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三章~20話 冷凍保存

用語説明w

ペア:惑星ウルと惑星ギアが作る二連星

ウル:ギアと二連星をつくっている惑星

ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星


サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス


タルヤ:エスパータイプの変異体。ノーマンの女性で、何かに依存することで精神の平衡を保っていた。サンダーエスパーの二つ名を持ち、雷属性魔法を使う


目が覚めると、俺はすぐに医療室に向かった

タルヤの容体を見るためだ


不安がよぎる


タルヤ、大丈夫だよな?

こんなところで死ぬなよ!?


医療室の区画に行くと、ちょうど竜人のナースさんが出て来たところだった


「ナースさんすみません。タルヤに会いに来たんですけど…」


「あ、D03のラーズね? …説明するから入って」

ナースさんが、医療室のドアを開けた


中に入ると…


「トラビス教官…?」


トラビス教官が待っていた


「おお、ラーズか。タルヤの様子を見に来たのか」


「はい、そうです。タルヤはどうなんですか?」


「…」

トラビス教官の表情が曇った


まさか…

そんな…

無事なんだよな!?


「結論から言うと、タルヤは生きている」

トラビス教官が言う


「そ、そうですか…。よかった…」


とりあえずは一安心か


「だが、もう一緒に戦うことはできない」


「…え?」


どういう意味だ?


「タルヤは背骨を骨折して神経を損傷している。よくて半身不随、下手すると首から下が動かないかもしれない」


「…っ!?」


タルヤは予想以上に重症だったようだ

被検体とはいえ、さすがに神経が損傷したりすれば障害は残る

特に、脳力に特化したエスパーは一番治癒力が低いため、損傷の修復は絶望的だ


「ちょっと待ってください、義体化や再生医療、神聖魔法など、治す方法はいくらでもあるでしょう!」


義体化とは、体の一部を人工物に置き換えるサイバネ手術などのことだ


神聖魔法とは、高次元生命体である神と呼ばれる存在の力を借りて発動する回復魔法であり、通常の回復魔法よりも数段高い性能を持つ

条件が揃えば、死んだ人間を蘇らせる奇跡を起こすこともあるとか


「変異体を義体化することはあり得ないし、この施設で神聖魔法の発動も不可能だ。やるとしたら再生医療だが、タルヤの場合は重症で体全体の再生が必要となり、コストがかかりすぎる」


「そ、そんな…!? 俺は再生医療が使われたと聞いていますよ!」


「お前の場合は、ヴァルキュリアが持ち込んだという特殊なケースだった。我が施設の最優先事項は、完成変異体を作り出すこと。しかし、すでに完成変異体となった被検体一人に全身再生を行うなど、普通はありえない」


「…!!」


「そして、タルヤは被検体だ。戦えなくなった場合は肉にするしかない」

トラビス教官が言う


「な…、なんだと…?」


俺達は、お前達の言いつけを守ってダンジョンに潜ったんだぞ!?

それなのに、生還したにもかかわらず治療しないつもりか!


…そして、殺して肉にするだと!?

無理して治さなくても、肉として使った方が安上がりってことか!


「だが、タルヤの能力は素晴らしく伸びた。そのため、処遇を一時保留として冷凍保存することとなったのだ」


「…冷凍保存?」


「そうだ。被検体の数が足りなくなった時などに、再生医療を使って復活させるか、それとも肉にするかを決めることになるな」


「…」


とりあえず、タルヤはすぐには殺されないということか


「ラーズ。お前が強化兵となってここを出た時、タルヤを買い戻すという手もある。その場合は、お前がタルヤを助けることができる」


「買い戻す?」


「そうだ。まぁ、それまでタルヤが肉になっていないという保証はないがな」


「…っ!!」



改めて実感した、…この施設はクソだ!

俺達被検体の命は、一つの売れ筋の商品と同じだ


ちょっと壊れて売り物にならなくなれば捨てられる

店主のミスで壊れたとしてもお構いなしだ


「…ここまで丁寧に説明してやったのは、お前が使えるからだ。ハンク、アーリヤと共に、ダンジョンを制覇して見せろ。楽しみにしているぞ」

そう言って、トラビス教官は出て行った



…トラビス、お前は絶対に許さない

この施設の存在が許せない


俺達は、いつでも処分することができる便利な商品だ

このままじゃダメだ、いつか処分される


たった今、俺は決断した

…俺は、()()()()()()


幸い、ナノマシンシステムが復活してきている

まずは情報集めだ



「ラーズ、大丈夫?」

ナースさんが、残された俺に声をかけてくれる


「…ナースさん、タルヤの顔を見れませんか?」


「ええ、こっちへ来て」


ナースさんが、横のドアに案内してくれる

隣の部屋にはベッドが置かれており、タルヤが寝かされていた


…タルヤは、酸素吸入器をつけられて静かに眠っている


「…声をかけてあげて? もう少ししたら、冷凍保存の処置が始まるの。そうしたら、もう会えなくなるから」


「はい…」



冷凍保存


冷属性、氣属性、霊属性魔法を使って、新陳代謝を下げて肉体と霊体を封印する

これによって、長期間の人体の保存を可能とする封印術だ

宇宙旅行などにも利用されている技術だ



俺はタルヤの顔を覗き込む


「タルヤ…、ありがとう。タルヤが頑張ってくれたおかげで、無事に戻って来ることができたよ」


返事はない

俺はタルヤの手を握る


そして、精力(じんりょく)をタルヤに伸ばして接続する

あまり得意ではないが、テレパスをタルヤに送る



タルヤ、絶対に助ける

だから待っていてくれ


…俺は、仲間を失ってここに来た

それなのに、また大切な仲間が出来てしまった


いったい、何でだろうな


タルヤ、お前のことだよ?


ヘルマンやガマルが死んで、タルヤにまで死なれたら…



「…?」


一方的にテレパスを送るだけのつもりだった

だが、一瞬タルヤの指が動いたような気がした



「…ラーズ、そろそろ時間よ。お別れはできた?」

ナースさんが教えてくれた


「タルヤ、絶対にまた会おうな」

そう言って、俺は立ち上がる


「ナースさん、タルヤをお願いします」


「あまり悲観はしないでね、タルヤはすぐに死ぬわけじゃないから。まずは、あなたが生きてこの施設を出ることが先よ」

ナースさんが元気づけてくれる


「はい…」


俺は、ナースさんにお礼を言って医療室を出る



しがらみが増える

捨てられないものが増える


それは、俺が弱いからだ

一人では生き残れないからだ


もう、しがらみをこれ以上増やさない

そして、大切なものを守れる力がほしい


心が潰されそうだ

今の俺ではタルヤを助けられない


痛感する

戦闘力とは別に、俺には必要な力がある


どんなに辛くても、絶望しても、足掻き、もがき、そして耐える力

…今の俺に必要なのは、この心のタフさだ


出来ることをやる




・・・・・・




俺は、運動場で武器を選んでいる


新しいショートソードを手に入れ、流星錘を磨く

更にファイティングナイフを追加で持つ

投げナイフも新品に換えた


俺一人でも、ある程度の攻撃力を持つ

遊撃役として、どんな状況、どんな場面でも仕留められる攻撃方法を確保する


複数の武器を使っても、持ち替えにはサードハンドがあるので使いこなせている



そして、ダンジョンアタックの対策と同時に、この施設の脱出方法を考えなければいけない


最初にやることは、()()()()()()()()()()()を探ることだ


ダンジョンがある、「下」に行く時に乗るポッド

あれに乗っているときが一番のチャンスだろう


外が少しでも見られれば、ヒントが得られるかもしれない


ここがウルなのか、ギアなのか

「下」とは、どれくらい深い場所にあるのか


まずはそこから探っていく



「…っ!?」


俺は反射的にナイフを持つ



「ここにいたのか。探したぞ、トリッガードラゴンのラーズ」

運動場に入って来たのはハンクだった


「…次は、私達とパーティを組む。出発は明日」

アーリヤも一緒だ


「そうか、よろしく。鉄拳のハンクとアイアンメイデンのアーリヤ、また組めるなら心強いよ」

俺は、二人にばれないようにナイフをしまう


少し神経が過敏になっているな…


「…タルヤのことは聞いた。サイコメトリーを教えてくれた。また、一緒に組みたかったのに」

アーリヤが悲しそうな顔をする


「アーリヤが他人に興味を示すなんて珍しい。タルヤは優秀なエスパーだったから残念だ」


「それを聞いたら、タルヤも喜ぶと思うよ」



また明日、ダンジョンアタックか

この施設の位置を探るのにちょうどいい


だが、ダンジョンは雑念を持って進めるほど甘くない


切り替えなければ…



再生医療

一章~33話 完成変異体 参照

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― 新着の感想 ―
[一言] マジか……そうだよなぁ合ってはならない施設だからなぁ、高位の治療行為はあまりとれないんだな 脱出するにはやっぱりBランクをどうするかだよなそれに一ステージに居たガードマン的な装備着込んだやつ…
[一言] :( ˙꒳˙ ):ヒェッ‬ ダメっすか...理不尽は厳しめに働いてたかぁ...... お別れのテレパスの描写がエモい、タルヤ生きてくれぇ!
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