三章 ~24話 ダンジョンアタック四回目4
部屋に入ると、身長五メートルほどの人型モンスターが佇んでいた
「ま、まさか…巨人…?」
巨人
惑星の力を使うため、驚異の回復力と耐久力を持つ
ドラゴンにも負けない戦闘力を持ち、高位の者は惑星の化身として星と同等の能力を有する
独自の文化を持つ巨人も存在する
「…あれはギガース。モンスター化した巨人」
アーリヤが杖を構える
「グオォォォッ!」
ギガースが拳を振り上げた
とっさに前に出て攻撃を分散
左回りに巨人のサイドを取る
ゴッ!
「ぐあっ!?」
巨人の一歩が大きく、パンチも早い
目測を誤って、ギリギリでパンチを躱す羽目になる
地面を砕いて石が散弾のように飛んできた
ハンクとアーリヤが、ギガースに攻撃
足を攻撃されたギガースがよろける
「離れろ!」
俺は叫ぶ
ギガースの足元に、何かが発動した
おそらく、特技だ
巨人は土属性と親和性がある
だが他の生物と違うのは、惑星自体とも親和性を持っていることだ
土属性は個体を司る
魔力や輪力で個体を作り出す属性で、自然界の個体を操ることは出来ない
精々振動させて地震を起こすことくらいだ
逆に、気体を司る風属性は自然界の気体を操ることしかできず、作り出すことは出来ない
だが、巨人については例外となる
惑星の一部である地面を平気で魔法や特技で利用するのだ
惑星の加護として、大地の氣脈を利用しているという説もあるが、まだその原理は解明されていない
ドゴゴゴゴッ!
「グアァァッ!」 「キャアァァァァッ!」
地面が隆起して、床が波のようにハンクとアーリヤを襲った
まずい!
追撃を止めろ!
俺は飛び込んで、腰を落とす
目の前にあるのは巨人の膝だ
自重、体幹、大地と下半身での支え
体をしならせて、腕に力を集める
俺の全力の発勁だ
ドゴォッ!
「ぐごっ!?」
ギガースの膝が衝撃で曲がり、膝を付いた
パァァ……!
視界の隅で、リリアが回復魔法を使っているのが見える
時間を稼ぐ
ギガースはでかい
でかさは力だ
最大火力をぶちこまないと、ダメージにもならない
…サイキック・ボムだ
俺は、ショートソード先端に精力を集める
同時に、立ち上がったギガースの肩に流星錘を投げ、フックを引っ掻けてロープとする
「グゴォォォ!」
激昂したギガースが拳を振るう
喰らったら即死
体捌きと足運びでギガースの側面に
流星錘の紐を引っ張りながら、同時に飛行能力発動
ギガースの体を駆け上がる
勢いそのままに、サイキック・ボム in ショートソード!
バチュッ!
「グゴォォォ!?」
ギガースの左目が吹き飛び、眼球がこぼれ落ちる
衝撃でショートソードが砕けた
俺は追撃で、傷口を全力で蹴り込み離脱する
「グオォォォッ!!」
痛みで暴れまわるギガースが、やけくそ気味に肩から体当たり
「…リリア!」
アーリヤが叫ぶ
ギガースが突っ込んだ先には、リリアたまたま走っていた
「あ…」
ドゴォッッ!!
リリアが驚くと同時に、ギガースが壁に突っ込んだ
「…リリア!!」
アーリヤの動きが止まる
まずい、負傷者出た!
立て直せ、行動しろ、崩れたら全員死ぬぞ!
「ハンク! 撤退だ! アーリヤを連れて部屋を出ろ!!」
俺はハンク叫ぶ
俺は暴れているギガースを避けて、リリアの所に
動かないリリアを担ぎ、部屋を脱出した
・・・・・・
地下七階層へ上がる階段
「はぁ…はぁ…」
ハンクがアーリヤを抱えて部屋を脱出
安全と思われる情報端末のスペースに、俺はリリアを寝かせる
「…」
一応、心拍や瞳孔を確認する
「…ダメだ……」
当然ながら、反応は無かった
ギガースの巨体が叩きつけられ、壁でプレスされた
骨が折れ、おそらく内蔵は破裂している
片目が圧力で半分飛び出していた
俺は、眼球を押し込んで、目を閉じさせてやる
女の子は顔が命だ
「…やはり、連れて帰れと言われた」
ハンクが、顔をしかめる
完成変異体の遺体は、錬金術処理をされてお肉として出荷される
貴重な変異体因子を活性化させる薬となるからだ
変異体因子に作用する、現在唯一の素材だ
その貴重な素材は、ダンジョンで死んだ場合も変わらない
可能な限り、持ち帰ることを強制される
「…仕方がない。幸い、リリアは体が小さい。俺が背負うから、ハンクが前衛で頼む」
「分かった。取り敢えず、モンスターが強い七階層と六階層を抜けよう」
ハンクが頷いた
七階層
先ほど通ったばかりで、モンスターはいなかった
最短ルートを通って階段へ
「ふぅ…、助かったな」
ハンクが言う
「…でも、六階層はモンスターがいるかも。気を引き締めて」
アーリヤが道の先を見る
深層は、モンスターが強すぎる
部屋に入る度に冷や汗をかく
プレッシャーで呼吸が荒くなる
落ち着け
落ち着け
六階層
「…モンスターがいる。三体、気を付けて」
アーリヤがモンスターを感知
モンスターが三体、カラスと人の合の子のような姿で黒い翼を持っている
カラス天狗だ
飛行能力を持つ妖怪で、風属性を操る
確か魔法も使うはずだ
陽動はした方がいい
俺は部屋の入口にリリアを寝かせる
「クエェェッ!」
カラス天狗が、連携してハンクを襲う
パンチ一発が、一匹のカラス天狗を吹き飛ばす
だが、残り二体が空中からハンクに攻撃を仕掛けた
後ろから、俺が飛行能力で飛ぶ
「クケッ!!」
後ろからカラス天狗に飛び蹴り
脇腹が折れる感触
鳥だから骨は弱そうだな
そのまま、胴体を掴み反転して頭から落とす
空中バックドロップ、いずな落とし
ともいう
首を叩き折り、俺が立ち上がると、ハンクがもう一体を粉砕していた
魔法を使われる前に倒せてよかった
アーリヤが、吹き飛んだカラス天狗に止めを刺していた
「…」 「…」 「…」
俺達は、無言で出発準備をする
取り敢えず、五階まで戻りたい
下層はモンスターが強すぎる
「……?」
ふと、何かを感じる
「…どうしたの?」
アーリヤが俺を見て言う
「いや、何か…」
感じたのは、カラス天狗の死体からだ
まさか、動いた?
「カラス天狗に何かあるのか?」
ハンクが死体に近づく
「離れろ、ハンク!」
俺が叫んだ瞬間…
「キシャァァァァッ!」
カラス天狗の口から、細長い内臓のような気持ちの悪い生き物が飛び出してきた
「ぐぉぉっ!?」
ハンクが、口に取り付いた内臓を必死に掴む
あれは寄生生物だ
ステージ1の選別で、俺はあいつに取り付かれたギガントと戦った
あれに取り付かれると、代謝異常で体が崩壊していく
焦ってもがいているハンクに代わって、俺はその生き物を掴んで引き剥がす
そして、しっかりと頭を叩き潰した
「…すまない助かった」
「死体にも気を付けないといけないな」
俺達は、再び上層を目指した
五階層
「階層ボスがいない…、よかった」
アーリヤが言う
まだ、エイクシュニルは復活していなかった
四階層
ミノタウロス五体
ハンクとアーリヤで全滅させる
三階層
アンデッドが数体
アーリヤの魔法で殲滅
二階層
リザードマン数体
ハンクとアーリヤが殲滅
やっぱり、この二人の火力はすげぇ
一階層
大ネズミ
ハンクとアーリヤが…、以下略
俺達は、今回も何とか生還した
アイアンカップルはやはり強い
だが、この二人がいても、六階層以降は苦戦が必至だ
更にラスボスもいる可能性が高い
…ダンジョン制覇なんて本当に出来るのだろうか?