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三章~18話 ダンジョンアタック三回目4

用語説明w

サードハンド:手を離した武器を、一つだけ落とさずに自分の体の側に保持して瞬時に持ち替えることができる補助型のテレキネシス


地下三階層では合計四回の戦闘があった

途中でショートソードが折れてしまい、オルバスのショートソードを受けとる



「はぁ…はぁ…」


全員の呼吸が荒い



俺は単純に疲労が溜まってきているのだが、残りの二人も俺が倒れた時にモンスターの相手をしなければならず、プレッシャーが常にあるのだろう


疲労はあるが、怪我の痛みは感じなくなっててきた

意識はぼーっとしているような、集中しているような、不思議な感じだ


一歩ずつ進む


疲れていようが、歩みは止められない



地下二階層


二つ目の部屋でモンスターに遭遇



「ラ、ラーズ、大丈夫か?」


「大丈夫だ。防御を頼む」

オルバスに答えて、俺は部屋に入る



俺には軍の経験がある


デモトス先生の訓練も受けて来た


そして、ヘルマンの指導でより理解が深まった



大きめのゴブリンがいる

あれはホブゴブリンか


ホブゴブリンが五匹

こん棒と槍、鉈を持ったのもいるな



「グオォォォォッ!」


雄叫びを上げてこん棒を持ったホブゴブリンが走って来る



一人で来てくれるのはありがたい

呼吸、挙動を見て振り下ろすタイミングを見る



ブオンッ


「グゴッ!?」



一歩足を踏み出して体捌きでホブゴブリンの横へ

こん棒が、まるで素通りしたように見えただろう


わき腹にショートソードを差し込み、中で刃を回す

背中側に回って頸椎を突く



二匹目が槍を構える

腕に力みが出た瞬間に、ショートソードの刃を槍の穂先に添える


槍の穂先がショートソードに触れて突きがぶれる

俺は、ゆうゆうとホブゴブリンの目の前へ


喉を一突き



三匹目

鉈を振り回すホブゴブリン


その回転の中に体を入れて、振り回す動きに力を加える



「グガッ!?」


力を利用すれば、俺より大きいホブゴブリンの体が浮く



頭から落として、目から脳へとショートソードを貫通させる



四匹目


こん棒を持ったホブゴブリンが俺を警戒している

目の前で仲間がやられたからか


悪いが時間がない

俺は、テレキネシスを込めた流星錘を少し逸れた方向に投げる


「…?」


一瞬油断したホブゴブリンが俺を見る


意識がそれたところで、紐をくねらせながらサードハンドで流星錘の軌道を調整

軽くホブゴブリンに当てる



バンッ!



ホブゴブリンの首が弾けて血が吹き出す

使えるな、サイキック・ボム


精力(じんりょく)を見なければ、見た目は普通の投擲と変わらないのがいい



五匹目


ホブゴブリンが警戒している

俺は静かに脱力しながら、一気に加速する


挙動を消した攻撃には反応ができない

下段の膝にショートソードを突き刺した



「ギャアァァッ!」


叫ぶホブゴブリン



膝を内側から蹴り込み、腕を取って脇固めで肩を壊しながら倒す

後ろから頸椎を踏み折る



「…」


…体が疲れ切っている



血も流し、負傷もしているが、何も感じなくなってきた


勝利に対しての感動はない

闘いに対する恐怖もない


全てを受け入れている感覚

全てを俯瞰してみている感覚

モンスターの細かい挙動が分かる


感覚が研ぎ澄まされている


この感覚に目覚めてから、何かが変わった

…次の動きをある程度予想できる


それだけじゃない、俺自身の動きも分かる

チャンスを待つだけじゃない、作り出すことができる

攻撃の継ぎ目、動きの隙、モンスターの意識の外側が分かる


疲れて、余計な力が抜ければ抜けるほど、分かることが増えていく



「ラーズ、大丈夫か?」

オルバスが、恐る恐る言う


「…ああ、問題ない。このまま進もう」




地下一階層


「や、やっとここまで…!」

カブスが声を出す


「油断するな。この階層で終わりだ、気合いを入れろ」


「…この先、モンスターがいる」

オルバスの警戒した声



部屋の中にいたのは、犬型のモンスター、ノムルウルフだった

数は五匹


「数が多いな、抜けられるかもしれない。その時はオルバス、頼むぞ」


ノムルウルフは足が速い

カブスとタルヤを狙われたら俺じゃ止められない



ノムルウルフの飛び込みに合わせて、流星錘の投擲

一撃で頭が割れる


二匹目が横から跳びかかって来る

ラウンドシールドで受け止めながら、ショートソードを突き刺す


離れれば流星錘

跳びかかりには盾とショートソード

サードハンドも使って使い分ける


全体の動きを把握

同時に攻撃を受けない位置取りが大切だ


最低限の攻撃で確実に仕留める

武の呼吸の制度が上がっている



…俺の体が覚醒している


これが武だ


自分で出来ていたと思っていたもの

それは、余計なものがたくさんついていた


疲れ切って、動けなくなって、余計なものを全部捨てて、やっと動ける状態になった時

初めてヘルマンやデモトス先生の境地が垣間見れた


余計な力を入れない

正しい動作をする

必要な場所と時間で使う


この地味な要素が技の真理であり、それがどれだけ難しいことか…




「うわぁぁぁっ! ラーズ! ラーズ!」

カブスの悲鳴が聞こえる


通路側からモンスターと遭遇したらしい

オルバスとカブスが部屋の中に入ってきた


身長一メートルほどの猿、ニルギコングだ


通路でモンスターとの接触か、運が悪い

ダンジョン内でも生存競争はあり、モンスターは自分の縄張りのフロアだけでなくダンジョン内を徘徊することもある


「ラーズ、こっちは俺が! そっちに集中してくれ!」

オルバスがニルギコングにテレキネシスナイフで斬りかかる


「カブス、すぐに行く! タルヤに振動を与えるな!」



ノムルウルフに投げナイフ

避けたところに流星錘



ゴキャッ!


「ギャンッ!」



頭骨を砕く


二匹同時に噛みつき

噛みつかれるポイントに立って急加速


一匹の喉にナイフを突き刺すが、もう一匹が俺の腕に噛みつく

落ち着いて、噛みついた方の喉にもナイフを刺す



「ぐあぁぁぁっ!」


オルバスの悲鳴



背中の触手溜めた精力(じんりょく)を解放

飛行能力で一気に接近する


ニルギコングがオルバスの足に噛みついている

俺は首筋に体重をかけてナイフを深く突き刺し、ニルギコングの命を刈り取った



「はぁー…はぁー…はぁー…」


呼吸を整えながら、オルバスを見る



左足の脛が抉れて骨が露出している


ニルギコングの背中にはナイフが二本刺さっているが、長さが足りずに仕留められなかったようだ


「…オルバス…回復薬を使って……はぁ…治療……はぁ…」


くそっ、呼吸が戻らねぇ…


「う…すまない、最後の回復薬だ…」

歯を食い縛りながら、オルバスが足に回復薬をかける



「…オルバスは俺が肩を貸す。カブス、タルヤは大丈夫か?」


「あ、ああ、息はあるよ」

カブスの背中に背負われたタルヤは、相変わらず意識がない



一階層の半ばでオルバスまでが負傷

まずいな


俺達三人の顔が曇っている


「…あと三つの部屋を抜ければ出口だ。ここは地下一階層でモンスターは弱い。生きて戻れるぞ」

俺は声をかける


「で、でもオルバスまで足を…」

カブスが不安を口に出す


この野郎、俺だって不安を押し込んでるんだぞ


「これが地下二階層だったらもう無理だった。運はいいし、お前らはよくやってくれているよ」


「あ、ああ…」


打算だ、こいつを元気付けろ

その効果はある



俺達は、ゆっくりと歩き出す


オルバスの足が思ったよりひどい

だが、さすがは変異体だ

俺の肩に掴まりながらも歩いている



…次の部屋


「モンスター無し」


オルバスがテレパスで索敵

オルバスには、索敵に集中してもらう



…二つ目の部屋


「モンスターがいる。…三匹だ」

オルバスが、歯を食い縛る


「通路で待機していろ。索敵は怠るなよ」



中に入ると、武器を持った骸骨が三体佇んでいた


一匹目

流星錘の投擲から、錘に付いたフックで引っ掻けて、パワーで引きずり倒す


二体目の剣を躱しながら、足を骸骨の足の外側に入れて体をぶつける

体幹の力で骸骨を仰向けに倒す


一体目と二体目に、流星錘をハンマーのように叩きつけて頭蓋骨を砕く



三体目


大きな動作での剣の振り下ろし

体捌きから腰の回転、下半身と体幹を固めて拳を打ち込む



パンッ


小気味良い音が響き、骸骨の背骨を貫通

背骨の一部が弾ける



正拳突きだ


完璧に威力が乗り、背骨の支えを失った骸骨が崩れ落ちた



「…な、何でラーズはあんなに簡単にモンスターを倒せるんだ?」

オルバスがカブスに言う


「…分からん。何をやっているのかも分からん」


「…」



最後の部屋


「…モンスター無し! やったぞ!」

オルバスが、索敵結果を笑顔で伝える


「気を抜くな。ここまで来たんだ、最後まで警戒しろ」


「…そ、そうだな」

一緒に喜びかけたカブスが表情を引き締める



歩く


歩く


カブスがタルヤを背負って静かに


オルバスが俺の肩に掴まって、足を引きずりながら


部屋を抜ける


この先…



「出口だぁぁぁぁ!」

オルバスが叫ぶ


ポッドが並ぶエントランス


俺達は生還した





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― 新着の感想 ―
[一言] 頼りになる仲間にはなかなか当たらんな…ハンクとアーリヤの時は多分教官がセッティングしたんだよね…?
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