三章 ~27話 準備
用語説明w
この施設:ラーズが収容された謎の変異体研究施設、通称「上」とダンジョンアタック用の地下施設、通称「下」がある。変異体のお肉も出荷しているらしい
教官の許可が得られれば、いろいろな道具が手に入るらしい
「何かもらったことがあるのか?」
俺は、ハンクとアーリヤに聞く
「…回復薬を多めにもらったりとか」
アーリヤが答える
「俺達は、ステージ2にいた頃から目をかけられていた。だから、いろいろと面倒を見てくれたんだ」
ハンクが言う
教官は、エントランスの情報端末で呼べば来てくれるらしい
こっちから呼んだことなかったから知らなかった
アイアンカップルは、トラビス教官のお気に入りだったようだ
ハンクが情報端末を操作してしばらく待っていると…
エントランスの扉が開いてトラビス教官がやって来た
「おお、ハンクとアーリヤ。ラーズも一緒か」
トラビス教官は、俺達を見て上機嫌で言う
「お呼び出しして申し訳ありません。次のダンジョンアタックのための道具を頂きたいのですが」
ハンクが丁寧に説明する
「そうかそうか。次はいよいよダンジョン制覇を目指すわけだから、可能な限り許可する。何が欲しいんだ?」
トラビス教官は、あっさりと道具を用意することを認めてくれた
そんなに、俺達にダンジョンを制覇してもらいたいのか…
「前回のダンジョンアタックで、ラーズの武器が壊れました。応急措置用に、テープや紐、そして接着剤などの道具をお願いします」
「うむ、分かった。他に欲しい物はあるか?」
「…今回、回復魔法を使う者がいないため、回復薬やカプセルワームを多めに用意してください」
アーリヤが言う
「…いいだろう。カプセルワームは本来認めていないのだが、さすがに深層では必要になるだろう。ラーズは何か必要な物はあるか?」
「はい、深層のモンスターに対して火力不足を痛感しました。銃器を準備してほしいのですが」
「銃器だと? 何が欲しいんだ」
トラビス教官が驚いた顔をした
ダンジョンアタックでは、銃器の使用が認められている
実際、俺の最初のダンジョンアタックでは、フアンがアサルトライフルを持ち込んだ
銃器は強い
だが、弾切れという弱点がある
ダンジョンという環境で弾の補充ができない場合は、どうしても銃器以外の戦闘方法が必要となる
しかし、ボス戦やいざという時の戦いでは、火薬の力は心強い
ギガースの耐久力を経験したことで、深層用の火力武器が必要であることを痛感した
あれは、剣で刺してどうにかなるレベルじゃない
ハンクの拳やアーリヤの魔法のような、俺も同等のダメージを稼げる手段が必要だ
そして深層まで温存でき、いざという時に使える銃器だ
「携行の邪魔にならないハンドガン、火力を重視した44マグナムをお願いします。弾は、最高火力のモンスターハンター用の弾丸が欲しいです」
44マグナム
大口径マグナムの代表格で、ハンドガンでありながら動物やモンスターのハンティングにも使える
大容量の火薬で高い威力を実現し、モンスターハンター用の魔鋼弾はモンスターにも大ダメージを与える
「…いいだろう。リボルバーと弾丸を持たせよう。リロード二回分、合わせて十五発だ」
「ありがとうございます」
こうして、俺達は物品を受け取った
「よし、準備するものはこれだけでいいか?」
トラビス教官が、俺達を見回す
「はい、大丈夫です」
ハンクが代表して答える
「では、お前達の出発が決まったので示達しよう。…明日だ」
「…明日」
アーリヤが呟く
また、相変わらず急だな!
「何度も言うが、お前達は我が施設の最高傑作だ」
トラビス教官が、俺達に念を押すように話を続ける
「…わが施設には、そろそろダンジョン制覇という結果が必要だ。お前達三人にしかできない。それは、ギガントのハンク、エスパーのアーリヤ、ドラゴンのラーズ、お前達がそれぞれのタイプの最高傑作だからだ」
トラビス教官は、ここまで話すと静かに闘氣を発動する
…相変わらずのプレッシャーだ
「鉄拳、アイアンメイデン、トリッガードラゴン、それぞれの名において失敗は許さん。絶対にダンジョン制覇を成し遂げろ。…いいな」
「はい」 「はい」 「はい」
俺達は返事をする
…撤退になったらどうなるんだろうか?
トラビス教官が帰った後、俺達も解散する
「ラーズ、明日はよろしく頼む」
「…頑張りましょう。どっちも」
「ああ、よろしくな」
俺は、二人を見送ると部屋に戻った
ベッドに横になる
ダンジョンの鉱石をナノマシンシステムに与えながら考える
仮に、ダンジョン制覇が出来ても出来なくても、俺達三人の環境は変わる
その次、「下」に行けるのがいつになるのかは分からない
必要な情報は取っておきたい
そして、トラビス教官の闘氣は相変わらずの脅威だ
今のままじゃ勝てない
もし、脱出する方法があったとして、トラビス教官や他の教官が大きな障害となる
Bランク相手では勝負にもならない
軍時代に感じた無力感
一般兵として戦場に出ていた時から感じていた格差
その差は、この施設でも変わらない
だが、諦めるのは早い
…はるか昔、生物が生まれて海の中で原始的な魚類が爆発的に増えた頃
海の中では、種の存亡を賭けて生存競争が繰り広げられてきた
そして、競争に負けた魚類の一部は海を離れて川へと逃れた
栄養豊富な海の環境と違って、川は栄養に乏しく、生きるのが難しい環境だったため、競争相手がいなかったからだ
競争敗れて川に逃れた魚類は、流れが激しく栄養の乏しい川に適応してその体を進化させていった
川を上るための流線型体型、尾や鰭などの構造を獲得、更に体を支え、ミネラルを貯蓄するための骨と言うシステムを作り出した
厳しい環境を生き抜いて獲得したこのシステムの性能は凄まじく、川に残る者、海の覇権を取り戻す者、更には陸上へと進出する者までもが現れたのだ
その魚類こそが、後に陸地を席巻する現在の脊椎動物の祖となったのだ
俺は、この戦闘力の格差を覆すために軍時代に力を得た
そして、この施設でヘルマンやタルヤに出会い、そして変異体の力を得た
まだ、Bランクには叶わない
だからこそ、俺は息を潜める
闘氣が無ければBランクだって生き残れない、そんな厳しい環境を俺は生き抜いてきた
ここで得た力で、施設ごと駆逐してやるその日まで
ドクン…
何だ?
ドクン…
何かの鼓動を感じる
ドクン…
俺の心音じゃない
ドクン…
この感覚
ドクン…
懐かしい
ドクン…
これは、まさか
ドクン…
ナノマシンシステムか?
ドクン…
カリカリ…
カリカリ…
左腕の皮膚が鉱石を食べている
いつもよりも、食べ方が活発だ
この施設に来て初めて、ナノマシンシステムが動き出したのを実感する
ナノマシンシステムとは俺の受けた人体強化手術で、正式名称をナノマシン集積統合システムという
ナノマシン群を体内で運用・活用するシステムなのだが、ナノマシン群が体内に適応していくにつれて、バージョンアップしていく
簡単に言うと、機能が増えるのだ
導入直後では、ナノマシン群により治癒力がアップして傷がすぐに塞がるようになるだけだった
そして、バージョン2.0ともなれば、ナノマシン群を使って筋力の増強、骨格の補強が行われ、身体能力が格段にアップする
更に適応が進むと、ナノマシン群により体の一部を変形させることが出来る
身体能力の向上もナノマシン群の変形の一種ではあるので、それを拡張させたという意味でバージョン2.1と呼ばれている
今の俺は、体を作り直した状態に近いため、ナノマシン群に一から適応していく必要がある
まだ再起動したばかりだが、少しでもナノマシン群の素材を取り込ん性能を上げて行くしかない
次、目が覚めたらダンジョン制覇へ向けて出発だ
深層、そして最下層のボス…
そして、この施設の場所脱出方法の発見
絶対に生き残る
そして、やり遂げる
参照事項
ナノマシンシステム 一章~11話 テレパスハック実験
体の作り直し 一章~33話 完成変異体
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本当にありがとうございます
抑圧な話が続き、心配していただいている感想を何度か頂きまして、補足です
施設編は元から三章までと思っており、その間はがっつり抑圧しようと考えておりましたw
過酷な環境化での覚醒を描きたかったのが理由です(覚醒を感じるために読者を我慢させるスタイル…汗)
ラーズは、「戦闘力」としては変異体の完成以外に増えていません(地味w)
しかも、装備やナノマシンシステムを失っており、レベルが下がってしまったかのように見えます
しかし、「実力」としては…?
フィーナとの再開はカウントダウンw
へっへっへ…、この施設の場所、分かる人いるかな?(ヒントが少なすぎるのは自覚していますw)
アンチチート、省略しない努力がこの小説のスタイルです
施設編の後もぜひお付き合い下さいませ!