四章 ~44話 発掘現場2
用語説明w
サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス。大型武器の補助動力としても使用
サイキック・ボム:精力を圧縮し、テレキネシスとして発動させることで爆弾のような瞬間的な衝撃を作り出す
真・大剣1991:ジェットの推進力、超震動装置の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラー特性を持つ大剣、更に蒼い強化紋章で硬度を高められる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
フォウル:肩乗りサイズの雷竜。不可逆の竜呪を受けており、巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける
シウコアトル
Bランク、炎を纏った火属性の蛇
火炎放射や火属性の圧縮ビームを吐き出す生物兵器のような生態を持つ
「Bランクモンスターの力学バリアでマゴニアを守り、同時に攻撃手段とする。よく考えてるね」
「あれを倒さないと、マゴニアはぶっ壊せないってことか」
「そうだね。…属性持ちのBランクは破壊力が桁違いだよ。セフィ姉から許可が出たら私も出る。それまで気を付けてね」
「…分かってる」
フィーナは心配そうな顔をしながらも、シウコアトルの姿を見て怯え切っている発掘作業員達を連れてエマのいる拠点に向かった
俺はホバーブーツを飛ばしてマゴニアに接近
流星錘をひっかけて甲板に駆け上がる
「ああぁぁぁっっ!」
「ガアァァッ!」
ピンクがすでに戦闘中
片手剣をシウコアトルに叩きつける
シウコアトルが炎を纏って体当たり、それを炎を纏ったピンクが受け止める
互いの攻撃で互いに仰け反りながらも、互いにダメージを負っていない
ややこしいな!
「ピンク!」
「あ、ラー兄ぃ! 私、火属性に特化してるから、全然攻撃が通らないの!」
おぉ…
火属性同士の殴り合い、火属性に耐性がありすぎてお互いに軽減しちゃってるわけか
「俺がしばらく相手をする! ピンクはこの船の人員の拘束を! 船から降ろせ!」
「えぇっ!? Bランクモンスターだよ、大丈夫!?」
俺は頷いて、倉デバイスから1991を取り出してサードハンドで保持する
「わ、分かった…!」
ピンクが、俺を振り返りながらも船室に入って行く
さぁ、タイマンだ
俺は右腕をシウコアトルに向ける
ゴッ!
シウコアトルに向けて流星錘を投擲
跳ね返った錘を、紐を振って叩きつける
さすがにBランク
ダメージは無く、鬱陶しそうに口を開ける
その瞬間、左手で持った小型杖を振る
力学属性引き寄せの魔法弾が甲板に着弾、引き寄せ効果が俺を引き付ける
ビョオォォォォォン!
シウコアトルの真横に高速移動
同時にエアジェットで床を蹴り、飛行能力の推進力で真上にある顔面に飛ぶ
1991を構えて、ロケットブースターとパイルバンカーでのフル機構突き
ゴゥッ スッガァァァァァァァン!
「グギャアアァァァァァッ!」
下あごを抉り、上あごまで1991の刃体が突き刺さる
だが、仕留めるには至らず
ダメージと同時に、シウコアトルが発熱する
精力の腕であるサードハンドで刃体を掴み、全身の力で1991を引き抜いて脱出
ボボォォォォン!
「うおっ!?」
その直後、全身から高温が放射される
火属性の特技だったようだ
あぶねぇ…!
くそっ、サイキック・ボムを重ねられれば今のフル機構突きで倒せていたかもしれないのに
シウコアトルが、負傷した口から火属性ビームを連射する
キュィン!
キュィン!!
キュキュイィン!!!
「うおわぁぁぁっ!?」
ホバーブーツで直線ビームを連続回避、同時に飛行能力での三次元高速回避
左、右、上、急降下、前、斜め左、斜め上、急降下
くそっ、目が回る
高速移動中の空中制御が出来ない
姿勢を崩すと、途端にビームが飛んで来る
ダメだ、隙が出来てしまう
キュィン!
「あぶねぇっ!?」
飛行能力とホバーブーツの併用は、片方しか使わない高機動とは比べ物にならないくらい自由度が高い
半面、足先と背中からの異なる推進力により、体幹にかかる負担が大きすぎる
変異体の筋力でも、身体を支え切れていない
…いや、まだ使いこなせていないだけだ
シウコアトルが細かいビームが連射
弾幕が厚すぎて近づけない
このままじゃいつか当たってしまう
ちなみに、俺の銃弾は力学バリアで止められるが、シウコアトルの特技である輪力由来のビームは止められない
つまり、俺だけが遠距離攻撃を封じられた状態だ
ずる過ぎないか!?
だが、集中力が上がる
危機に対して、身体と脳が反応している
…トリガーを自覚する
意識を任せるな
高揚するな
トリガーを制御しろ、自分の意志で体を動かせ
ギュイィィィ…
トリガーに呼応するように、体の中から音が聞こえる
シウコアトルが大きく口を開けて、今までのビームとは違う炎を吐き出した
点での攻撃ではなく面での攻撃、火炎放射だ
だが、今の俺なら飛び越えられる
エアジェットでの加速からのジャンプ、飛行能力の推進力の加速
同時に、引き寄せの魔法弾をシウコアトルに当てる
ビョオォォォォォン!
引き寄せの魔法弾で無理やり進行方向を変える
火炎放射の上端部分を掠るように突っ切って、シウコアトルに突っ込む
「うおぉぉぉぉっ!」
サードハンドで保持していた1991を構える
だが、まだ振らない
この位置をキープしてフル機構斬りを叩き込む
テレキネシスを集中、サイキック・ボムを1991の穂先に作り出す
「があぁぁぁっ!」
ガッ!
体に纏わりつくように直近を動く俺を、シウコアトルが尻尾を振り回して暴れる
発せられる高熱が俺をじりじりと焼いていく
キイィィィィーーーーーーン………
暴れながら、シウコアトルの体が光を放つ
な、何だ!?
様子が変だぞ!
「ラー兄ぃ! 凄い輪力が集まってる、爆発しそうだよ!?」
「な、何だって!?」
シウコアトルが震え出す
放たれる熱で、マゴニアの木材が発火し始めた
「まさか…、爆発!?」
「やっぱりそう思う!?」
俺とピンクの見解は一致
「ご主人! シウコアトルは広範囲爆破の特技があるって!」
そして、データの裏付け
「ラー兄ぃ、逃げよう!」
「ダメだ、地下にミィがいる! 遺跡も破壊させない! 仕留めるぞ!」
「えぇぇっ!?」
思いっきり一撃を叩き込むしかない
「ピンク、あいつを思いっきりぶっ飛ばせ! 止めは俺がやる!」
ピンクはカイザードラゴンの血を引く騎士
火属性を使わない通常攻撃でも、かなりの打撃力を持つはずだ
「わ、分かった!」
ピンクが、震えながら動きを止めたシウコアトルに片手剣を叩きつける
ドゴォッ!
「グギャッ!!」
ピンクの一撃でシウコアトルが思いっきり仰け反る
俺はエアジェットでシウコアトルの体を駆け上がり、頭上に飛び上がる
そして、飛行能力で真下へ急降下
真上から真下への鋭角カーブと急加速
とんでもない遠心力と加速度のGがかかるだろう
俺は、慣性で吹き飛ばないように歯を食いしばる
最後のチャンスだ、ごちゃごちゃ言ってられるか!
サイキック・ボムは構築済み
自爆なんかさせない、これで決める!!
ギュイィィィ!
「…っ!?」
だが、予想外の力が俺の体幹に働く
内側から体を補強されるかのような力
体幹が安定する
これは…
この力は…!
いや、仕留めるのが先だ!!
空中での急旋回が成功!
1991の振り下ろし
ロケットブースター、パイルバンカー、サイキック・ボム
そして、急降下による加速
フル機構斬り
ゴウッ ズッパァァァァァァァァァン!
シウコアトルの頭頂部に1991を叩きつける
…手ごたえは有った
しかし、シウコアトルが半分が吹き飛んだ顔をもたげた
まだ、放熱も止んでいない
「くそっ、仕留め切れていない! ピンク、止めを!」
「う、うん!」
お互いにダメージを与え辛い火属性同士、だがピンクに賭けるしかない
ごめん、俺が仕留められなかったせいで!
ピンクが片手剣を握った、その時…
ボシューーーーーー!
ザッバァァァァァン!
突然、間欠泉のように水が甲板から吹き出した
「あっ、ミィ姉! スーラも!」
ミィが、船の外でスーラを使った水属性魔法を発動していた
水が、発光するシウコアトルを包み込む
蒸発しながらも、大量の水が次から次に纏わりついていく
「ミィ、水の維持を! フォウル、サンダーブレスだ!」
俺は、上空に待機していたフォウルに叫ぶ
フォウルが上空で巨大化、大きく口を開ける
シウコアトルが、突然上空に現れたフォウルを威嚇するように見上げると、
バリバリバリーーーーーーーーーー!
「ガギャアァァッ!!!」
大電流のサンダーブレスがシウコアトルに直撃
水魔法の液体に乗って、大電流が暴れ回る
一発しか使えないとはいえ、やはりフォウルのブレスは凄い
静かに、甲板に倒れ込むシウコアトル
なんとか自爆を止めたか…
「ぐっ…!」
急に疲労感に襲われ、俺は膝をつく
倒したことにより集中力が切れた
同時に、内側の力とトリガーも解除されたらしい
「…っ!?」
凄まじい痛みに襲われる
「ラー兄、皮膚が!?」
ピンクが驚いて回復薬を取り出す
「ご主人! 熱傷を負っているよ! 回復薬を!!」
データのアバターが俺をスキャン
火炎放射や、発熱を近距離から浴びていた
シウコアトルの熱は、直撃じゃなくても皮膚を焼いていたようだ
ズズズズズーーーー………ン!
「な、何だ!?」
突然揺れ動く地面、いや甲板
マゴニアが動き出しやがった!?
「ラー兄ぃ、動いてるよ!?」
ピンクが俺に回復薬をかけながら言う
船内に残っていた奴が動かしたのか…
このまま逃げるつもりか!?
俺はインカムを使う
「スサノヲ、聞こえるか? 力学バリアは無くなった、マゴニアが少し動いたら叩き落してくれ」
「少し動いたらってのは何だ!?」
「真下に、遺跡の入口があるんだ!」
「分かった!」
マゴニアが動き出して暫くすると…
ドッガァァァァァン!
ゴッガァァァァン!
ボッガァァァァァン!
砲弾が飛んできて船体の側面に連続着弾
木材の船体が大きく揺れる
あいつ、砲撃上手いな!
マゴニアがそのまま墜落していく
「あれ、脱出してないと俺達も巻き込まれる?」
「そ、そうだよね!」
俺とピンクが顔を見合わせた時、下から大量の水が噴き出した
下を覗くと、ミィとスーラが水属性魔法を発動している
どうやら、マゴニアを受け止めてくれたようだ
そして、静かにマゴニアを着地させてくれた
明日、四章最後です!




