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三章 ~34話 脱出の方法

用語説明w

この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」とダンジョンアタック用の地下施設、通称「下」がある。変異体のお肉も出荷しているらしい


ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。ラーズの身体導入されているが、現在は停止措置を施されている


二日後、俺達は売られることになった

今後は、売られた先で強制的に働かせられることになる


「…ハンク」

「アーリヤ…」


ハンクとアーリヤが抱き合う

アーリヤは涙を流していた



そして、俺は…


「…」



俺を買ったのが、神らしきものの教団だと?


この施設のスポンサーが、あの教団だった?


仲間の仇に使われる?



………ふざけるな!!



教団の奴隷になんかなってたまるか!


なるぐらいだったら死んでやる!



絶対に逃げ出す、リスクがあろうが関係ない


…大気圏突入だ、やってやる!


他に方法はない



二日後、「上」を出発するためにポッドに乗る時が最後のチャンスだ


俺が脱出する上で、一番の障害はBランクの教官達だ

ポッドに乗るときが、教官から離れられる唯一のチャンス


()()()()()()()()()()()()()()


大気圏突入の方が、教官との戦闘よりも危険度は低いと判断する

これ以外にチャンスはない



「…ラーズ、聞いてくれ」

考えに浸っていた俺に、ハンクが声をかけて来る


「何だ?」


「俺達は二日後に脱出を決行する」

二人が、決意を表情で表す


「ポッドに乗った時か?」


「そうだ」


「…分かっていると思うが、大気圏に突入するんだ。死ぬ危険性は高いぞ?」


「アーリヤと別れるくらいなら、死んだ方がいい」

「…私も」


…さすが、アイアンカップルだ


「分かった。俺の考えを聞いてくれ」


二人が頷いた



過去、何度も起こっている飛行機事故

その中で、上空一万メートル以上から墜落してパラシュートも無しで生き残ったという事例が存在する


幸運に幸運が重なったであろうことは分かる

だが、ここで大事なのは、生き残ることが不可能ではないということだ



「衛星軌道にある宇宙ステーションからの脱出。最初の関門は空気と温度だ」


「…空気と温度?」

アーリヤが言う


「リリアの遺体が冷やされて、更にダメージを受けていた理由。それはハッチに隙間を作ったことでポッド内の空気が急激に流出、低気圧になったことが理由だ」


「どういうことだ?」

ハンクが言う


「急激に気圧が下がるとポッド内の気温が一気に下がる。更に、リリアの体内で水分の沸騰や気体の膨張が起き、遺体の血液や体液が吹き出したんだ」


こう考えれば説明が付く



「…呼吸の問題もあるし、ハッチをこじ開けるタイミングは、大気圏に入ってからじゃないとダメってこと」

アーリヤが言う


「そうだ。ただ、この宇宙ステーションがどれくらいの高さにあるかが分からないから勘しかない。後は、変異体の肉体の強靭さに賭けるしかない」


「…宇宙ステーションの起動は、地上二百キロメートルくらいの軌道が一般的だと思う」

アーリヤが言う


「そうなの? 地上二百キロだと仮定、飛行機の軌道である地上一万メートルでポッドを脱出するとして…、重力加速度を9.8とすると…」


「…空気抵抗を無視すれば、…百九十キロメートルの落下で、だいたい百九十五秒くらい」


それ、暗算で出せるのかよ!?


「計算早いな! つまり、投下されて約三分後にハッチを開けて脱出すれば、飛行機の高度の約一万メートルで外に出られるってことだ。そこから下は大気の濃度も上がっていく」


「…そして、ポッドを出たらテレキネシスの飛行能力」


「そうだね。宇宙空間で飛び出しても、息を吐きながら落下すれば、体内の気体の膨張も多少は抑えられるはず。…問題は落下速度だけだ」



…このテレキネシスによる飛行能力が、この脱出の(キモ)

大気圏突入なんて馬鹿な選択を真剣に考える理由だ


俺とアーリヤが頷きあう

ちなみに、ハンクは全然ついてきていない



要は、大気圏外でハッチを開ければ、呼吸が出来ず圧力の関係で体にダメージを受ける可能性が高い

出来る限り、大気圏に入ってからポッドを脱出したい


しかし、外が見えないポッドでは、脱出のタイミングを誤るとあっという間に地上に落下

脱出は不可能となる


余裕を持って、上空一万メートルくらいで脱出する

そこでも極低温、薄い大気で人間が生きられる環境ではないが、そこは()()()()()()()()()()()()()()()



そして、呼吸が出来る大気圏内に入ってから、サイキックによる飛行能力で減速、地上に生還する


この飛行能力が俺とアーリヤの強みであり、ポッドからの脱出を可能にできる技能だ

触手がある俺、膨大な精力(じんりょく)を持つアーリヤ

浮遊という能力だけなら条件は五分だろうか


更に、空気抵抗によって落下速度を減速する


「ハンクはサイキックが使えない。アーリヤと一緒にポッドに乗るでいいのか?」


「…ハンクは私が助ける」

アーリヤがハンクを見る


「すまない、ハッチの破壊や着地の衝撃は任せてくれ」

ハンクもアーリヤを見つめる


いちいち見つめ合うの止めてくれない?


「…ラーズ、ありがとう。あなたの調査のおかげで決心がついた。ハンクと別れたら、私は生きていけなかった」

アーリヤが今度は俺を見る


「俺もだ。お前を組まなきゃ、アーリヤと別れさせられていたし、ダンジョン制覇も不可能だった」

ハンクも頭を下げる


「やめろって。この三人じゃなきゃダンジョン制覇は不可能だったし、アーリヤのサイコメトリーのおかげでこの場所の特定ができた。水晶のアイデアはタルヤだし、俺達の力だけじゃないさ」


「…うん」

アーリヤが頷く


「ラーズはタルヤを助けるのか?」

ハンクが言う


「脱出が無事に成功したらだけど、もちろん助けるつもりだ」


「…大切?」

アーリヤが微笑む


「多分、アーリヤが思っているような関係じゃないよ? ただ、大切な俺の戦友なんだ」


「…そう?」


いや、絶対に分かってないだろ?



「あと、やることは身代わりか」


「身代わり?」

ハンクが聞き返す


「ハンクとアーリヤが同じポッドに入るなら、アーリヤのポッドが空っぽになる。そこに身代わりを突っ込んでおかないと、さすがにバレるだろう」


センサーくらい付いているだろうし


「なるほどな」

ハンクが頷いた


「それは明日やろう」


「分かった」「…うん」



こうして、俺達は部屋に戻った




次の日、食堂で飯を食べる


「よく寝れたか?」

ハンクが食堂に入って来た


「まあね。今日は緊張で寝れないかもしれないから、よく寝ておいたよ」


「…うん」

アーリヤも頷く


俺達はエントランスに向かった




エントランス


今日、「下」への出発はすでに終わっているようで誰もいなかった


「下への出発の時間を指定されるのって、宇宙ステーションの位置が関係あるんじゃないか?」


「…確かに」

アーリヤが頷く


宇宙ステーションから地上の「下」に行くためには、「上」である宇宙ステーションがちょうど「下」の上空に来るタイミングである必要がある

逆に、「下」から「上」へ戻る際の待機時間も、宇宙ステーションがちょうどいい場所に戻るためだ


やっわかってきた



俺は、自分のポッドを見る

俺の番号は20だ


このポッドで何度もダンジョンに降りた


「今更だけど、ハンクとアーリヤのポッドって連番なんだな」


ハンクは10番、アーリヤは11番だ


「トラビス教官は、ステージ2から俺達に目をかけてくれていた。最初は俺だけステージ3に上がることになったんだが、アーリヤと一緒に上がりたいという頼みを聞いてくれた。それでポッドも連番になったんだ」


「へー、そうだったんだ」


「正直、トラビス教官の顔に泥を塗るのだけは心苦しい」

ハンクの表情が曇る


…マジか!?

あいつのせいで何人も死んでるんだぞ?

ハンクの判断基準、おかしくないか!?


「脱出には覚悟が必要だぞ、大丈夫か?」


「問題ない。俺にとって、一番大切なのはアーリヤだ」

だが、ハンクの決意は固いようだった


うん、問題なさそうだな


「よし、夜になったら、誰かを適当に眠らせてアーリヤのポッドに放り込む。そして、アーリヤは自分のポッドに乗り込むふりをしてハンクのポッドに乗り込む。その間、ハンクと俺で気を引いておく」


「分かった」

ハンクが頷いた




…そして、深夜


ナノマシンシステムがまた活性化している

まるで、俺の緊張に触発されているようだ

体内で、ナノマシン群が暴れてれている感覚がある


軍時代を思い出せ

ナノマシン群は、俺の意識した場所に集めることができる


何度も怪我をして、ナノマシン群により治癒する

それを繰り返すことで、全身の細胞が少しづつナノマシン群であるケイ素系細胞、マイクロマシン、ナノマシンを取り込んでいった


すると、ナノマシン群の体内含有量が増えていき、治癒力の向上、身体能力の強化、体の変形が可能になっていったのだ


体が作り直された今、その機能は使えなくなった

だが、俺はまもなく大気圏に生身で突入する


空気抵抗を少しでも増やしたい

俺は、必死にナノマシン群に働きかける



おっ…、いいぞ


ナノマシン群が動いて、集まっていく感覚がある

背中の触手に集まり、膜を形成していく


…急に、ナノマシン群が動くようになったぞ?


ありがたいが、いったい何があったんだ!?



「…っ!?」


ガチャッ…!



突然、俺の個室のドアが開いた

集中していて、気が付くのが遅かった


背中の触手には、ナノマシン群の中途半端に変形している


まずい、しっかり制御ができていないため、隠すのが間に合わない!

気配は一人、誰だ!?



ガッ!


入って来た人間の口を押えて、部屋に引きずり込んだ



「ひぇっ…!?」


そいつは、隙を突かれて少しだけ声を上げた



入って来たのは、年配の白衣の女


こ、こいつは…


俺が体調不調で動けない時に、体をまさぐりやがった、あのババァじゃねーか!?



年配の白衣の女

序章~1話 目覚め 参照



次回、三章ラスト!

施設編の結末、お付き合い下さい♪

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[気になる点] ...うん?もしかしてラーズ、ナノマシン使って背中に完全な翼作れるようになりつつある?
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