四章 ~8話 装備
用語説明w
ヴァヴェル:魔属性装備である外骨格型ウェアラブルアーマー。身体の状態チェックと内部触手による接骨機能、聖・風属性軽減効果、魔属性による認識阻害効果を持つ
大剣1991:ジェットの推進力、超震動の切れ味、パイルバンカー機構、ドラゴンキラーの特性を持つ大剣。杖、槍としての機能も持つ
絆の腕輪:対象の一部を封印することで思念通話機能を作れるアクセサリー
金髪の龍神王セフィリア
黒髪の大魔導士フィーナ
クレジットクイーンのミィ
俺の病室に、Bランク騎士が三人集まっている
「本気なの、ラーズ?」
セフィ姉が俺の顔を見つめる
「トラビス教官…。あいつは、あの施設で何人もの被検体を殺した張本人だ。借りを返すためにも、俺自身で捕まえさせて欲しい」
「でも、相手はBランクなのよ? いくら変異体とはいえ、闘氣も無いのに…」
Bランクとは、闘氣を使う戦闘員
闘氣の性能は破格
強化兵だろうが何だろうが、同じ闘氣を使えなければ瞬殺される
…普通は、だ
「俺も、セフィ姉と働くのが夢だったんだ」
「え?」
セフィ姉は、俺が突然話題を変えたので少し驚いた
「…その価値が俺にあるかどうかを、セフィ姉に評価してほしい。ミィとフィーナにもだ」
「でも…」 「ラーズ?」
二人が戸惑う
「森の中というフィールド、時間制限のない戦闘、この状況でBランクを倒す。これが出来れば、俺はそれなりに戦えるってことだ」
「それはそうだけど…」
「そして、俺にはそれが出来る」
闘氣を使えないCランク以下の戦闘員が、Bランク戦闘員を仕留める
これは、戦闘ランクの根本を覆すことだ
ガチャッ…
その時、病室のドアが開いて、赤ずきんをかぶった背の低い女の子が入って来た
「うおぉぉぉっ!?」
赤ずきんが俺を見て叫ぶ
「ああぁぁぁっ!!」
そして俺も叫ぶ
「ラーズ!」 「スサノヲ!」
スサノヲ
シグノイア防衛軍時代に、俺の武器や防具を作ってくれた職人
かわいらしい見た目に反して粗暴、怪力を誇るヤンキーだ
「お、おま、本当に…、生きてたんだな!」
スサノヲの目が少しだけ潤んでいる
「なんとか戻って来れたよ。…スサノヲはびっくりするくらい変わってないな」
「レディーを舐めんなよ? 前とは色気が違うだろうが」
「待て、そもそもレディーは舐めるもんじゃない」
俺達は笑い合う
俺とスサノヲは、職人と顧客という間柄だ
だが、お互いに武器と防具に並々ならぬ思い入れを持っている
要は、お互い武器と防具に関して信頼し合っている仲だった
俺は、命を預ける武器と防具をスサノヲに作ってもらう
スサノヲは、自分のかわいい作品を俺に使って欲しい
お互いにそんな信頼感を自覚している
「お前、いきなり実戦なんだって? 戻ってきたばかりで戦えるのかよ」
「それをセフィ姉たちに見て評価してもらおうと思ってさ」
スサノヲは武器と防具を倉デバイスから取り出す
大きな大剣と漆黒の鎧だ
「おおぉっ!? 俺の装備じゃねーか!」
「バッチリ整備済みだぜ」
俺は、懐かしさを感じながら漆黒の鎧を撫でた
漆黒の鎧の名はヴァヴェル
シグノイアで出会った孤高の黒竜の名を取った鎧
黒竜の鱗を装甲に使用した、貴重な属性装備だ
魔属性を帯びており、聖属性ダメージの軽減、魔属性装備の特徴である認識阻害効果を持つ
更に、土属性の高い属性値を持つ黒竜の逆鱗が使われているため、風属性に対しての耐性を持つ
更に、内部機構としてウェアラブルセンサーと接骨機能を搭載
骨折した際には、内部の触手が肉を突き破って直接骨を接ぐ
脳波や心拍数を計測し、幻覚や魅了、睡眠や混乱時にアラームで覚醒を促す脳ミソガード機能も持つ
戦場を共に駆け、何度も俺の命を救ってくれた鎧
借金を重ねながら、バージョンアップさせてきた自慢の属性装備だ
「ヴァヴェル…、久しぶりだな」
俺は女性がひしめく病室なのも気にせず、下着になってヴァヴェルを纏う
「え…、背中の触手が!?」
袖を通してみて驚いた
これは軍時代に使っていた装備だ
当然、あの頃は背中に触手なんて無かった
だが、ヴァヴェルの背中に二本の穴が空いていて、俺の触手を外に出せるようになっていたのだ
「ミィさんから連絡を貰ってたんだ。お前の体の計測結果を貰って、触手が出せるようにカスタマイズしておいたぜ」
スサノヲが着るのを手伝ってくれる
「そうだったのか…。ありがとな、ばっちりだ」
「その属性装備、本当にいい鎧よね…」
ミィが商売人の目になっている
ミィは金勘定が得意で、価値のある物に目が無い
「ミィとスサノヲって知り合いだったのか?」
「大崩壊の時に知り合ったの。あれから二年、仲良くやってるわ」
ミィが言う
そうか、俺の二年間を誰も知らないように、俺もみんなの二年間を知らないんだよな
「さ、いよいよラーズに見せられる時が来たぜ」
そう言って、スサノヲが変わった形の大剣を渡してきた
「これって、1991か?」
大剣1991とは、俺が軍時代に使っていた大型の近接武器
主に、銃弾だと倒しにくい対大型モンスター用の兵器だ
「この青い色は何だ? まるで…」
俺は、1991を見て言う
1991は元は灰色の大剣だった
しかし、今は魔玉が突き抜けるような青空の色に染まり、刃体も薄い青色になっている
「お前から預かった、1991小隊のみんなの武器を組み入れたんだ」
スサノヲが言う
「…そうか。スサノヲ、その話は今度聞かせてくれ」
そう言って、俺は1991をスサノヲに返す
「え?」
「今回は1991を使わない。俺の性能評価にならないからな」
「だ、だって相手はBランクなんだろ? 闘氣相手にどうやって戦うんだよ!?」
スサノヲが焦って言う
「まぁ、見てろ。スサノヲはデモトス先生を覚えてるだろ?」
「当たり前だろ。なんだよ急に」
スサノヲは、俺が師事したデモトス先生に世話になっていた
俺とスサノヲの出会いもデモトス先生の紹介だ
「あの人は、闘氣を使わないくせに凄い戦闘技術を持っていた。俺が拉致られた先で会った人も同類だった。…世の中には、俺達が想像もできないほど凄い人がいる。その人達から教わったことを見せてやる」
強さとは
身体能力だけじゃない
闘氣だけじゃない
才能だけじゃない
…それを教えてくれたのは、闘氣を使わない達人達だった
「ラーズ、これ…」
今度は、フィーナが俺に腕輪を渡してくる
「お、これって絆の腕輪じゃないか」
絆の腕輪
仲間の力の一部を封印することで「絆」を作る
具体的には、仲間との精神共有、つまり思念通話が可能となる
力の一部とは、魔力や霊体の一部などだ
大剣1991、属性装備ヴァヴェル、絆の腕輪
この三つにホバーブーツを加えたものが、俺の軍時代の装備だった
「ラーズ、さすがに闘氣が使えないあなたを一人で戦わせるわけにはいかない。だから、私とフィーナの魔力を入れて状況が分かるようにさせてもらうわ」
セフィ姉が言う
絆の腕輪は、簡単に言うと念話ができるようになるアクセサリーだ
だが、人間同士ならインカムを使えばいいだけなので、わざわざアクセサリーとして装備するほどの便利さはない
その真価は、イメージを送り合えること
言葉をしゃべれない使役対象、モンスター使いのモンスターや竜使いのドラゴンとイメージでの意志疎通ができることだ
絆の腕輪の性能が上がれば、視覚情報などが送り合えるため、その情報量は無線の音声通話の遥か上を行く
「…分かったけど、俺はCランクだ。Bランクのセフィ姉やフィーナほど簡単に捕まえる事なんかできない。長期戦になるけどいいの?」
「それはいいけど…。ラーズを理由に休めるから」
「うん、むしろラッキー」
セフィ姉とフィーナが頷き合う
騎士団って、もしかしてブラックな職場?
「でも、わざわざ危険なBランク相手に性能評価なんてしなくても…」
セフィ姉が心配そうに言う
Bランクの騎士から見れば、俺の戦闘力なんて子犬と同じだ
心配なんだろう
Bランクは強い
だが、トラビスを俺自身が狩ることに意味がある
「…あの施設から脱出して、この病院で目覚めてから何度も同じ夢を見るんだ」
「夢?」
「…また、あの施設で目が覚める夢。助かったのは夢、脱出も夢、セフィ姉やフィーナに会えたのも夢、全ては夢オチ、俺はまたあそこで生き残るために戦わなければいけないっていう夢さ」
「ラーズ…」
セフィ姉が口ごもる
「もう一度、あの場所に戻るなんて考えられない。そんな恐怖から逃げられない。恐怖を感じ続けのが辛いし、もう耐えられない…」
「…っ!」
フィーナも目を見開く
「だけど、その理由がやっとわかった」
「理由?」
「それは、俺自身が逃げたから、自分で戦ってないからだ。…あの拷問野郎を刻んで理解できた」
「それで、自分で戦うって言うの?」
セフィ姉がもう一度聞く
「…トラビスは、俺にとってあの施設の象徴だ。この二年間の恐怖を払拭するためには、守られているだけじゃダメなんだ。俺自身がやる必要がある、やらせて欲しい」
「…」
セフィ姉は少し悩んだ後、静かに頷いてくれた