四章 ~2話 遭遇
用語説明w
ペア:惑星ウルと惑星ギアが作る二連星
ウル:ギアと二連星をつくっている惑星
ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星
龍神皇国:惑星ウルにある大国。二つの自治区が「大崩壊」に見舞われ、現在復興中
惑星ウルの大気圏に突入
高速で地表に吸い寄せられる
上を見上げる
上とは、星が煌めく漆黒の宇宙だ
俺のいた宇宙ステーションは、もうどこにあるか分からない
ポッドを脱出してから数秒、上空に発光物体が見える
星とは違う
なぜなら、かなり近い距離にあるからだ
宇宙ステーションよりも近い?
なぜか意識を引かれる
それは、この発光物体が生物であると分かるから
そして、おそらく竜であろうことも分かる
俺を見ている
怖い
なぜ、空の光が生物であると分かるのか?
なぜ、竜であると分かるのか?
なぜ、俺を見ていると分かるのか?
大気圏外からの落下
空気抵抗を無視すれば、数十秒で地上に衝突
気を取られている時間は無いのに!
ペアでは、戦闘ランクと言う指針がある
簡単に言うと個体の戦闘能力を評価したものだ
Fが一般成人の素手での戦闘力
Sは宇宙戦艦レベル
そして、俺はCランクだ
闘氣が使える戦闘員はBランク以上となる
SSランクともなれば、神や高次元生命体などが該当する
そして、戦闘ランクはSSSランクまでが定義されている
SSSランクとは、恒星に宿る存在、そして星間生命体などだ
科学における生命の定義とは、
・その体が、外界と膜で仕切られている
・代謝を行う
・自分の複製、子孫を作る
の三つであることが多い
そして、魔導法学の生命の定義は、
・魂を持つ
これのみだ
この魂には、魂量が1/2のものと、1のものが存在する
恒星に宿る存在とは、この魂量が1となったものであり、その他の生命体は全て魂量が1/2だ
つまり恒星に宿る存在とは、その他の生命体とは別格の存在なのである
そして、星間生命体も魂量が1の存在であり、恒星に宿る前の存在と言われれいる
星間生命体とは、その名の通り宇宙空間を旅する存在であり、ペアの歴史上でも観測例は極端に少ない
いずれは恒星に宿る存在となることが予想されており、ペアの人類がコンタクト可能な全ての存在よりも力を持っていると考えられている
観測された場合、ペアに接近した理由によっては、下手するとペアの存亡にかかわる可能性も出てくる
観測はしてみたいが、触らぬ神に祟りなし
大昔から好奇心と畏れを集める、そんな存在だ
「…っ!?」
見られている
探られている
観察されている
「あっ…?」
そして、ふっとそのその意思が俺から離れた…、気がした
発光物体が静かに消えて行く
あれ、終わり?
何だったんだ?
ブオォォォォォォッ!
「あっ…!?」
気が付いたら、地表がかなり近づいていた
何秒間、気を取られていたんだ!?
ゆっくり息を吐き続ける
気が付くと、すでに空気が濃くなってきている
俺は、背中に形成した膜で空気を受ける
まだ飛行能力は使わない
精力を溜めたままだ
俺の飛行能力は数秒しか続かない
使うのは位置調整の時だ
「ぐうぅぅぅっ!」
ナノマシンシステムの膜が引きちぎれそうだ!
空気抵抗を受け止めろ!
とっくに大気圏内
空気の密度が増し、空気抵抗が上がる
飛行機が飛ぶ、高度一万メートルの気圧は地上の四分の一程度
ここからどんどん空気抵抗が増す
俺は少しだけ息を吸い込む
…薄いが、やっと呼吸ができる大気の中に戻って来た!
ブルッ…
「…ん?」
急激に気温が下がってきている
何でだ?
そうか、冷たい空気に満たされているからか!
大気圏外だと、熱を伝える大気が存在しないため体温が発散しない
理科の実験を自分の体でやっているみたいな感覚だ
「ううぅぅっ…」
そんなこと言ってられない!
体が震えてくる
寒い
寒い
「…ん?」
ありえないほどの細かい震えが体で起こっている
これは…、シバリングってやつか?
体内で熱を作り出して寒さに耐える生命維持機能
さすが変異体だ
くそっ、そろそろ思いっきり呼吸がしたい
だが、酸素濃度の足りない空気を吸い込むのは怖い
下手すると、ひと呼吸で意識を失う可能性がある
俺は、伏せの状態で手足を伸ばした
ベリーフライと呼ばれる、空気抵抗の大きな姿勢だ
この姿勢で空気抵抗を受ければ、重力と釣り合って落下速度を時速二百キロメートル程度にまで落とすことができるらしい
一番重い頭から落下した場合、その速度は時速三百キロメートルにまで上がるため、姿勢の効果は大きい
更に、俺には背中に作ったナノマシン群の膜もある
宇宙空間の落下を差し引いても、充分に減速できるはずだ
周囲を見る
太陽が昇って来ている
あっちが東か
この地形は…
あの海岸線の形、見たことがあるぞ!
トウク大港
間違いない、あそこがシグノイアだ
ということは、西側が龍神皇国…!
俺は、飛行能力を発動
テレキネシスで触手を上空方向に持ち上げる
同時に進行方向を西へ曲げる
落下速度が速すぎて、減速しかできない
「がぁぁぁぁっ…、上がれぇぇぇぇっ!」
全力でテレキネシスを発動
触手に作った膜で、ムササビのように空気を受けて滑空
自由落下で生まれた速度を空気抵抗で減速
だが、減速だけでは生き残れない
救助がすぐに来てくれる場所に落下しなければ、第二ラウンドとしてサバイバルに挑戦することになる
落下で負傷した場合には、そのまま水没、干からびる、野生動物に喰われるなどの可能性もある
そして、出来れば公的機関がしっかりした国がいい
あのクソ施設の手がどこまで伸びているのか全く分からないからだ
シグノイアを東に見ながら、俺は龍神皇国方向に進む
触手のテレキネシスが消失
クソっ、相変わらず継続時間が短い!
慌てて、また精力を溜め始める
ゴオォォォォォォッ!!
風を切る
あっという間に高度が下がって行く
もう地表が近い
草原だ
あそこに落ちる
空気抵抗で可能な限り減速と滑空
再度、飛行能力
全力で、重力に逆らう方向にブレーキをかける
地表だ…!
足から着地……!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ……!!」
ドッ……… ガガガガガガガガガガ………!!
体が引きちぎれるような衝撃
足が折れてひしゃげる感覚
ゴッ……!!
途中で吹き飛んで体がバウンド
頭と首だけは守る
円運動で受け身
ゴガガガガガガッッッ!!
衝撃で、触手とナノマシン群の膜がグチャグチャになる
段差を跳ねて岩にぶつかる
吹き飛びながら転がって行く
ゴガァッッッ!!
「…っ!!」
地面に叩きつけられる
足がひしゃげて着地ができなかった
「…がっ…は……」
衝撃で、呼吸ができない
脳震盪と、これから来る痛みの予感
見上げる空
透き通るような青色
大気がある証拠だ
「……ははっ…」
つい、こぼれる笑い
草の臭い
土の臭い
風の臭い
ひんやりとした風
自然の感覚が、生きているという実感教えてくれた
「………?」
遠くから何かが聞こえる
車のようなエンジン音
…何かが近づいてくる音がした
戦闘ランク
一章~7話 トラウマ 参照




