四章 ~36話 教団対策会議一回目
用語説明w
神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍
ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴
今日は、龍神皇国騎士団に所属するサイキッカーの騎士をミィが連れて来てくれた
テレキネシスによる飛行能力のアドバイスをもらうために、セフィ姉がさっそく手配してくれたのだ
「エルウィンだ、よろしく」
「ラーズです。今日はありがとうございます」
俺は、背中の触手での飛行能力を自分でいろいろと試していた
だが、継続飛行時間がなかなか伸びない
どちらかというと、ジェットスラスターのような推進力としてしか使えないのだ
それはそれで使いどころはあるのだが、一度本職のサイキッカー、特にテレキネシス使いに意見を聞きたかった
フィーナやエマもサイキッカーなのだが、二人ともテレキネシスよりはテレパスの方が得意であり、特に飛行能力として使うテレキネシスは特殊な使い方のため分からないらしい
「私は車でお茶してるからね」
ミィは車に冷房をガンガンにかけて、大量に買って来たお茶とお菓子を助手席に並べ始めた
今日は、ゆっくりさぼる! という確固たる決意が伝わってくるようだ
「…では、時間もないしさっそく始めよう。まず、君の飛行能力を見せてくれ」
エルウィンは、背中に付けた飛行ユニットを起動させる
飛行ユニット
思念感応核と呼ばれる、サイキックとの親和性が高い精神感応金属を中心部に使い、大量の精力を取り込めるユニット
更に、昆虫の羽根のようなフラップが付いており、テレキネシスを浮力の他にフラップの振動に使うことで効率的に浮力や推進力を生みだす
1991小隊でもカヤノという女性隊員が使っており、カヤノの思念感応核は俺の大剣1991に導入されている
「では、やります」
俺は背中の触手に溜めた精力で、重力に対抗する推進力を発生させる
俺の体が三メートルほどの高さに浮き上がる
「よし、では少し動いてみてくれ」
「はい」
俺は浮いていた場所から前、上、下、横へと動く
だが…
「はぁ…ダメだ…」
やはり、飛行中に使う精力の量が多すぎて、取り込む精力量が追い付かない
すぐにテレキネシスの精力が尽きて落ちてしまう
「なるほどな…、よし、次は俺の飛行能力を見てくれ」
そう言って、エルウィンが飛行ユニットに精力を送る
透明のフラップが高速で羽ばたきだし、エルウィンの体が浮き始めた
「やはり、安定していますね」
俺は、空中で静止しているかのようなエルウィンに言う
「俺は今、精力を思念感応核に送っている。これによってテレキネシスを発動して浮力を出しているわけだ。同時に、このフラップを高速で羽ばたく力としても使っている」
「…そのフラップの羽ばたきが俺とエルウィンの差ですか?」
「結論はそうだが、プロセスとしては少し違う。浮力を生み出すテレキネシスを羽ばたく力と浮力の同時に使うことで省エネをするんだ」
「俺は、浮力だけにテレキネシスを使っているので効率が悪いということですか」
「そうだな。飛行ユニットの訓練では、最初は耐G訓練や高速移動、体幹を鍛えて姿勢を維持する訓練を行うが、ラーズの場合は必要なさそうだ。後は、精力の効率的な使用、羽根の振動と浮力への同時使用を身に付ければ、継続飛行時間は伸びるはずだ」
「なるほど…」
そういえば、飛行ユニットを使っていたカヤノも、耐G訓練や筋トレなどで地獄を見たって言っていたな
俺はホバーブーツを使っていたから、三次元的な感覚や耐Gへの対応は身に付いている
後は、テレキネシスの効率的な使い方か…
飛行能力と一言で言っても、やはり奥が深い
エルウィンはBランクの騎士であり、フィーナと同じように忙しく各地を飛び回っている
忙しい中で指導をしてもらい、感謝しかない
「かなり早足になってしまったが、こんな所だ。テレキネシスの訓練は個人でもできるから続けてみてくれ」
「はい、勉強になりました。反復練習を続けます」
当たり前だが、全然身に付かなかった…
すげー難しいんだけど!
「…俺は変異体を初めて見たが、やはり凄いものだな」
「そうなんですか?」
どう見ても、Bランク騎士様の方が全ステータス上だと思いますけど
「体幹の力で姿勢が全くぶれない、自分の体だけで飛行ユニットと同等の飛行能力を実現。普通の体の俺達では不可能なことだからな」
「ま、まぁ、俺はドラゴンタイプの変異体だからというのもありますけどね」
「飛行能力自体のセンスはいい。頑張れよ」
「はい、ありがとうございました」
エルウィンは、この近くの立ち入り制限地区でモンスター退治の仕事があるらしく、飛行ユニットで空を飛んで行った
よし、個人練習を続けよう
・・・・・・
「ふぁ…終わったのね…」
完全に寝ていたミィが瞼を開ける
「ああ、お待たせ。…別に俺に付き合わなくてもいいんだぞ?」
「何言ってるの? 毎回絶対付き合うわよ、お菓子買い込んで」
ミィはいい笑顔で言い切った
その後、騎士団のファブル地区南支局に戻る
俺達は、ミィが予約していた小さな会議室に入った
「何するんだ?」
「作戦会議よ。教団の関係者を捕まえたでしょ? 取調べの結果を教えてあげる」
エマの契約している里山で捕まえた賞金首
こいつの取り調べで、教団の隠し拠点が判明した
この隠し拠点を強襲し、賞金首を雇って何をしているのかを調査したのだ
拠点にいた男二人、女一人を確保
更に、拠点内で捕らえられていた男を一人保護
そして、拠点の様子を外で窺っていた教団のエンブレムを持った男を捕まえた
「結論から言うと、とても面白いものを見つけたの」
ミィが続ける
男たちの調査結果
まず、捉えられていた男は、竜人のマイケルさん
ファブル地区に土地を持つ地主だ
なぜ拉致監禁されていたのか
それは、地上げを了承しなかったからだ
マイケルさんが持つ土地を売れと教団関係者が交渉していたのだが、先祖から土地を引き継いできたマイケルさんは首を縦に振らない
そこで、エマの里山で確保した賞金首と拠点にいた三人に、マイケルさんに土地を売らせるように依頼を出した
だが、賞金首が運悪くバウンティハンターに見つかったことが運の尽きだった
「教団が土地を売れ? 教団の施設でも作るのかよ?」
「それが、マイケルさんの土地って麓が農場になってる山なのよね。人里が近いわけでもないし、拉致してまであそこを狙う理由が分からないわ」
「…気になるな」
「そう、それを確かめに行こ」
「そりゃもちろん。でも、どこに?」
「ラーズが捕まえた、あの三人の拠点を覗いていた男がいたでしょ?」
「ああ、教団のエンブレムを持っていた奴か」
路上でとっ捕まえたやつだ
「あいつの出入りしている教団の施設が分かったの」
「ほほぅ…、調べ甲斐があるな」
「でしょ? それと、あの三人に仕事を落としたマフィアも特定できた」
「マフィア?」
「大手ファミリーの三次団体。小規模だから、こっちは警察に踏み込んでもらうわ」
「警察に?」
「善良な国民を拉致監禁したのよ? ちゃんと上層部にもツケを払ってもらわないとね」
「分かった。俺達は教団の施設だな」
神らしきものの教団は、教会のような施設を持っている
信者の寄付金で建てられた施設、宗教って凄いよなぁ…
「騎士団がもう少し周辺を調べるから、決行日が決まったらまた連絡するわ」
「分かった」
教団が狙う、ファブル地区の山
化けの皮を剥がすのが楽しみだ
「それで、この作戦に関しては完全に情報をシャットアウト、騎士である私の力だけでやることになったの」
「何で? 教団の悪事を暴くチャンスなんだから、騎士団で大々的にやればいいだろ」
「セフィ姉が、ラーズに手柄を立てさせるチャンスだからって」
「俺に手柄? 目立っちゃダメなんだろ?」
「それは悪目立ちの話よ。間もなく始まる大仲介プロジェクトでラーズを使いたい。実は教団の悪事を暴いた人間です。…どう、良くない?」
「ちょっとよくわからないけど、いいのか?」
「…一般兵をセフィ姉が大抜擢したのよ? 一つでも二つでも手柄があった方が説得力があって文句も少なくなるってことよ。しかも、それが教団の関係なら感心も大きいし」
「そ、そういうもんか。どっちにしろ、教団を潰すなら俺もガンガン働くから任せてくれ」
そういう、政治的な話は苦手だ…
だが、セフィ姉のため、教団潰し、やる気が出る材料は揃っている
賞金首の拠点 四章 ~31話 裏のお仕事