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プロローグ



…微睡み





…緩慢な感覚……





ここはどこだ…






上なのか…






下なのか…






どこを向いているのかも分からない






起きているのか






眠っているのか






曖昧な意識






あやふやな感覚






時折、何かが通りすぎる






意味不明な記号が現れては消えていく






ささやかれているのか






見ているのか






触れられているのか






…ゆっくりと






沈んでいく






深く






…俺は浮いていた?





…俺とは誰だ?






俺は存在するのか?






また夢現(ゆめうつつ)に…






意識が落ちていく






意識が明暗する






だからこそ、俺は存在する






我思う、ゆえに我あり







()()()()()()()()()







………







……













・・・・・・






ここは、どうやら研究室のようだ


白衣を着た研究者達が忙しそうに作業を行っている



この部屋の真ん中には、大きなカプセルが置かれている



その中は特殊な溶液で満たされている


そして、チューブや電極が繋がれた()()が一つだけ浮いていた



「因子活性剤のAを二百」


「Aを二百、注入しました」


「氣脈の誘導はどうだ?」


「異常無し、霊体構成も維持しています」


「よし、バイオプリンティングで脊髄の構成誘導を開始しろ」


「了解しました!」


白衣の研究者達が一斉に作業を開始する



カプセル内に浮かんでいるもの


()()()()()


人間の脳が溶液内に浮かんでいる

脳には、何本ものコードやチューブが脳幹に接続されていた


この脳には、目も耳も何もない


丸裸の脳だけだ




「…無事に脳を剥がせてよかったですね」

若い白衣の研究者が壮年の研究者に言う


「この被検体は、ナノマシン集積統合システムの強化手術を受けていたようだ。ナノマシン群の治癒力が変異をある程度抑えていたようだ」


「この被験体かなり変異が進んでいて、まるで変異体因子が暴走したようでしたよ」


「…暴走で死にかけていたのは確かだ。だが、この被験者は重症を負っていたようでな、変異による超代謝で傷を塞いだような痕があった」


「そ、そんな幸運が…? いや、その重症によって変異体因子が暴走したのか…?」


ぶつぶつと独り言を言いながら、若い研究者は自分の世界に入り込む




他の研究者達は黙々と作業を進めている


「主任、ナノマシンシステムのコアはどうしますか?」


「完成変異体となるまでは停止措置を取っておけ。強制進化の妨げになる」


「了解しました。停止用のナノマシン溶液が必要ですので、今後は定期的に注射が必要となります」


「育成係に引き継いでおけ。コアの場所は左胸だ、資料を確認して間違えるなよ」


「身体の構成完了後に外科手術での埋め込みでいいですね?」


「それでいい。コアはそいつの遺伝子情報がインストールされていて使い回せない。有用な強化手術だ、この被験体の価値を上げるために使える準備をしておこう」




脳が浮いているカプセルに様々な機器が接続され、作業が開始された


魔玉をセットして魔素の注入

属性的に中性を保った特別な魔素でカプセル内を満たす


同時に被検体のDNAを持つ特殊な人工多能性幹細胞を高濃度に溶かす

この細胞は、被検体の霊体に沿って、満たされた魔素により誘導されて脳の周囲に集まる

そして、分化して被検体の新しい体を形作っていく


肉体を失っていても、霊体はすぐには消えない

この霊体に沿うように人工多能性幹細胞を誘導する技術、これがバイオプリンティングだ


人為的にデザインされた通りに身体を形成

ある程度進むと、マイクロマシンによるマイクロ手術が行われ脳と接続


更に氣脈と霊体に干渉して、肉体、霊体、精神が一つになり、魂と接続される



「…生体反応を確認、各パラメーターは異常なし。成功ですね」


「よし、よくやった。突然。変異体因子の覚醒者を得られたのは、まさに僥倖だった」


「最初は体がめちゃくちゃでゴミを押し付けられたのかと思いましたが、まさか覚醒者だったとは…。まさに、鴨が葱しょってやって来るってやつですね」


「覚醒者になるのは十万分の一の確率だ。それを持ってきてもらったのだから笑いが止まらんな」

壮年の研究者の口がにやける


「この被験体を持ってきたのは異世界イグドラシルの…、あの死者を集めるで有名なヴァルキュリアなんですよね?」


「ああ、そうらしいな。だが、手心を加える必要はないと指示を受けている。いつも通りに強制進化の措置に入れ」


「へー、連れて来た割に冷たいですね。生き残るのは十人に一人ですよ?」


「異世界であるイグドラシル側にとっても、完成変異体はそれだけ貴重だということだろうな」




カプセルの中では、先程の脳が完全に人の身体を得て浮かんでいる


自発呼吸も始まったのか、胸が動いている

口に付けられたマスクからは定期的に気泡が吹きだしている


手、足、瞼がピクピクと痙攣し、脳からの指令を受けていることがわかる


この脳の持ち主は、どうやら竜人の男性だったようだ

側頭部に角が二本生えており、さらに耳もとがっているためエルフの血も入っているようだ


髪は白髪の、平均的な一般男性だ



「主任、どのタイプになりますかね」


「よし、昼飯を賭けようじゃないか」


作業を終えた研究者達は楽しそうに話している



白衣を着た研究者達


彼らは麻痺していた

彼らは今日一日で何回もの死を眺めた


被検体、実験動物、生体素材、呼び名は様々だが、ここにいる者達は、元は同じ人間だ



だが、彼ら研究者の目には人間とは映らない



データを取るための素材


完成するかもしれない素材


…そう、ただの素材だ



…どこかにある、「変異体」という強化人間の研究施設


この死にまみれた施設で今日もまた一人、被験体が誕生した





主人公は強化兵ですが、チートはありません(主人公以外は使ってきますがw)


多種多様な強者に挑みながら、強くなるために考え続ける希少な強化兵の物語です

どうぞよろしくお願いします

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