四章 ~14話 ヴァルキュリア2
用語説明w
魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力じんりょく、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと
魔力:精力霊力の合力で魔法の源の力
輪力:霊力と氣力の合力で特技の源の力
闘力:氣力と精力合力で闘氣の源の力
死の乙女ヒルデ:異世界イグドラシルのスカウト部隊ヴァルキュリアの一人で、ラーズはを宙の恵みに持ち込んだ。使役対象は幻獣フェンリル
龍神皇国騎士団の団長心得
金髪の龍神王セフィリア
真紅の甲冑を纏い純白の双剣を携える魔法剣士
異世界イグドラシルの騎士でヴァルキュリアの一人
死の乙女ヒルデ
銀色の甲冑を纏うクレイモア使いの剛剣士
二人が向かい合う
「はっ!」
「ふっ…!」
気合いと共に剣を一閃
ガキキキィッ…!
一撃がぶつかったと思ったら、金属音が連続で聞こえる
何回斬り合ったんだ!?
当然ながら、双方が闘氣を纏っている
闘氣は技術であり、熟練すればするほど強化倍率が上がり、発動継続時間が伸びる
俺はフィーナの動きがある程度は見えたが、この二人の動きは見えなかった
闘氣の熟練度がフィーナよりもが数段上、身体能力の強化倍率も数倍上だ
ガッ ヒュンッ ブオッ!
二人の剣の技術は拮抗しているように見える
セフィリアの双剣は、フェイントを使いこなし虚実が入り混じる妖剣
対して、ヒルデの剣は、直線的で力強い、威力と鋭さで叩き切る剛剣だ
お互いに、甲冑には一度も剣が触れていない
「…そろそろ、ギアを上げましょう?」
「いいだろう」
そう言うと、二人は魔法と特技を解禁した
セフィリアは自身の装具ジハードを出現させ、両手に翼を作る
羽根をレーザーのように射出しながら、得意の水属性範囲魔法を展開していく
ヒルデの周囲には三本の剣が浮遊
クレイモアと同時に三本の剣をテレキネシスで操りつつ、聖属性魔法を発動
「なぁ、何でセフィ姉はあんなにタイミングよく範囲魔法を発動できるんだ?」
「…多分だけど、ダブルマジックの応用だと思う。魔法の発動可能な状態の維持と、発動地点の指定を同時にやってるんじゃないかな」
フィーナが考えながら答える
うん、何を言っているのか全然分からねぇ
凄いってことは分かるけども
「ヒルデのあの剣は何? テレキネシスで剣を操ったって闘氣を纏えないからダメージ与えられないだろ?」
「…テレキネシスと力学属性魔法で剣を動かす魔法なんだと思う。闘氣越しでも、力学属性魔法としてダメージを稼ぐ。それに聖属性も付加してる」
「…フィーナもよく分かるな。さすが騎士だ」
「全然、力足らずだってことを理解させられたばっかだよ…」
フィーナが凹んでいる
ペアとイグドラシルの、それぞれのトップレベルの騎士
あの二人は別格だ
ドパドッパァァァァァァァン!
ゴギャッ!
セフィリアの羽根の狙撃をいなしながら、ヒルデがクレイモアの斬撃
それを、体捌きと肩の装甲でいなし返す
お互いに有効打が出ていない
「…もう一つ上げるぞ」
「賛成よ」
ヒルデの体が神聖な光に包まれる
その体を神格化したようだ
同時に、セフィリアの額に龍族の強化紋章が輝いた
バシュッ!
ズガァッ!
お互いの斬撃が大地を抉り、大気を吹き飛ばす
双剣の連続突き
クレイモアの薙ぎ払い
水属性投射魔法、高圧縮、高質量の液体を噴射
聖属性斬撃が、鞭のように襲い掛かる
ドッバァァァァァァァン!!
「えっ…!?」
魔法と特技のぶつかり合い
衝撃音と土埃が巻き散らされる
「あっちよ!」
ミィが指さす方向を見ると、無傷の二人が斬り合っている
「だめだ、紋章とか神格化とかされると、動きが早すぎてよくわかんないよ」
「上には上がいるものよねー…」
ミィと俺は、もはやスポーツ観戦の感覚に近くなってきた
だって、別世界なんだもん
「結局、何でセフィ姉とヒルデは戦ってるんだよ?」
「ラーズを施設に持ち込んだこと、所有権のことを確認することもそうなんだけど。なんかイグドラシルと交易をするんだって」
フィーナが二人の戦いを見ながら言う
「俺のことはついでか…」
「ラーズの確認が第一なんだけど。ただ、ヒルデがラーズの所有権を主張しなかったから、そこは争う所が無かったんだよ」
宙の恵みの記録を確認したところ、ラーズの所有権は持ち込んだヴァルキュリアに帰属するとなっていた
このため、早急にこの点を確認する必要があった
もし、その所有権を主張されるなら、龍神皇国としては争わなければいけないからだ
だが、ヒルデが所有権の主張はしなかったため、ラーズに関する話はすぐに終わったというわけだ
「じゃあ、何でフィーナはヒルデに挑んだんだよ?」
「当り前じゃない! あの人が変なことをしなければ、ラーズが二年間も行方不明にならなくよかったんだよ!?」
フィーナが怒り出す
俺のために怒ってくれたのか
かわいい奴め
「…フィーナ、ありがとな」
「…負けちゃったけど」
俺は、フィーナの頭をポンポンする
「あんたら、時と場所を考えなさいよね」
そして、ミィにジロリンチョされた
「ヴィマナ!」
「フェンリル!」
セフィリアとヒルデの声で、俺は顔を上げる
お互い使役対象を使うようだ
上空から重力属効果を狙う、生きたアイテムであるヴィマナ
ヒルデの前に立ち、冷属性効果を狙う幻獣フェンリル
重力効果により動きを阻害されながらも、ヒルデとフェンリルは素早く攻撃に移る
だが、このレベルの戦いにおいて、動きを阻害されれば当然ながら足を掬われる
一瞬で距離を詰めるセフィリアの高速斬撃特技
この攻撃に対して、今度はフェンリルが動く
ビョォォォォォォッッッ!!
爆発的な冷気がヴィマナを含む上空までの空間を包む
熱量が奪われる空間、セフィリアとヴィマナの動きが阻害される
冷属性と重力の効果は、互いにほぼ干渉しない
お互いに、その効果が直撃した状態での戦いとなった
「…」
「…」
決め手を欠き、お互いに無言でしばし睨み合う
「龍神王と死の乙女か…、そろそろ止めた方が良さそうじゃのう」
そう言いながら、一人の女性が歩いてきた
茶髪の獣人女性で巫女装束を着ている
誰だ?
「天叢雲、カンナ様!?」
フィーナが驚いて名前を呼んだ
「どうしてここに!?」
ミィも驚いている
「ここに来た方が良いという占い結果が出てな。どうやら当たりのようじゃ」
カンナが二人の戦いを見ながら言う
セフィリアとヒルデが、少し変わった構えを取っている
何かの技を出すのかもしれない
「やれやれ、こんなところで怪我をしても仕方がないじゃろうに…」
そう言うと、カンナは何かの呪文を唱え始めた
そして、その影から九本の尻尾を持つ美しい大きな狐がはい出て来る
「あいつら、封神剣とグングニルをぶつけ合うつもりじゃ。止めるぞ」
カンナはそう言って、光り輝く巨大な剣を空中に作り出す
「こ、これが霊属性大魔法、天叢雲…」
フィーナがそれを見て呟く
こ、この剣、どこかで見たことがある気が…!?
「ミィ、お主も手伝え」
「えぇっ!?」
カンナの言葉にミィが驚く
「お主のスライムで龍神王を止めよ。死の乙女はカムイが止めるからの」
カムイというのは、カンナの使役対象九尾の狐の名前のようだ
そう言って、上空に霊属性魔法を発動
巨大な剣が数百本の小剣に分裂して二人の騎士に降り注いだ
そのタイミングでミィがセフィリアに近づき、肩に乗っていたスライムを投げつける
このスライムは、ミィの使役対象オーシャンスライムのスーラだ
「おい、セフィ姉にスライムなんて投げたら一撃で…!」
俺が慌てて声をかけるが、
「キュイッ!」
バッシャーーーーーン!
スーラが空中で巨大なクジラを形作り、そのボディでセフィ姉を呑み込む
大妖怪九尾の狐カムイは、ヒルデとフェンリルの前に立ちはだかりプレッシャーをかけている
こうして、二人の騎士の大決戦を止めることができた
天叢雲カンナ
閑話8 クサナギ家 参照