四章 ~37話 フィーナとのんびり
用語説明w
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
フィーナと久しぶりに休みが被った
「どこ行こっか?」
うきうきしながら準備しているフィーナ
「フィーナ。午前中だけ、ちょっと行きたいところがあるんだけど」
「え、どこ?」
そして向かった、ファブル地区の山の頂上
「ふーん、サイキッカーの騎士が来てくれたんだ。なんて人?」
「エルウィンっていう、飛行ユニットを使う人だったよ」
「うーん、私は会ったことない人かも」
午後は遊びに行くとして、午前中だけでも訓練をしておきたい
折角、本職の飛行ユニット使いに飛び方を教わったのだ
「じゃ、やるぞ」
俺は精力を背中の触手に集めて行く
そして、テレキネシスとして浮力を発動
サイキックとの親和性の高い触手は、テレキネシスの力がかかりやすく強い浮力を発生できる
「ぐっ…、これを浮力だけじゃなく触手の振動に…」
触手を翼のように羽ばたかせ、振動させる
鳥の翼のようには動かないし、面積も足りない
イメージはトンボみたいな感じだろうか?
「…ぷはっ!」
地面に着地
ダメだ、継続飛行時間が伸びてるとは感じられない
「ラーズ、触手はどうやって動かしているの?」
「え?」
「トンボだって鳥だって、最適な羽ばたき方があるわけでしょ? ただ動かしたって浮力の足しにはならないんじゃないかな」
「…確かに」
そういや、そうだな
浮力と同時に動かすことばかりを考えていたが、動かし方までは考えていなかった
「フィーナに見てもらってよかった。もう一回やってみる」
「あと、空中で静止した状態よりも、移動しながらの方が揚力は得やすいでしょ。動きながら羽ばたき方を探った方がいいんじゃない?」
「…そうかも」
飛行機は、当然ながら空中での静止などできない
それは、進むことで翼の上下に気圧差を生じて揚力が生まれるからだ
「へっへっへ…。私も空を飛べるから多少はね」
フィーナが言う空を飛ぶ方法
Bランクの騎士は闘氣で身体能力を強化しているため、常人とは比べ物にならないくらいの機動力を持っている
全力で走れば車にも負けないし、跳躍で数階建ての建物を飛び越えられる
だが、それでも空中を飛行するという能力の優位性は計り知れない
例えば重力魔法
自身にかかる重力を少なくしていけば、大気の比重よりも軽くなった時点で体が浮き上がる
他にも。風属性魔法で大気の力で浮き上がらせる、テレキネシスと同様に力学属性魔法で体に力を働かせるなどの方法もある
一般的には、複数の属性を併用して空を飛んでいることが多い
俺はもう一度飛行能力を発動し、今度は移動しながら触手を動かす
「ぐっ…くっ…」
おお…!?
分かる気がする
体が浮力を感じる動かし方は、ただ上下に動かすだけじゃない
力を受けやすいように…!
こうか…!
「はぁ…はぁ…」
つ、疲れた…
「ラーズ、無理しすぎだよ。そろそろ帰ろう?」
「あ、ああ…、そうだな…」
疲労で集中力が切れて、地面に突っ込んだ
受け身は取ったが背中を思いっきり擦ってしまい、フィーナが回復魔法をかけてくれた
…大学時代を思い出す
俺は大学時代に格闘技をやっており、バイトではゴーストハンターのお手伝いやホバーブーツの訓練をしていて、毎日のように怪我をしまくっていた
よく傷だらけになってフィーナに回復魔法をかけてもらっていたな
「サンキュー、フィーナ」
フィーナが水魔法で簡易シャワーを作ってくれ、軽く汗を流す
そしてシャツを着替えればサッパリだ
「ラーズって、昔からそういうところあるよね?」
「え、何が?」
「はまったら、ずっと練習し続ける感じ」
「そうかな? なんか、フィーナの一言で掴めそうな気がしたんだ」
「ふふっ…、そういう所、昔を思い出すよ」
俺達は、フィーナが行きたがっていたおしゃれなカフェでお昼を食べる
服を見て、家具を見て、日用品を買う
うん、フィーナと過ごす休日は楽しい
「結構遅くなっちゃったね」
「夕食、買っといてよかったな」
買って来た総菜を並べて、夕食
明日は二人とも仕事だ
「ラーズ、最近楽しそうだね」
「そうか?」
「うん、ミィ姉と外に出るようになってから。本当は、モンスターハンターの仕事とか反対だったんだけど」
「なんで反対なの? 危険だから?」
そりゃ、Bランクの騎士様には勝てないけど、俺だって軍時代の経験とプライドがあるんだぞ
「それもあるけどさ。思い出して辛くならないかなって。…防衛軍の頃のこととか」
シグノイア防衛軍
第1991小隊
俺が一番充実していた頃
そして、失うことでトラウマを負った原因だ
「フィーナ。俺が一番怖いのは忘れることなんだ」
「忘れること?」
「俺は、あの施設にいた時に一時的に小隊の記憶を失っていたんだ」
「え…」
俺の心は弱かった
耐えられなかった
だから、記憶の奥底に閉じ込めた
「…怖かった。仲間のことも、大崩壊の哀しみも、教団に対する怒りも全てを忘れていたことに。1991小隊を無かったことにした、そんな自分が許せなかった」
「ラーズ…」
「それに、外に出ることは楽しいよ。自分の今まで得た技能を活かせるわけだし、セフィ姉の助けになっていたら嬉しいし、ミィとも仲良くやってるしな」
「そっか…」
フィーナが、少し心配そうに言う
「ま、ラーズが元気になるならいいかな」
フィーナは、まだ言いたいことがあるようだったが、その言葉を飲み込んだ
心配よりも先に、俺を信じてくれる
俺のやりたいことを優先してくれる
フィーナ…
本当にいい女になった
俺なんかにはもったいない
「でも、無理だけはしないでよ? 元気になったっていっても精神的な影響は残ってるんだし、ラーズはそこまで無理しないでいいんだからね」
フィーナ…
いつの間にそんな所帯じみた感じに?
いや、どっちかというとお母さん的な?
「分かってるって。ありがとな」
ふと、フィーナと出会った頃を思い出す
俺とフィーナが出会ったのは、俺が八歳、フィーナが六歳の頃だったと思う
遠い親戚であるセフィ姉が、どこかの女の子ということで連れて来たのだ
今でこそ、フィーナは明るく優しい女性に成長した
だが、この頃は心を閉ざした暗い女の子だった
何を話しても反応が薄い
何にたいしても興味を持たない
…セフィ姉から聞いた話では、フィーナは自分の家では味方が誰もいなかったらしい
母親は物心つく頃にはいなかった
父親は忙しく、構ってもらえない
周りには、世話をしてくれる人はいても話を聞いてくれる人はいない
そんな寂しさを、当たり前として育ってきた
それが、うちの両親と関わっていくことで変わった
年相応の女の子に戻って行った
あれ、フィーナってチョロイ女、もしかしてチョロイン?
その後、フィーナは年下ながら俺と一緒にボリュガ・バウド騎士学園に一緒に入学したのだ
「…だから、突然自分の考えに浸るの止めてって」
「ん、おぉ…、ついな」
「この流れで何考えてたの?」
「フィーナと初めて出会った頃のことだよ。フィーナってチョロイのかなって」
「意味が全然わからないよ!?」
うむ、全く説明しなけりゃ、そりゃそうだろう
「…そんな感じで、思い出してたんだよ。今のフィーナからだと信じられないなって」
「お父さんとお母さんのおかげだよ。…あと、ラーズと」
フィーナが恥ずかしそうに言う
フィーナは人のことを結構見ている
そして気にするタイプだ
…フィーナが笑っていると、こっちもホッとする
フィーナの辛そうな顔を見て来たからこそ、そう思う
フィーナは今、幸せだろうか?
フィーナは今、俺のことで負担をかけていないだろうか?
「…ラーズが帰って来て、私は幸せだよ?」
お前はエスパーか?
「うん、ありがとう」
あれだな、察せられると嬉しい反面、めちゃくちゃ恥ずかしいな
俺は照れ隠しも兼ねてフィーナをハグ
ついでにいろいろ揉んでみる
恥ずかしい
恥ずかしい
嬉しい…
「え、え、どうしたの?」
「…改めて好きだなって」
「ヤリたいだけでしょー?」
「…嫌?」
「…そんなわけない」
俺は、いちゃつける幸せを俺は噛みしめるのだった
明日は閑話です