四章 ~33話 フィーナとまったり
用語説明w
フィーナ:ラーズの二歳下の恋人。龍神皇国騎士団にBランク騎士として就職している。魔法に特化した大魔導師
フィーナが帰って来た
「…疲れてないか?」
「疲れた…」
帰るなりソファーにダイブするフィーナ
「今日もモンスターハンター?」
「ううん。今日はたまった事務処理を終わらせるためにクエストは入れないでもらったの」
「外出てない割には疲れてんじゃん」
「今日で全部終わらせようと思って、朝から全力だったんだよ…」
「あー…」
事務処理は疲れない→×
事務処理だって疲れる→○
全力でやれば疲れない仕事なんてないよな
「それにさー…」
「ん?」
「最近仕事のモチベーションが下がっちゃって。ラーズ帰ってきたし」
「…俺がいない間に頑張ってくれてたんだもんな。ありがと」
「わっ!? んー…」
よしよししたら目を細めるフィーナ
なんか猫みたいでかわいい
「ラーズ、明日は?」
「セフィ姉とクエストだって」
「え、また? 騎士団のトップが何回クエストに付き合うのよ」
「なんか、どうしても俺のトリガーを見たいんだってさ」
「トリガー?」
トリガー
俺の商品名、トリッガードラゴンの由来となった能力
危機に直面したり重症を負った時などに脳内麻薬を放出して体のリミッターを外す
分かりやすくいうと、ギリギリの状況でぶち切れる
潜在能力を一時的に解放、痛覚の遮断、高揚感等を発揮するが、理性が失われるというデメリットがある
これは変異体の特徴ではあり、俺は特に顕著らしい
へルマンに理性を失う危険性を指摘され、最後の賭けでしか使わないように現在トレーニング中だ
最近は、戦闘の緊張感や殺意に引っ張られるようにトリガーが発動するため抑えるようにしている
「明日はトリガーが完全に発動するような強いモンスター狩るらしいから気合い入れないとなー」
「ふーん、そんな能力があるんだ。セフィ姉が行くなら私も…」
「あ、セフィ姉命令でフィーナはしっかり休みなさいって」
「また!?」
フィーナが、「一人で休んでも寂しいんだよー…」とかぶつぶつ言ってる
だが、ゆっくりするのは俺も賛成だ
フィーナが元気だと、こっちも幸せな気分になる
どんな状況でも、フィーナは優しかった
二年間も諦めずに頑張ってくれた
もう十分だ
…優しさを持てるのは強さだ
俺は、優しさを投げ捨てて生きて来たから
投げ捨てて生き残って来たから
利己的と他利的という言葉がある
自分のために行動するか、他人のために行動するかという意味だ
人間は、生まれながらに利己的だ
まず、自分を優先して生き残る、利己的とは生命の本質だ
しかし、人間は成長するにつれて他利的な考え方を持つようになる
社会性を身に付け、集団としての利を追求する
それは、個人プレーよりも利が大きくなるからだ
程度の差はあれど、利己的な本能と他利的な考え方を内包する、それが人間であり、生存にはどちらか一方では足りないということを意味している
…優しさとは、自己満足だと思う
この優しさが神聖視されているのは理由がある
それは、絆の力だ
俺は軍時代、小隊の隊員とパーティを組んでモンスターと戦ってきた
Cランク以下の戦闘員が集まって、BランクモンスターやBランク戦闘員と戦い、打ち勝ってきた
闘氣を使えないCランクの俺達が、闘氣前提のBランクモンスターを狩ることに成功した
これは、チームワークとお互いを思いやりパーティを勝利に導く絆の力のおかげだ
時にジャイアントキリングを成し遂げる、この強力な力こそが利他的な行動の理由だろう
「フィーナ、ご飯食べようぜ」
「うん」
シャワーを浴びてきたフィーナ
髪が湿っていて色っぽい
女って、時と場合によって印象が全然変わる
男もそう見られてるんだろうか?
「どうしたの?」
「い、いや、何でもないよ。今日は刺身が半額だったんだ」
気が付いたら目を奪われていた、恥ずかしい
「ラーズ、主夫みたいだね」
「食材を効率的に入手することが、社会人の腕前だと思うんだ」
「半額でも二つ買ってたら値段変わらないじゃん」
「倍食べれるだろ。刺身は無限に食べられるし」
「普通に胸焼けするよ…」
俺達は、海鮮パーティーを始める
スーパーとは素晴らしい
俺が軍時代に絆の力を持てた理由
それは居場所があったからだ
俺がいた1991部隊はリサイクル小隊と呼ばれていた
他の小隊で馴染めなかった者を小隊長がスカウトし、再教育して才能を開花させたのだ
この再教育とは、単に実力を伸ばすことではない
その存在を認め、感謝され、やる気を引き出すこと
かくいう俺も、1991小隊という居場所に変えられた者の一人だ
自分を認められ、才能が足りないという劣等感を受け入れ、才能が足りなくても問題が無いと思えるようになった
フィーナを才能というフィルターで見ていた
でも、あの場所のおかげでフィーナを人間として直視できるようになった
好きという感情をぶつけられた
ぶつけていいと思えた
ぶつけたいと思った
「何で見てくるの?」
「フィーナと付き合えて良かったと思ってさ」
「………いきなりそういうの、良くない」
口に詰め込んでいたサーモンの刺身で、フィーナが四苦八苦している
仮にもお姫様が何をしてるんだ
食後のまったり
フィーナが買ってきたタルトを食べる
「そういえば、おじいちゃんが遊びに来いって言ってたみたいだよ」
「じいちゃん?」
俺のじいちゃんは農業をやってる
騎士学園時代はフィーナと毎年遊びに行っていた
「そういえば、就職してから会えてないな。父さんと母さんにも会えてないし」
「私が写真送っといたよ。もう少ししたら、また実家にも行くよ」
「よろしく言っておいて」
「うん。その時、フォウルも連れてくるよ」
フォウルは俺の使役対象の小竜だ
会いたいな
「俺って、いつまで外出とかできないんだろう? ずっと実家にも帰れないとか嫌なんだけど。まぁ、変異体の俺を狙って実家が襲われても困るんだけどさ」
「しばらくは大人しくしておいた方がいいよ。セフィ姉の所、に正式にラーズが所属するまでの辛抱でしょ」
「俺としては変異体になったと言ってもあまり自覚はないからな…。身体能力は間違いなく上がったんだけど」
「私は、しばらくこのままでもいいよ?」
「何で?」
「誰にも邪魔されずにラーズと二人でいられるから」
「………んぐっ!?」
ぐっはっ!
いきなり何言ってくれてんの!?
俺もだよ、このヤロー!
フィーナってこんなんだったっけ?
なんかめちゃくちゃ積極的になってないか…!?
俺は、必死に顔を背けながら話を変える
「…そう言えば、クレハナはどうなったんだ?」
「…相変わらず、内戦は続いてるよ」
フィーナの顔が少し曇る
フィーナも、クレハナの現状には心を痛めている
「あの施設で俺を助けてくれた人も、クレハナ出身だったんだよ」
「そうだったの?」
「うん。しかも、ウルラ領出身の元忍者だったんだ」
「ウルラ領の特色は忍者だから…。でも、すごい偶然だね」
「ああ。へルマンっていうんだけど、達人だった。間違いなく、闘氣とは違う強さを持つ人だったよ」
「…だった?」
「無理な強制進化を受け続けて死んだんだ。息子さんがクレハナにいるらしくて、セフィ姉に探してもらってる」
「前に言ってたタルヤさんって人と同じ?」
「うん、三人で組んでたから。だから、へルマンの息子さんがウルラ領にいるなら、俺も行ってみたい」
「そう…」
フィーナが遠い目をする
フィーナはクレハナにいい思い出が無い
俺と出会った子供の頃は、心を閉ざしていたくらいだ
ドースさんと内戦、姫という立場
クレハナの影響からフィーナが完全に解き放たれることは無いのかもしれない
まさかの、朝に投稿したと思ったらできてなかったミス…汗
今まで投稿は朝が多かったのですが、仕事の関係で、これからは不規則な時間になるかと思われます
すみませんが、よろしくお願いします…!




