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一章~8話 選別三回目

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」


変異体:遺伝子工学をメインとした人体強化術。極地戦、飢餓、疲労、病気、怪我に耐える強化兵を作り出すが、完成率が著しく低い。三種類のタイプがある

ドラゴンタイプ:身体能力とサイキック、五感が強化されたバランスタイプの変異体。背中から一対の触手が生えた身体拡張が特徴


選別場



日課の検査の後、また選別を言い渡された


「ま、また殺し合いか!?」


「そうだ、さっさと行け」


「…嫌だ」


この施設に来て、初めてはっきりと反抗した



…前回のサイボーグ女の最期が忘れられない


そして、体調がよくなり元気が出てきたことも理由だ

今までは抵抗する気力が無かった


だが、これ以上意味の分からない殺し合いなんかやってられない

死にたくもないし、殺したくもない!


「ふざけるな、さっさとしろ!」


パワードアーマーを着た守衛が俺を組み伏せる


「理由を言え! あの殺し合いに何の意味があるんだ!?」


暴れて逃れようとするが、パワードアーマーの腕力には叶わない


ここの守衛たちが身につけているパワードアーマーとは、鎧の一種だ

人工筋肉や外部モーターを搭載したタイプがあり、強力な力を出せる


…つまり、俺の力じゃ勝負にならない



「っ………!」


そして、俺の方にも問題がもう一つ


襲ってくる恐怖

戦うこと、人とぶつかること


選別だけでなく、同じ被験体や守衛からの敵意に対しても、()()()()が暴れ出す

真っ黒い何かが俺の心の中で叫び、暴れ、体の中から凍りつくような恐怖に支配されてしまう


…明らかに体と心が委縮し、戦いから逃げようとしてしまうのだ



ドガッ バチバチ!


「…がっ……は……!!」



スタンスティックで殴られ凄ま、凄まじい電撃で体を焼かれる


守衛はショックで痙攣した俺を引きずり、問答無用で選別場に放り込こんだ




・・・・・・




「…無駄な抵抗はやめておけ、D03。言われた通りのことだけをしろ」


スピーカーから研究者の声が聞こえる


「ぐっ…」

やっと体が動くようになり、俺は立ち上がる


また、治まっていた頭痛がぶり返してきた


「今までは、お前の体調の回復を待っていたためポンコツを当ててきた。だが、反抗する元気が出てきたようだから難易度を上げるとしよう」

スピーカーから、見下したような研究者の声が響く


…あのサイボーグ女をポンコツだと……


俺は心の中で、ぶっ殺すリストにこの野郎を追加する


「今回の相手は強い。殺されないように気をつけろ」


スピーカーの音が途切れ、その直後、俺の正面にある扉から一匹の犬が入って来た



「…グルルルル……」


今回は、こいつが相手ということか…!



…でかい、俺の腰ぐらいある


口の牙も鋭く大きい

軍用犬か…?


対して、俺は素手だ

これでどうしろって?



「グアァァァァッ!」


軍用犬が、俺に向かって一直線に走って来る

むき出しにした牙が恐怖心を煽る



体の中から、いつものように()()()首をもたげた


…戦うことが怖い



無理やり体を動かして、手を広げ掌底で左フックを軍用犬の右頬に当てる

同時に、体を入れ替えるようにして軍用犬の勢いをいなす



「くっ………!」


追撃で腹を蹴り上げようとするが、攻撃することに体が躊躇してしまった



俺の馬鹿…!

チャンスを逃したら殺されるぞ!


だけど怖いんだ!

どうしようもないんだ!


頭の中で、二人の俺が喧嘩をする



「…っ?」


だが、ふと気が付く



…俺は意外に冷静だ


なぜか、いつもよりも怖くない

()()()()()()()()()()()()()()()()



「ガアァァァァ!」


再度、軍用犬が走って来る



噛みつかれたら引きはがせる気がしない

肉は抉られ、出血で動けなくなる


一歩出るふりをして、横へステップ

俺の動きに反応して軍用犬が飛び上がるが、俺は横に逸れることで躱す


だが、このままじゃダメだ

躱すだけでは、いつか捕まって噛みつかれる



…軍にいた時のことを思い出す

俺が所属していた、シグノイアという国の軍隊


主にモンスター退治を任務としていた


イノシシのようなモンスター、ワイルドボア

ゴブリンやオーク、コボルドなどの人に似たモンスター

ムカデや蟻、カマキリのような昆虫型

トカゲや蛇のような爬虫類型、カラスのような鳥類型

アンデッドやエレメントなど除霊が必要なモンスター

そして、ドラゴンや巨人などの強力なモンスターもだ


国民のために、モンスター駆除は欠かせない仕事だったのだ



理由は分からないが、この軍用犬は興奮状態だ

そして、明らかに俺を獲物として見ている


今まで、何度もモンスターと戦ってきたからこそ、目や雰囲気で分かる


これは狩りだ

俺は狩られているんだ


襲ってくる犬相手だ

殺らないと殺られる、俺が喰われる



また軍用犬が走って来る



「ガァッ!」


大口を開けて、嚙みつきだ



恐怖を自覚する

足が震えている


…攻撃されたら怖い、当たり前だ

うん、俺は冷静だ



「ああぁぁぁぁっ!!」


声を出して恐怖を誤魔化す



右拳を握り込んで、上から顔に叩き落す



ガッ



軍用犬の頭に当たるが、軍用犬はひるまずに噛みつく



「ガァッ!」


「ぐぁっ!?」



左の前腕に思いっきり噛みつかれる

そして、後ろに引っ張るように振り回す


「ぐあぁぁっ!?」


振り回されるたびに、牙の刺さった傷口が開いて血が噴き出る


だが、倒れたら首を狙われる

幸い、俺の方が体もリーチもでかい



踏み込んで、前から思いっきり蹴り上げる



「ギャンッ!」


胸辺りに足がめり込む



軍用犬が口を開き、俺の腕が牙から外れる


チャンスだ


俺は左腕を引かず、拳を握り込む



ズボッ!


「ガァッ!?」



拳を軍用犬の口の中に突っ込む

同時に、右手で軍用犬の後頭部と耳を掴んで固定、ぐりぐりと喉の奥にねじ込んでいく



「―――ッ!!!」



犬が暴れる

だが、逃がさない


俺は、更に両足で犬の胴体を挟んで固定

喉の奥に腕をねじ込めば、牙を立てることは出来ない


犬の胴体に俺の全体重をかけて抑え込む

そして、更に拳を喉の奥に突っ込んで行く


そして、仕上げだ…!



ガブッ…



俺は軍用犬の鼻に噛みつく

鼻腔を潰すように歯に力を入れ、空気の通り道を唇で出来る限り覆う


生臭い犬の呼吸を口の中に感じる


これで決める

これで殺す


俺の左腕の傷は深い

かなり血が出ている



…獣は強い


牙や爪、そして喰い殺すのに躊躇しない倫理観の無さ

ただの犬でも、人間より優れた武器を持っている


俺は、唯一勝っている体格を最大限利用して押さえ付ける

犬は口呼吸が出来ない、鼻腔を潰して窒息させる!


これで決められなければ、これで逃がせば、俺は動けなくなって喰われるかもしれない


嫌だ


死ぬのは嫌だ



ここで決める

絶対に逃がさない…!




………




……








「………」


犬の体が弛緩するのを感じた



犬が静かになり、動かなくなる

だが、俺は力を抜かない


間違いなく窒息させる

鼻呼吸や、腹の動きが完全に無くなったのを確認して、俺はようやく軍用犬から手を離した



「そこまでだ」


スピーカーから声が聞こえる



「はぁーー…はぁーー…」


俺は大きく呼吸をする



ずっと力を込めていたため、腕がプルプルしている

口の中は犬の臭いがまとわりつき、左腕は自分の血と犬の涎でグチャグチャだ


だが、そんなことはどうでもいい


俺は生き残った

今日も生き残ったんだ


気が付いたら頭痛が消えている

犬をぶっ殺した直後にどうかとは思うが、気分がいい


俺は天井を仰ぐ



…俺は、自分の背中の触手が天に向けてそそり勃っていることに気が付かなかった




別室


選別場のモニターを見ながら白衣の研究者が話している



「…D03が勝っちゃいましたよ?」


「一匹とはいえ、ステージ2で戦わせる予定の敵だったんだがな。ったく、体調が回復してきたようだから、ボコボコにして荒療治と調教を同時にやる予定だったのに計画が狂っちまった」


「あいつ、軍人だったっていうのも嘘じゃなさそうですね。今までは、殴りかかられただけで縮込まってビビってたのに」


「何のトラウマ抱えてるのか知らないが、あいつはかなり完成変異体に近い。どんどん、敵の難易度を上げていくぞ」


「分かりました」


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― 新着の感想 ―
[一言] 心の中の何が叫んでいないのは『上』によるものなのか…それとも相手が人間じゃないからなのか…もし相手が人間じゃなかった方ならまだまだ苦労しそうだな〜 今のラーズの上からの拳を頭にくらって耐え…
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