四章 ~31話 裏のお仕事
用語説明w
神らしきものの教団:現在の世界は神らしきものに滅ぼされるべきとの教義を持つカルト教団。テロ活動や人体実験など、世界各地で暗躍
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
ミィ:龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
ミィと共に、賞金首が吐いたアジトを強襲する
「俺達だけでいいのかよ? 応援呼んだ方が…」
「私はBランクの騎士で、相棒のスーラもいて、逃がすわけないでしょ。後はラーズが撃たれないかだけよ」
そう言って、ミィが防御魔法(小)、硬化魔法(小)、耐魔力防御(小)をかけてくれた
補助魔法があれば、とりあえず即死はないだろう
アジトは古いアパートの一室だ
「他の住人は?」
「いるわね。アジトの連中と繋がってる可能性があるから声はかけられないわ」
うーん、銃や魔法を乱射されたら、隣の家の住人が巻き込まれるかもしれない
ただ、アジトは角部屋のため、隣の部屋が一つしかないのは運がいい
「ご主人! 窓からドローンのカメラで確認、部屋には二人いるよ!」
「データ、分かった」
ミィからもらった間取り図だと、窓のある部屋の他に二部屋があるようだが、廊下の先はよく見えない
「それで、どうやって制圧するの?」
今回は、俺のやり方に任せるとのこと
シグノイア防衛軍の裏仕事で鍛えさせられた実力を見せてやる
「つっても、スゲー簡単に制圧終わると思うけどな」
「部屋にかち込むんでしょ? 闘氣も使えないのに大丈夫?」
「まぁ見てろって」
俺は、倉デバイスからハンドグレネードに似たものを取り出す
「ミィ、流れ弾の防御だけ頼むぞ」
「分かった。気を付けて」
データのドローン映像を見ると、窓際の部屋の先は廊下になっている
俺は天井に上がり、サイキックの飛行能力を発動
静かに窓の外にホバリング
窓ガラスにハンドグレネードを投げつける
ガッシャーーーン!
ボシューーーーー!
ドパパパパッッッ!!!
凄まじい閃光と爆音、そして濃厚な煙幕が部屋の中に満ちる
スタンスモークグレネードだ
「データ、行くぞ」
「サーモ、オッケーだよ!」
データが、アバターに搭載した赤外線カメラの映像を俺の仮想モニターに表示してくれる
催涙ガスでのたうち回っている者が二人映っている
割れた窓から手を入れて、鍵を開けて侵入
ゴガッ!
顔を踏みつけて、床にいた男の意識を飛ばす
「くそっ、なにもんじゃわりゃーーーー!」
もう一人が叫んで暴れている
ナイフを振り回しているようだ
この部屋はこの二人だけだ
ナイフの動きに合わせて手首を取る
踏み込んで引き倒しながら脇固め
「ギャ……」
引き倒すと同時に、頸動脈を押さえて失神させる
俺は倉デバイスから追加のスタンスモークグレネードを取り出しながら奥へ進む
…いる
廊下から一人近づいて来る
俺は姿勢を下げて、四つん這いになる
スモークが濃く、視界はほぼ無いため、足元は見つかりにくい
近づいた瞬間にタックル
倒しながらポジションをコントロール、バックをとってチョークスリーパー
「うあっ……」
意識を失わせる
出てきたのは女だった
殴らなくてよかったな…
手前の部屋は誰もいない
あと一部屋
こっちからは人の気配がする
一人か…
なんかふがふが言っている気がするが、何やってるんだ?
ええい、ごちゃごちゃ考えていても結論は出ない
俺は決心してドアを飽けると…
「モガッッッ………!?」
椅子に縛られ、猿轡を噛まされた男と目があった
・・・・・・
全員を拘束
精神属性睡眠の魔法弾で眠らせ、部屋の窓を開けて換気
ミィに入ってきてもらう
「三人確保か。まぁまぁね」
「こいつらバウンティハンターの賞金首リストに載ってないのか?」
「こっちの男は載ってるわね。マフィア絡みの地上げ屋だって」
「教団は関係ないのか?」
「ま、話を聞いてみてだね」
そう言って、騎士団の一般兵達が男二人と女を連れ出した
「あの縛られてた男は?」
「病院に連れていったわ。ちょっと話を聞いたら、あいつらに拉致されたって言ってたから被害者なんじゃない?」
「結局、今のところ何も分からないってことか」
「それはそうでしょ。捕まえたばっかりで話を聞けてないんだから」
拠点となっていた、このアパート内の資料についても騎士団で調べるらしい
「ねぇ、ラーズ」
「ん?」
「あんた、なんかこういう仕事に慣れてない?」
「………いやいや、そんなことないよ」
「今の間は何よ?」
「さぁ…。俺は品行方正な公務員だったんだ。こんな危険な仕事は始めてだよ」
シグノイア防衛軍での裏仕事、色々とやらされたなぁ…
デモトス先生が悪い、いや、1991小隊の首脳陣全員が黒幕だった
ミィの怪しむ目を気が付かない振りしつつ、俺は窓の外を見る
「ラーズ、人に言えない仕事やらされてたって聞いたけど本当だったんだ」
「なんのことやら…。それよりも、ミィ。もう一仕事しようぜ」
「え?」
窓の外、野次馬に紛れて明らかに素人ではない黒い服の男
動きで分かる、あいつはプロだ
「…どうする?」
ミィが男から目を離さないで言う
「俺が仕掛けるから、ミィはあの野郎の後ろに回り込んでくれ」
「…了解。慣れてる人がいると話が早いわね」
「始めてでドキドキするけど頑張るね」
「人を襲う仕事を明るく言われても…」
ミィは言いながら歩き出した
…配置完了という、ミィからのメッセージをPITで受信する
俺は拠点の窓から外を見る
ばれないように目線を向けず、視界の端で男の位置を確認
一歩下がって、すでに一部が割れている窓を蹴破ぶる
ガチャーーーーン!
「きゃっ!?」
「うおっ!!」
アパート前にいた見物人が、二階の窓から飛び出してきた俺に驚き悲鳴を上げる
そして、驚いたのは様子を伺っていた男も同じだ
着地、一気に走って男へと向かう
だが、やはりプロなのか
男はすぐに反応し、反転して逃走
「残念!」
そして、男の前に立ちふさがるミィ
男は焦って立ち止まる
俺とミィで挟んだ状態、もう逃がさない
「クレジットクイーンだと…、なぜこんなところに!?」
男が呻く
やっぱり騎士様は有名人だな
「何者かしら? ゆっくりと話を…」
ミィがゆっくりと近づくと
「くそっ、どけぇぇぇぇ!」
男は反転して俺に殴りかかってきた
騎士を相手にするよりは、俺の方がリスクは少ないと判断したらしい
男が振り上げた右拳
ゴガッ!
「ぐはっ!?」
きっちりとカウンターで右ストレートを入れる
怪我を最小限にするために手加減した
左手で男の髪を掴んで引き込み
同時に飛び付いて、両足で首と右腕を挟む
飛び付きでの三角絞め
「………っ!?」
クタッ…、と全身の力が弛緩する男
「えぇっ…、落としたの? そんな簡単に?」
ミィが寄ってくる
「絞め技は、完璧に入れば一瞬で落ちるぞ。特に防御を知らなければな」
俺は立ち上がって男のポケットなどを探る
「…躊躇なく所持品を調べるって、あんた手慣れすぎね」
「いやいや、始めてでどうしていいか…、ほら、ビンゴ」
俺は男のネックレスをミィに見せる
それは、神らしきものの教団のエンブレムだった
「…やっぱり教団がらみなのはまちがいなかったのね」
ミィが、騎士団の一般兵を呼ぶ
「いい情報を吐いたらいいな」
神らしきものの教団は、俺の復讐対象だ
だが、世界規模の教団を潰すのは現状不可能
だからこそ、出来ることを一つずつやって行く
それが、シグノイア防衛軍で学んだことだ
「騎士団の権限を舐めないでよね。後ろにいる奴ら全員引きずり出して、目的を聞き出してやるわ」
おお…、ミィが頼もしく見える
取調べの結果は後日教えてもらうこととなった