四章 ~5話 再会
用語説明w
ヘルマン:ドラゴンタイプの変異体。魚人のおっさんで元忍者、過去に神らしきものの教団に所属していた。変異体実験の副作用で死亡
タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う。重症を負い冷凍保存された
病室で、セフィ姉が紅茶を入れてくれた
「おいしい…、この味が懐かしいよ」
「お代わりあるからね」
セフィ姉がPITで報告を受けている
「フィーナが、今からここに向かうって」
「え? 今って宇宙ステーションにいるんでしょ?」
「ええ、そうよ。ラーズが見つかったって伝えたら、今すぐにって」
「そっかぁ、早く会いたいな。クレハナにある地上施設を経由して来るなら、今日の夜くらいになるのかな?」
「いいえ、直接来るって言ってるから、三十分かからないんじゃないかしら」
「直接って?」
「だから、ラーズと同じ方法でよ」
「……えっ!? 大気圏ダイブってこと!?」
「そうみたい。早く会いたいんじゃない? 昇るのは大変だけど、降りるのは簡単だもの」
俺が死ぬ思いでやったことを簡単に…
さすがBランク騎士だな
フィーナは空も飛べるし、難しくはないかな
「ね、セフィ姉。あと、もう一つ探して欲しい人がいるんだ」
「タルヤさんの他に?」
「うん。宇宙ステーションにデータが残っていればいいんだけど…、俺はあの施設でヘルマンっていう被検体に凄く世話になったんだ」
「ヘルマンさん?」
「そう。ドラゴンタイプの魚人のおっさんで、途中で亡くなった。…最後の頼みで、息子さんに自分の武器を渡して欲しいって頼まれたんだ」
「息子さんを探すの?」
「うん。ヘルマンはクレハナで忍者をやっていて、神らしきものの教団に籍を置いていたって」
「…神らしきものの教団?」
セフィ姉が反応する
「話を聞く限り信者ではないみたいで、内戦下で息子さんを育てるために仕事と保護を貰っていたみたいなんだ。名前はウィリン・カミネロって言ってた」
「分かったわ、探してあげる」
「ありがとう、セフィ姉。ちゃんと仕事を始めたら、ちゃんと返す。俺を探してくれたお礼もしたいし」
そう言うと、セフィ姉は静かに微笑んだ
「…ねぇ、ラーズ?」
「うん、何?」
「前に私が言ったことを覚えているかしら?」
「え、何の話?」
「だから…」
セフィ姉が言ったこと
あれは大崩壊の前
俺はシグノイア防衛軍で活動していた時、龍神皇国騎士団と協力した時に言われたこと
「もしよかったら龍神皇国に戻って来ない? そして、騎士団に入って私の手伝いをしてくれないかしら」
Bランクの実力が無い俺を、そう言ってセフィ姉が騎士団に誘ってくれたのだ
…嬉しかった
憧れのセフィ姉と働くのが夢だった
その為に俺は、チャクラ封印練で闘氣や魔法を捨ててまで賭けに出たんだから
でも、すぐにうんとは言えなかった
シグノイアに、自分の居場所が出来てしまったから
仲間や絆が出来てしまったから
「落ち着いたらでいい。私の手伝いをしてくれない?」
セフィ姉は、もう一度あの時の言葉を言う
「…どうして落ちこぼれの俺なんかを? 他に、セフィ姉の手伝いをしたい人なんて…」
「他の人のことはいいの。私はラーズに手伝ってほしい。それに、ラーズは落ちこぼれじゃないわ。それが私の条件…かな?」
「…」
俺の気持ちはどうなんだろう
セフィ姉と働きたい
でも、セフィ姉と働くのが怖い
…期待を裏切るのが怖い
これが本音だ
答を迷っている俺を見て、セフィ姉が微笑んだ
「ラーズ、ゆっくり考えて。答えは退院してからでいいから」
「う、うん。でも、もう体のどこも悪くないから…」
その言葉を聞いて、セフィ姉がまじめな顔になる
「今度、もう一度検査をする。…ラーズ、あなたは重症よ」
「えっ!?」
「私は騎士団本部に戻るけど、検査の時に懐かしい人を連れて来るから楽しみにしておいて」
「え、あ、うん…」
「メッセージは送っておいたけど、フィーナにもよろしく言っておいてね」
そう言って、セフィ姉がドアに向かって歩き出す
「セフィ姉」
「どうしたの?」
セフィ姉が振り返る
「…ありがとう」
「…気にしなくていいわ。早く体を治してね」
そう言って、セフィ姉は病室を出て行った
…結局、俺ってどこが悪いんだ?
・・・・・・
タッタッタッタッタ
ガチャッ!
足音と共に、病室の扉が勢いよく開く
「…」
「…」
俺は、入って来た黒髪、赤い目のノーマンの女性と目が合う
「…ラ、ラーズ……」
「…フィーナ」
フィーナだった
フィーナだった
フィーナだった
あの施設で、何度となく思い出した
死の恐怖
汚れていく手
あさましくしがみつく生
何も感じなくなる自分
フィーナと会うことだけが希望だった
フィーナを思い出せば、前向きになれた、生きる力になった
「ラー…ズ……」
「フィーナ…」
ダメだ
涙があふれる
会いたかった
会いたかった
「ラー……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
「………っっっ!!!」
感情が溢れる
何の感情なのか、もはや分からない
ただ、溢れ出す
涙があふれる
声を絞り出す
泣くために
泣き切るために
………
……
…
「うー………」
「ふーふー…ふー…」
気が付いたら、お互いにしがみついて泣いていた
無理だった
何も分からなくなった
俺は生きている
あの地獄から戻って来れた
もう一度フィーナに会えた
改めて実感できた
俺は、生還したんだ…!
「…」
「…」
やっと、少しだけ落ち着く
フィーナの体温を感じる
フィーナの臭いだ
「…えっ!?」
気が付くと、目の前で涙をぬぐいながら座っている女性がいた
今の今まで全く気が付かなかった!?
「え、誰…って、もしかして、ミィ!?」
「ふえっ!?」
いきなり呼ばれたミィが、涙をぬぐいながら椅子から落ちそうになった
「ラーズ、よかった…。本当に戻って来たんだね。ずっと心配してたんだよー!」
「そっか…、ミィも探してくれてたのか。ありがとな」
「私だけじゃないよ。今はクレハナにいるヤマトだって、ずっと心配してたんだから。フィーナだって、セフィ姉だって…、ずっと…!」
「うん…」
こうして、三人でひとしきり泣いた
俺は男だが、涙が止まらなかった
恥ずかしいが、本当に止まらなかったんだ…
「よし、一回落ち着こう。ほら、フィーナも離れて」
少しだけ落ち着いたミィが立ち上がる
そして、俺にひっついてずっと泣いていたフィーナを引きはがした
俺とフィーナ、ミィ、そしてクレハナにいるというヤマトは、ボリュガ・バウド騎士学園時代のクラスメイトだった
しかも、同じパーティを組んでいて仲が良かった
俺は友達付き合いがそこまで得意ではないので、今だに連絡を取っているのはフィーナを覗けばミィとヤマトくらいしかいない
また、あの頃みたいに俺は笑えるのだろうか
ようやく落ち着いたフィーナが椅子に座った
「ラーズ、本当に変異体になったんだね」
ミィが、俺の背中から生えた触手を見て言う
「ああ、あの施設で完成変異体に認定されたよ。身体能力や治癒力、サイキック能力は向上した」
「そっか…。でも、無事でよかった」
「まさか、騎士団があの施設を発見してくれるとは思わなかったよ。みんなが俺を探してくれていたなんて…」
「この二年、ずっと探してたのよ? 特に、フィーナは凄い頑張ってたんだから」
ミィがフィーナの頭をポンポンする
「に、二年も経ってるのか…」
ちなみに、俺達は全員同級生だが、フィーナだけは二年飛び級して入学しているため年下だ
初等部の頃からミィはフィーナと仲良くなり、その頃からフィーナはミィをミィ姉と呼んで慕っている
ちなみに、俺も年上なのだがずっと呼び捨てだった
何でだろう?
「フィーナ…、ありがとな」
俺はフィーナを見る
「うー……」
フィーナが、また泣きだした
ダメだ、フィーナが不安定すぎる
それを見て、俺はミィと笑った
「ラーズ、また明日来るね。私達も一回本部に戻らないとダメだから」
「そっか、報告とかしなきゃいけないもんな。そういえば、本当に大気圏に突入してきたのか?」
「そうよ、フィーナが聞かないんだもん。スーラに膜になってもらって突入、そのままトビウオ型になって滑空して来たわ」
そう言って、ミィが肩のスライムを見せる
「キュイ!」
オーシャンスライムのスーラが可愛く鳴いた
「スーラ…、久しぶりだね。俺のこと覚えてる?」
「キュイ?」
スーラは、微妙な顔をする
ちょっとショックだ…
まぁ、最後にあったのは大学の頃だったか?
仕方ないか
「ほら、フィーナ。一回帰るわよ」
ミィがフィーナに声をかける
「嫌!」
「こら、フィーナ。報告しなきゃダメでしょ!」
「いーやーだー!」
「ラーズにしがみつくなー! ラーズはもう消えないから大丈夫よ!」
「やーだーーー!」
「いてててっ!? ちょっ…髪! 抜ける! はげるから!!」
こうして、ミィがフィーナを引きずって帰って行った
結局、フィーナと全然しゃべれなかったな…
ウィリン
二章~34話 ヘルマン
ボリュガ・バウド騎士学園
二章~30話 チャクラ封印練 参照