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早く話をしてみたい (信繁side)

真田幸村って名前の方が知名度がありますよね!

信濃の国の大名、知将としても知られる真田昌幸が俺の尊敬する父上である。


俺信繁は先日、14の歳となり、これまで以上に尊敬する父上を超えるべく日々精進を重ねている。



父上は知将である。もちろん武士としての技量はあるが、それ以上に、機知に富んでいた。しかし、そんな父上でも、長く巣食う溝を埋めるのには骨が折れていた。


主である武田家の家臣たちは先代亡き後新たな当主を認めていない者も少なからずおり、そのため家臣たちは一つにまとまらず、主を支える土台は今や大きく揺らいでいた。


真田家の当主である伯父たちも、主を支えるために日々奮闘しておられたが、正直なとこあまり成果は得られてはいない。



俺はというと、武田家の屋敷におり、家族とは別に暮らしていた。まぁ、いわゆる人質という訳である。

もちろんそのことに不満もなく、むしろ様々なことを学べ、また、幼少の頃より一緒に連れてこの屋敷にきた者もおり、正直なところ環境はとても恵まれているといえるだろう。


そんな恵まれた環境だからだろうが、これまでの戦略の記録を拝読したり戦局の話を聞くこともできた。


それは先の戦のこともそういえるだろう。


俺は、以前より「夜戦」について自分なりに智略を練っていた。それはまわりとて知っていた。いつか、夜半に実際に確かめたいとも考えていた。


――そして、なぜか今夜にそれを実行したいと強く思った。どうしてだろうか。そうしなければならぬような気がした。



人質ゆえ、外出にも許可をもらう必要がある。

以前より、話していたため、いぶかられることはないだろうとは思うが、何分、人質という立場。敵対の人質ではないとはいえ、勝手が許されるという訳ではない。うまく話を運べるか緊張しながら、夜戦についていかに重要かを説いていく。




「先の上杉と織田の戦いでも、そのことがいかに大切であるか物語っています。日中の戦いに疲弊し、夜半はなかなか動けぬでしょう。そこに、闇夜に紛れての奇襲は少ない兵で行っても、とても利にかなっている。しかし、夜目や土壌など事前に把握することは多い。そのためにも、少しでも「夜」になれ、効率よく運べるためにはどうするか学びたいと考えます。いかがでしょうか」


「・・・・わかった。よい機会だろう。自分なりにやってみよ」


「ありがとうございます。では、準備に」


「お待ちください。夜は闇夜に紛れての破落戸たちの時間でもあります。盗賊たちに遭遇する危険もあります。もしものこともありましょう。そんなところにお1人で行かせるわけには参りません。せめてだれぞお連れください」


――こいつは、相変わらずの心配性だなぁ。お前は俺の母ちゃんかよ!


俺はうろんな目を小助に向けるも、俺の視線は華麗に無視される。



「あい、わかった。ではこやつを連れていきます。それでは今夜にでも始めたいと思います」




◇◇◇


この国の歴史は、戦乱と共にあった。今現在もである。


武田の軍も戦によって領土を広め、豊かになったのは確かである。


 しかし、人は戦い続けることなどできないのだ。


 戦をするのは民草で、彼らが戦ばかりをやっていては、食糧を作ることができなくなる。戦で勝った挙句、民が皆飢え死にしたとなっては、なんの意味もない。


 だから俺は領民を守る戦いをする。そのためにも、あらゆることをこの身体に叩き込まなくてはならない。そのためならいくらでも立ち上がろうと思っている。



――だが、今の俺に何ができるのだろうか。正直、進むべき路が分からなくなってきておふけどな・・・・・



どこか自嘲気味ではあったが、それでも覚悟は変わらない。俺は目を閉じ心を落ち着け、夜を待った。


◇◇◇


森に入り辺りを確認する。やはり、木々が覆い被さるように生えているところがあり、闇夜に紛れられでもしてら、月明かりも入らず、敵を見つけるのは困難だろう。


足元が不安定なところがいくつまある。苔が生え滑りやすくなっているところも多く、おそらく日中でもなかなか太陽の陽が届かないのだろう。日中でさえそうであれば、夜など考えるまでもない。



しばらく無言進むと、少し先のあたりから何か声が聞こえた。


気配を殺しながら近づいていくと、盗賊だろう男たちがいた。



――関わり合いになるのは得策ではないな。


俺はその場から離れようとした。だが・・・・・


「うぎゃぁぁあ! 離してよ気持ち悪い!」


女性の声がした。


――女性?いや、まだ若い娘の声のような。一体何が起こってるというのだ。


「離しなさいったら、離せ!」



――襲われているのか!?



気づけば俺は、娘を助けるために飛び出していた。


「そこで何をしている!」


「なんだーきさまは。」


盗賊の男の一人がそう気だるいようにそう言いながら、俺に刃を向ける。


「おい!そんな子どもは相手にするな。」


「だってよ!死にたくなかったら、さっさとお母ちゃんのところにでも帰んな!」


「こっちは今からお楽しみなんだよ。さっさと・・・・・。あぁ、なん、だ・・・・」



――ふざけやがって!



俺は男に最後まで言わせず、刀で男を切り殺した。

娘は目の前で起きたことなのに、何が起こったのか分からなかったようで、驚き目を見開いていた。


「うぎゃぁぁあ! 助けてくれ!」


「うあぁぁぁ!」


「ぎゃぁぁあ!」


俺が飛び出したからであろう。小助が他の盗賊たちをあっという間に片付けていく。盗賊の男たちからは次々と悲鳴と恐怖を訴える喚きが森に響き、いつの間にか闇夜の静寂が戻っていた。



目の前には娘というか、まだ少女だろうか、怖かったのだろう。体を震わせ青白くなっていた。

俺は、娘の前に屈むとそっと腕を伸ばし、髪がぐしゃぐしゃなままの頭に手を置いた。


「平気か?」


そう問うと。


「……殺されるかと思った。」



そう呟いて一人震えた娘があまりにもかわいそうで、俺は目を閉じ無意識になぜか、娘のぐしゃぐしゃの髪をそっとすいていた。


「怖い思いをしたな」


そう言うと、安心したのか、娘は涙を流した。


しばらくすると、娘は泣いたことで少しずつ落ち着いていったように感じた。

立てるのであれば早くここから移動した方がいいと伝える。どうやら信用してくれたようで、娘は俺について行こうと立ち上がろうとしたが、立ち上がれず、緊張のいとが切れたのように突然、俺の腕の中で意識を失ってしまった。


抱きしめた柔らかな身体は、なぜか、どこか懐かしいような、ようやく探していたものが見つかったような不思議な感覚を覚えた。



――この娘は何者だろうか。


早くこの娘と話をしてみたいと、俺は何故か強く思った。初めての感覚に戸惑う。俺は娘ご心配であると同時に、なぜか心が浮き立っていた。


 風が止まりかけ、空気が淀み、足元が動きづらくなっていた場所に、愛らしい小鳥が舞い込んだような、くすぐったいような、確かな確信を得たような不思議な気持ち。俺は、俺が進むべき路が少し見えてきたようにそう思えた。


 


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