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一章~11話 テレパスハック実験

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」


検査室に呼び出された

中には巨大なカプセルが置かれ、何かの溶液が満たされている


「これに入れ」


「…これに!?」


また、何かの人体実験を受けさせらるようだ


嫌だが、抵抗しても無理矢理放り込まれるだけだ

俺は表情で不満を伝えながらも、言われた通りにカプセルに入った


マスクをつけて、溶液に浮かぶ

かなりの浮力があり、溶液の真ん中でちょうど体が浮くような状態になった



ドスッドスッドスッドスッ!!


「ーーーっ!!」



突然、四本の杭が伸びてきて俺の手足を貫通した


「………」

「……」

「……」


カプセルの外では、研究者たちが口を動かしながら何やら作業をしている

しかし、声は溶液に浮かぶ俺にまで届かない



「…ゴボガボ……ゴボッ………!」


突然、杭から凄まじい痛みが体の中に入ってきた



肉体を流れる氣力の流れである氣脈

ここに外部から氣力を流し込んでいるようだ



ズズン…!


「…っ!?」



突然、溶液が重さを増す

水属性魔法を発動、溶液の体積を一時的に増大させてカプセル内の密度を上げたようだ


肉体に対して、氣脈という内部からのストレスと、外部の水圧のストレスを同時に与えているのだ



身動きの取れない苦痛


体内を走り回る激痛


身悶えも出来ず、ただ成すがままにされるしかない状態



苦しい…!


やめろ……!



体の中を這いまわる痛みが増す

氣力の量が上がった



「ゴポォッ……!」


苦痛に声を上げたくても、出るのは泡ばかりだ



助けてくれ………


何で俺がこんな目に…!



当たり前だろ?


え?



そんな俺の問いかけに、何かが答えた

俺の心の中で、のそりと立ち上がる()()


真っ黒い影

いつも恐怖を巻き散らしてくるあいつだ


真っ黒い何かの口の部分だけがぽっかりと開き、しきりに何かを伝えて来る

いつもは何も聞こえないその言葉が、今日は分かる気がする



仲間を失った


忘れようとしている


悲しんでいるふりをしている


お前は逃げたんだ


苦しんで当然だ



真っ黒い何かが、俺を責めるように口を動かす

何かを訴えて来る



…忘れようとしている?


忘れるわけがない


逃げてなんかいない



俺は真っ黒い何かに言い返す


…分かっている


こいつがそう言っていると、勝手に感じているだけ

俺は自問自答をしているだけだ



罪悪感か?


無力感か?



俺の中の何か

真っ黒い影のような何か


…俺自身が作り出したであろう何か



常に何かを訴えかけて、必死に口を動かしている


でも、言葉が俺まで届かない

伝わってくるのは巻き散らされる恐怖だけ



何が言いたいんだ


いつもお前は何を伝えようとしているんだ


お前が来ると、俺は恐怖でどうにかなっちまう


消えてくれ


もう出て来ないでくれ…




・・・・・・




「よし、やってくれ」


カプセルの中の、意識のなくなりかけた被検体を見ながら研究者が声をかける


「分かりました」


研究者の一人が前に進み出てサイキックを発動する

どうやら、この研究者はテレパス使いらしい


精神の力である精力(じんりょく)を使って、カプセル内の被検体の脳に直結

イメージを送り込む


ハック型のテレパスだ


「ゴボォッ……!」


カプセル内の被検体が、大きく反応

空気を吐き出す


最後の刺激である、精神への直接的なストレスだ


人間が本能的に恐れるイメージを無作為にぶつけていく


お化け、モンスター、巨人

グロテスクなもの、気持ちの悪い感覚、尖ったものを突き付けられる恐怖

高い場所、炎、水中



「ゴボゴボォゴボッ…!!」



そして、一番反応したもの

それは死のイメージだった


人間の死体


みわたすかぎりの死体の山


そんなイメージを無理やり被検体の脳内に送り込む



「ガボォッ……!」


気泡を吐き出しながら、変異体が悶えている



被検体は元軍人らしい

それにもかかわらず、死体が怖いというのか?


異様に反応する被検体

強制進化を促進させる刺激としては理想的ではある


見つけた


研究者たちはほくそ笑み、より被検体が反応する刺激を探し続ける


この実験は、数時間続けられた




・・・・・・




気が付くと、俺は診察台に寝かされていた

いつの間にか気を失っていたらしい


苦痛の中で、とても恐ろしいものを見た気がする

だが、それが何かを覚えていない


「気分はどうだ?」

白衣の研究者が俺に声をかけた


「…懐かしい、夢を見た気がします」


「どんな夢だ?」


「戦場の感覚…ただ、どんな夢だったのか…」


「そうか」


研究者は、俺の言葉をカルテに書きとめていった



…そう、俺は軍隊に所属していた一般兵だった

日々、仲間たちと国民のために戦っていた


俺達兵士は、いろいろな技能を取得したり、いい装備を揃えたりして戦闘力を上げるために切磋琢磨していた


中でも、特に優秀な技能のことを固有特性と呼んでいる

そして、俺も固有特性を持っていたのだ


俺の固有特性は、人体強化手術の一つである「ナノマシン集積統合システム」だ



ナノマシン集積統合システム


コアとナノマシン群を一個体の擬似共生生物とし、人体に移植する人体強化手術

ナノマシン群とは、ケイ素系細胞、マイクロマシン、ナノマシンからなる人工極小マシンの集合体

これを使って、人体の治癒力の向上などが見込まれる、人体内でナノマシンを運用・活用するシステムだ



だが、その能力が沈黙していて使えなくなっている

ナノマシン群の反応自体もないため、存在さえ感じられない


「あの…、私は以前、ナノマシン集積統合システムの手術を受けています。でも、その能力が使えなくなっているんですが、何かわかりませんか?」

俺は研究者尋ねる


「ナノマシンシステムだと? ちょっと待て…」

研究者が俺の資料を検索する


「…お前のナノマシンシステムは停止措置を取っているな。ナノマシン群の治癒力が、強制進化の邪魔をする可能性がある。ここを出るまでは機能を停止させることになるだろう」


「停止措置…」


勝手に何してくれてんの?


だが良かった

そうか、ナノマシンシステムはちゃんと生きているのか

軍時代に育て上げたナノマシンシステムには思い入れがある


俺の体の中で生きているなら、いつか変異体の体でナノマシンシステムを使うという合わせ技もできるということだ




…やっと起き上がれるようになり、俺は個室に戻る


この人体実験、一体いつまで続くのだろうか

選別といい、理不尽すぎる環境だ



夢で見た、戦場の風景


戦場の空気


死の臭い



久しぶりに感じた()()()()



…仲間を失い、俺だけのうのうと生き延びている


ここの理不尽さは、そんな俺の罪に対する罰にも感じる



…いや、ここの理不尽さに納得なんかしない


受け入れてたまるか


死んでたまるか


絶対にここの施設から出てやる



会いたい人がいるんだ





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