四章 ~45話 発掘の延期
用語説明w
ナノマシン集積統合システム2.0:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。治癒力の向上、身体能力の強化が可能
山の中腹
スサノヲが狂気を孕んだ笑顔で戦車の迫撃砲を撃ちまくっていた時
セフィリアとフィーナがマゴニアの甲板を見守っていた
炎にためらわず突っ込むラーズ
身を焼かれながらも、一撃を打ち込むチャンスを待ち構える
「ラーズ…。トリガーが発動しても、理性を失わなかったわね」
セフィリアが言う
「でも、あんな戦い方って危なすぎるよ! まるで、自分が壊れても仕方ないみたいな…」
フィーナが首を振る
「やっぱり、まだあの施設でのことが心に…、少しは払拭できたと思っていたのだけれど」
「…施設のこともそうなんだけど……」
「え…?」
「ラーズはさ、どうして大崩壊で生き残ったのか…、そして、生き残ってよかったのかを試しているのかも…」
「…」
「……ラーズは、まだ一人であの戦場にいるのかもしれない」
・・・・・・
マゴニアの乗組員を全員確保
セフィ姉が要請した騎士団と警察が全員を拘束した
そして、問題の遺跡は…
「崩落!?」
「ええ。完全に埋まっちゃったわ。スーラがいなかったら脱出するのも大変だったんだから」
ミィがやれやれと答える
「キュイッ!」
なぜかフォウルと仲良くなったスーラが振り向いて愛想よく鳴いた
「それは残念だったけど、みんな無事でよかったわ」
セフィ姉が優しく言う
「この馬鹿以外だよ、セフィ姉」
フィーナが、回復魔法をかけながら俺を睨む
「…何で怒ってんの?」
「自分で考えろ! 無茶ばっかりして!!」
フィーナがめっちゃ怒ってる
何で?
そして、その後ろでエマもオドオドしながら回復魔法をかけてくれていた
「…とりあえず、今回捕まえた教団関係者は取調べをしていくとして、遺跡をどうするかね」
セフィ姉が、マゴニアが墜落して崩落した遺跡の入口を見る
「あの…」
そこに手を挙げて発言する男達
「お、俺達に発掘調査をさせてください! 絶対に、全てを掘り返して見せます!」
今回、発掘調査に当たっていた、どっかの大学の考古学研究室のメンバーだ
「とりあえず、あなた達には取調べで経緯を聞かないといけない。それに、発掘云々は騎士団で決める事でも…」
「あ、それならさ、セフィ姉。私が発掘を請け負って、この人たちを雇うっていうのはどう?」
ミィが口を開く
「でも、発掘って資金がかかるわよ?」
「申請すれば国の補助も出るし、大学やスポンサーの当てもあるし、ラーズも協力するだろうしさ」
「何で俺?」
「だって、あんた考古学とか好きだったでしょ? しかも、教団が求める何かがある遺跡だよ?」
「…うん、まぁ、何でもやります」
「ほらね!」
ミィが笑う
教団がらみで遺跡の発掘、しかも先史文明って俺が興味を持たないわけないだろう!
「あんた達は、とりあえず取り調べで教団関係者とのことを洗いざらい話してきなさい。その後、私が発掘の計画者兼スポンサーとなり、あなた達を雇うかを決めます」
「は、はい! 全部しゃべります! 隠す理由も全くありません!!」
発掘調査人たちが興奮している
ちなみに、代表はバビロンさんと言って、考古学の学会では結構有名な先生らしい
こうして、俺達は病院や騎士団本部へと移動
発掘現場の制圧作戦は幕を閉じたのだった
・・・・・・
結局、俺の熱傷はかなり酷かったらしく入院となった
医療カプセルに入り、エマの検査を受ける
この流れ、軍時代を思い出すな
戦闘のたびに医療カプセルに入っていた気がする
「ラーズ…」
「どうしたの、エマ?」
医者に深刻そうに話されるの、怖いからやめて?
「ナノマシンシステム2.0…、起動していると思う…」
「…え!?」
ナノマシンシステム2.0とは、ナノマシンシステムの発展機能だ
身体のナノマシン群含有量が増えることで、治癒力だけでなく、骨格の補強、筋力の増強等、身体能力の向上が得られるようになる
「自覚はない…?」
「あー…」
俺は身体に問いかける
全身のナノマシン群の起動と活性化…
ギュイィィィン……、
体に懐かしい感覚が蘇る
体を内側から補強されている感覚
「つ、使えるよ…! 間違いなくナノマシンシステム2.0だ!」
シウコアトルを仕留める時に使った、高機動中の無理やりな方向転換
あの時、身体に力が湧いて方向転換の慣性を抑え込んで体勢を崩さなかった
あれは、ナノマシンシステム2.0のおかげだったのか
「変異体は筋密度が高く代謝もいいから、それだけナノマシン群を取り込みやすかったのかも…」
「うん、エマが素材溶液をくれたおかげだね。これなら、ナノマシンシステム2.1もすぐかも」
「うん…」
そして、ナノマシンシステムには、更に2.1という段階がある
これは、ナノマシン群の変形機構を体に発現させる機能だ
身体能力の向上も変形機構と言えなくもなく、その拡張機能として2.1と名付けられた
俺の2.1は、左腕の前腕にアサルトライフルの機構をナノマシン群で作り出す能力だった
左腕で杖やナイフを持ちながら銃を使える
手に銃を持たなくても、いつでも撃てる状態を維持できるという安定感がこの能力の特徴だ
発現が楽しみだな
「ラーズ、検査は終わり…。セフィリアさん達が来てる…」
「え、本当?」
エマに言われて、俺は病室に戻る
明日、退院なのだが、なぜかフィーナとミィ、そしてセフィ姉までが来てくれた
「ラーズ、治った?」
フィーナが言う
「なんとかね。明日が退院なのに、三人してどうしたの?」
「まずは私からね。あの遺跡調査なんだけど」
ミィが言う
「ああ、埋まっちゃって、掘り返すのに時間がかかるんだろ?」
「そうね。でも、遺跡の中身を知りたいでしょ? …あの遺跡はかなり小さいもので、私も地下で見たんだけど、壁画が一つあるだけだった」
「壁画?」
「ええ、何かの図形のように見えたんだけど…。掘り返して、研究者に見てもらわないと意味は分からないわね」
そう言いながら、ミィが一枚の画像をモニターに表示する
かなり暗い画像で、地下室のような場所ということは分かる
「…これって、あの地下の?」
「そうよ。スーラの力で、壁画に付いていた石とかをきれいに剥がして、とりあえず写真だけ取っておいたの。でも、光量が足りてなくて…」
「あの時、地下でそんなことやってたのか!」
「だって、崩落の可能性もあったでしょ? 真上で戦闘が始まるんだから」
「実際、崩落したからな。さすがミィだ、昔からただでは起き上がらなかったもんな」
「ふふん」
ミィがドヤ顔をする
「と言っても、この画像じゃ判断つかないし、結局もう一度掘り起こすまで待つしかない。かなり時間がかかるわ。それに…」
ミィがセフィ姉を見た
「それに?」
俺もつられてセフィ姉を見る
「…今日、国会と皇帝陛下との合議で決定したことがあるの。ラーズにお願いするプロジェクトよ」
セフィ姉が説明を受け継ぐ
「それって…」
「そう、大仲介プロジェクト。異世界イグドラシルの国家ヨズヘイムと宇宙拠点ストラデ=イバリとの交易を、龍神皇国が仲介する一大国家間プロジェクト…、これが正式に可決された」
「…っ!?」
「そして、今回の件でラーズの実力が評価されて、大仲介プロジェクトでの採用が認められたわ」
そ、そうか…
ついに始まるのか…
具体的に何をするのかはよく分からないが、とりあえず覚悟だけは決めておく必要があるってことだな
「…セフィ姉、もう一回聞きたいんだけど」
「何かしら?」
「何で俺なんかに、そんな重要な役目を頼むの? 派閥とかCランクとか、いろいろ理由はあるって言っていたけど…。それでも、俺以外の適任者はいると思うんだ」
セフィ姉の周りには、当然ながら優秀な人材が溢れている
パッと出の俺を、そんな一大プロジェクトにねじ込む理由が分からない
「そうね。いい機会だし、ちゃんと話しておこうかしら」
「ちゃんと話してなかったの?」
「…いじわるね。ちょっと、話してないことがあっただけよ」
セフィ姉が頬を膨らませる
うん、めっちゃ可愛かった
「でも、とりあえず怪我を治しなさい。退院したら改めて話すわ」
「う、うん、分かった」
大仲介プロジェクトにセフィ姉の真意か…
とりあえず、早く退院しなきゃな
俺は生活が大きく変わる予感を感じていた
ドルグネル家独自雇用者リスト←new!
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
二つ名 トリッガードラゴン
戦闘ランク C+
適正職種 斥候
固有特性
・ナノマシン統合集積システム2.0
・ホバーブーツによる高機動戦闘
・近接火力、フル機構攻撃
・サイキック:サードハンド、圧縮ボム
・完成変異体、ドラゴンタイプ
固有装備
・真・大剣1991
・ヴァヴェル(魔属性装備)
・絆の腕輪
・ホバーブーツ
備考
・五感鋭敏化、飛行能力
・ニーベルングの腕輪装備中
・使役対象二体
(外部稼働ユニット、小竜)
懸念事項
・トリガー発現時の暴走
読んで頂きありがとうございます
これで四章終了になります
五章からは、一日おきの投稿になるかと思います
(投稿忘れたりして不定期になる可能性も…汗)
また書き溜められたら投稿ペース上げられるかも
一日開けて明後日から五章大仲介プロジェクト編です、よろしくお願いします!




