に出て…」
「うん…、その時に…」
俺は、セフィ姉から式典での動きを教わっている
大仲介プロジェクトの発足式
龍神皇国の皇帝陛下から任務を言い渡されて云々っていう式典だ
大仲介プロジェクトは大々的に報道され、国民からの感心も高い
異世界と宇宙による交易の仲介
ペアの特徴である多様性を体現したかのようなプロジェクトであり、世界観をめちゃくちゃにするカオスで節操のない交易だ
だが、技術的には国家級のものが惜しみ無く詰め込まれている
異世界へと繋がる召喚魔法、そして時空間魔法陣による次元転移
宇宙へと旅する、軌道エレベーター、宇宙船、冷凍保存技術
そして、空間属性魔法陣や宇宙戦艦という恩恵
やり遂げる価値は計り知れない
「うぅ…、緊張する…」
「ちっちぇー奴だな。ドンって構えてろよ。後はがーって行って、ズパッと終わるだけなんだから」
「意図は伝わるけど意味はわかんねーよ」
間もなく式典が始まるので、俺達は入場する入口の前で待機している
そして、俺の横にいるのはスサノヲ
腕利きの武器防具職人で、赤ずきんを被った見た目は可憐な女の子
中身は怪力のヤンキーだ
「だいたい、俺と異世界行くなら何で言わなかったんだよ?」
「そんなの、当然知ってると思ってたよ」
「いや、聞いてないし!」
…
……
………
何とか式典が終った…
国家的プロジェクトは、余計な仕事が付いてくることを痛感した
「緊張した…」
「情けない男だな、ガチガチになりやがって」
「お前が手と足、同時に出そうになったの見てたからな」
式典後に、セフィ姉が予約してくれてた料亭にご飯を食べに来た
個室の席で、スゲー料亭が並んでいる
ここ、めちゃめちゃ高いんじゃないか!?
セフィ姉は遅れて来るとらしく、俺とスサノヲ、ミィとフィーナは先に食べ始めた
「初めて、あんな近くで皇帝陛下と首相の顔を見たよ」
「私達は何回か式典で会ってるよ」
フィーナが言う
「フィーナは大物を何回か狩って勲章もらってるもんね。魔王竜とか邪神官とか」
ミィがホイコーローの大皿に手を伸ばす
「名前だけでヤバさが伝わって来るな…」
「セフィリアさんはどうしたんだ?」
スサノヲは餃子とシューマイを独占
「なんか、知ってる人を連れて来るって言ってたよ? スサノヲ、私にも餃子ちょうだい」
フィーナが答えた
「まさか、スサノヲが大仲介プロジェクトの参加者だったとは…。全然内容を把握してなかったな」
「ラーズがはっきりしないから、セフィ姉も説明するタイミングを逃したんじゃないの?」
「え、行くって契約書に署名したじゃん」
「大仲介プロジェクトは、契約しただけで任せるような普通のお仕事じゃないのよ? 龍神皇国とヨズヘイム、ストラデ=イバリの三つの国の関係性を決める重大な仕事。前向きに、意欲を持ってやってもらわなきゃ、セフィ姉の顔に泥を塗りたくることになるんだから」
ミィがまじめな顔になる
「分かってるって、一生懸命やるよ。ただ、外交官がいるなら俺がやることって無くない?」
「護衛と案内係よ。ヨズヘイムとストラデ=イバリの帰りはラーズしかいないんだから」
まぁ、連れて帰って来るだけなら何とかなるか…
何も起こりませんように
…フリじゃねーからな!
「それで、スサノヲは何でヨズヘイムへ?」
「あたしは鍛冶の見学だよ。一週間だけとはいえ、向こうの魔導法学に基づく鍛冶を勉強させてもらうんだ」
「へー。でも、何でスサノヲなんだ? 龍神皇国のお抱え職人とかがいるんじゃないのか?」
「それもラーズが選ばれたのと同じ理由で、派閥の争いにならないようにセフィリアさんが個人的に抱えている職人を派遣するってことらしいぞ」
「なんか、いろいろ大変なんだな…」
「貴族の力関係は、騎士団やいろいろな組織に波及するからね。今回の大仲介プロジェクトは史上初の試みだし、余計なしがらみはご遠慮願うってことなんでしょうね」
フィーナが、唐揚げを齧りながら言う
「スサノヲってクシナダと同棲してるんだろ? 異世界なんかに行くって、止めなかったのかよ」
「んー…、まぁ、心配はしてたけど、同じ職人だからイグドラシルの技術にも興味あるんだろ。気を付けて行って来いって言ってくれたぞ」
スサノヲが紹興酒を飲みながら言う
クシナダは元ハカル兵で、刀鍛冶だ
「そっか。同じ職人なら、本当はクシナダも行きたいのかもな」
「あたしとクシナダは、職人としての価値観が少し違うんだよ。あいつは自分の技術と腕で武器性能を上げることに価値を見出す。あたしは新たな素材と技術を求める。だからクシナダはあまり行きたがらなかったな」
「職人でも考え方に違いがあるんだな。喧嘩にならないのか?」
「お互いの意見がぶつかることはあるけど、それは依頼を受けた方が決めるからな。それに、コンセプトは違うけど、職人としてはお互いに尊敬しているから喧嘩にはならないな」
「惚気?」 「のろけ?」 「ノロケ?」
「ばっ、ちげーよ!」
三人がハモって、スサノヲが赤くなる
うむ、飯がうまい
「そ、そういえば、MEBが完成したって聞いたか?」
スサノヲが話を無理やり変える
「へ? まだ聞いてない。俺が注文したオーバーラップ型のやつか?」
「ああ、後は操縦者に封印を施せば…」
コンコン…
個室のドアがノックされ、店員が静かにドアを開ける
「お連れ様が到着されました」
店員さんの後ろにはセフィ姉と女性が二人
「遅れてごめんなさい、話し込んじゃって」
「失礼しまーす」
セフィ姉の後ろにいたのはピンクだった
そして、もう一人の女性はピンクとそっくりの赤髪、ピンクとそっくりの豊満な肢体
まさか、ピンクのお母さん? 結構若く見えるけど、まさかお姉さんか?
ちなみに、ピンクは童顔巨乳という、ある意味セフィ姉をも超える属性を持っている
セフィ姉がピンクの巨乳を受け取ったら、史上最強の女性が出来上がるんじゃないかと思っているのだが…、いや、俺は何を考えているんだ?
「キ、キリエ様!?」
「なぜここに!?」
ミィとフィーナが固まったところを見ると、どうやらお偉いさんのようだ
ピンクは貴族だったはずだから、やっぱりその家系の人なのだろう
「ラー兄、突然来ちゃってごめんね?」
「え、俺? セフィ姉が予約してくれた店だから、俺は別に…」
「あなたがラーズ君ね? いつもピンクがお世話になっていますわ」
赤髪の女性が優雅に挨拶をする
「あ、いえ、ピンクにはいつも助けてもらってて…。あの、ピンクのお姉さんでよろしいですか?」
「合格ね」
「え?」
「あなたが気に入ったわ。いずれ、ぜひピンクと契りを…」
「ち、契り!?」 「お母さん、言い方!」
俺とピンクが同時に泡を喰う
「あら、ごめんなさい。嬉しいことを言ってくれるものだから」
どうやら、キリエさんという名のピンクのお母さんがケラケラと笑う
「…お母さんだったんですね。あの、ピンクは可愛いと思うんですが、俺には彼女がいまして」
「ああ、契りって性交のことじゃないわよ? フィーナ姫の彼氏を取ったりしないわよー」
そして、すんごい顔をしていたフィーナをチラッと見るキリエさん
「お母さん、今日はラー兄にMEBのことを頼みに来たの!」
ピンクがキリエさんに言う
二人が並ぶと巨乳が引き立つな
元気をくれてありがとう
「…ラーズ、見すぎだよ」
フィーナの怒気を孕んだ声
「相変わらず年上と熟女好きね…」
ミィが小声でため息
待て、何でお前が俺の性的嗜好を知ってやがるんだ?
「…熟女はいいすぎじゃないかな、ミィちゃん?」
「ひぃっ、すみません!」
そして、キリエさんの冷たい笑顔に悲鳴を上げるミィ
もしかして、キリエさんって怖い人なんですか?
「ラーズ、ピンクさんがお前のMEBを貸して欲しいんだってよ」
「え?」
全然話が進まないためスサノヲが切り出した
「お前、大仲介プロジェクトに行っている間はMEB使えないだろ? その間、さ」
「ラー兄、私MEBの免許取ろうと思って。本当は騎士団で借りて使い勝手を試そうと思っていたんだけど」
「ピンクの家って金持ちなんじゃないの? 自分で買ったり、騎士団の予算で買った方がメンテナンスとか考えるといい気がするけど」
「私は独り立ちしたからお家からのお金は使わないよ。オーバーラップタイプのMEBは個人設定を行うから、騎士団でもすぐには用意できないし」
「オーバーラップ技術は、そう簡単には使い回せないんだよ。使ってみるなら、ちょうどラーズのがあると思ってな」
スサノヲが言う
「まぁ、他ならぬピンクの頼みだからいいだろう。俺はまだ一度も使ってないんだから大事に使ってくれよ?」
「本当!? やったー、ラー兄大好き!」
ピンクが飛び上がって喜ぶ
うむ、いいリアクションだ
世話の焼き甲斐があるな
フィーナには無かった妹属性だ
「ラーズ君、ありがとう」 「ラーズ、助かるわ」
キリエさんとセフィ姉にもお礼を言われる
オーバーラップ型MEBってそんなに貴重なんだな
自分専用のMEBか…、俺も早く使ってみたいな
ちなみに、ピンクの家系であるカエサリル家が貴族の序列一位と知ったのは、帰り道でフィーナから聞いた時だった
すげーフランクに接しちゃったけど大丈夫かよ、俺!?
参照事項
大仲介プロジェクト 四章 ~19話 雇用契約
注文したMEB 四章 ~26話 スサノヲへの依頼




