四章 ~20話 二―ベルングの腕輪
用語説明w
ヒルデ:異世界イグドラシルのスカウト部隊ヴァルキュリアの一人。ラーズを宙の恵みに持ち込んだ。使役対象は幻獣フェンリル
ラーズの入院する病院の外
テラスに置かれたテーブルに二人の騎士が座っている
セフィリアとヒルデ
ペアの龍神皇国の騎士と異世界イグドラシルの騎士
二人の立場を知るものが見れば、思わず二度見をする光景だ
それぞれの世界のそれぞれの国の騎士
一緒にいることなど、通常はあり得ない
「本当にあの小僧にやらせるつもりなのか? 龍神皇国とヨズヘイムにこれ以上ないほどの影響を持つプロジェクトだぞ?」
「ええ、ラーズにやらせる。これは決定事項よ」
セフィリアが言い切る
ヨズヘイム
異世界イグドラシルにある国の一つで、ヒルデの国でもある
イグドラシルは現在三つにの国に分かれて戦争をしており、これをラグナロクと呼称している
「…あの小僧はお前の何だというんだ? 闘氣も使えない、ただの人間だろう」
「あの大崩壊を生き延びた。そして、闘氣も使わずにBランクを倒している。そして完成変異体。ただの人間とは言えないんじゃないかしら?」
「…」
龍神皇国とヨズヘイムは、大仲介プロジェクトに合意した
龍神皇国が仲介して、宇宙立国ともいえるストラデ=イバリと異世界のヨズヘイムとの交易をおこなうプロジェクトだ
ヨズヘイムは次元転移を始めとする空間属性技術を持っている
そして、ストラデ=イバリが持つ宇宙技術
一言で言うと、空間属性魔法陣と宇宙戦艦を交換しましょうというカオスな交易だ
どちらも国家級技術であり、宇宙航行と異世界転移という大掛かりな移動手段が必要となる一大プロジェクト
これをセフィリアが主導しており、当然ながら失敗は許されない
「ラーズなら大丈夫よ。それに、龍神皇国の騎士団と関係が無く、私個人の推薦する人間というのが都合がいいわ」
「…理由はそれだけなのか?」
ヒルデがセフィリアを見る
「それは…、いろいろとあるわ」
「はぐらかすな。それは何だ?」
「教えたら、協力してくれるってことでいいのね?」
「…聞いてから決める。それよりも、ヨズヘイムの命運をあの小僧に託すんだ、理由を聞かなければ納得ができない」
「…大袈裟ね。ただ、遠くにお使いに行くだけじゃない」
セフィリアが大きなため息をつく
だが、この一大プロジェクトの渡航者が裏切った場合、ヨズヘイムとストラデ=イバリの国家級技術が流出しかねない
それを突然連れて来た一般人に託すのは、国の人間としては怖い
「…ラーズはね、私の懐刀にするつもりなの。そのための実績作りよ」
「懐刀だと?」
「ゆくゆくは、私の対螺旋に。そして、私と一緒に…、目的を共有してもらいたいと思ってる。一人でやるのは疲れたから」
「…対螺旋?」
「私に必要な存在ってことね」
「…」
しばらく、お互い無言になる
先に口を開いたのはヒルデだった
「あの小僧をそこまで…。アイオーンにもか?」
「…ええ。ゆくゆくは、あなたと同じようにクロノスにも…って考えてる」
「本気なのか? お前ほどの人間がそこまで言うのが信じられん」
「あなた自身で可能性があるかを確かめてみたらいいわ。クロノス入りは、メンバー全員の総意を持って決めるべきなんだから」
「…」
「ラーズは強くなるわ。まだ、闘氣も使えないから少し時間はかかると思うけどね。それに運も良さそうよ?」
「悪運の強さは認めるが…」
「ヴァルキュリアの不文律を捻じ曲げるなんて、よっぽどの悪運かもね」
セフィリアがクスクスと笑う
「…ちっ、あの小僧を助けたのは偶然だ。それよりも、あの小僧には何をさせる気なんだ?」
「とりあえずは大仲介プロジェクト。その後は、自分の恋人を助けてもらおうと思ってるの」
「私に挑んで来た、あの小娘か?」
「そう、フィーナよ。あの子の国も、内戦で大変なことになりそうだから」
その時、病院からラーズが出て来るのが見えた
今日は退院の日だったのだ
・・・・・・
「エマありがとう。すっかりよくなったよ」
「体調の変化があったらすぐに教えて…」
エマが言う
「分かったよ」
エマと外に出ると、セフィ姉とヒルデの姿が目に入った
おいおい、それぞれの世界の騎士様が一緒にお茶とかどうなってるんだ
「ラーズ、退院おめでとう」
「うん、ありがとう。何でヒルデがここに?」
「ラーズの使役対象の解凍をお願いしたと思うんだけど、それとは別にラーズの力になってくれるんですって」
セフィ姉がヒルデを振り返る
「…あまり気は乗らないがな」
ヒルデが立ち上がる
「セフィリアに頼まれて、お前の力になる物を持って来た」
「力になる物?」
「私の国で使っている訓練具、ニーベルングの腕輪だ」
「ニーベルング?」
ニーベルングの腕輪
これは伝説のニーベルングの指輪のレプリカであり、神々がかけた死の呪いを再現したもの
具体的には、装着者の霊力と氣力、精力を吸い取って衰弱させる効果がある
「俺、チャクラ封印練で霊力と氣力が極端に少ない状態なんだけど、こんなの付けたら死なない?」
「大丈夫よ。チャクラ封印練と違って、それは吸い取って溜める効果があるだけだから」
セフィ姉が答える
チャクラ封印練とは、肉体と霊体から強制的に氣力と霊力を発散させている
発散した氣力と霊力は大気中に放出されている
二―ベルングの腕輪は、この放出した氣力と霊力を吸収して溜めることができるため、身体から失われる氣力と霊力が増えるわけではない
「それなら大丈夫だけど、溜めてどうするの? それで魔法や特技、闘氣が使えるようになるわけでもないし」
「我がヨズヘイムは、その二―ベルングの腕輪を装具の習得に使っているのだ」
「そ、装具…!?」
装具とは、霊力、氣力、精力を混ぜ合わせて物質化する技術
習熟すれば、武器や防具、その他様々な形を作り出せる
好きな時に物質化させ、消すことができる能力だ
セフィ姉は両腕に刃のついて翼を作り出す、ジハードと名付けた装具を使っている
その羽根の硬度は凄まじく、弾丸のように射出されるとどんなものでも貫通させる
「エマの検査で、チャクラ封印練によって霊力や氣力が放出されていることが分かったわ。ちょうどいいから、一つの技術を習得したらどうかと思ってヒルデにお願いしたのよ」
「これはヨズヘイム独自の技術だ。大切に使え」
ヒルデが腕輪を指す
「本当にラーズが装具を使えるようになったら、輸入してみるのもいいわね」
セフィ姉が言う
「分かった、ありがとう」
そうか、チャクラ封印練を解くまでに出来ることがあるのは嬉しいな
装具は憧れていたから、ぜひ習得したい
いつでも具現化できる装具があれば、武器を持っていないという状況を作らずに済むのだ
これって、チート級に便利な能力だと思う
セフィ姉や鉄拳のハンクの装具を見て、いつも羨ましいと思っていたんだ
武器にするか、防具にするか、具現化が難しいらしいが杖や銃、セフィ姉の翼のような体の一部を拡張するような装具も可能らしいし…
俺はヒルデから二―ベルングの腕輪を貰って右手首に付ける
それを見ると、セフィ姉が俺の所に来た
「それで、ヒルデ。見てもらいたいものがあるの」
「何だ?」
セフィ姉が、俺の頭を撫でるように手を置く
「え? え?」
「ラーズ、少し静かにしていてね?」
セフィ姉が、静かに魔力を発動
俺の体を撫でるように、何かの魔術を使う
その魔術が何かに反応している
だが、当の本人である俺には何が起こっているのかが分からない
「…ば、馬鹿な!? こ、これは…!!」
突然、ヒルデが狼狽する
え、何!?
何が起こってるの!
「検査をしているときに気が付いたのよ。ラーズ、見える?」
セフィ姉が、俺の前に何かの映像を映し出す
「これ、宇宙空間…?」
星々が輝く漆黒の空間
映像の下の方に、青い巨大な惑星が少し見える
これって、俺が大気圏ダイブした時の映像じゃねーか!
「そう、ラーズが脱出した時のこと。その時に、何かに出会わなかった?」
「え、宇宙空間で誰かに会うとか…」
すると映像が進み、何かの発光体が映し出された
「あっ、これ! そういえば、ポッドを飛び出した直後になんか見えたやつ!」
「…そう、これは星間生命体。通称SSSランクよ」
参照事項
装具
閑話2 セフィリアのお仕事
何か見えたやつ
四章 ~2話 遭遇




